『ここで少し遅れて登場〜!3人目の解説役の紹介だ!本校の優秀な卒業生であり若手プロヒーローとして活躍中のメジャーハート!!』
『こんにちは〜!マイク先生、相澤先生お久しぶりです、メジャーハートです!今日はお呼びいただいてありがとうございます。解説しっかり頑張りま〜す!』
突然会場内に明るい姉の声が響き渡り、第2ステージ攻略中の僕の顔が歪んだ。なんて不愉快なんだ……。
そんな僕の心境をよそに大音量で実況の雑談が始まる。
『ごめんなさい、来る途中事件解決してたら遅れちゃいました!えっと今の状況は〜、お!遠目から見る限りですが、先頭は二人が頭一つ抜けてますね!そしてぇ、あれ?後ろから誰かがすごい勢いで追い上げてます!その3人の後は団子状態といったところでしょうか!』
『状況整理はやっ!先頭2人はメジャーハートの後輩だぜ!ヒーロー科、1年A組!轟と爆豪!追い上げる一人はなんと普通科だ!』
『……普通科?あの速さ……、まさか』
『ん?どうした??』
何かに気づいたように若干声色が変わった姉の声に続いて相澤の呆れたような声が響いた。
『お前気づけよ……。メジャーハートの名前くらい知ってんだろ』
『え?アーーー!速坂!え?』
そんなプレゼントマイクの叫びと共に向こう岸に降り立って最終関門の前に到着した僕の顔がカメラにすっぱ抜かれて場内に映し出されたようで、姉が笑う気配がした。
『あ、はい!あの子、私の弟です♡』
『ええええー!1-D速坂統也!メジャーハートの弟だったー!どおりであの身のこなしなわけだぜ!』
一面が地雷原の怒りのアフガンとやらはよく目を凝らせばどこに地雷があるかわかる仕様になっていた。先頭ほど不利であり、たしかに嫌な障害物ではあるのだろうが……。えぇ…この競技考えた奴、僕のファンだったりする?こんなんお助けアイテムじゃん。
「よっ、と」
トンッと地雷を踏むと凄い音と軽い爆発がおこった。だが威力はそこまでだと実況で言っていた通り特に怪我などはせず、ただただ爆風によって勢いをもらい個性を発動させた僕はそのまま争う先頭2人に迫りーーー
「来ると思ったぜ速坂…!」
−ーー突如目の前に出現した氷の壁に行く手を阻まれた。
『うおっとー!?障害物をうまく利用して抜こうとした速坂を轟が妨害!なんちゅー反射神経だよ!?』
『速坂もやるな。寸前で気づいて急停止、氷壁をうまく利用して着地しダメージを最小限に抑えた』
「ぐっ…!」
あっっぶねー。どういう動体視力と反射神経してんだよ、ったく。強引に止まったせいで反動がかなりキツく体が悲鳴を上げる。
咄嗟に自分の速度を限りなく0に近く落とし、余った勢いを氷壁に手をつくことで殺した僕は速やかに地面に降り立ち、そのままきしむ体をむりやり動かして斜め前に見つけた地雷を踏もうと動く。
しかし。
「行かせるかよクソがァ!!」
「チッ……」
BOOM!
爆音、閃光。眩い光が僕の視界を灼いた。
氷壁の陰で死角になっていた箇所から現れた爆豪の爆発で一瞬目をやられて、動きが鈍ったその隙に足元がピキピキと氷で覆われていく。クソ、こいつら……!
連携して僕の足を引っ張りにかかる2人に内心悪態をつきながら、完全に足場が固められる前に氷を蹴り砕き、ガッと地を蹴り跳んで逃れる。
「後続の奴らに道作っちまうが気にしてる場合じゃねぇなっ…!」
轟のぼやきとともに僕たちから先の道がすべて氷で覆われ、同時に爆豪の掌からボボボボと小爆発が何度も起こり、もくもくと立ち上った爆煙により煙幕が張られる。
『先頭では三つ巴の争い!ヒーロー科の2人、一旦休戦か!?連携して速坂を抑えにかかるぅ!』
『うーん、個性のことを考えると、弟は一番先に行かせたくないでしょうね。ここを抜かれたら最後、追いつけないでしょうし』
「テメェなんだかんだいって見たり触ったり出来ねェものの速度操作は苦手だろうが!ざまぁねぇな!」
姉の声が響くなか、そう吐き捨てて先を行く爆豪と轟の気配を感じながら僕はため息をついた。
爆豪の読みは間違っていないどころかドンピシャであり、僕は最初に個性が発現し暴走させた時以来、視覚触覚以外で知覚したものの速度支配はほぼ成功した例がない。難しいんだよアレ。
それはさておき今の轟と爆豪の動きは、僕による自分たちへの妨害を防ぐ&僕を先に行かせないための妨害工作なんだろうけど……。
「別に僕は地雷なんか使わなくても速いんだよ」
ただその方が楽で見栄えがしたってだけ。目立つにはちょうどいいだろ?
障害物をうまく使って跳んでぶっちぎりの1位って、派手でカメラ映えするし、僕の目的のためにはそれが一番良かったんだよね。
それにこの後に備えてできるだけ体力は温存しときたかったけど、ま、いっか。まずは轟と爆豪を蹴散らさねば。
僕はそのまま普通に加速すると氷上を滑る勢いを利用して更にスピードアップし、薄れた煙幕を越え、目の前に新たに現れた氷の壁を力任せに蹴り砕いた。
僕対策にこの一瞬で何枚か作られていた氷壁を加速した勢いでぶち壊す。痛ったいなぁくそ!
比較的薄めの壁を素手で殴り砕き、引き続き張られる煙幕に咳き込みながらも爆豪の奇襲を間一髪で躱す。爆発が髪の先を掠り、焦げ臭さが鼻をかすめた。
チャンスだ、向こうから来てくれた。僕は見えない視界の中、爆豪の気配を追って敢えて一歩踏み出す。
「つ、かまえた…!」
「ッ!?テメェ離せや!」
伸ばした手に触れた爆豪の腕。振りはらわれる前に掴んで引きつつ個性を発動させる。呻き声、爆発音。
高速で地面にぶつかるのを避けるために爆豪が起こしたであろう爆音を背に、前の妨害の氷を破壊する。
その衝撃でビリビリと痺れる足を無視して突き進み、
「悪いね」
「うぐっ……!」
猛スピードで氷上を滑ってきた僕に氷の生成が追いつかず反応が遅れた轟に左側から突っ込んで跳ね飛ばす。面倒くさいからひいちまえ。
『何だ何だぁ!?煙ばっかで何も見えねぇな!』
『まってください、誰か……あ!!統也だ!』
『三つ巴の攻防を制したのはD組速坂ァァアア!』
実況が高らかに僕の名を叫ぶのを聞きながら、邪魔者2名を振り切った僕は一気にスピードを上げる。
そのまま轟が作った氷の道を滑りきり、ゴールへと続く最後の道を駆け抜ける途中、後方でものすごい爆音がした。
スタジアム前にたどり着いた僕が走りながら振り返ると、後ろから何かが飛来するのが目に入る。なんだあれ。
必死で追い上げる轟と爆豪を抜き去るが失速、しかしそこで2度目のブーストをかまし、ソイツは奇跡の大逆転を成し遂げこちらに突っ込んで来る。
『A組緑谷!間髪入れず後続を妨害!スゲェな!クレバァァ!』
少しのチャンスも逃さず頭を必死に回した結果のこの大逆転。
ゴールに向かってひたすら、必死の顔をして迫りくる緑谷と目があった。
『1−A緑谷!更に速度を上げ暫定1位速坂の背中に迫るぅぇええ!?ン゙!?!?アレ!?!?』
『まったく……』
は?なんだコイツふざけんな。なめてんのか?
僕の視界に堂々と姿をさらした緑谷はスピードをほぼ0に変えられ、ゴール目前でポトッと地面に落下した。
世の中そんなに甘くないと思う。
***
1位、速坂統也
2位、轟焦凍
3位、爆豪勝己
4位、緑谷出久
︙
︙
電光掲示板に映し出される結果を眺めながら僕は最後の瞬間を思い返していた。
僕は緑谷を撃墜すると同時に身を翻して全速力でスタジアムへ帰還、堂々1位をかっさらった。それに続いて一瞬で緑谷を追い抜いた轟と爆豪がほぼ同時にゴール、だが判定はわずかに轟が速かったと出て、爆豪は3位になった。そしてその少し後に緑谷がえっちらおっちらゴールを決めた。
上位4名に関してはこんな感じ。
さらに続々と後続がやってきて、上位20名は僕以外ヒーロー科が独占。下位の方でようやく39位発目、40位心操、とサポート科と普通科が紛れ込んでいる感じである。ていうか心操、ギリセーフで滑り込んだんだな。やるじゃないか。
「速坂」
「轟じゃん」
相変わらず淡々とした声がかけられて、振り向くと少し悔しげな顔をした轟がいた。お前には警戒してたのにやられた、とぼやく彼に肩をすくめる。いやまあ、これに関しては競技と個性の相性の問題だと思う。
むしろ僕や爆豪みたく個性によるスピードアップができないのに2位に食い込んだ轟がすごいし、炎の個性を使われていたら結果はどうなっていたか分からない。というかスピードアップといえば飯田は何をやっていたのだろうか。まあ一応7位にランクインしているみたいだけど。
そんな事を考えながら周囲を見渡すと、揃いも揃って悔しげな顔をした幼馴染2人組が目に入った。
「クソが…!また…クソ…!」
3位という結果、更には途中で僕の妨害がなければまた緑谷に抜かれていたという事実に歯を食いしばりながら地面を睨みつける爆豪。
「ごめんなさいオールマイト……」
最後で大逆転を狙うも達成できず、自分が情けないとでも言いたげな顔の緑谷。一体なぜそんな顔ができるのか。ほんとに何なんだろうコイツ。
僕はここにきて、爆豪の緑谷を嫌う気持ちを真に理解した。
なんというか、同じ土俵に立つとわかる、緑谷に感じる不気味さと不快感がある。
僕は常々、緑谷出久という人間は歪んでいると思っていたが、最近その異質さがオールマイトから個性を運良くポッともらってしまったせいで、悪い方に浮き彫りになった気がしてならない。
前に、緑谷は中途半端に意志が強かったせいで完全に折れずに燻っていると分析したことがあるが、それだけでは緑谷の歪みは言い表せない部分がある。
表現が難しいところではあるが敢えていうならば強い自己愛、歪んだ全能感とでもいったところだろうか。自分ならなんでもできると思い込む感覚を多分、緑谷はまだ捨てきれていない。そしてそれは爆豪が持ち合わせる自身への過剰な自信とはまた別物であると僕は思う。
というのも、少なくとも爆豪には過剰な自信を持つだけの根拠がある。生まれ持った個性、才能、日々の努力、そしてこれまで出してきた成果。奴が持っているのはそれらに裏打ちされた自信であり、それにしても自尊心は肥大していると言わざるを得ないが、まあ納得はできる。
爆豪だけじゃない。轟や他のヒーロー科の連中だって表に出さないだけで自分に対する多大な自信と、自身の可能性を信じている部分はあるだろうし、別にそれらはおかしなことじゃない。
なぜなら現実と乖離していないからだ。雄英高校ヒーロー科に入るだけの実力をもち努力をしてきたからこその全能感、等身大の自分を認識した上でのことで、正常と言える。
しかし緑谷にはそれがない。土台もなく、足場を固める努力もせずに、無個性で無理だってわかってるけどもしかしたら自分ならヒーローになれるかもしれない!と夢にすがり続け、雄英高校ヒーロー科を受験するにまで至ったその精神性。
本来なら雄英を落ちることで目が覚め、遅まきながら現実を認識して心理的に成長できたはずだが、なんと彼は運良く燻り続けてきた承認欲求を満たされてしまったのである。「“あの”オールマイトに認められ個性を譲られた僕は選ばれし者」ってとこかね?まあたしかに選ばれたには違いないが…。
僕の脳裏に先程の大逆転ブーストをかましてこちらに迫った緑谷の目が蘇った。あの、目。本気で僕に勝てると思ってる目。本気で僕を追い抜こうと考えていた、あの眼差し。
妙に癇に障った。
これまで何もして来なかったお前がなぜ、この状態で僕に勝てると本気で思えるんだ?しかもご自慢の個性も使わずに。
それだけじゃない。
「緑谷、生きててよかったね」
「は?生きる?」
僕の呟きに轟が怪訝そうな顔をした。
「あいつ最後、地雷まとめて爆発させてあの大爆発起こしたんだろ?よく五体満足だったなって思って」
「言われてみればそうだな。あのロボの装甲が上手く盾になったんじゃねぇか?」
「そうかもね」
いくら威力が弱いとはいえ、人1人軽く飛ばすくらいの爆発を起こす代物を10個近く集めて生身でダイブするなんて自殺願望でもあるの?よく鼓膜も無事だったもんだよ。
「デクくん凄いねぇ…!」
「いやぁ、最後まで上手くはいかなかったし…。運が良かっただけだよ。ていうか近い…」
運が良かっただけ。まさに真理である。
爆豪に唆されたワンチャンダイブの伏線を一年越しに回収してみせた緑谷は、呑気な顔で距離の近い麗日にデレデレしていた。
やっぱり頭のネジが何本か飛んでるに違いない。だがまあ、よく考えてみればエンデヴァーをはじめとして僕の姉やその相棒もどこか変だ。ヒーローなんてイカレ野郎じゃないと務まらないのか何なのか。そういう意味では緑谷は向いてるんじゃないかとも思う。
麗日や飯田に肩を叩かれる緑谷を眺めながら僕はぼんやりとそんなことを考えていた。
8月あたりまで忙しいのでちょっと更新頻度は下がると思います。すみません。