妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない   作:強炭酸カボチャ

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34話 目立ち過ぎなファン

 

先輩に連行された私が連れてこられたのはスイートバレットの楽屋であった。推しのアイドルの楽屋に連れてこられるとか夢かと思うくらい最高のシチュエーションなんだけど、隣の先輩がこれまでにないくらい怒っているので逆に理性が保たれている。夢であってほしかったね。

 

「えっ、誰このレベチ美少女。新メンバー?」

 

スイートバレットのリーダーでもあるづっきーが大型犬のような人懐っこい笑みを浮かべながら真っ先に近づいてきた。モデルもやっているほどのスラリとした美しいスタイルと黒髪ロングの美人系でスイートバレットで圧倒的1番の女性人気を誇る。かくいう私も絶対的どかちゃん推しでありながら、美しい顔から飛び出る天然発言のギャップでキュンとし、抜群の歌唱力からのイタズラっ娘みたいな笑顔のコンボで何度も堕とされかけている。いや、私が生粋のどかちゃんファンでなかったら危なかった。私だったから何とか雑誌とグッズを買い集めるくらいで済んだけど、私じゃなかったら推し変させられてたね。

 

「あたしの後輩。でも、新メンバーにするのもアリね……そしたらもう逃げられないし

 

「や、あの先輩、顔近過ぎですぅ」

 

金髪になった先輩、初めて生で見た。アイドルのどかちゃんとしてはずっと推してたけど、こうやって生で見ると迫力が凄い。顔良すぎ。可愛過ぎ。今すぐ国宝にして全人類が知るべき芸術品だよ。麻衣さんと言い、先輩と言い、何となくお顔が似てて、やっぱり日本人の最上級可愛いはこの顔になるってことなんだろうなぁ。どこから見ても可愛いし、何度見ても可愛い。そのお顔がすぐ近くで私をジトッとした目で見ていた。いつも笑顔のどかちゃんのレアな表情が可愛すぎて心臓が破裂しそう。

 

「で、紅葉。しっかり話を聞かせてもらおうじゃないの」

 

「ワタシ、モミジ?オナハシ、ニガテ」

 

「ふざけてると張っ倒すわよ」

 

「すいません、はい、私が紅葉さんです。お話大好き!なんでも話しますよ!」

 

先輩は基本優しいのだけど、行動力があるタイプなのでやると言ったらマジでやる。そこが先輩の良いところではあるけど、この場合、それによって張っ倒されるのは私である。下手な誤魔化しは止めて姿勢を正し敬礼するのみだ。

 

私がそうして先輩に絶対服従の意志を示していると、何故かづっきーが元気良く手を挙げながら近づいてくる。

 

「はいはい!じゃあ私から質問っ!」

 

なんであんたが質問するのよ、という先輩の視線をガン無視ししてづっきーは続ける。この時点でなんだか嫌な予感はしていたのだけど、その予感の正体はニコニコ笑顔のづっきーから最悪の形で放たれた。

 

「全然笑わないけど、もしかしてそういうキャラ?クールでいいね!私もクールキャラで……えっ、私やらかしてる?」

 

――空気が死んだ。凍ったとかじゃない。沈黙という言葉ではもう足りないくらいの静寂だ。流石のづっきーも途中で異変に気がついたのか、表情が引きつっていく。

 

「……づっきー、怒らないから黙っててくれる?」

 

「もう怒ってるじゃん!」

 

づっきーが空気読めないことは理解しているのか、どうにか怒りを堪えている先輩だけども、破裂寸前である。威圧感が怒っている時の麻衣さんくらいあるので、これは私なら土下座してるレベルである。

づっきーはこの空気読めてない感じが、守ってあげたくなる可愛さなのだけど……ごめん、この状況は私には守れない。

 

「皆、グッズの販売会始まる……何かあった?」

 

さよならづっきー、貴女は立派なセンターだったよ、と私が心の中で涙を流していると、この地獄の様な空気を知らないスタッフさんが少々慌てた様子で入ってきた。グッズの販売会にメンバー達を呼びに来たらしい。

 

「そうだよづっきー!行かないと!」

 

「ほら、どかちゃんも!」

 

これ幸いとばかりに他のメンバーがそれぞれ先輩とづっきーの手を引いて連れて行こうとする。若干目に光るものが見えているのは気のせいだろうか。

 

「紅葉ごめん、づっきーが……」

 

メンバー達を先に行かせて先輩は1人残ると、申し訳無さそうに言う。

 

「良いですよ、もう気にして……ないわけではないですけど、悪意のない言葉で傷ついたりしません」

 

何なら、もうちょっとちゃんとづっきーとお話したかったな、という気持ちの方が強いまである。確かに私の表情について言及されるのは少し苦しいけれど、もうそんなことで立ち止まる紅葉さんではないのだ。いつかの私は笑っているはず。だから今の私が笑えないことは気にしたって仕方のないことだ。

 

「そっか……ちゃんと高校生になってるんだ」

 

先輩がしみじみと言うけれど、なんだか子供扱いされているような気がしたので、進化した紅葉さんを見せるべく、最高に粋なジョークを飛ばすことにする。

 

「何お母さんみたいなこと言ってるんですか……私、お母さんいませんけど」

 

「そのデリカシー0の全然面白くないジョークで確信したわ。あんた、音信不通になったの下らない理由でしょ」

 

「あの先輩、紅葉さんのパーフェクト頭脳が潰れてしまうので頭握るの止めて下さいっ」

 

おかしい。完璧なジョークだったはずなのに、ギリギリと私の頭を握る先輩の目は冷たい。

 

「はぁ……ゆっくり尋も……話したいし、あたしが連れてきておいて何だけど、この後、販売会があるからちょっと待っててもらえる?ここ使ってていいから」

 

「あ、私も行きますよ!グッズ買いたいので!」

 

直接ライブに行ってグッズを買うのも楽しみにしていたのだ。これは逃せない。というか今、先輩、尋問って言いかけた気がしたけど気の所為だよね?

嫌なことは忘れるに限るので先輩の不穏な言葉を無かったことにして、私はグッズを買う準備を始める。いつもネットで購入してばかりだったから、直接買えるのは凄く嬉しい。ネット購入じゃ自分で手に入れた感覚があんまりないからね。それに今日はメンバーが直接販売のお手伝いをしてるからグッズを手渡ししてもらえるらしいし、最高過ぎる。

 

「……紅葉、その封筒は何?」

 

「今日のイベントではお会計は現金のみとありましたので、しっかり準備して下ろしてきたんです!」

 

「何か厚くない?」

 

ここへ来ると分かった時から準備は万端だ。最新のカメラも買ったし、ライブで身につけるグッズも厳選した。そして何よりグッズを買うための軍資金をしっかり用意してきたのだ。

師匠と買った薄いピンク色の小さな財布には入り切らなかったので用意した軍資金は下ろした時に入っていた封筒に入れたままだ。

 

「一応、100万円下ろしてきたのでちょっと厚いですかね」

 

「よし、あんたはここを動かないこと。スタッフさんには言っておくからここで大人しくしてなさい」

 

「えっ!?なんでですかっ!?私、グッズ買うの楽しみにしていたんですけど!?」

 

次にいつ来れるか分からないのだ。思う存分買い物をする気でいたのにここで待つなんて出来ない!

 

「ただでさえ目立つあんたが100万円なんて持ってたら危なっかしくて仕方ないわよ!」

 

目立つと言ってもここに来場している皆はスイートバレットのファン。メンバーの皆がいるのに私が目立つなんてことはないと思ったのだけど、反論の余地なく、先輩に椅子へ座らされる。

 

「グッズならメンバーのサイン入りで渡すからここで絶対に大人しくしてなさい!いいわね!」

 

もうグッズ販売の時間なのか、先輩は慌ただしく、しかし何度も私に念押しして楽屋を出ていった。ここでこっそり抜け出してグッズを買いに行っても、先輩本人が手渡しなので100%バレる。怒った先輩の怖さは身に沁みているので仕方なく待つことにした。うーん、絶対目立たないで買い物出来る自信あるんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グッズ物販列にて。

 

「なんか2次元から出てきたんかってレベルの美少女が無表情でペンライト振ってたんだけど」

 

「新メンバーかな?雰囲気がもう一般人じゃなかったよね」

 

「いや、明らかな、どかちゃん推しじゃなかった?持ってたタオルとか最初期のグッズだったし」

 

「カメラもプロ向けの奴だよな?80万は下らないモデル」

 

グッズ販売の列にて、話題となっていたのは謎の美少女ファンについて。全力全開にどかちゃんグッズでフル装備していてもどこか高貴な雰囲気を放っていた彼女のことを誰もが噂しているような状態であった。

 

 

それを冷や汗を流しながら見ている保護者が1人。愛すべき科学部部長の双葉理央である。

 

「……もうアイドルやれば良いんじゃない?」

 

無表情とかそんなことは関係ないくらいに紅葉の容姿と雰囲気は一級品だ。

紅葉自身が自らの容姿を重要視していないが故に自覚がないが、あの国民的女優である桜島麻衣が、そのスタイルと容姿を羨ましがり、『日本の芸能界でも他に比較できる相手がいない』と称するくらいにはとんでもないレベルなのである。それに加えて、生まれと育ちから隠しきれない気品と、確かな教養と教育から自然と身に付いている所作が、高貴な雰囲気を生み出しているのだ。

 

紅葉はとんでもなく目立っていた。目立たないわけがなかった。

 

思えば紅葉が入学してきた時、桜島麻衣とどちらが可愛いか、で話題になったくらいだ。そしてその決着は未だついておらず、人気を二分している状況。国民的女優の美少女と人気を二分する美少女が枯木紅葉なのである。

そんな人間が全力で、且つ無表情でライブを鑑賞していれば、話題の1つや2つ簡単に生み出す。

 

「桜島先輩の過保護も仕方ないか……」

 

自らの魅力を十分に理解している麻衣とは違い、自己評価が低いまま、ふらふらと興味の赴くままに刹那的な行動をする紅葉は確かに、しっかり見張っていないと何をしでかすか分かったものではない。

 

「そういえば紅葉って、今日ここに来ること桜島先輩に伝えてあるよね……?」

 

 

桜島麻衣は意外と嫉妬深い。特に自分に対する対抗心のようなものがあることを理央は理解していた。今朝も紅葉は渋谷の様子を麻衣に見せる!と写真を撮っていたので伝えてあるとは思うのだが、途端に不安にある。

もし、万が一、麻衣が紅葉にしばらく会えない状況で、今日二人で出かけたことを後から知らされたら……相当に面倒くさいことになる。

 

ちなみに。

紅葉は今日のことを麻衣に伝えていない。後で写真を見せながら楽しかった思い出話をして、褒めてもらおうと考えているからだ。サプライズ的に自分の大冒険を話すことを何故か褒めてもらえることだと思っているあたり、これからも麻衣の苦労は絶えなそうであるが、そのとばっちりによる被害は様々な形で、このロジカルウィッチ理央にも降り注ぐことになるわけで。

 

――今回の件の場合、様々な経緯を辿った末に、麻衣への謝罪として紅葉と理央がバニーガールの衣装を着せられることとなるのだが……それもきっと科学部の良き思い出として理央に刻まれることとなるのだろう。たぶん。





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