すまぬ……けど、実はこういう主人公の他キャラ評みたいな回は結構好きなのです。
基本巻き巻きで進んでる作品だし、多少はね……?
35話「S級魔導士昇格試験……会議」
▼トウヤ視点
エドラスから帰還して1週間程が経過し、12月に入った。
とはいえ、雪が降ったり、凍えたりする程の寒さかと聞かれればそういう訳でもない。冬が本格化するのはもう少し経ってからで、12月のマグノリアはせいぜい肌寒い程度だ。
しかし、それでも季節の移り目という事で人々の服装は変化している。何かと露出狂めいた肌色率を誇る『
タートルネックの黒いセーターを着ているルーシィは普段程の谷間の露出が無くとも、ボディラインがはっきりと出ていて魅力的だし、カナなんかも上に一枚羽織っているだけだが、それでも肌面積が減ってより色気を感じさせる(ちなみに、一時期、俺の言葉で肌の露出が減った事もあったが、本当に一時期だけだった)。
『これは秋用だ』とか言って、素人には分からない程度の違いしかない、ほぼいつも通りの鎧を纏ったエルザ。
厚着はしているものの、結局すぐに脱いでしまって全く意味がないグレイ。
言われなければ気づかない程度のマイナーチェンジが施されただけで、腹も胸元も晒しっ放しのナツ。
この辺からは全力で目を逸らしておこう。
「これが今回の試験の原案だ。お前はエドラスに行っていて相談できなかったからな…私とミラでとりあえずと組んだものだが……と、そういえばトウヤはこの会議に出るのは初めてだったな」
やはり何度見ても秋物と夏物の違いが分からない鎧に身を包んだエルザが、俺にびっしりと文字の敷き詰められた紙束を手渡してくる。
『妖精の尻尾』ギルドの奥の方にある一室。
今、この部屋には俺の他に
この5人――つまりは『妖精の尻尾』の現S級魔導士+マスターで円卓を囲んで話し合っている内容はと言えば――
「そういえばそうね!トウヤが合格したのは去年だったし」
「……ま、オレも参加自体は久々だがな」
「大方の方針は既にワシとエルザで決めておる。この会議で話し合うのは実際のS級魔導士昇格試験の際の細かい部分を詰めるだけじゃから、そう肩肘を張る必要はないぞ」
あと2週間に迫った『S級魔導士昇格試験』についてだ。
内容はといえば――なんて詳しく説明する必要もない程に文字通り。
『妖精の尻尾』におけるS級クエストをこなせるか――S級魔導士の資格を背負うに足る魔導士かどうかを測る試験。
そもそも参加資格が与えられるかどうかは現役のS級魔導士とマスターが決め、参加したところで必ず誰かがS級になれるという訳でもない紛う事無き難関だ。
X778年にラクサス、1年飛んで80年にエルザ、81年にミラ、82年にミストガン、そして去年83年に俺が合格している。
近年でこそほぼ毎年合格者を出しているが、ラクサスの前は?となると今ギルドに残っているのはギルダーツしかいない。この2人の間に合格者が居たかどうかは聞いた事がないが、今いないという事は死んでしまったか脱退したか……なんにせよ、俺達の世代程合格者が出ていたとは考えられないだろう。
「参加者候補1人目から整理していきましょうか」
そう言って進行役のミラが資料のページをめくる。
マスターがギルドの面々から選出した参加者候補の1年間の活動を振り返る事で、その者が試験に足るかどうかを俺達に判断させるという方針らしい……
のだが、意外と学が無い――いや、このギルドでは学がある奴の方が圧倒的に少数派だが――エルザが用意した文章の読みにくい事と言ったら半端ではない。
仕方がないが、ルーシィと一緒に買いに行った『風詠みの眼鏡』という魔法アイテムを取り出す。
これは掛けている者の読むスピードを引き上げる魔法具だ。倍率次第では速読というよりも、もはや直接に脳に流し込んでいるという感覚になり、本を読む風情というものを完全に破壊してしまう代物だが、こういった資料を読み込むには便利なアイテムだと思う。
倍率や見た目のバリエーションが思っていたより多く、自分だけではどれを買えば良いか迷いそうだと思った俺は、このギルドでは数少ない読書仲間であるルーシィとレビィに相談した。結果、優しいルーシィが――こう言うとレビィが優しくないみたいになるが、彼女は仕事の予定があったらしいのでノーカンである――売り場に着いて来てくれて、その結果、中々良いものが買えたのではないか、と思っている。
読んでいる感覚をギリギリ損ねない絶妙な速度倍率も使い心地が良く、目立ちすぎないシルバーの細身な金属フレームで見た目も知的だ。
俺の読書は暇つぶしの側面が大きい為に、それほど使う頻度が高い訳ではないが、かなり気に入っている。
まったくルーシィさまさまだな、と思いながらスッと眼鏡をかける――と、なぜかエルザとミラの動きが止まった。
「おっ、トウヤ!眼鏡かけてる方が男前じゃねェか、おまえ!なんつーか、目つきがマイルドになるし、普段より賢そうに見えるぞ。なぁ、ミラもそう思わねぇか?」
俺の眼鏡姿を褒めてくれる師匠が、硬直したままのミラに話を振る。
ミラも褒めてくれるだろうか、と少し調子に乗ってしまった俺の心は、真っ赤な顔をしたミラに粉々に砕かれてしまう事になる……
「そ、そうかしら……? わ、私はそんな事無いと思うわ。眼鏡をかけるのは私達の前だけにした方がいいんじゃないかしら? ねぇ、エルザ?」
えっ、そうかな……
自分では割と似合ってるんだけどな……
「そ、そそそうだな。あまり見せびらかすようなものではないだろう。私と、まぁ百歩譲ってミラの前くらいにしておけ、うん」
同じくなぜか顔が真っ赤のエルザにもそう否定される。
結構自信があったので、ちょっとしょんぼりしてしまうな……
いいもん、ルーシィは似合うって言ってくれたし。
あっ、でもそういえば――
「買いに行った時、ルーシィも似たような事言ってたな……」
『私は好きだけど、好みが分かれるかもしれないから、私以外の女の子の前ではかけない方がいいかもねっ、私は好きだけどっ!!』みたいな。
ルーシィの言う通り、ミラやエルザの好みには合わなかったらしい。
「なに!?ルーシィと!?」
「2人っきりで!?」
と、当の2人は身を乗り出して問い詰めてくる……
なんで怒ってるの……怖い……助けてアルマ……
「羨ましい」とか「けしからん」とか、ミラもエルザ呟いているのだが、これは俺への陰口なのだろうか?
こういう時だけ自分の聴覚の鋭さが憎らしい。
それにしても、俺がルーシィと出かけたという事実に対して「羨ましい」って、2人もルーシィと一緒に遊びたかったのだろうか?
お詫びと言っては何だが、俺が場を整えた方がいいかなぁ……
「……次は2人も(ルーシィと)一緒に遊ぶか?」
「も、もちろんだ!私も(トウヤと)一緒に行くぞ」
「えぇ、今度は私を(トウヤとのデートへ)連れて行ってもらいたいわ!」
▽ ▽ ▽
ここまでのやり取りで色々と察したギルダーツと、分かってはいたが見て見ぬ振りをしてきた胃の痛い現状に頭を抱えるマカロフは目を合わせて溜息を吐いた。
2人の目は、後日トウヤのセッティングで集合させられてしまう3人の乙女を幻視して、憐憫に塗れていたに違いない。
△ △ △ △ △
物凄く脱線してしまった会議は、マスターの咳払いによって元の路線に戻り、予定通りに進められていった。
流れとしては、まず候補者がこの1年で熟してきたクエストの具体的な内容がミラによって解説され、その後にエルザが実力、その伸びについての所見を述べていくという形だ。
これらが終わった時点で試験参加に足るかの投票を行う。ここにいる5人の過半数(3人)が参加を認め、かつその中にマスターが含まれていれば無事参加決定というモノだ。
その後、一次試験で見るべき問題を全員ですり合わせていく。
今回の一次試験は――参加者の人数次第だが――現役S級魔導士と参加者が直接ぶつかる形式を含むそうだ。その際に、単に「俺達に勝ってみせろ」ではあまり意味がない。よって、実力的に俺達に及ばなかったとしても、最低限押さえておくべき点をクリアしたら合格とする、という取り決めとなった。
――だって「オレに勝ってみせろ」形式で試験を行っていたら、ラクサスやミストガンも含め、最近の合格者全員がギルダーツに封殺されてS級になれずにいただろうし……
普段の試験はもう少し間接的な課題なのだが、今年は成長著しい魔導士が多い事から参加者も多くなると予想され、逆に試験官のS級魔導士も多いという事で、このような形式にしようという話が出たそうだ。
俺は去年の合格者だから、当然去年までの試験官にはなれないし、ミラもリサーナの死の影響から少し前まで現役を退いていた。ミストガンが参加するとは思えないし、ギルダーツはそもそもギルドに居なかった。ラクサスは何故か去年の試験には参加していた――多分俺への嫌がらせだ――が、それだって気紛れとしか言えないだろう。
結果的に今年度はこうして試験官4人体勢で開催することができたが、何か1つ違えば、雑務はミラに頼めるとしても、実務はエルザ1人でこなす羽目になっていたかもしれない。
さて。
次の候補者が最後の1人だ。
ここまでに参加が決まったのは7人――ナツ、グレイ、ジュビア、エルフマン、カナ、フリード、レビィである。
ナツ・ドラグニル。
火の
最大の持ち味はいざという時の爆発力だろう。感情の昂ぶり次第でどんな格上相手でも勝利を収める火力はやはり魅力的だ。いずれも単独撃破という訳ではないが、聖
逆に問題点もその火力の強さと、感情が爆発しやすい所と言えるかもしれない。ナツと言えば、何といってもクエストに出た先での器物破損、建築物破壊回数ナンバーワンという問題が大きい(これに関してはギルダーツも言えたモンではないが)。
あらゆる意味で熱しやすい性質にどう折り合いをつけ、成長していけるかという点が一次試験の課題になってくるだろう。
グレイ・フルバスター。
氷の造形魔導士たる彼の長所は対応力の高さにあるだろう。
物質系の造形を得意とする分、同門のリオンに比べると攻撃力にやや劣る印象は抱くが、応用力に関しては光るものがある。それでいて突破力があるのだから、試験を受けさせるには十分だ。
彼のネックはデリオラという善くも悪くも彼の方向性を決めてしまった存在に対する思い入れの強さだろうか。それらは簡単に測る事はできないし、今回は然程気にする必要はないかもしれない。
強いていうなら、氷というモノの性質による相性を打破する力は見ておいた方がいいだろう。個人的にグレイには何か、ブレイクスルーのようなものがいずれ訪れるのではないかと思っている。
ジュビア・ロクサー。
彼女は実力、経験ともに申し分ないと言えよう。
自分の体を水に変化させられるという強力無比な魔法を持ち、グレイに関係しての問題なら普段の何十倍もの力を引き出す事が出来る。『
とにかく、今回の試験で本命視されている魔導士の1人だ。
強いて欠点を上げるなら、彼女もナツと同じく長所を裏返した部分だろう。
魔法自体が強力なのに頼りきりでは相性の悪い相手に完封されかねない。現に『幽鬼』戦では水に対しての氷という相性差で敗れてしまっているし、楽園の塔の際にも水を吸い込んでしまう髪の魔法を使う男に危うい所までもっていかれたとか。
グレイへの思いが力に変わるというのも、裏返せばグレイが絡めば冷静でいられないという事だ。そんな事にはならないだろうが、万一グレイが人質に取られたといった状況に追い込まれた時、どんな行動を取るのか、そういった点が彼女の評価を左右するだろう。
まぁ、『妖精の尻尾』の魔導士が感情に左右されやすいというのは俺含めて今に始まった事ではないし、そこまで気にするようなことではないだろうが(何しろ、ナツに比べて被害が少ないので)。
エルフマン・ストラウス。
彼はこの1年で全身
リサーナが居なくなってからの精神的な成長――痛ましいものもあったが、漢気に拘る姿勢は素直に評価できる美徳を含んでいる――もある上、当のリサーナも戻ってきた今、安定感と勢いを最も持っている参加者であると言えるだろう。
とはいえ、単純な能力で言うと少し物足りない感じもする。本人の性格的に真正面からのぶつかり合いを得意とする都合上、――もちろんアイツの最大の長所である根性を軽視するつもりはないが――重要になってくるのは接収してきた魔物自体の強さという事になる。現状のラインナップではそれが些か弱いように感じる。少なくともミラのサタンソウル程の破壊力はないだろう。
勢いに乗って姉と同じ域へと達するか、地力不足を痛感する結果となるか注目である。
カナ・アルベローナ。
今回既に決まった参加者の中で、唯一この試験を複数回経験している古株だ。“とある事情”も含めて、もっともS級魔導士への思い入れが強いのが彼女である事は明白だろう。
俺自身も今年こそ彼女に合格して欲しいという思いがある。この1年、俺の戦闘訓練に必死に食らいついてきた姿を見てきた。その甲斐もあってか、対応力、魔力量、そのどちらも伸びてきている。元々――こんな言い方をすれば怒るだろうが――血筋的にその潜在能力はかなり高い。その片鱗が見えてきている事を思えば、今回の試験合格も決して遠くない。
そんな彼女の長所といえば、グレイやジュビアとは逆に相性に左右されない多種多様な攻め手を持つ事だろう。しかし、だからこそ何かに特化した爆発力が無く、決め手に欠けるというのが俺以外の3人の見立てである。
だが俺だけは知っている。
カナの魔力がこの1年で本当に多くなったという事を。確かに切り札のようなモノは持っていないが、それでも十分に他の面子とやり合えるだろう。
だから、今年こそ……今年こそ合格してくれよ、カナ!
――試験であたったら全力で闘うけどなっ!
……というくらいの心持ちでいかないと、無条件で通してしまいそうなので、今の内に自分へ言い聞かせておこう。
フリード・ジャスティーン。
術式魔法を操る、雷神衆のリーダーにして、ジュビアと並ぶ今回の試験の大本命だ。
事前の仕込みを何よりも大事とする術式使いでありながら、自身に“文字”を刻むことで、ある程度の高速戦闘にも対応可能という隙のない実力者。魔法の性質上、当日まで会場の明かされないS級試験との相性は然程良くないという点がネックとなるだろうが、それでもやはり、S級に最も近いのはこの男であると感じられる。
しかも、今年の試験参加者選考に置いて注目されたのは、その高い能力以上に精神性の変化であった。バトル・オブ・フェアリーテイルを経た彼は、ギルドの仲間達の為に、そしていつか帰ってくるラクサスの為にと、いくつものクエストをこなし、自身を鍛える一皮も二皮も剥けた男となった。
「ラクサスの後を継ぐ」と気合も十分である。
レビィ・マクガーデン。
彼女は
カナと同じくオールラウンダーだが、魔力が多い訳ではないため、カナより更に決め手に欠けると言える。しかしその分明晰な頭脳を持っており、二次試験の内容が知力を試されるものだった場合、最も有利なのは彼女かもしれない。
ここまで語ったのが、無事参加者として認められた7人の現時点における評価だ。
去年の試験は俺とカナの2人しか参加していなかったのを思えば、かなりの大人数である。
本当に今年は現役S級が多くて助かった……欲を言えばラクサスにも手伝わせたいところだが。
しかし、本当に問題なのは参加者の人数の多さでも、試験官の数でもなかった。
それはミラが資料の最後のページをめくり、読み上げた名前。
「最後の候補者はメストよ……
「そうだな……こなしたクエスト自体にそれほど大きなものはないが、安定してこれだけの仕事がこなせるというのは評価に値するだろう。
「そうじゃなぁ……おまえたちもそれでよいかの、ギルダーツ、トウヤ」
「いいんじゃねぇの?
えぇ……
なに言ってんだコイツら……
えっ、これもしかして俺がおかしい……?
いやいや、でもあいつアレだろ?
今も仕事の真っ最中のはずだし、去年の試験参加者は俺とカナだけだったし、少し前にエルザと模擬戦をしていたのはリリーだし、昨日ギルドにアイツの匂いなんて無かったし、ミストガンが弟子なんか取る訳がない。
そんな疑問がつい口から漏れるが……
「……スパイの仕事はいいのか?」
「「「「はぁ?」」」」
ミラ、エルザ、じいちゃん、ギルダーツに、異口同音に聞き返される事となってしまった。
あっ、コレ、あの野郎やりやがったな…………?
俺は席を一旦立って、ポリポリと頬を掻きながらじいちゃんの方へと歩み寄って行った。
未だにきょとんとした顔をしているじいちゃんの肩に手を置き、斬魔の魔力を流し込む。
すると、怪訝そうな顔が段々と憤怒に塗れた真っ赤な修羅の顔となっていき――
「あんのアホタレがーーーーーー!!!!」
という訳でロリコンスパイ登場フラグをへし折るトウヤさんなのでした。
折角S級主人公なので、こういう試験の事前準備回みたいなのがあってもいいかな、と。
勿論この会議の存在も、エルザの文章が読みにくいという設定もオリジナルですので、ご注意下さい。
エルザの文才、読解力のなさは最終回に言及があるので、そこから出してきた感じです。まっ、ルーシィの夢の中なんですけどねっ!
ところでソリッド・スクリプトってほぼエコーズact2ですよね……