「今回、那須隊が選んでくるのはこの三つだろう」
そう言って修が提示したのは「展示場」「河川敷」「工業地帯」のマップ。射撃の的になりやすい開けた場所がたくさんあるとの事。
「那須隊は、中距離メインの射撃戦を仕掛けてくると思う」
「ふむ。なんでそう思うの?」
栞の問いに、修は過去のデータ……諏訪隊と鈴鳴第一のある戦いのデータをモニターに出す。それは、諏訪隊が鈴鳴に……村上鋼に勝った試合。
「ふむ。諏訪隊の二人がドカドカと撃ってるな」
映像を見た遊真が見た感想をそのまま言う。
「最近のデータだと、村上先輩が封じられたのはその時くらいだ」
「……」
──つまり、射手がエースの那須隊もその時と同じ試合展開を望んでいるって訳だな。
修と一緒に過去のデータを集めていた秀一が言葉を紡ぐ。
彼の言葉に修は頷き、那須隊のデータをモニターに映した。
「そしてその戦法はうちも使うことができる」
「ふむ……?」
どういう事だ? と遊真が首を傾げていると秀一が発言した。
──今回、オレは中距離メインのトリガー編成で戦う。
そう言った秀一のトリガー編成は──。
MAINE TRIGGER SUB TRIGGER
バイパー バイパーあああああああああ
エスクード グラスホッパーああああああ
シールド シールドあああああああああ
バッグワーム アステロイドあああああああ
「ナス先輩と似た感じか?」
遊真の問いに秀一は頷く。
那須は動き回りながらバイパーで攻める機動型射手。秀一はさらにそこにグラスホッパーを付けて、エスクードで防御力も上げていた。
つまり彼は村上に対して中距離で攻めつつも、那須との撃ち合いもできるトリガー編成を組んでいた。
……実際は、村上の相手は遊真に任せるつもりだが。
「最良なのは那須隊の狙いをそのまま利用する事だけど、あくまでぼくたちは対応する側。マップ以外に何か仕掛けてくるかもしれない──基本は全員集合して相手と当たる。次も勝とう!」
「了解!」
「了解!」
了解、と秀一も遊真と千佳に続いて答え──試合が開始されるその時を黙して待つ。
◆
「B級ランク戦第三戦。昼の部が間もなく始まります。実況担当は風間隊の三上。解説は──」
ざわざわと観客たちのざわめきの中、紹介されるのは。
「ナンバー1攻撃手太刀川さんと、ぼんち揚げ食う? でおなじみの迅さんです」
「どうぞよろしく」
「どうぞよろしく」
いつも通りの様子で解説席に座る二人。
強者特有の緊張感の無さとでも言えば良いのか。
迅がボリボリとぼんち揚げを頬張るなか、三上が太刀川に話を振る。
「今回那須隊が選んだのは河川敷A。これはどういう狙いがあると思いますか?」
「……マジメに?」
「マジメに」
三上に念押しされた太刀川は望まれたままに解説する。
「まぁ普通に攻撃手封じですね。川を挟んで橋を壊せば中距離メインの那須隊はやられにくくなる。
……とはいえ、鈴鳴も玉狛もそれは分かっているので地形だけで勝負が決まるって事はないでしょう。
分断されても川の深さは腰くらいまでだから、援護があれば無理やり渡れない事もない」
「さぁ、どうかな~」
太刀川の解説に迅が意味深な反応を示す。
未来を見たのだろう。
太刀川がなんか見たのか? と尋ねるもはぐらかせる。
そんな二人を他所に三上が試合開始の合図を出す。
「全部隊転送──各隊員転送完了」
そしてモニターに映し出されたのは。
「マップ河川敷A! 天候──暴風雨!」
雨風に晒される隊員たちの姿だった。
◆
「……!」
秀一は急いでサイドエフェクトの使用を止めた。
集中状態での暴風雨は彼に過度のストレスを与える。
これは不味い、と彼は修に通信を繋げて報告した。
『なんだって……!?』
通信先の修の焦燥の声が聞こえる。
秀一のバイパーはサイドエフェクト込みでの使用が前提だ。そうでなくても、普段からサイドエフェクトを使用し敵の弾丸、斬撃を見切っている彼がそれができないのは戦力ダウンと言える。
それでも、瞬間的な……攻撃に移る時なら使えると彼は言った。いつもよりも隙が大きくなるが。
『……分かった。とりあえず合流をしよう!』
現在、川の西岸には遊真と千佳が転送されている。
その反対には修と秀一がおり、合流する為に動いていた。また、レーダーを見ると西岸に転送された敵の反応一つが橋を渡ろうとする動きを見せ、東岸は合流する動きと川岸に向かう動きがある。
それはつまり。
──敵の狙撃手が西岸に一人か二人居る。
一定距離かつランダムで転送される為、そこに空白があればバッグワームを展開した敵が居るという事。
そして、西岸には敵の反応が二つ。
東岸には三つ。
動きを考慮した結果、秀一はそう考えた。
『村上先輩が見えました! ──日浦先輩も!』
そんな中、千佳が橋に向かう村上と日浦を視認。
どうやら日浦はバッグワームをつけず、射線を無視して最短距離を走っているらしい。
さらに、東岸の敵の反応が二つ合流を果たす。
西岸の日浦は橋に辿り着くとそのまま渡り出し、村上もそろそろ橋に到着しそうになり──。
『修、どうする?』
『……』
決断を迫られた修は──。
◆
爆発が起き、橋が破壊される。
ガラガラと崩れていく唯一の西岸と東岸の道を見るのは村上と日浦。
「作戦通り、橋を壊しました!」
『うん。それじゃあ予定通りに合流を──』
喜色の声で次の動きを示す那須隊。
『ど、どうします鋼さん!?』
「そうだな……とりあえず──」
西岸に取り残された村上と別役は、どう対処しようかと隊長に指示を仰ごうとし──。
それを一つの砲撃が撃ち砕いた。
──ドォォォオン!!
『──!?』
それを見た隊員たちは驚きに目を見開く。
西岸から東岸の川岸に放たれた一つの砲撃は、地形を変える。
暴風雨によって渡れなくなったと見られていた川が、東岸に流れていく。それにより西岸から東岸への移動が可能となった。
その光景を見ていた実況席の三上が驚きの声を上げる。
「玉狛第二の砲撃が炸裂! 東岸に川の水が流れる事により、水位が下がっていく!」
「ほー。思い切った事をするなぁ」
感心の声を上げるのは太刀川。
「水位が下がれば合流しやすくなるな。ただ……」
何で下の方に撃ったんだ? と疑問の声を上げる太刀川。上流に撃った方が合流しやすい。しかし下流に撃てば東岸に渡るには下流方面に向かわなくてはならない。
「これは、何か狙ってるな」
橋の前に佇む村上に向かう遊真を見ながら太刀川は面白そうにそう言って──。
「さて、どうなるかな」
西岸にて合流を果たした那須隊と相対する秀一を見ながら迅は呟く。
分かれ道は過ぎた。後は誰が未来を勝ち取るか──それを知る彼の目に映るのは。
「楽しみだ」
最後に立つ勝者の姿。
◆
息を吐いて、秀一はグラスホッパーを使いその場を跳ぶ。次の瞬間ライトニングの狙撃といくつかの弾丸が地面を穿ち、さらに避けた先に那須のバイパーが襲い掛かる。
それを同じバイパーで撃ち落とし、熊谷の旋空を身を翻して回避する。
『最上、持ち堪えられそうか!?』
修からの通信に秀一は言葉少なく是と応える。
しかし持ち堪えられるだけで、攻めに転じる事はできない。
加えて──遊真の方も劣勢だった。
「ふっ」
グラスホッパーを多重展開し、相手の周囲を跳び廻るピンボール。
今までの試合では使ってなかったその手に一瞬村上が反応するが。
(緑川の方がまだ鋭いぞ)
冷静に動きを見切り弧月を叩き付ける村上。
スコーピオンで防ぐ遊真だが、ヒビが入り浅くトリオン体が傷付けられる。
すぐ様距離を取り、遊真は村上の動きに集中しながら通信で修に言った。
『直ぐに倒して合流、はできそうにない』
『……』
それはつまり単純に村上の方が遊真よりも強い事を示しており……。
『こっちに居た鈴鳴が消えた! 最後は下流方面に走っていたから、合流するのかもしれない』
もしくは不意打ちを狙っている可能性もある。
鈴鳴の介入を警戒しながら那須隊の相手をするのはリスクがある。
さらに狙撃手が秀一では無く遊真を狙う可能性もある。遊真が競り負けているのなら尚更だ。
修は悩む。これからの戦いの展開を。
そんな彼に──エース二人が言った。
「修」
──隊長。
任せてくれ。敵は倒す。……絶対に勝つ。
「……!」
エース達の覚悟を決めた言葉。隊長を信じた故に出た「勝つ」という言葉。
その言葉に──修はもう悩まない。恐れない。勝つ為に。
「分かった。鈴鳴はぼくと千佳で抑える。だから、頼んだ」
その言葉にエースたちは「了解」と言葉少なく応えた。
信頼している故に。
そして。
「……手加減しないわ」
オペレーターから報告があったのだろう。合流の動きをしていた修が鈴鳴を追って下流に向かったのを見て、秀一に援護が無いと、と。
那須の表情は固い。自分たちに一人で勝つつもりなのかと暗にそう言っている。
彼女たちは負ける訳にはいかない。今シーズンが今の那須隊の最後のランク戦だから。
だから、最高の結果を残さなくてはならない。
そんな彼女たちに一人で相対する秀一は、那須の目から見て舐めているとしか思えない。
「……」
そんな那須に──いや、那須隊に対して秀一は一言。
──三点、取らせて貰います。
その言葉を合図に、二人のバイパーが激突した。
◆
「空閑くんを狙おう」
下流に向かいながら来馬は隊員たちに伝えた。
西岸の下流付近には太一が潜んでおり、来馬の到着を待っていた。
『そっちで良いんですか? 追いかけてくる三雲を狙えば』
「玉狛は釣りの戦法を取るからね。前の試合も雨取ちゃんの砲撃を使って三雲くんが倒していたから」
故に安易に修を迎え撃つ選択は取れないと来馬は言う。
そして、以前の村上と遊真の試合の戦績から遊真を先に狙うべきと判断した。
「勝ちに行こう!」
『了解っす!』
『了解です』
二人の返事を聞いた来馬は千佳の砲撃で破壊された場所に到着し、勢いが下がった川を渡ろうとして。
「……っ」
自分に放たれたアステロイドを冷静にガードする。
視線を向けるとレイガストを構えてこちらを見る修の姿が。
『先輩!』
「大丈夫だよ、太一。絶対にそっち行くから」
隊長同士が睨み合い、勝つために弾丸を構える。