もしもお嬢様を1mmも理解してないゲーマーがセシリアに憑依したら 作:まみま
「こんッッッッッのクソったれ野郎! おふざけが過ぎましてよ? そんなに足払いが好きなら一生地面でくるくるしてやがれですわ!」
「お嬢様、少々言葉遣いが……あと台パンはお控えください」
私の昔から使えているお嬢様は変わった人だ。物心ついた時から1日と欠かさずゲームをやり込み、ご両親が亡くなった時も悲しみはしたものの強さを保ったままこの家とレートを守られていた。
「ハッ、わたくしとしたことが少々揺さぶられてしまいましたわ……おハーブティーを飲んで落ち着アッツ!」
「お言葉ですがお嬢様はオルコット家の……いや、今やイギリスを代表するお方であります……」
そう、彼女はイギリス代表候補生。その中でも最も代表に近い人間。だから……
「見えすいた処刑○の三択に警戒せず、スパアマを恐れてリーチも長くないセンチュリオ○で腰が引けた戦いをしているようでは勝てる勝負も勝てないかと……」
「知ってるにきまってますわ! そんなことはわかっていますの! 問題は精神面でしてよ! 私が求めているのは正論なんかじゃなくて氷砂糖のように甘くて爽やかな励ましの言葉ですわ! 正論が人をキレさせることがあっても救ったためしなんて一つも存在しませんわ!」
言い切って、再び画面に向かうお嬢様。なんというか、変人だが悪い人ではないのだ。それを証明するために今日は私とお嬢様の1日を紹介したい。
「あら、おはようございますわチェルシー」
「おはようございますお嬢様。朝食はトーストとレ○ドブルです」
「気が利きますわね! 今日もエナドリ決めて頑張っていきますわよ!」
お嬢様の1日はトースト一枚とエナドリから始まる。こうして夏休みに帰省をしてくる前から変わらないことだ。エナドリを飲めば神の加護を得られると昔からよく言っていた。正直言って正気を疑う。
「あっ! てめこら支援機を頼むじゃないですわ! それいうならそこのケンプ○ァー止めていただけますこと!? アホみたいにしつこいんですわこいつ! 冷蔵庫で寝かせたコーンポタージュを温めずに飲んだ時くらいしつこいんですの! ……いやいまのはわたくしが悪い! ケン○くらい一人でなんとかできないわたくしが……悪いか?」
「騙し切れてないですよ。強襲の道を作るのは汎用の役目なのでしょうがないことです。しかしあの甘えた下格はなんですか? あんなの猿でもカウンター取れますよ?」
朝7時。お嬢様はこの時間帯は主に人口の多いゲームをプレイなさっている。その多くがチーム戦なので、良く味方の愚痴を独りごちている。しかし最終的には自分が悪かったと結論付けるのがこの方の強さかもしれない。自分を騙し切れていないが。
「よっしゃナイスEMPィ! 煮卵みたいな顔してるのにやりますわね! 脳味噌いっぱいつまってますわ! はいここで苦し紛れのリュウガワガテキヲクラウを木葉返し! そしてそのまま……リュウジンノケンヲクラエー! はっはぁ! DPSは長いマッチング時間待ってやるだけの爽快感がありますわね!」
朝10時、この時間からお嬢様は別ゲーをやりだす。最初の方はゲームそれぞれのエイムの質感に苦しんでいたが、最近はスパッと切り替えられるようになったそうだ。
「お嬢様、昼食は生姜焼きとモン○ナです」
「ちゃんとウルトラを用意してくださりました?」
「もちろん」
「パーフェクトですわ、チェルシー」
「感謝の極み」
昼12時、お嬢様はきっかりこの時間に昼食を取る。日本食が好みなようで、昔から生姜焼きやカツ丼などの家庭的な料理を多く望んでいらした。ダシがボタン操作にキレを与えるそうだ。
『超ガソでフィニッシュ死んだぁぁぁぁ!!』
「やっぱりQ○Zさんは人間離れしていらっしゃいますわね……あの域にたどり着くまでにどれだけかかることか……いや、それよりもまずはにこちんちんさんやあるこうるさんを倒さねば!」
昼14時、昼食後2時間程度は動画鑑賞やキャラダイヤなどをチェックする情報収集の時間に回しているそうだ。
にこちんちんやあるこうるなどというのは日本にいるゲーム仲間だそうで、12歳の頃からちょくちょく日本に行っていたお嬢様からすれば長い付き合いだと言う。付き添いで行った時に私も会ったことがあるが、多分あれはジャパニーズヤ○ザとジャパニーズシャ○クというやつだと思う。全く方向の違う二人と仲良くなるとは、さすがお嬢様だ。
「おっ、この位置にポータルとは"
「お嬢様、マウスがミシミシ言ってます。堪えて堪えて」
昼16時、この時間はバトロワモノをプレイされることが多い。本来ならこう言う時間はあまりお上手ではないプレイヤーが多いそうだが、あえてその中で腕を磨くと言うお嬢様のストイックさが見て取れる光景だ。
「はい強キャン掴み、1、2発入れて壁当て、前蹴り、強、アッパー、転んで胸にグサッ! いやあこのコンボのためにセ○チュリオン使ってますわ! やっぱ壁際のセ○チュはクソですわね! わたくし絶対敵として当たりたくないですわ!」
夕方18時、ようやくお嬢様お気に入りのゲームがマッチングするようになる時間らしい。もっと強いキャラを使えばいいのに、と何度言ってもキャラ愛で押し通されてしまう。人は愛故に
「昇竜ブーン! 昇竜ブーン! ほらチェルシー! ちゃんとプレイしてくれないと練習代にならなくってよ!?」
夜20時、オルコット家の財力を持ってして日本から持ってきたアーケードゲームの練習の時間だ。2人以上いなければ実戦練習が出来ないので、この屋敷の使用人はしょっちゅう駆り出される。しまいには賞金をかけたオルコット家使用人大会が開かれる始末だ。
ちなみに今のところ最強は私のユ○、次点で料理長のジャ○だ。しかし最近は新入りのコック見習いのト○にみんなが恐怖を覚えている。内輪大会で臆面もなく最強キャラを使うとは、面の皮がゾッ○の装甲くらい厚い。
「ですから束さん、それは甘えた回避をする束さんが悪いんですわ。まずは回避とパリィと防御の三択をしっかり取れるようにならないと始まりませんわよ?」
『ムッキィィィィ! 今度こそ束さんの荒武者で地面大好きにしてやるからね! 覚えてろよ!』
「楽しみですわねぇ? 北○でもまだ負け越してないからラーメンの奢りがだいぶ溜まってますわねぇ? いったいいつ返してくれるのかしら?」
『お前を殺す』
夜22時、最近できたお友達にゲームを教えているそうだが、側から見ると初心者相手に煽り腐っているようにしか見えない。いや、実際には深い考えがあるのだろう。
「ほーら、コンボ入っちゃいますわよ? ほら、ほーら!」
『うぁぁぁぁぁちくしょぉぉぉぉぉ!!』
……あるのだろう。
「うーん、やっぱり料理長の寿司は最高ですわね!」
「ですね」
夜24時、お嬢様は朝食と昼食は規則正しい時間に召し上がるが、夜だけはこの時間になる。夜にやっているゲームの方が好きで、時間を忘れてしまうからだそうだ。
しかしこの寿司というモノ、最初は魚を生で食べるなんて考えられなかったが、意外とイケるモノだ。日本で修行を積んだアフリカ系アメリカ人を雇ったお嬢様の判断は正しかった。実際、彼は当時の料理長が歳を重ねて退職したあとすぐに料理長としてこのオルコット家の厨房を支えている。
ちなみに朝がトーストなのはお嬢様の好みと、ついでにコック達に夜遅くまで仕事をさせて、朝にまで早く起きてもらうのは心苦しいとのお嬢様のお気遣いだ。
「あ、そうそうチェルシー。一つ言い忘れてましたが、今年のボーナスは結構多めに入れましたわ。あなたは特に」
「えっ? ありがとうございます」
「わたくしがいない間ちゃんとここを支えてくれてるから当然ですわ! 金が最大の感謝の証ですもの!」
現金な人だ。私はこうして仕えられるだけでも幸福だというのに。
人格は最低だが、人望が集まるのはこういうところなのだろう。
……しかしまあ、日にエナジードリンクを5本も飲んでおいて良く寝られるモノだなぁ……