当たり前のように30度の気温を超える猛暑の日々。所によっては酷暑。40度を超える気温の場所もあるそうな。
日本の都市部はアスファルトの大地。毎日降り注ぐ熱線が漆黒の大地に吸収され、それそのものが熱を発する。気温よりも体感温度は当然高くなる。アスファルトに近い位置にいる幼児たちや犬や猫といった動物たちは、成人が感じる温度よりも暑く感じている。ベビーカーも注意されたし。散歩は早朝か夜間に行かれたし。
そんな真夏の日。夏といえばこの月という代表格たる8月。その始まりの日が、白銀圭の誕生日である。圭は8月をクソ暑い毎日だと思っているし、特別な思い入れもなかったりする。暑さとは正反対のクールな少女だ。
しかし今現在。圭の心の内は全くクールじゃなかった。
(メイクする時間なかった……。どうしよ、服も急いで着替えたし……)
光上の
予想だにしなかった光上の来客。誕生日という日に会えたことの喜び。誘ったわけでもなく、彼の方から来てくれた。その事自体は大変喜ばしいことで、彼女は頬が緩みながらも急いで着替えた。
そうして支度を整え、出かけたのはいいものの、夏の暑さによって現実に引き戻されて思考は冷静なものに。落ち着いてくると今度は懸念が押し寄せる。おしゃれをしたい年頃の少女が、好きな異性を前にすっぴんというのは本人が気にするもの。
(せっかく2人で出かけてるのに……2人? 2人きり?)
男女が2人で出かける。世間的にこれはデートと呼ばれる。
「白銀さんお昼は食べた?」
「え? あ、まだです」
「ならまずはお昼を食べに行こうか。希望はある?」
「希望ですか……」
圭の考え事を光上の言葉が遮る。お昼ご飯はまだ食べていない。というよりは、今日はあまりにも活力が湧かないために、お昼ご飯を食べる気もなかった。そこまでを言わないでおけたのも、質問にイエス、ノーで答えるだけだったからだろう。
そんな状態の彼女が、お昼の希望を聞かれても咄嗟に答えられるわけもなく、しばらく黙って考え込んだ。
(光上さんと行くならどこがいいんだろ)
彼女の悩みは、何を食べたいかではなく、彼とどこに行きたいかのようだ。
光上家と白銀家では生活水準が違う。白銀家は外食など全くと言っていいほど行かないし、光上家は高いレベルの食事に慣れている。舌が肥えているのだ。そんな生活をしている彼とどこに行くか。どういう店がいいのかも彼女には見当がつかない。
「思いつかない?」
「……すみません」
「誕生日なんだし、白銀さんが行きたい所に行こうと思ってるんだけど」
「そう言われましても……。そもそも外食に行くこと自体滅多にないので」
「そっか。……なら、俺が場所を指定してもいいかな?」
「はい。決めてもらえると助かります」
「わかった」
彼の中のファーストプランは、圭の希望に応えること。しかし彼女の性格を考えれば、遠慮するかもしれない。その点を考慮し、光上はセカンドプランを用意していた。
白銀家での誕生日がどういうものか。それは御行を通じて知っている。お祝いらしいお祝いもなく、御行の1000円がしれっと圭の財布に入っているのだ。それを聞いて不憫に思う者もいるだろう。哀れむ者もいるだろう。しかし、御行も圭も、そんな視線を貰いたくもないのだ。
光上はそこに理解を示し、純粋にこの特別な1日をどう過ごして貰いたいか考えた。
「スイーツパラダイスに行こう」
「へ!?」
その答えがこれである。尚、石上の助言によるところが大きい。
ケーキを食べてもらいたいと考え、「それならスイパラがありますよ」と教えてもらったのだ。光上に聞き馴染みなどなく、スイパラを「スイッチパラダイス」と連想し、スイッチを押したらケーキが出てくる画期的な店なのかと感動したとか。
「スイーツパラダイスって、スイパラっていうあれですか?」
「うんそれ。嫌なら他の案を出すけど」
「い、いえいえ! 光上さんがそういう場所の名前を出すのが、意外だと思ってしまっただけですから」
「そう思われても仕方ないよ。俺も行ったことはないし」
やっぱり行ったことはないのかと、驚きのあまり丸くなった目も落ち着いて元に戻った。それと同時に、認識の齟齬が起きてないか気になった。自分が連想するスイパラと、光上が連想するスイパラに違いがあるかもしれない。
光上はスマホを取り出し、何やら電話をし始めた。横でその会話を聞いてみるに、どうやら店の状況を確認しているらしい。夏休みだと集客率はぐっと高まる。待ち時間も発生するに違いない。できれば店内で待ちたいものだ。外は暑いから。
「どうやら大丈夫っぽいね」
「そうなんですか? 夏休みだからてっきり人が多いと思ったんですけど」
「意外となんとかなるみたいだね」
そういうこともあるのだろうか。圭は感嘆しながら光上の隣を歩く。これがデートであるなら、手を繋ぐのもおかしなことではない。けれど、付き合っているわけでもない。しかもこの暑さだ。手を繋げばさらに暑く感じるだろうし、汗も気になって手を繋ぐどころじゃない。
まずもって、手を繋ぎたいという要望を口にできないのだが。
結局手を繋ぐこともなく、目的の店に到着する。電話で確認したように混んでる様子は見受けられない。それもそうだろうと圭は思った。やはり認識の齟齬がある。彼女が思い浮かべていたスイパラではなかった。
「お二人様ですね。ご案内します」
スイパラと言えば、ビュッフェ形式を思い浮かべるだろう。ケーキを始めとした数多くのスイーツがあり、数種類の主食類が一応置かれている。そんな店を想像する。
その形式自体はあった。見た目こそは誰もが想像するスイパラだ。けれど、店の雰囲気が違う。店内にある上品さ。ここに来る客層。普通の生活をしていれば関わることもないもの。圭は場違いさを感じた。
「落ち着かない?」
「……はい」
「周りは気にしないでいいよ。白銀さんも、
「慣れてなんかいませんよ」
「そうかな? 秀知院では感じない?」
「あ……」
感じる場違いさ。どこか既視感のあるものだと思っていたが、なるほどたしかに秀知院で感じたことがあるものだ。違いは、それを向けてくる人たちの年齢というだけ。考えてみれば、こういう場に未成年が2人だけで来れば注目も集まるというものだ。
わかってくると肩の力も抜けていく。ほっと息を吐いた圭を見て光上も微笑み、一緒に席を立って食べ物を取りに行く。雰囲気や客層が違うだけで実情は変わらない。席からの注文にも対応しているが、自ら取りに行く人もそれなりにいる。
「遠慮なく取っていいよ。食べ放題だからね」
そう言われても、好きな異性の前で遠慮なく食べられるかと言えば、乙女の彼女には難しい。その気持ちを正しく察したわけではないが、光上は自身から先にケーキの一切れを4つほど皿に乗せた。これにより、圭も光上に合わせるという名目で数種類のケーキを取れる。
「飲み物は何がいい?」
「自分で取りますよ」
「なら一緒に行こうか」
「はい!」
サプライズ帰国による衝撃。スイパラという意外な場所。しかも予想外に高級。数々の混乱があったものの、彼女は調子を取り戻せていた。こうなってくると、純粋に光上との食事も楽しめる。ドリンクコーナーに行き、自分が飲みたい飲み者を選ぶ。昼食ではあるがスイパラに来ているのだ。ジュースだって気兼ねなく飲める。
クールな面が鳴りを潜めていき、入れ替わるように年相応の爽やかな笑顔が引き出されていく。藤原姉妹の影響なのか、それとも彼女自身がそれをしたがる一面を持つのか。圭はジュースを混ぜてみた。
「それ混ぜると美味しいの?」
「っ! …………お、美味しいって聞いたことがあって」
「そうなんだ。俺もやってみるかな」
「え!? いや、光上さんはそうしなくても……!」
「こういうのって興味あるし、白銀さんも飲んだことないなら、2人で体験するのも悪くないかなって」
そう言われて圭は口をパクパクさせた。光上と同じことをできるのは嬉しいし、「2人で」というワードが気恥ずかしくもある。
照れ顔を見られないように顔を逸らし、席に戻ろうと促した。彼の前を歩き、椅子に座ったところで深呼吸。なんとかポーカーフェイスを作り上げる。
「それじゃあ食べよっか」
「そうですね」
「「いただきます」」
それぞれ取ってきたケーキを食べる──前にジュースを飲んだ。オレンジジュースとマンゴージュースを混ぜたそれは、聞こえを良くすればミックスジュースだ。
「面白い味だね」
「そ、そうですね」
圭は頬を引き攣らせた。幸いだったのは不味くないこと。どちらも果物のジュースで癖もないのが救いだ。しかし、美味しいかと言われたら素直に首を縦に振ることはできない。
決して不味くないが、素直に美味しいとも言えない絶妙な味。どちらの味も口の中にあり、混ぜ合わさった1つのジュースとは言えなかった。果汁の割合次第では、美味しいものになっていたのかもしれない。
(光上さんに変なの飲ませちゃった……)
「白銀さんありがとう」
「え?」
気まずそうにしているとお礼を言われた。なぜお礼を言われるのか圭にはさっぱりわからず、彼が気を遣ってくれたのだと思った。
「自分じゃこういう発想しないし、体験することもなかったから」
「お礼を言われることでは……。微妙な味のを飲ませてしまってますし」
「あはは、気にするほどのものじゃないよ。少なくとも俺はこういうのを知れてよかったと思ってるし。白銀さんも重く捉えないで今日を楽しもう?」
「光上さん……。はい、ありがとうございます」
放たれた言葉とともに差し出されたケーキの一切れ。お礼とともに彼女はその小さな口を開け、差し出されたケーキを食べる。口の中に広がる甘さ。ケーキを食べた記憶は数少ないが、これが一番甘く感じる。
(光上さんはケーキ選びも上手だなぁ。…………あれ?)
視線を下げる。自分の皿にあるケーキは減ってない。彼が選んだケーキと自分が選んだケーキは、同じものもあれば違うものもある。今口の中にあるのは、おそらく自分では選ばなかったケーキ。それは別にいい。彼の選ぶものはきっとどれも美味しいし、彼の好みを知れるという点で喜ばしい限りだ。
それよりもだ。
(か、間接キス……!)
四宮かぐやからすればこれは濃厚接触なのだろう。もはやセッ!とか言うかもしれない。
「あれ? 白銀さん食べないの? もしかして調子悪かった? ごめんね気づけなくて……」
「い、いえ! 体調は何も問題ないです」
「本当? 顔が赤い気がするけど……熱中症とか怖いし、水分もちゃんと取ってね。時間も気にしないでいいからゆっくり休んで」
「本当に大丈夫ですから」
心配そうにする光上だが、原因は誰がどう見てもこの男にあった。しかし圭はそれを口にできるわけもなく、自分の皿に乗っているケーキを一口サイズに切り分ける。
そこでふと一計が舞い降りた。彼のケーキを確認。それから自分のケーキを見て、彼が選んでないケーキも一口サイズに切り分けた。それをフォークで刺し、彼の方へと伸ばす。
「さっき一口いただきましたので、お返しに光上さんも一口どうぞ」
「えっ、気にしないでいいのに」
「……食べてくれませんか?」
「食べるよ。ありがとう白銀さん」
しゅんと悲しそうに目を伏せられては光上も断れない。反射的に食べるといい、圭が差し出してくれたケーキを食べる。その事に圭は嬉しそうに笑った。
「白銀さんが選んだケーキも美味しいね。絶妙に甘酸っぱくて食べやすい」
「それはよかったです。光上さんから先程いただいたケーキも美味しかったですよ。控えめな甘さでよかったです」
「お口にあったようで何より。個人的に甘過ぎるのは苦手でね。クリームが多いやつとかも遠慮しがちなんだ」
「そうなんですね。覚えておきます」
「うん。……うん?」
「気にしないでください」
圭が覚える必要があるのかと考えたが、気にしないでくれと言われて思考を止めた。女性は詮索されたくない時がわりとあるという事を、光上は知っていたから。
追及もなくあっさりと引き下がってくれるのはありがたい。圭はほっと内心で息をつき、自分のケーキにフォークを伸ばした。それをすぐに口に運び入れることもできず、じーっと見つめてしまう。
(これを食べたら、光上さんと間接キス……)
光上に意識してほしくてやったことだが、自覚してやっているために当然圭もそれを意識してしまう。最初のは意識外のために事故。過失だ。けれど今回は圭から仕掛けたこと。故意である。恋するからこそのこれだ。微かに震える手を自力で抑え込む。
意を決してそれを口の中に入れた。
「……今気づいたけど、これ間接キスだよね」
「ごふっ! こふっけほっ!」
「ごめん。タイミング悪かった」
「言っておきますけど、先にしてきたのは光上さんですからね」
「白銀さんにケーキ食べてほしいってことしか頭になかったんだけど……これは言い訳にしかならないね」
「お気遣いは嬉しいですけどね。間接キスが嫌ってわけじゃないし」
意識してしまい、睨むのもすぐにやめて視線を逸してしまう。だから圭は気づけない。光上もまた気恥ずかしそうにしていることを。彼にも一応男の意地はあるから、彼女に見られていたら取り繕っていたかもしれないが。
気を取り直し、その後は別々にケーキを取りに行くなんてことにもならず、終始揃って食べ物を取りに行き、タイミングを合わせて食事した。
「あの、光上さん。お会計って」
「ん? もちろん奢るよ」
「それは申し訳ないです。自分の分は払わせてください!」
誕生日だからという理由なら、圭も納得すると踏んでいたのだが、一筋縄ではいかなさそうだ。兄である御行自身、誕生日を特別な日だと思っていない節があった。妹の圭もそう思っていても不思議ではない。だから、
しかし光上は譲らなかった。圭が今現在、誕生日をそういうふうに認識しているのなら、その意識を変えさせたい。光上は純粋な思いでそう心に決めた。
「白銀さん。今日は払わせてほしい」
「誕生日だからですか?」
「うん。君が生まれた日だから祝いたい。奢りとか好きじゃないのだとしても、白銀圭が生まれたこの日はそうさせてほしい」
「そんな大層に言われるようなことでは……」
「そんな事はないよ。俺は白銀さんに出会えたことが嬉しい。恩とかを抜きにしてもね。だから、今日は特別な日にしたいんだ」
「光上さん……」
これはもう告白されてるようなものじゃないだろうか。圭は胸を高鳴らせながら、むず痒そうにその言葉を受け止めた。好きな人にここまで言われたら、断るなんてできない。
特別な日というのは、どう過ごしたらいいのだろうか。祝ってもらうにしても、きっとご飯を奢って終わりにはならない。明確には言われていないが、まだ何かありそうだ。それなら、何か要望を出してもいいのだろうか。少しだけ、我儘を言ってもいいだろうか。圭は様子を窺うように光上を見つめる。
「どうかした?」
「あの……。……いえ、やっぱり何もないです。ご馳走様です」
「……白銀さん。今日は我儘を言ってもいい日だよ。他の人は難しいのかもしれないけれど、今一緒にいる俺はきっとそれを叶えられるから」
「でも……、本当にいいんですか?」
「うん。俺にできることなら」
光上にできることではない。光上にしかできないことだ。
圭は恥ずかしそうにしながらも、消え入りそうな声でお願いを言った。
「手を、繋ぎたいです」
「手? それでいいならいくらでも」
「ありがとうございます」
会計を済ませ、店を出たところで手を繋ぐ。建物の中はもちろん冷房が効いていて、手を繋いでいても暑くない。
手を繋ぐ。たったそれだけの行為。けれどそれは圭にとって大きなもので、感情を隠さずに笑顔を咲かせた。
「実は白銀さんにプレゼントしたいものがあって、それを預けてる店に今から行こうと思うんだけどいいかな?」
「もちろんです! プレゼントまでいただけてるだなんて」
「誕生日プレゼントは欠かせないからね」
「何から何までありがとうございます」
「喜んでもらえるか緊張するよ」
貰えるだけでも嬉しい。親友の萌葉からは扱いに困るものがプレゼントされたりするが、光上ならそんな事はないと信じられる。その期待感を感じ取り、光上はハラハラしながら店へと向かった。
女性へのプレゼント。どういうものがいいのかは迷った。情報通であり女子であるマス部に相談し、店の商品を確認。フランスにいる間に考え抜き、時差を計算して店に電話を入れて確保した。それを今から圭に渡す。大勝負をする気分だった。
「光上です。預かってもらっていたものを受け取りに来たのですが」
「光上様ですね。少々お待ちください」
女性へのプレゼント。考えれば考えるほどわからなくなったが、無難なものでいいのだと教わった。定番とも言えるかもしれない。
光上が買ったのはアクセサリー。ネックレスだ。
圭のイメージを考えて決めたもの。完全なオーダーメイドともなると重いと考え、イメージに合わせる程度のオーダーにしておいた。
「お待たせしました。お会計はお済みになられてますので、商品の受け渡しだけになります」
「ありがとうございます」
「プレゼントですよね。彼女様にお似合いだと思いますよ」
「かのっ!?」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
「かの……ぇ? 光上さん、え? え?」
「とりあえずお店出よっか」
彼女というワードを否定されなかったことで、圭は完全に混乱した。赤く染まった頬をそのままに、光上に手を引かれて店の外へ。場所を移動し、ひと目につきにくい場所のベンチに座る。放心気味の圭を座らせ、その隣に光上は腰を下ろしてプレゼントを渡した。
「ありがとう、ございます。……中を見ても?」
「うん。緊張するけど」
綺麗に梱包された箱を袋から取り出す。巻かれているリボンを丁寧に外し、箱を取り出してそれを開ける。中に入っていたのはネックレスで、月のレリーフがある。白銀の三日月があり、その三日月が蒼色の輝きを包んでいる。
「綺麗……。本当にこれを私に?」
「似合うと思って」
「嬉しいです。本当に。……つけていいですか?」
「もちろん」
「では、光上さん。つけてください」
「……わかった」
にこにこと心からの笑顔で言われると、それを拒む理由なんて見つからない。圭はそのきめ細かな髪を上げ、光上がネックレスをつけやすいようにする。そうすることでいつも隠れているうなじが顕になり、その仕草を含めて光上は不意に胸を高鳴らせられた。
胸の音を無視し、可及的速やかにネックレスを圭につけた。それが終わると圭も髪を下ろし、自分の胸元にあるネックレスを見つめてから光上を覗き込むように見上げる。
「どうですか?」
「綺麗だよ白銀さん。中学生と思えないくらいに、大人っぽい」
「嬉しいような、普段子どもって見られてるのが悲しいような」
「えぇ……。中学生は子どもだと思うんだけどな……」
「むぅぅ、光上さんもそう言うんですね。……でも、今は許してあげます」
「ありがとうございます?」
首を傾げた光上に圭はくすくすと笑い、彼の腕に自分の腕を絡めた。抱きついたと言ったほうが正しいか。彼女の控えめな胸が腕に当たり、高まっている心音も伝わってくる。光上もまた、どうしようもなく鼓動が速くなった。
「今日は特別な日、ですもんね?」
「う、うん」
「なら、甘えちゃいます」
「いいんじゃ、ないかな。いつも頑張ってるし」
珍しく辿々しく答える光上に、圭はこういうのも効果的なのかと理解した。けれど今後は使えないとも思った。まず自分が持ちそうにないから。誕生日という特別感によって、自分を言い聞かせることでできてることなのだから。
それでも、今のこれは最大限に活用したい。次に繋げるために。
「光上さん」
「うん?」
「……花火大会。一緒に行きたいです」
デートの誘い。夏のデートの定番にしてビッグイベントと呼べるもの。
圭の鼓動はこれでもかと高鳴り、それが腕を通じて光上に伝わる。緊張しているのも、圭の腕の震えで伝わる。その澄んだ瞳に映るのは不安と期待。
「いいよ。一緒に行こう」
それはすぐに歓喜へと染まるのだった。
修学旅行編について
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漫画出るまで修学旅行編待機
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18巻の内容までならOK
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ネタバレ気にしないから更新続行