呪い満ちるこの空を -flying MIKO- 作:甲乙兵長
「っぷはー、たーすかったー」
貯水池のほとりから移動した山中で、真人は大袈裟に疲れたアピールをして木の根に座り込んだ。
見計らっていたように、そばの木陰から袈裟をまとった男が歩みよる。
「無茶し過ぎだよ。彼女らの介入がなければ、きみが祓われていたところだ」
「ははっ、まぁ面白みを求めちゃうとさ、どうしたって刹那的になるんだよ。瞬間瞬間の閃きと煌めきを大事にしなきゃ、人生楽しくない」
「きみの人生論はともかく、これでわかっただろ? 特級術師相手にまともな方策で戦うのは無意味だ。五条悟、博麗霊夢。この二人には、相応の対策をそれぞれ講じた上で気分よく戦わせないようにしなければならない。それは、必殺に等しい『手』を持つきみでも一緒さ」
「よくわかったよ。でも、『夢想天生』みたいな反則級の術式持ちにも、解釈の広げ方で俺の術式は干渉できる。このことがわかっただけでも、ちょっかい掛けたのはまったくの無駄ではなかった」
「ふむ」
興味深げに頷く夏油。真人の柔軟な発想と対応力に感心する中、己の思惑通りにことが進捗していることを再認する。
(場合によっては、ここで真人を取り込む可能性もあるかと思ったけど、まだまだ先はありそうだ。願わくば今後も、壮絶な修羅場を潜り抜けてほしいものだが・・・・・・)
と、両者は同時に何かを察知したかのごとく顔をあげる。
瞬間、話し込む二人の近くに、蒼白い焔が噴きあがった。
すわ奇襲かと警戒し腰を浮かせかけた真人を、夏油が冷静に片手で制する。
【無駄話をしていないでさっさと撤退しろ。ヤツの命がけの足止めを浪費するな】
焔から、年齢や性別を推察できない苛立ち混じりの声が投げられる。
夏油は、それに向き合い、
「忠告感謝する、『異境』の使者。いや、大妖狐と呼ぶべきかな?」
【・・・・・・・・・次、その名を口にすれば命はない】
「おっと、それは怖い。要らぬ好奇心は胸に仕舞うとしよう。ところで、あれでも博麗霊夢は無力化に至らないのかな?」
男が仰いだ先の空に浮かぶ、大きな黒い靄の球体。
貯水池直上で黒い太陽のようにすら見えるそれが、異境の呪霊、そのうちの一体が生み出した領域の具現であることは察しがついた。
【当たり前だ。アレは、取り込んだ知性体の後悔、恐怖、鬱積・・・・・・そういったマイナス感情を抽出し対象者と強制的に相対させる領域だ。いわば、当人が眼を背けてきた古傷を無理やり広げるような術式。精神の脆い者なら、そのまま己の蓄えた絶望に喰われて自死するだけであろうが、博麗の巫女に通じるわけはない】
時間稼ぎが精々だ、と焔は告げる。
「なるほど。とはいえ、ただでことを済ませないのがあなた方のリーダー・・・・・・いや、
【言ったはずだ、
断ち切った物言いで切り捨てて、焔は何もなかったかのようにその場から掻き消えた。接触していた草木は焦げた様子もなく、青々としたままそよ風に揺れる。
しばし、焔の消えた空間を無機質な視線で射抜いてから、ふう、と夏油は首を回してどこぞの誰かのように疲弊をアピールした。
「彼女らと話すのは、いちいち神経が削れるよ。人間モドキ、まぁ、言い得て妙かな」
「あれが異境のヤツか・・・・・・なんか、なんのために割り込んできてるんだか、よくわかんないな」
「それでいいと思うよ。不用意に踏み込んでも、逆鱗に触れるだけだと思うからね。文字通り、触らぬ神に祟りなしさ。・・・・・・それより、逃げるよ。グズグズしてると、彼女が出てきてしまうかもしれない。動けないなら手を貸すけど」
「いらないよ」
はいはい、とばかりに肩を竦めて真人は立ち上がり、二人の人物は揃って鬱蒼と繁った暗闇へ姿を消した。
・・・・・・それから約一分後。
バキィィン・・・・・・内部から砕けた領域の黒繭。
霧散する破片の中には、紅白色彩の巫女装束の姿のみがあった。
「・・・・・・逃げやがったか。畜生」
隠すことなく舌打ちを放って、崩れた堤防の一角に降下。どうにも逃げの上手そうなやからたち。いまから追跡しようと無駄足に終わるだろう。
それでもなんらかの置き土産が仕掛けられていないか一応周知を確認する。領域発動直後の消耗と相まって、隙を突くには絶好の機会だからだ。
安全確認の上、スマホを取り出し、とある番号にコールする。
「・・・・・・歌姫? あたしだけど。メカ丸は見つけたわ。ただ、相手に先を越された。・・・・・・そう。口封じされたみたい。大丈夫、戦闘はあったけど特に傷とかはないから。敵方の下っ端呪霊は一体祓ったし。うん。指定座標を別で送るから回収班と処理班を寄越して。うん、お願い。あ、あと、霞に――いえ、なんでもない。なんでもないったら。余計なことよ。じゃあね」
後始末を要請して、霊夢は巨大ロボの残骸に目を向ける。
「・・・・・・・・・」
――博麗、射撃訓練がしたイ。陰陽玉を貸してくれないカ。何に使ウ? 的だガ。
――なぜチョコの代わりが単三電池になるんダ。吹き込むほうもほうだが、影響される三輪も三輪ダ。・・・・・・いや、エネループならという話ではなク。
――名前の由来? 知らんのカ、あの傑作アニメヲ。ちっ、今度ダビングして持ってくるから見ておケ。まずは第1シーズンから順番にダ。地上波で全3シーズン、OVAが三本、外伝が・・・・・・おい、どこへ行ク。
「・・・・・・・・・掘り返せば意外と、アイツあたしに絡んできてたのね」
後ろめたい秘密を抱えて、ボッチだった自分と、強すぎて他と足並みを揃えにくいがゆえの孤高ボッチ。もしかしたら、そんな些細な共通点にシンパシーを見出してお節介を焼いていたのかもしれない。要らぬ気遣いだ。
もう、それが真実なのか訊ねることもできないわけだが。
霊夢は感覚を確かめるように手のひらを開いて閉じて、黙考する。
(あのとき、ツギハギに魂を触れられた瞬間、気持ち悪さと同時に妙な感覚を覚えた。内側から得体のしれないモノがにじみ出たような、どこか、懐かしいような・・・・・・)
首を振って、余計な郷愁を頭から追いやる。
いま、重要な点はそちらではなかった。
(改めて考慮すべきは、ツギハギの術式があたしに作用した際に読み取った、『魂への干渉という行為のやり方』。一回ぽっきりだし、不完全な形だったけど、なんとなくコツは掴んだ気がするのよね。この方法を術式の反転に落とし込んで、活用すればワンチャン使い道が・・・・・・)
推定する限り、成功確率は低い。さらには、上手くいっても決していい結果に繋がらない可能性があるということ。愚かな巫女の独りよがりが、仲間の顔を曇らせるかもしれない。
けれど・・・・・・。
悩んだ末、意を決した少女は、鋼鉄のコックピットに入り込み、すでに肉塊でしかない少年の身体に触れ、無機質に言い放った。
「恨んでくれていいわ、メカ丸。ちょっと、あたしの実験に付き合って頂戴」
手のひらに呪力をまとわせ、術式を起動。
「術式反転―――」
・・・・・・燐光がコックピットからこぼれ、しばらく経ったあと。
事後処理班がやってきて、
―――そして。
時間軸は、先へと進み。
10月31日。ハロウィン当日の、東京・渋谷。
この日、この場所の出来事を境に、日本はかつての日常を失った。
***
〔呪術高専始末事案記録帳 FileNo/■■■■ 10月31日 PM.□□:□□
仮称・渋谷大規模呪術テロについて〕
東京渋谷、東急百貨店を中心に半径約400m範囲の『帳』を無差別観測。
『帳』の影響は一般人の脱出に及び、術師・補助監督は自由に出入り可能。『窓』には個人差あり。電波妨害により、情報交換は『帳』外、ならびに補助監督を利用して行われる。
(補足:当時の渋谷はハロウィンのため大量の非術師がテロに巻き込まれたと推測)。
内部の『帳』境界面にて、非術師たちが「五条悟を呼べ」と要求。
不透明な状況、目的のため、緊急招集された関東圏の呪術師は『帳』外にて一時待機。
呪術高専上層部より、特級呪術師・五条悟、ならびに博麗霊夢による、渋谷大規模呪術テロの早期平定を正式に発表した。
・・・・・・
〔呪術高専始末事案記録帳 FileNo/■■■■ 事後追記
仮称・渋谷大規模呪術テロ改め、渋谷事変について〕
被害規模:
一般人の軽重傷者及び死亡者・行方不明者、約数千~数万人(詳細不明)。等級不詳の呪霊大量発生のため都内全域を避難区域に指定。都民全ての疎開により二次的被害は数百万人規模に及ぶ。
現官房長官、総理代理、官僚など政府関係者多数が安否不明。
都内官邸機能の喪失。以後は大阪に本部を移動。
高専所属・非所属の呪術師・補助監督の軽重傷者、39名。死亡者・行方不明者、67名(名簿は別紙参照)。
特級呪術師・五条悟――呪物『
特級呪術師・博麗霊夢――敵性呪詛師と交戦。のち、消息不明。
・・・・・・
〔呪術総監部の正式通達要綱〕
・夏油傑:生存確認。再死刑の宣告。
・五条悟:渋谷事変共同正犯と認定。呪術界永久追放。封印解除の禁止。
・夜蛾正道:夏油、五条の教唆扇動を行ったとして死罪と認定。
・虎杖悠仁:死刑執猶予取り消し。死刑執行人に特級術師、
・博麗霊夢:渋谷事変混乱
読了感謝!
霊夢の領域出しといて名前だけかよ!
という感じのひともいるかもしれませんが、もうちょっと引っ張る。
渋谷では明かせるから。
後半はなんだか渋谷事変のまとめ報告みたいな感じで、
「文字数稼ぎか?」「サボりか?」と言われそうな不安が・・・・・・。
いよいよ呪術廻戦の大きな戦いにこの作品もあがります。
とはいえ、原作内にあるような描写は省いて、要所要所だったり
オリジナルだったりする部分に絞ります。
ぶっちゃけ、いつ投稿できるかわかりません。
なので気長に待っててください。