「っていうか、今更だけど、あなたの知識は天の国由来ってことでいいのよね?」
男女間の話……そのたぐいの話は終わりだと、暗黙の了解で一段落して再度皆で乾杯をして酒を飲む。
なんとなくこんな感じにもなりうると思って用意しておいた大皿料理……鯛のフライや、市場で買ってきた豚肉と野菜のみそ炒め等……を取り出してきて、まさに宴会みたいな状況になったときに、褐色ポニーが放った言葉だった。
「そうなるな」
七輪で全員分の焼き牡蠣を用意しながら、俺は肯定する。
「刀月は私と雪蓮と歳に差はないはずだ。それでこれほどの調理、畑仕事、家畜の世話や土木工事の知識などを知っているのは、どういうことなんだ?」
発酵食品、農耕、畜産、土木工事の際の口出し……土質の違いによる施工方法法の多少の苦言や、橋の建築など……と、戦闘面以外で俺がしているのはなかなか多岐にわたり、そのどれもがすさまじい成果を上げている。
知識人として、天の国がどのようなところなのか知りたくなるのは致し方ないことなのだろう。
「そうです~。私も気になります~」
酒が回っているからか、それとも何か別の理由があるのかは謎だが……さっきからおっとり眼鏡がすごく妖艶というか、色気を出してこちらに絡んでくる。
なんというか……知的欲求がすべてにおいて上回っているというべきなのか、俺に抱き着くこそしてこないが、乳が机の上に載って主張してきていることすら気づいていない様子だ。
ただ間違いなく酔っているのは、顔が赤くなり、目もトロンとしているので間違いなさそうだった。
「生国が俺の家が裕福だったからな」
生国、日本は間違いなく裕福だろう。
そして俺の家も間違いなく裕福だ。
この時代でいえば、裕福でなければ学問をするなど……できないのだからそれである程度はわかるだろう。
「素人むす……劉備にも話したが、おそらく魏にいる北郷は学生だ」
「「学生?」」
頭脳は二人が反応するが、「学」という単語は四人ともわかったようで、武闘派二人の反応は乏しかった。
「学生ってのは、文字通り、学んで生きる存在だ。それこそ、俺の生国の一般的な父母のもとに生まれた子であれば、十五歳までは働かなくても生活できる」
「なんですって?」
さすがにこれには王である褐色ポニーが反応した。
無理もない。
この時代、子供は歩けるようになったレベルから仕事をさせられるのだ。
十五歳まで働かないなど……想像すらもできないだろう。
「十五歳までの男女は学生という身分で、学校という……国が運営する教育機関に毎日通って勉強する。それが仕事といえば仕事だな」
「学ぶことが仕事だと? しかも、国が運営とは……確かに、裕福な国なのは間違いないな」
三国志時代のこの世では、とてもではないが動ける存在を遊ばせておくなどできるわけがない。
しかも国が運営……つまり学びに行っているにも関わらず、費用負担がないということを意味しているので、それがどれほどすさまじいものなのかは、いわゆる頭脳として呉の重鎮となっている褐色知的眼鏡としては、想像しやすいのだろう。
裕福な家の出で頭脳があるのなら……自分の生い立ちがどれだけ恵まれているのかよくわかっているだろうからな
「そして俺の生国は百年近く戦らしい戦をしていない。平和ではあるよ、一応」
「戦がない……じゃと?」
血の気の多い褐色妖艶が、眉を潜ませながらそうつぶやいた。
佳き飯、佳き酒、それらを彩る少しばかりの荒事があってくれれば、申し分がない……と豪語する褐色妖艶らしいといえるだろう。
「なんじゃそれは? 天の国というのは話に聞けば理想郷と聞いてはいたが……つまらないところのようじゃな」
そう吐き捨てるように言って樽の酒を勢いよくあおった。
こいつもそれなりに酔っているようで顔がそれなりに赤くなっている。
そろそろ自重させたほうがいいかもしれない。
というか……
「それで!? それで~!? 刀月様の国ではどんな教育をされているんですか!?」
普段の間延びしてのんびりとした雰囲気が全く見られないほど興奮している、おっとり眼鏡が机に身を乗り出しながらそう言ってくる。
こいつは誰よりも顔が赤い。
酒によるものというよりも興奮故の赤らめ方だろうが……なんか普段と違って危なっかしかった。
……最悪は寝かすか
気を注いでの意識遮断を視野に入れつつ……俺はつづけた。
「文字の読み書きや計算などは十になる前に誰もができるようにはなってるな。あとは自国や他国の歴史など広く浅く学び、政策の基本的な基礎を学ぶ」
「そん――」
「そんなに~幅広くですか~!? しかも、十に入る前に全員が読み書きそろばんができる~?!」
褐色知的眼鏡の声すらさえぎって驚き、さらに身を寄せてくるおっとり眼鏡。
このままだと机に乗り出しすぎて皿やら器の上に落ちそうなので、俺は仕方ないので一度立ち上がっておっとり眼鏡の後ろに立ち、肩に手を置いて強引に座らせた。
これでいつでも寝かせられる
という事情もあるが、まずは料理を無駄にしないのが先決。
このままほっておくと、こいつ机を倒しそうで怖かったのだ。
宴もそれなりに時間が経ったことでなかなか混沌の様相を呈してきているが……まぁこれも飲み会のいいところだろう。
布団も用意しとけばよかったかね?
先ほどの色ごとみたいな話になった後にこう思うのも、個人的には少しいやなのだが、さすがに机に突っ伏して寝させるわけにもいくまい。
最悪は全員分の布団を部下に用意させてこの場で寝かせて、俺もここで休む必要性があるかもしれない。
同じ部屋で寝る……といえば少々危うい状況だが、暗殺すらも普通にあるこの時代に酔っぱらって意識を失うように眠っている連中を放置しては、殺してくれと言っているようなものだ。
俺がいれば、敵国の細作も馬鹿なことはしないだろう。
まぁ……城に俺が検知できる限りで怪しいやつはいないが
気配で感知できる限りで、明らかに変な動きをしている奴がいないので、少なくとも城の中は安全そうだが……白装束の連中が突如として顕れて俺を犯人に仕立てることも不可能ではないだろう。
多分、しないだろうが……
俺を冤罪で吊るし上げたいのであれば、今まで出来る機会が皆無だったわけではなく、また五胡との戦でも分身体しか出してこなかった。
あまり敵にも余裕がないのはなんとなくわからないでもない。
もしくは……何か重大なことのために力を割いているのか
なんとなくだが……これが一番しっくりする理由だった。
相手の話ぶりなんかから見て、俺のことを把握はしているが、四六時中監視しているとは思えない。
余裕がないのも考えたが……入れ墨娘に対して行っていた黒い陰の幼体のようなモノ。
あれの本体などがあってそれをどうこうしている。
これが一番しっくりきた。
「それで! 天の国ではほかにどんな――」
「穏、落ち着け」
俺に座らせてられているにも関わず、俺の抑えつけを押しのけようとするほどの興奮しているおっとり眼鏡。
そんなおっとり眼鏡に半ば呆れながら制止する褐色知的眼鏡だが……酔っているのかなかなかぐいぐいと迫ってこようとする。
背後にいる俺の顔を何とか見ようと……真上を向いて俺に視線を向けてくるが、なんというか、本当に眼が爛々としていて少々狂気じみている。
……こいつ力強いな
立って抑えつけている俺を押しのけようと、座った状態で立ち上がろうとしているのだ。
なかなかの膂力といっていいだろう。
また興奮している上に酒で酔っているので理性がほぼなくなっているような状況だった。
そして興奮しながらもなんというか……格好もあるし先ほどの色ごとの話で意識しているがゆえに、非常になまめかしく見える。
というか、俺も立ち位置が悪かった。
……深いなぁ
でかい乳の谷間がまぁなんと深いこと。
俺を見るためにおっとり眼鏡が顔を真上に向けたために、見事な渓谷が丸見えだった。
……セクハラしたくなるってこういうことなんかねぇ
ぶちまけた通り、俺も若い男。
やりたくないわけがなく、意識しないわけがない。
しかもこいつ……なんというか、知的欲求を餌にすればそれだけでやれそうな気がする雰囲気だ。
もちろんそんな下種なことなどしないが、そう思えてしまう思考になってしまっている。
……さすがにちょい酔いすぎたか
飲むと決めた……つまり酔うと決めたので気力と魔力を用いての身体能力向上を行ってないゆえに、酒による酩酊が強く、そこそこ酔っている。
それゆえに少し変な思考回路になってしまっている。
酔って手を出すとか……クズの極み。
これだけは絶対にしたくない。
のだが……
「黙ってないで~! 続きを~」
と、暴れようとするおっとり眼鏡。
そのせいで豊かな双丘が揺れる揺れる。
なんとなく……いろんな意味で少し暴走しそうなおっとり眼鏡と俺自身のために、俺はおっとり眼鏡の頭に手を当てて、気を送った。
「ふわぁ~~~」
眠らせたために、少々間抜けな声を上げて眠るおっとり眼鏡。
やり方こそわからないだろうが、それでも俺が寝かせたのはわかった残りの三人が、驚いている。
「すごいわね。どうやってやったの?」
「気力を送った……といってもわからんだろう?」
「これは……なかなかすごいことをするの」
「眠るように眠らせることができる。それは……以前私にもしたことがある技だな」
さすがに気づくか……
おっとり眼鏡の前の机をきれいにして、突っ伏すようにして寝かせる俺。
調理白衣の下にも服は着ているので、俺は調理白衣を脱いで肩にかけておいた。
……このまま寝すことになりそうだから、布団手配するか
おそらくこのままおっとり眼鏡は寝ることになるだろう。
そしてほかの連中……特に武闘派二人は間違いなく俺とどったんばったんやって寝かすことになりそうだという予感があった。
「よくわかったな周瑜。さすがだ」
「お前にさすがといわれてもな……」
俺の知識はいわば未来の知識由来ゆえに広く浅い。
だからこそそれゆえに、何でも知ってそうに見えるのだろう。
こいつのように、今だ解明できてない物事が多い時代かつ、力が支配できる時代に頭脳でのし上がってきたような存在とは、頭の出来が全く違うのだが……未来知識ゆえに嫌味に取られてもしょうがないかもしれない。
「ちょいとトレイに言ってくる」
「といれ?」
「……すまん、厠」
悔しいと感じる褐色知的眼鏡に俺は内心で苦笑しつつ、一度席を立って部屋の外に出て用を足してから、布団をいくつか調達しておく。
最初こそ適当なやつに布団を持ってこさせることも考えたのだが、重鎮四人が酔いつぶれているのを見られるのはあまり醜聞よろしくないのでやめたのだ。
四人分の布団も別段重くもないので、さっさと部屋に戻ったのだが……目を離したのがよくなかった。
「あ、戻ったわね、刀月」
「何をもって……布団か?」
「お、ついにやる気になったか小僧! 受けて立つぞ!」
「……あ~あ」
三人の酔っ払いが出来上がっていた。
暴れまわるようなことはしていないし、酔いすぎてフラフラになっているわけでもない。
つまみを食べながら、少々危なげに少し体を揺らしつつ、樽から酒を注いで飲んでいた。
俺の酒は飲まなかったようだが、逆にそれがよくなかったのかもしれない。
飲みなれているゆえに普段通りの勢いで飲んでいるようで……酔いが加速したようだ。
俺はそんな三人にあきれながらも、すぐに寝かせられるように布団を敷いて、まずは寝ているおっとり眼鏡を寝かせて掛け布団もかけておいた。
眼に毒だからな……
「あら? 布団かけていいの刀月? 一緒に寝たいんじゃないの?」
「あのな、孫策。俺はな?」
「わかってるわよ~。必死に抑えてるんですものね~。さっき穏の谷間見ながら鼻の下伸ばしてたけど~」
くっそ……ばれてる……
今回ばかりは下心込みで見ていたので、何も言い返せなかった。
そうなれば、先ほどの会話の続きというか、自然な流れで……褐色知的眼鏡の話に行くのは無理なき事。
「私の体を治療する最初の時、裸にしてくれた時はあまり下卑た感じはしなかったが、必死になって抑えてたんだな。それとも……美しい私では刀月は魅力に感じないのか?」
裸にしたにも関わらず女として見なかったという嫌味と、俺の鉄面皮に対する評価という……実にいじめのような言葉が飛んでくる。
邪悪……とまでは言わないが邪な感情が容易に見える笑みを浮かべて言ってくるのだ。
なかなかいぢわるといっていいだろう。
それに対して俺は……俺も多少なりとも酔ってる……樽の酒をあおってから下心を吐露する。
「あのな? だから好みってだけでお前ら三人も魅力的だって言ったろ? 本気で我慢してるんだって。それに偉い女子高生はこう言いました」
「女子高生?」
通じない単語に言っていることに気づきながらも、少々酔った俺は面倒なのでスルーして続きを話す。
「もめない乳よりも、もめる乳だと」
とあるおっさんが、家出の女子高生を拾って説教して同棲まがいなことをする話だ。
体を使って流れ流れて主人公のおっさんの家に来た女子高生に対して憤慨した主人公のおっさんは、男ながらも「漢」で、かわいくて乳のでかい家庭的な女子高生とワンルームで暮らしながらも、一切手を出さなかった男である。
そんな彼女が放ったセリフがそれだった。
「だったら……私の揉む?」
「茶化すな孫策。確かに今この場で四人の乳を揉めるだろうし、襲えるだろうがそれはしたくないの。はい、情事の話はいったんこれで終わり」
先ほど色ごとに対しては一度片づけているので、俺は強引に話を打ち切った。
それは褐色知的眼鏡もわかっているので、自ら修正した話題を振ってくる。
「その自制心はすさまじいものがあるが……天の国はお前みたいな男が標準的なのか?」
大いに嫌味が入っているのはわかったが……それ以上に天の国に興味があるようだ。
知的好奇心が強いというか、もはや別世界と思える……実際にそうだが……天の国の政策や、住む人々に対して知り、それを反映できればと思っているのかもしれない。
「いや、俺はいわゆる裏の住人で、その中でもかなり危険な存在の一人だ。北郷が一般的な男と思っていい」
北郷一刀。
天の国と呼ばれる、おそらく同年代の日本より迷い込んだ男。
基本的な体はできていたようだが、それ以外は普通の男だった。
一人、二人の盗賊に襲われても何とかなるだろうが、それだけだ。
あいつが生きていけているのは……未来の知識によるところが大きいだろう。
「北郷。天の御遣いと謳われていて、魏が保護した男。一般兵よりは強いが、将には程遠くまた政策もそれなりに秀でたものがあるが、いかんせんそれだけ……というのが私の感想だが」
細作で情報は得ているのか、北郷のことをそれなりに知っているようだ。
董卓連合の時も実際に本人を見る機会はあったはずだ。
それらを総評しての評価のようだ。
立ち振る舞いから武芸は多少なりともかじっているようだが、その程度で戦国真っただ中の時代に来て戦力になるわけないわな
「でも人たらしって噂よね? それと絶倫だって」
だというのにこの王様……ちょいちょい話題を戻そうとするのに若干辟易しかけた俺だが、それなりにはっちゃけるのが今回の目的だ。
俺が恥をかかせていることも事実なのである程度は甘んじて受け入れるしかないだろう。
「そういう意味では刀月よりも上じゃの」
それに関しては何も言えないので、俺はみそ炒めを口に運んで酒をあおってごまかした。
「ということは……刀月にもそれなりに政策の知識があるということになるな?」
天の国よりきた二人の男。
ならば俺にもそれなりに政策の知識があると思うのは当たり前だろう。
「できるが……きちんと理解していないところが多いからな。そう意味でも北郷のほうが俺よりも詳しいだろう」
「だけど、まったく知らないってことはないわよね? なんでその知識を使わなかったのかしら?」
政策がそれなりにできると聞けば……何かしら思うのは当たり前のことだろう。
半ば王として、褐色ポニーが俺に詰め寄ってくる。
しかし、それに対して俺の返答は簡単だった。
「俺がきちんと理解してないので混乱させたくなかったってのはあるが、一番の理由は必要なかったからだな」
俺はこの世界で一人で生きていける自信がある。
ゆえに……未来の知識を使ってどこかの庇護下にいく必要性がない。
「それは、どういう意味で?」
「俺には力があった。そして、俺が助言する必要性は感じなかったからだな」
この呉の政策は、俺の感覚から言って俺が口を出す必要性がなかった。
だから政策に口を出さなかった。
それ以上でもそれ以下でもない、それが理由だった。
「そうか……」
思うところがないといえば噓になるが、天の国からきた男が呉の国を見て口を出す必要性は感じなかった。
それを聞けば、悪い気はしないだろう。
だがそれでも、俺が何か助言をすれば変わったかもしれない。
そう考えるのは致し方ないことなので……俺が本当に政策にあまり強くないことを伝えるべきだろう。
「そういうと俺があえて口出ししなかったみたいな偉そうな感じになってしまうが……」
「いや、あなたは結構偉そうでしょ?」
「確かに」
「まったくじゃな」
……腹立つ
なかなかうざい茶々を入れられたが……自覚がなくはないのであえて俺は無視して、話を進めた。
「口出しできるほど知識がないのが一番大きい。何せ俺には、それ以外に身命を賭してやっていることがあったからな」
「へぇ、あなたほどの男が身命を賭す? それはいったいどんなことかしら?」
にやりと……実に野性味あふれる笑みを浮かべて褐色ポニーが俺のほうへと身を乗り出しながらそう問うてきた。
他の二人も同様で、俺の話を無言で促してきた。
俺は……いくつも去来する思いを胸に浮かべて、口を開いた。
「鍛造と料理。そして暴力で疑似的な平和活動を行うことだ」
あえて濁した言葉。
別段深い意味があったわけではない。
直接言葉をすることで、自分がくそ野郎と同じ穴の狢と思いたくなかっただけなのかもしれない。
だがそれでも……なんとなく、直接的な言葉にするのは、この場ではためらわれた。
「俺の祖父と親父が化け物でな。以前黄蓋には話したが、俺よりもすごい存在のうちの二人だな。二人とも……俺では手も足も出ない」
俺の完全敗北宣言に、武闘派二人が実に興味深そうに身を乗り出す。
「あなたが手も足も出ないって……あなたの肉親よね? すごいのね?」
「おぬしが断言するとはな。一度見てみたいの」
「これは負け惜しみだが……俺は一応本業が鍛冶と料理だからな。その分野ではどちらも負ける気がしない」
祖父は謎だが……少なくともこの二つに関してはどちらも絶対に勝てる自信があった。
俺の鍛冶の師匠はこの二人だが……親父はなんというか、家業だからやっているという義務感がすごかった。
義務感でも相当な鉄を鍛えるのだが……やはり気持ちがこもってないものでしかないので、俺は絶対的に勝てる自信があった。
しかし研ぎについてはまだ絶対といえるほどの自信はない。
研ぎはいわば切断力に直結する要素……いわば戦いの技法のひとつ。
戦闘面に関しては……本当に絶対に勝てないと逆の意味で自信があった。
多分……俺は一度も本気を出されたことがないな
気力は俺が自身の世界にいたときから使ってたこともあり、親父も稽古の時に使っていた。
が、俺の今の境遇……異世界移動……での修行を考えれば、親父が同じ目に合っていないわけがない。
ならば親父が魔力を使えると考えるのはひどく自然なことで……仮に使えなかったとしても、併用した俺よりも気力での出力やらが上回っていると考えるのが妥当だった。
……マジでなんなんだろう、俺の家って
改めて考えると……実によくわからん不思議な家だ。
表の本業が鍛冶で、裏の家業が暗殺。
なかなか特殊すぎる家だといえる。
これが一般的な家で……あるはずがなかった。
「鍛冶と料理か……。鍛冶は私は専門外だが、それでもおぬしが持っている刀という武器がすごいのは聞いている。それを鍛えることができるというのは、当たり前だが鍛冶の造詣が深いということだろう?」
「だな」
「また料理もおぬしは私の命を救ってくれたような料理のほかにも、今さらに並べている料理も多岐にわたっている。しかも調理法だけでなく、保存食品の加工、私の体を癒してくれた医術。どれをとってもとても一朝一夕で学べるものではない」
確かに、ある意味で一番俺の知識について知っているのは、呂蒙を除けば褐色知的眼鏡だろう。
何せ俺はこいつの命を救うために、自身の能力を最大限に活用した。
生体に気力による意識遮断。
食事による体の免疫力の向上ないし、病の進行を遅らせる。
意識の遮断はともかくとして、他の二つはそれなりに知識と経験がなければできないことだ。
まぁ、本音を言うとモンスターワールドの薬のおかげだけどね
と、それなりに知識やらもあるのだが、こいつの病はおそらく俺の整体と食事療法では治らなかっただろう。
ゆえに本当にすごいのはモンスターワールドの薬なのだが、それは天の国とは関係ないのでとりあえず置いておくこととした。
「まぁ北郷が先ほど説明した学生なのだが……俺は裏の住人。俺も年齢的には学生だったんだが、家業の鍛冶仕事を習いつつ、武芸を習い……裏稼業も行っていた」
これはあまり言いたくなかったことだが……ここまでくればあちらも俺のことをそれなりに信用してくれているはず。
なので俺は、隠していた裏稼業について明かすこととした。
「裏稼業?」
「俺の裏稼業は暗殺だ」
何のことのなしに言う俺だが……三人が少しだけ警戒するのが分かった。
だがそれも無理からぬこと。
一応仕えているために殺すつもりがないことはわかっているだろうが、それでもこの時代の権力者を前にして自分が暗殺者と明かすのは……なかなかないことだろう。
「天の国の俺の生国は戦争がないとは言ったが……ほかの国ではあってな。そこにくそみたいな権力者がいるだろう?」
「つまりその権力者を?」
「殺すのが俺の裏稼業だ。五歳のころには一通りの暗殺技術は身に着けて仕事していたな」
五歳のころから殺していた。
そう聞かされればなかなか俺の経歴がおかしいのはわかるだろう。
現代に比べればまだこの時代のほうが受け入れやすいだろうが……それでも五歳から権力者を暗殺していた。
それを考えれば……俺がどうしてこれほどまでに実力があるのかの一端はわかるだろう。
「暗殺者として戦えるように戦闘訓練や医療知識などは叩き込まれて……鍛冶も教わった。鍛冶は進んでやっていたが。あと料理も……必要に迫られてというか、俺が必要だと思ったから修練した感じだな」
「……そう」
俺の言葉になにか感じるところがあったのだろう。
褐色ポニーもからかうことはなかった。
「まぁ裏の中でも危険的っていうのはそういう意味だな。俺の知識の多さは暗殺者として自らのために身に着けたものだな」
「なるほど……」
俺の知識の根源というか……必要性にかられてのものと判断し、褐色知的眼鏡が思案するように顎に手を当てた。
すべてがすべて戦闘技術のためではないが、大まかなものはそれがおおもとになっているのは間違いない。
「でも暗殺者があなたほどの実力を……私や祭が全く歯が立たなほどの実力をもっているのはおかしくない? 今のあなたの話ぶりだと、権力者はあなたみたいな強者ではないのでしょ?」
なかなか鋭い質問が褐色ポニーより飛んでくる。
確かに本来、暗殺者がこれほどの力を有する必要性は全くない。
最もスマートなのは……やはり狙撃や毒物による暗殺だろう。
しかし俺は正直なことを言うと……狙撃はできなくはないがかなり苦手だったりする。
また毒物はほかの連中を巻き込むことがあり得るので、俺は基本的に使用しない。
ではなぜ実力者といえる存在になる必要性があるのか、それはつまり……先に説明した狙撃やら毒物暗殺が苦手だからだ。
俺の暗殺は基本的に力押しだけからな……
身の隠し方や気配の消し方などは暗殺技術だが……殺すときは基本的に毒物などではなく、普通に刃物や銃器、もしくは格闘術で物理的に殺していた。
かといって、ここまで戦闘技術を身に着ける必要性はない。
ではなぜ必要なのかというと、この時代と違って必殺の武器といえる銃があるからだ。
気壁による防御力で銃器のたぐいをほぼ気にせず……年齢によるがさすがにアンチマテリアルライフルはよほど気力を注がないと防げない……標的に突っ込んでいき、力任せに殺す。
あとはまたまた気力による身体能力を駆使して離脱する。
それが俺の暗殺だった。
まぁ、気配を殺せたりとか隠形は得意だったので、見つかった回数は少ないが……
めんどくさいが……防御が必要なことを言うしかないだろう……
「天の国では、銃という武器があってな……弓など比べられない速さで相手に飛んでいき、ほぼ必殺といえる類の代物がある」
「ほう? 弓よりも速い?」
強弓遣いの褐色妖艶が不敵な笑みを浮かべて反応する。
三国の中でも相当の実力者である褐色妖艶からしたら面白くない話だろう。
実際に拳銃があるので使って見せてもいいのだが……さすがにそんなことで貴重な弾丸を消費したくなかった。
「まぁ黄蓋がそう思うのはわかるが……これに関しては断言できる。絶対に速い」
褐色妖艶の強弓がどれほどのものかはわからないが、どれほどの張力であっても拳銃の音速に迫る速さ……秒速345m……に勝てるわけがない。
「そんなにすごいの?」
物が見れないのであまりイメージができないだろうが、俺が戦闘のことに対しての評価のため想像はできないが笑い飛ばすことはしなかった。
「それの厄介なところは、習熟期間が圧倒的に短いことだ。子供であっても一日習えば扱えるようになる」
「「「!?」」」
「それも……江都の城壁の端から端まで届く飛距離がある」
これには誰もが絶句していた。
剣は刃をまっすぐ対象に対して立てた状態で振るいきらなければ対象を切断できない。
弓はそもそも引くこと自体にかなりの修練が必要だ。
だが銃は違う。
本当に一日もあれば使えるようになるだろう。
むろん動き回る標的に対して狙って当てるのはそれなりの修練が必要だが、それも面制圧……複数人数で撃ちまくればカバーできる。
もっと言ってしまえばショットガンを持ち出せば一発だ。
そして……子供でも扱えるといえば、想像できることもある。
「五歳の時にはあなたも暗殺をしていたといったわね?」
「あぁ」
「ちなみに聞くけど、その銃って武器を扱うのはあなたみたいな特殊な子供ではない……という認識で問題ないかしら?」
「その通りだ」
「数はどの程度あるの?」
「場所によっては、万単位の兵士が複数所持できるくらいには、大量生産されているし、大量生産が可能な武器だ」
ここまで言えば、三人とも同じ結論に至ったようだ。
少々重苦しい空気になってしまう。
「……なるほどね。あなたが実力者ってだけじゃなく、まともな精神をしているのはそういう事情があるからかしらね」
為政者として、強者として……褐色ポニーが何を想像したのかは容易だった。
そして俺がどんなやつを暗殺しているのかも、なんとなくわかったのだろう。
俺は強い酒が飲みたくなって自分が作った酒を注いで……一気にあおった。
「変な話になってすまなかった。まぁともかく、俺が暗殺者で強いのは、そういった武器がありふれた戦場に出なければならないからだな。あとはまぁ……気力で強化した身体能力で殺すのが楽ってのも理由の一つではあるが」
というよりも何よりも都合がいいのが……手ぶらで人を殺すことが可能な点だ。
それこそ、TシャツとGパンでふらふらと歩いて……殴り殺すことが可能なのだ。
これほど暗殺に適した戦闘能力はある意味でないといっていい。
得物を使わなければ血が出ない……つまり返り血を浴びる心配がない。
カメラにさえ気を付ければ安易に殺すことが可能だった。
「ちょっと変な感じになったな。いろいろと俺もあったわけだが……そんなわけで俺が知識が多いのはそれが大きな理由だな」
「確かに……そんな戦場じゃ実力がないと危ないわね」
「天の国……生国は大丈夫なようだが、どこにいっても人というのは醜悪なのだな」
「戦場はあるようじゃが……どうもわしが望むような戦場ではないようじゃな」
「あぁ……反吐が出るよ……」
俺の悪態に皆が驚く。
俺の心からの言葉だったので、少々重い物言いだったのが原因だが……仕方ないことだと思った。
ちょっと変な空気が続いたので、俺は一度小さく拍手して、場の雰囲気を変える。
「ま、それはともかくとして……必要性もそうだが、教育者が化け物だったこともあって今の俺があるわけだ。俺だって苦労してきたんだぞ?」
「まぁあなたの実力が一朝一夕でないことはわかるけど」
「それでもこれほどまでに離されているとさすがにの」
武闘派二人から文句が飛んでくる。
確かに強者としての自負と誇りがあったのに。俺みたいな変な奴が出てきたら真鍮穏やかではないだろう。
「気が使えるようになったら結構伸びるとは思うんだが……こればっかりはセンス、あ~~~~~感覚? 才能? だからなぁ」
「あら? 才能ですって?」
「わしらにはそれがないと?」
うわ……面倒なことになった……
と思うが後の祭り。
ここまで言った以上説明しないわけにもいかないので……俺は仕方なく、ちょっとした講義をすることとした。
「気ってのはいわばその人が持つ体力――」
「それはある程度分かるわ」
「それをどうすると?」
あ、そうか……時代的にまだ通るか……
気や霊力、神や妖怪、怨霊などが信じられた時代だ。
まだ現代日本よりも気についてわかるのも当然と言えた。
「要するに、余分な体力を消費して身体能力を上げたり、それを使って自身の防御力を上げているのが、気を使った戦いってわけだ。俺の強さはほぼこれに起因する」
今は魔力があるのでそれ以上にやばくなっているが……魔力についての説明が面倒なので割愛した。
「それはどうやってやるの?」
「う~~~~ん。手出してくれ」
俺に促されて褐色ポニーが俺に対して左手を差し出してくる。
それはその手を右手で握り……気を送った。
「……これは」
褐色ポニーが何かを思い出すような声を漏らす。
こいつが死にかけたときに俺が気を分けていた時の感覚を思い出したのだろう。
気を他人の体に送るというのはそれなりに高度な技だ。
身体能力を強化したり体に纏うのはまだ簡単なほうだが、これは結構難しい。
だが、気が流れる感覚……これがつかめなければ、絶対に気力の運用はできない。
「なんとなく感覚が分かるかな? まぁこれは人に送っているので結構難しいが、気が流れる感覚がつかめたら、あとはそれを纏うというイメージ……想像をすることで使えるようになるかもしれない」
「刀月……わしにもしてくれ」
そういいながら褐色妖艶がわざわざ立ち上がり、俺のそばに寄ってから褐色ポニーと同じように左手を差し出してきた。
「ほいよ」
戦闘のことなので褐色妖艶も要求してきたのが分かるので、俺はそれに対して素直に応じる。
褐色妖艶には送ったことがないので興味深そうに感覚を味わっていた。
「……刀月、私にもしてくれないか?」
……すっごいぐいぐいくるのは何なの?
理由はわかっているのだが……なんとなくわかってしまいたくないようなむず痒い気持ちだったが、しないわけにはいかないのでこれにも素直に応じた。
が……すぐになんなのかを褐色知的眼鏡は把握する。
「私の整体の時にしていたやつか」
「そうだ。俺の余力の体力を周瑜に分け与えて内臓……臓物のほうが分かるか? それの活動を活発にして病を打ち勝つための糧にした感じだな」
解剖などで直接的に内臓を見たことはなくても、切り捨てたことや射貫かれたことで臓腑が飛ぶ出すことなどがないわけがない。
体の中に臓器があるのはわかっているだろう。
それが何をするかはわかってないだろうが。
「人体でも急所があるはわかるよな? 逆にそこに気を送って活性化させた……というのが、周瑜に施した医療だな。あとは体にいいものを食べさせたわけだ」
「なるほど……その知識も、お主の努力のたまものか……」
知識の大事さについては思いがひとしおのはずだ。
頭脳で国に貢献し……知識によって自らが救われたのだから。
まぁ俺の治療では多分無理だっただろうが……
モンスターワールドの薬のおかげなのは間違いないが、信じてもらえるかわからないのでとりあえずは言わないようにしておく……つもりだった。
「天の国……祭殿としては物足りないかもしれないが、私としてはぜひとも行ってみたいものだな」
……とんでもない爆弾発言された
褐色知的眼鏡としては、知識探求として言っているのが大きな理由だろうが、それでもこの発言に残りの二人が反応しないはずがない。
「そうだ……。おぬしが帰るというのなら、付いていけばいいだけではないか」
と思っていたら、本当の爆弾を投げてきた。
「……え? 何だって?」
聞こえていたが……真面目に聞き返すしかないことを言われて、俺はマジで聞き返していた。
俺のその態度がお気に召したのか……褐色知的眼鏡が不敵に笑っている。
「聞こえなかったのか? 刀月ともあろうものが」
「いや、聞こえたがな?」
「そうよね瞑琳! 確かにこいつが帰るのなら私たちがついていけばいいのよ!」
「なるほど。ありじゃな」
いやね~よ!
と、声を大にして言いたいが……女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、盛り上がってしまった。
「妖術が必要とはいえ、帰れるということは、私たちが行くことも不可能ではないはずよね!」
「なんとなく思ったことだが……いい考えだな」
「戦が少々面白くなさそうじゃが……刀月といい父上殿といい、相手には困らなさそうじゃな」
「いやお前ら……王様、筆頭軍師、宿将」
女として飲むというからあえて立場を出していなかったのだが、さすがにこれは出さざるを得ない。
俺の世界に戻るときについてこれるかどうかは謎だが……仮についてこれたとしてもこいつらがついてきていいわけがない。
全員呉にとっての重要人物であり、褐色ポニー……孫策に至っては王様だ。
国外に永住することができるわけがない。
「国はどうすんだよ? 特に王様」
「あら? 来られると困るのかしら? 美女三人があなたについていくっていうのに」
「いや、王様のとしての責務は?」
「蓮華がいるから大丈夫よ」
なんという無責任な……
あまりに身勝手で無責任な言動に、ほとほとあきれるしかない。
と思ったのだが……
「それに……なんとなくだけど、三国の歴史が終われば……私の出る幕じゃない気がするのよね」
「ほう?」
なかなか重い言葉を言っているので、俺は遮ることをやめて続きを促すように、俺の酒を褐色ポニーの器に注ぐ。
俺に礼を言って少し酒を飲んで喉を湿らせてから、褐色ポニーが続けた。
まるで……酒で濡らしたことでようやく言葉が滑り出てくる、そんなように。
「ついに魏との決戦が近くなってきた。だけど……なんとなくだけど、それじゃ終わらない気がするの。五胡の動向もあるけど……それ以上に違う何かで、この争いが終わる気がしてならないのよ」
「……」
勘でしかない。
いやもはや勘ですらないだろう。
決戦で負けた場合、確かに魏によって殺される可能性は無きにしも非ずだろう。
しかし負けないために組んだ同盟だ。
負けるつもりでいるはずがない。
そして仮に勝ったとして……それで政務が終わるはずがない。
というよりもむしろそのあとのほうが大変なのだ。
蜀との同盟がどう転ぶかは謎だが……少なくとも素人娘、劉備がいる限り、こちらが手ひどい裏切りをしない限りは同盟関係が続くだろう。
それこそ蜀には五胡という脅威がいる。
呉を敵に回している余裕があるわけがない。
ならば、国の運営が大変になるのは自明の理。
だというのに、この王様は自分の出る幕がないといっている。
しかも違う何かで終わりを迎えると……実に抽象的なことを言っていた。
しかし……それを一笑に付すことができないのもまた事実だった。
道化ガキに道化眼鏡に白装束の連中がいるからな……
他にも化け物が二人いるのだが……あいつらは少なくとも邪悪な存在には思えなかったので省いてしまっていいだろう。
だがかといって、放置するのが得策ではない。
俺に次ぐ力を有しているのだから。
だというのに、明らかに道化コンビが何かしら暗躍しているというのに、何かしているようには見受けられなかったのも気になるところではあった。
「雪蓮。私は戦士ではなく、ましてや王でもない。ゆえに……お前がどういう想いでいっているのかはわからない」
親友である褐色知的眼鏡が、親友の想いをくみ取るように思考しながら口を開いた。
その表情に嘲りや困惑などの、負といわれる感情は見受けられなかった。
そしてそれは褐色妖艶も同じで……同じように顔を少しだけこわばらせていた。
もしかしたら、なんとなく誰もが思っていたのかもしれない。
俺は直接的に敵と認識していた連中がいたために、他のことにあまり注意を払っていなかったが、この世界の住人としてなにか感じるものがあったのかもしれない。
そんな感じだった。
「確かに、今回の決戦ともいえる蜀との同盟での戦。さらにその先。これらは間違いなく呉の歴史においても最も過酷な局面だと断言できるだろう」
「そうじゃな。これほどの局面は……わしの記憶にはない」
「ゆえにこそ、昂ぶりも不安もあるだろう。ただでは終わらないというのはその気持ちの表れだと思う。でもどうか……覚えておいてほしい」
そばにより、褐色ポニーの手を取って、両手で握りしめた。
「あなたの後ろには私がいる。そして、刀月だっているはずだ。だからそれらをすべて胸に抱いて、進んでほしい。私の王よ」
友として、家臣として。
必ず後ろにいるのだと。
一人ではないのだと、そういいたかったのだろう。
この言葉が、褐色ポニーの漠然とした思いをどれだけ和らげたのかはわからない。
もしかしたら、それこそ先ほどの天の国についていくというのは弱音だったのかもしれない。
親友の温かさに笑みを浮かべたが、すぐに視線を鋭くして俺を睨んでくる褐色ポニー。
「これに関しては、あなたから少しは聞けるんじゃないかしら刀月?」
「どういう意味だ?」
「あなたの敵っていうのは、いったい何なの?」
あ~そうなるか
確かに漠然とした不安を抱いているのならば、その不安の元が俺の敵であると考えるのは道理だ。
何せ三国間での戦であれば、いうなればこの時代においては普通のことだ。
戦の生き死にではそこまで恐れることはないだろう。
その程度の覚悟……とっくの昔に済ませているはずなのだから。
死ぬとわかって……否、死ぬ最後の仕事であったとしても、あの気炎の咆哮は見事というほかないものだったのだから。
そういえば……こいつは俺と道化ガキとの戦い見てたと言っていたな……
反董卓連合にて、褐色ポニーは俺と道化ガキ。
その後一応多少は報告しているが、それでもあの時はほとんど何も情報がなかった。
しかし今回は道化眼鏡の情報を多少なりとも伝えた……というよりも伝えざるを得なかった。
何せ俺が命令違反をしてまで出陣した理由を説明しなければならないからだ。
ゆえに……俺が絶対に殺すべき存在ということは伝えている。
しかし逆を言えばそれだけだ。
暗殺については今回明かしたが、能力というか暗殺技術はそれなりにあるが探索やら探査は専門外だ。
サバイバルの関係で、獣の足跡とかを見つけたりする能力はそれなりにあるが、妖術を使うような奴が普通の五感で見つけられる跡を残すようなヘマをするわけがない。
「それについては五胡と争った時に出てきたくらいだ。すまないが隠してることはない」
「本当に? 怒ってるわけではないのだけど暗殺者ってのを言ってなかった前科があるのよ? それはわかるわよね?」
なかなか重い秘密だろう。
もちろん仮とはいえ主人である王を殺すなどするはずもないのだが、暗殺者というのはなかなか黒いかつ暗い肩書きだ。
言いたくなるのも当然だろう。
が、本当に知らないのである。
「それについては謝罪するが、すまんが本当にわからん」
「本当に? まだ何か隠してない?」
あるのが後ろめたいなー
妖術……古龍の能力……が使えることは明かしていない。
何かしら感じているのはあるだろうが、明かしてないのは事実。
しかし、気や妖術、仙術が信じられた時代で、魔力という……目に見えない力を用いて超常的な力を使えるのは少々まずい。
特に雷はまずい。
雷とは神が何かを知らせるために鳴る「神鳴り」が変化した言葉。
これを知られるのはやりたくない。
他のもやばいしなぁ
掌で発火させる、風を操り気温を下げたりする、触れたものをある程度望む形で腐らせる 発酵させる。
これらもやばい。
故に明かせるのは、やはり俺のこれまでの軌跡だろう。
モンスターワールドの話でもするかね
ちょうど薬の出所についても明かしておくべき……手に入らないという意味……だろう。
そのため、ちょっとした昔話をすることとした。
誤魔化すともいう。
「明かしてないことはそらいくらでもあるが」
「何を隠している?」
政策第一人者として、褐色知的眼鏡が鋭く俺を睨んでくる。
俺はそれに軽く肩をすくめてから、語り始める。
「俺の経歴だ。信じられないかもしれないが、俺は並行世界からきた人間なのさ」
「「「並行世界?」」」
残った三人が疑問符を浮かべながらそう返してくる。
当たり前だ。
俺自身、変な気持ちでいるのだから。
「可能性の違う世界というべきだろうな。俺は天の国で仕事の帰り道……あの時は鍛治仕事だな。その帰り道、船に乗ってたら突然森に迷ってな」
「どゆこと?」
褐色ポニーが間抜けな声を上げる。
まぁそれも無理からぬことだろう。
俺もそんな気持ちだったのだから。
「神隠しで通じるか?」
「人が突然いなくなることよね?」
「いわゆる失踪のことだろう?」
「なんじゃ刀月。自ら失踪したのか?」
あー通じないか
※中国でも神隠し的な表現はあるが、忽然と姿を消すことは一致するが、日本で言う神様やら超常的な存在にどうこうされた意味合いはないそうです
まちがってたらごめんなさい
「まぁともかく、目が覚めたら突然森にいてな。そこに恐竜がいたのよ」
「「「きょうりゅう?」」」
これもだめか……いや、こっちはそんな気はしてたけど……
※恐竜 西洋で1820年ごろに発表されたことで認知され、その後東洋にも伝わった
それまで化石などは「竜骨」として漢方などに使用されていたそうです
AIなので真偽は不明ですごめんなさい
「そうだな、家よりもでかいワニがいると思ってくれれば」
竜虎相搏つ
この言葉の竜については、諸説あり今で言うワニよりもさらに巨大なワニのような生物がいて、それが虎と対峙していたからできた言葉とする説がある。
また、南蛮で普通にワニがいたのでこれは通じるだろう。
※多分この時代においてワニでは通じないだろうけど、この作品ではこれで通すのでよろしくお願いします
多分もうワニの話は出てこないだろうが
「家よりも大きなワニ? そんなのがいたの!」
「それは、興味深いな」
「ただでかいだけか? それとも強いのか?」
思った通り食いついたな
家よりもでかい生物はあまり見かけないはずだ。
この辺にもワニみたいなのはいるが像は南蛮まで行かないといないからだ。
「強いどころか。家よりでかいのが翼で空飛んで、火の玉吐いてくる奴が闊歩してる世界だったよ」
「空を飛ぶ?」
「家よりでかいのがか?」
「しかも火の玉じゃと? 興味深いな」
「まぁ黄蓋なら弓が扱えるがなんとかなるが、孫策だとちょっときついかもな」
「む? まぁ確かにそうかもしれないけどちょっと腹立つわね」
空飛ぶワニという時点で、弓矢の扱いに慣れてない褐色ポニーではきついのは理屈として通るので、不機嫌そうに顔を歪めている。
好戦的な褐色ポニーらしいと言える。
そのままにするのもアレなので、俺は別の個体も話す。
「他にも色々いてな。空こそ飛ばないが家と同じ大きさの狼とかもいたぞ」
「家と同じ大きさの狼?」
「本当か?」
「空を飛ぶきょうりゅうとやらに、家と同じ狼。にわかには信じ難いのぉ」
「でかいだけじゃなくて凄い速さで動き回るからな。前足とか俺の頭よりもでかいので踏みつけて殺そうとしてくるし」
自らの得物になったジンオウガを思い浮かべながら、俺は説明を続ける。
ただ、流石に雷を操るのはまずいと判断して言わなかった。
他にも小型種のランポスや、バサルモス、グラビモスなどの話もして