体から鼓を生やした鬼を倒した事により、屋敷内全体に影響していた血鬼術が解かれ部屋の位置などが元通りに戻っていった。屋敷内が元通りに戻ってから俺と炭治郎は、てる子と清の元へと向かった。
「てる子!清!鬼はこの人が倒してくれたからもう大丈夫だぞ!」
てる子と清は別れる前の部屋で、お互いを抱きしめ合いながら俺達を待っていた。二人がその場から動かなかったお陰で、直ぐに合流する事が出来た。部屋の中心で互いに抱きしめ合いながら居た二人に炭治郎が鬼を倒した事を伝えると、てる子と清は顔を見合せながら安堵の表情を浮かべた。
「炭治郎、二人を連れて先に外に出ていろ…」
「亮壱さんも一緒に行かないんですか?」
「この屋敷内で放置されている遺体を見つけた…。放置されている遺体を外に運び、埋葬する...。だから、俺は後から出る」
てる子と清の元に向かう途中で鬼に殺され、放置されていた七体の遺体を発見していた。てる子と清の事は炭治郎に任せて、俺は遺体のある方へ向かう事にした。
「てる子と清を外に連れて行ってから俺も手伝います!」
「頼んだぞ炭治郎…」
炭治郎達は屋敷の出入り口へ向かい、俺は七体の遺体を一箇所に集める為に1番奥から遺体を担いで炭治郎達と別れた場所に置き、それを六回繰り返した。
○
亮壱さんは不思議な人だ...。
てる子、清と共に外に向かいながら亮壱さんの事を考えていた。亮壱さんの事は同じ鬼殺隊員である事、とても優しい匂いがしていて禰豆子を受け入れてくれた優しい人という事しか知らない。
────オラァ!!さっさとどきやがれ!!
────絶対に嫌だ!!
徐々に出入り口へ近づいて行くと、外から騒がしい声が聞こえてきていた。外で一体何が起こっているのかが気になり、少しだけ歩を早く進め外に出たら──猪の被り物をしている鬼殺隊員が禰豆子が入っている箱を守っている善逸を殴っている光景が目に入った。
猪の被り物をしている鬼殺隊員に殴られた善逸の顔には所々から血が少し流れ、左目に青痣が作られていた。
「退かねぇなら!!お前事串刺しにしてやる!!」
「止めろ!!」
日輪刀を振り上げ善逸と禰豆子を刺そうとした瞬間、俺は呼吸で脚力を強化して二人を刺そうとしている奴へ一気に近づいた。懐に入り込み、日輪刀を振り上げて無防備になっている腹に固めた拳を叩き込み、殴り飛ばした。
バキッ!!
「骨折った!?」
鬼殺隊員の腹を殴り飛ばした時、骨が折れる音を聞いたみたいで、そう呟いた。流石にやり過ぎてしまったと思ったのだが、殴り飛ばした鬼殺隊員は笑いながら立ち上がった。
○
「これで全部だな…」
炭治郎達と別れてから一人黙々と七体の遺体を一箇所に運んでいた。七体の遺体を一箇所に運び終わり、あとは炭治郎が戻って来て一緒に外へ運び供養する流れなんだが、炭治郎がてる子と清を外に連れて行ってから中々戻って来なかった。
「中々戻って来ない...。何か問題でも発生したか?」
戻って来ない炭治郎が気になり、外に行く次いでに一体の遺体を抱えて出入り口に向かった。出入り口に近づいて行くと、外から、喧騒が聞こえてきたんだが──俺が外へ出た瞬間に静かになった。
〇
「一体…何があった?」
外に出ると上半身裸の男が額から血を流し、額に大きなコブを作って仰向けに倒れていて意識を失っていた。半裸の男の横では善逸の顔に所々に血が出ていたり左目に青痣作り、炭治郎は顔から少し血を流していた。
「誰か…1から説明してくれないか?」
目の前の現状に説明を求めると、正一がこの現状に至った経緯をきちんと話してくれた。正一が説明してくれた事を要約すると、禰豆子が入った箱を伊之助から守っていた善逸が伊之助にボコされているのを炭治郎が見て、止める為に殴ったらそのまま乱闘になり殴り合っていたが、俺がその乱闘を見る前に炭治郎が伊之助に頭突きをくらわせて脳震盪を起こして気絶させた様だ。頭突きをした炭治郎は脳震盪にならず、普通に立っていた。
「全く…。炭治郎…これから八体の遺体を埋める穴を掘る」
「俺も手伝います!穴掘るくらいな怪我に響かないと思いますし!」
「あ、俺も手伝います!」
俺、炭治郎、善逸の三人で八体の遺体を埋める穴を掘り、外にある二体の遺体を埋めた。脳震盪を起こして気絶していた伊之助は二体の遺体を埋め終わったと同時に目覚めた。
「ウォオオオオオ!!勝負!勝負!」
「イヤァー!」
伊之助は、目覚めてから近くに居た善逸を追いかけ回していた。追いかけ回されていた善逸は俺の後ろに隠れて『苦手だぁ...』と震えながら呟いていた。
「あ?何やってんだ?」
「埋葬だよ」
俺達が今やっている事を聞いてきた伊之助に炭治郎が埋葬をしていると答え、埋葬の手伝いを伊之助に頼んだ。俺達がやっている事を聞いた伊之助は、『生き物の死骸を埋めて何の意味がある!』と言って手伝いを拒否した。
「そうか...。傷が痛むから手伝いが出来ないんだな...」
ピキ...
「は?」
埋葬の手伝いを拒んだ伊之助に対して炭治郎は、自分が伊之助に負わせてしまった怪我が痛んで手伝いが出来ないのだろうと勝手に解釈をした。
「傷の痛みは人それぞれだ、伊之助は休んでいるといい。埋葬は俺達がやっておくから!」
「はあぁぁぁぁ!!舐めんじゃねぇ!!人の100人!200人埋めてやらァ!」
伊之助は炭治郎の言ったことに太い青筋をぶっ立てながら屋敷の中に入って行き、残りの六つの遺体を運び出し掘った穴に埋めて行った。一悶着あったが、八体の遺体を埋葬する事が出来た。埋葬した遺体に俺達は黙祷を捧げていたが、黙祷を捧げている俺たちの後ろで伊之助は頭突きで炭治郎に負けたのが悔しかったのか、近くにある木に何度も何度も頭突きをしていた。
「カァー!カァー!モウスグデ夜ニナル!山ヲ降リロ!」
死者への黙祷が終わると、炭治郎の鎹鴉から山を降りるようにと指示が出た。蓮からも、山を降りるように言われ、三兄妹と新人隊士三人組を連れて山を降りた。
「本当に送っていかなくても大丈夫か…?」
「はい、大丈夫です!走っていけば、夜になる前には帰れるので!」
山を降りている途中で、三兄妹を家まで送り届けようとしたけど、自分達で帰れるらしく断られた。自力で帰る三兄妹に蓮に持ってきてもらった、藤の花の匂い袋、家で炊る藤の花のお香を渡した。鬼にとって、藤の花は毒らしく、藤の花の匂い袋やお香を炊くと鬼は絶対に寄り付かない。
それらを渡してから三兄妹と別れ、日向と炭治郎の鎹鴉に次の目的地の案内を頼んだ。
次の目的地は、お祖母様が居る藤の花の家だった。久しぶりにお祖母様に会える事を喜びながら向かった。
「何か嬉しそうですね亮壱さん!」
「無表情なのに嬉しそうな音が聞こえてくる…」
炭治郎は匂いで、善逸は音で俺が嬉しそうにしている事に気づいたようで、何で嬉しそうなのかを聞いてきた。お祖母様が居る藤の家まで距離があり、お祖母様の所に着くまで俺が嬉しそうにしている理由と過去について話した。
過去話をしたせいで炭治郎が申し訳なさそうに謝罪をしてきたが、俺が過去話を話してしまったせいだと炭治郎に言った。善逸も俺と同じ様で、善逸は雷の呼吸を教わった育手に拾われたと話してくれた。
○
「そろそろ目的地に着きそうだ…」
前方にお祖母様が待っている大きな屋敷が見えた。
久しぶりに会うお祖母様に、手土産の一つや二つ買ってくれば良かったと思いながら大きな門の前に立った。門を開けようと手を伸ばすと、俺の手が門に触れる前に、門が勝手に開いた。
「お久しぶりです、お祖母様」
「我が家に帰ってきた時には何を言うか分かるかい亮壱?」
「そうでした。ただいま帰りました、お祖母様…」
「おかえりなさい亮壱」
久しぶりに会ったお祖母様は元気そうで良かった。
とりあえず、疲れが溜まっている炭治郎達を休ませる為に、三人を空いている部屋に案内をした。お祖母様から風呂の準備が整っていると伝えられ、荷物を置いてから風呂場へ向かった。風呂場に着くと、ズボンしか履いてない伊之助は一瞬でズボンを脱ぎ、体を洗わずに湯船に飛び込もうとした所を止めた。
「何すんだよ能面!」
「俺は亮壱だ…。体を綺麗にしてから湯船に入れ、そのまま入ると湯船に溜まっているお湯が汚れてしまう」
伊之助は湯船に入る前の作法を知らない様だ。
俺は伊之助に湯船に入る前の作法を教えながら、頭を洗ってやったり、背中を流してやった。頭や背中を洗っている時の伊之助は、首根っこを掴まれて大人しくしている猫の様だった。
「伊之助、湯船に浸かっても大丈夫だぞ?」
「・・・ハァッ!?ホワホワさせんじゃねぇ!」
洗い終わり、湯船に浸かっても良いと伊之助に言ったのだが、何故か呆然としていた。呆然としていた伊之助だったが元の野生児に戻り、訳の分からん事を言って湯船へと飛び込んで行った。伊之助の事が終わらせ、自分の体を洗おうとすると炭治郎が背中を洗うと言い出した。炭治郎の申し出に断る理由も無く、炭治郎に背中を洗ってもらった。炭治郎に洗われている間、手元が留守になっている俺は善逸を前に座らせて、善逸の背中を洗った。
こうして誰かと一緒に風呂に入って背中を洗い合うのは初めてだが、とても嬉しく楽しいと感じた。
洗いっこの途中で湯船に居た伊之助が、自分も仲間に入れろと乱入してきて、四人で背中を洗いあった。
○
全員風呂から上がり、部屋に戻ると四人分の食事が用意されていた。それぞれの場所に着いてから、飯を食べ始めた。伊之助は用意されていた飯の中で、天ぷらを気に入ったらしく、ガツガツと素手で食べていた。野生児である伊之助は箸の使い方なんて分かる筈もなく、俺と炭治郎で伊之助に箸の使い方を教えていた。
食事の途中で炭治郎から俺の育手はどんな人かと聞かれ、俺は正直に最強の幽霊が育手と言った。普通の人間なら俺の話は嘘だと決めつけられていただろう…だが、炭治郎は俺の話を信じてくれた。善逸も半信半疑の視線で俺を見ていたが、俺から聞こえてくる音に、嘘を言ってないと理解した善逸は、幽霊って本当に居るんだと小さく呟いた。
○
「うん!君達三人とも重症だね」
食事を終わらせると、お祖母様が食事している間に呼んでいた医者が部屋に入り、炭治郎、善逸、伊之助を診察し始めた。診察の結果、三人とも重症で肋骨が折れていると診断をもらった。
善逸...肋骨二本
炭治郎...肋骨三本
伊之助...肋骨四本
「怪我をしてしまうのはしょうが無い…治るまでは安静にするんだぞ?」
絶対安静と言われてから寝るまでの間に、箱の中にいた禰豆子を見た善逸が、炭治郎に嫉妬して追いかけ回す等の一悶着があった。
○
散々走り回って疲れたのか、炭治郎、善逸はぐっすり眠りについた。伊之助は、二人が走り回る前に眠りについていた。
俺はというと騒がしい部屋を出て、縁側で満月を眺めながら静かにお祖母様が淹れてくれたお茶を飲んでいた。月を眺めながらお茶を啜っていると何かが俺の方に近づいてきた。
「ムー?」
「起きたのか禰豆子…?」
部屋を出る前に禰豆子を俺の布団に寝かしつけたのだが、寝れなかったようで、部屋から出てきて俺の所にやって来た。禰豆子は体を3〜4歳位の子供位まで縮ませて、胡座をかいている俺の足の真ん中にちょこんと座り込んだ。
夜は少し冷える為、禰豆子の子供体温がとても温かった。
「眠れるまで、一緒に月でも見るか…?」
「ムー!」
禰豆子は、竹を噛んでいて『ムー』しか話せないが、何となくだが言いたい事が伝わってくる。俺と禰豆子で月を眺めてしばらくすると、禰豆子がうたた寝をし始めた。
「眠くなったか禰豆子?」
「ムー...」
「布団まで運ぶぞ?」
「ムームー」
眠たそうにしている禰豆子を布団まで運ぼうとしたのだが、禰豆子は浴衣を掴みながら首を横に振って、まだここに居るという意思表示をしていた。禰豆子は俺の胡座の中で寝始め、俺は浴衣の上に羽織っていた羽織を禰豆子に掛けた。
「そのまま...。人を襲わず、人を守ってくれ禰豆子...俺はお前を斬りたくない」
すやすやと胡座の中で眠る禰豆子に、そう呟きながらサラサラの髪の毛を撫でていた。
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