不死人が異世界から来るそうですよ?   作:ふしひとさん

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IF:魔王、或いは狩人

「──そうか。火は、いずれ絶えるか」

「そうさね、それが自然の摂理だ」

 

 名亡きは残り火の記憶(ソウル)を辿り、はじまりの火はいずれ絶えるという真実を理解した。

 名前も、元の姿も忘却するほど、名亡きは己を犠牲にしながら進み続けてきた。その行動が、そこに込められた想いが、全て無為になる。あまりにも残酷すぎる仕打ちだ。

 だからこそ、名亡きは巡礼者の言葉にあれだけ動揺していた。しかし、今の名亡きは嘆き悲しむでもなく、その場で静かに佇んでいる。

 

「感謝する、巡礼者の不死人。これで俺がすべきことがわかった」

 

 感情を感じせない平坦な声色でそう告げると、巡礼者に背を向けた。

 

「待ちな。感謝の念があるなら、何をするつもりなのか聞かせな」

 

 名亡きは何かをしようとしてる。それはわかる。だが、はじまりの火を消すほど絶望してるようには見えなかった。

 巡礼者の言葉に名亡きは足を止め、振り返る。鎧で隠れて見えないはずの目が、ずっと先を見据えているように感じた。

 

「箱庭は広い。太陽の光の王以上のソウルを持つ者が山ほどいる。では、彼らのソウルを薪として焚べれば、火はどれだけ続くのだろうな。このままでははじまりの火が絶えるというなら、絶やさないようにするだけのこと。それが俺の── 薪の王の役目だ」

 

 名亡きは── 薪の王は、箱庭の上位者を狩り尽くすつもりだ。本気で言っているとしたら、恐ろしほどの覚悟だ。

 

「……いいのかい、それは地獄の道だよ?」

 

 思わず問いかける。この世界は確かにまともではあるが、それでも名亡き以上の強さの化物が山ほどいるのだ。巡礼者も箱庭を巡り、圧倒的な強者というものを何度も見てきた。そんな存在に打ち勝つために、どれだけ屍を積み重ねればいいのか想像もつかない。

 

「構うものか。今まで立ち塞がった敵は俺より強い者ばかりだった。俺は戦う以外の道を知らない」

 

 そう、名亡きの戦いに楽なものなど一つもなかった。立ち塞がる敵は誰も彼も強大で、幾多もの屍を重ねて勝利したのだ。つまり、やることはいつもと変わらない。死んで勝つ。それだけだ。

 

「もういいか?」

「ああ、十分さ」

 

 名亡きは再び巡礼者に背を向け、歩き出した。

 名亡きはもう、ノーネームには帰らない。帰れない。今この瞬間、名亡き()は終わり、薪の王として生まれ変わったのだから。

 迷いなく進むその足取りは、鉛を引きずるように重くも見えた。

 巡礼者は名亡きの背中に、いつか見た灰の不死人を重ねた。

 

「名亡き、あんたの道に火の導きがあらんことを」

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 箱庭の外。そこには幻獣を始めとする、強力なギフトを携えた者が数多く存在する。弱肉強食の世界であり、箱庭の法が及ばない無法地帯である。そのせいか、彼らの横の繋がりは非常に薄い。

 しかし、そんな世界でもある噂が流行していた。強者の魂を求めて、鎧を纏いし魔王が彷徨うと。

 あまりの荒唐無稽さに、大半はこの噂を眉唾物だと断じた。面白半分にその噂を信じた者は、その魔王を打ち倒すか仲間にしようとすら考えている。

 箱庭の外の、とある集団。その集団のリーダーも、鎧の男は単なる噂話だと思っていた。しかし、彼は今まさにその噂が事実であることと、その恐ろしさを身を以て味わっていた。

 何の前触れもなく現れた鎧の男。その男が有無を言わせず門番を斬り捨て、戦いの火蓋が落とされた。

 鎧の男はたった一人だった。たった一人で、絶望的なはずの戦力差に挑んだのだ。

 その戦いぶりはあまりに悍ましいものだった。獣のように闘争本能の赴くまま殺し、しかしその技巧は百戦錬磨の冴えを見せ。鎧の男と対峙する者にとって悪魔のようなものだ。

 戦いが始まってからどれだけの時間が過ぎただろうか。気づけば、手下の半数が血の海に沈められていた。

 しかし、そのおかげで鎧の男に致命傷を与え、今も確かに血が流れている。動きは若干精彩さを欠いている。その苛烈な殺意は微塵も衰えていないが。自分の傷も、あまつさえ命も、まるで勘定に入っていない動きだった。

 鎧の男が一人の部下を斬り殺した直後の隙をつき、リーダーは鎧の男の背後を取る。

 

「っ死ね!!!」

 

 リーダーがその手に携えるのは鉄板のように無骨な大剣だった。尋常ではない膂力で横薙ぎに振られる鉄の塊は、鎧の男の上半身を易々と吹き飛ばした。

 鎧の残骸と共に肉片が飛び散る。残った下半身は、糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。

 鎧の男の下半身が光の粒子となって消える。それを見て、この場にいる全員がほっと胸をなでおろす。何はともあれ、鎧の男という脅威を退けたのだ。

 勝った。確かに勝ったが、鎧の男の正体は謎のままだった。

 強者とは得てして、長く生き残った者である。死なないように備え、鍛錬を重ねるからこそ、強者として君臨できるのだ。

 鎧の男は確かに強かった。その身体能力もさることながら、やはり一番の脅威は戦闘経験の豊富さだろうか。どれだけの修羅場を潜り抜ければ、あの域に達するというのか。命知らずの狂人であるには、あまりに異質な強さだ。それとも、狂ったからこそこんな真似をしたのか。

 

「は?」

 

 臓器の潰れる音と共に、リーダーの胸に紅い血の花弁が咲いた。

 リーダーが崩れ落ちる。彼の背後にいたのは、死んだはずの鎧の男だった。

 部下たちは見ていた。幻影が徐々に実体を持つかのように、鎧の男が地獄の底から舞い戻ってくるのを。

 不死身。悪魔。魔王。そんな言葉が、この場にいる全員に浮かんだ。あの噂は残酷なほどに真実だった。

 部下たちは声にならない悲鳴をあげる。本能で察したのだ。一人残らず狩り尽くされるまで、この悪夢は醒めることがないと。

 

「もっと、ソウルを……!」

 

 今はまだ力を蓄えるときだ。強敵と戦う前にソウルを集め、その身を強化する。まずは箱庭の外にいる強者を。その次は、箱庭にいる上位者たちを。

 鎧の男は魂を、強さを、次の獲物を求めて、あてのない道を進む。全てははじまりの火のため。より佳く、より永遠に近く燃え続けるため。

 鎧の男── 名亡きが箱庭でも魔王と呼ばれるのは、そう遠くない未来の話である。

 




 長連載ルートならこうなる予定でした。こっちの方が名亡きらしい気がします。箱庭の上位者の方々に不死なんて知ったこっちゃねえってぶっ殺されるか、某狩人様のように俺自身が上位者になることだってなると思います。
 実は新作の宣伝というか、一応やってることをご報告するために短編を投稿しました。
 煉獄さんの前科がありますが、今回はきちんと書いています。投稿もしています。『R博士の愛した異層次元戦闘機たち』というタイトルです。興味がある方は是非。
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