あー…。気が重い。
セイバールートの最終回を目前として、俺がここまで億劫なのには理由がある。その理由とは、豊饒の女主人にて起こるトラブルのことである。昨日ベルが
うーん、でもこれはベルの成長に必要なことでもあるんだよね。こうでもしないとベルはこの先成長する機会が失われる。一人の人間として関わっている今としてはそういう口を叩かれるのは嫌だけど、それも酔っていて、かつ彼なりの優しさあってのこと。……多少の私情はあっても、しっかり折檻されると分かっている以上俺から言うことは何もない。
それに、今回が最終回ということで、やらなければいけないことが多いんだよね……。
まずプタハ様からフィギュアを受け取って販売スペースに展示&販売しなきゃいけないし、その後の展開への進め方やグッズとかの製造問題とかもやっておかなければいけない。そしてFateという土壌を蒔いた所で新たな要素や設定資料などを出せば飛ぶように売れるだろう。
最近ようやく利益が上がっているとはいえ、それでも弱小派閥に変わりはない。稼げる内に稼がなくては。ので、多分普通に俺はどうこうすることが出来ないんだよな…。
今日も種火くんを片付けて(俺のステータスアップと運動も兼ねている)、新たなFate系列の商品展開への話をつけ終わった後。書籍関連の下書きをさっさと終わらせて、ようやく夕方。
ベルも最終回までは見ていないので、今日は少し早めにホームに帰ってきている。予め晩御飯の誘いを断って、少し早めに軽食。
折角リューさんと会えるチャンスをふいにしてしまったのはアーディに申し訳なかったけど、すぐ許してくれた。
さて、そろそろ時間になる。いよいよ最終回ということで、オラリオでも一際話題に上がっていて、バベルへ向かう道すがらでも色々と興奮したような声や無言ながらにそわそわと体を動かす者や嘆く神々などの声がざわめいていた。
「よし、やるぞ…。【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公―――】」
―――――…
この日、オラリオの雰囲気は浮足立っていた。
何も、祭りが催されていた訳では無い。ある日バベルに映し出された動く絵の劇場―――タイトルをFate/staynight―――の最終回が上映されると知っていたからだ。
一エンタメに何を、と思うだろうが、これまでにない構図で、新しい文化の構築。デフォルメされていながらカッコよく、美麗で、美しい映像と惹き込まれる設定やストーリーから、一躍都市最大のホットなニュースとなっていた本作。
誰もが楽しみにしていたこの時間帯を前にして、いよいよもってその最終回が流れるという緊張と興奮、期待がまぜこぜになり、異様な熱気を伴っていた。
この時間になるとそれを見るために客も集中するので、店員なども客と一緒に見ている様な習慣まで出来てしまっている。
さて、その中でも特に勢いのある、よりよい場所で邪魔されずに見たいというファン達のための有料席。陣取った神や人が分け隔てなく最終回への期待やこれまでの感想、予想などをわーわーと言い合っている。
煩いくらいの声の数。しかしそれも、バベルに画面が映し出された瞬間にしんと静まりかえる。上映マナーは良いようだ。
いつもの白兎が鐘を鳴らすシーンから始まり、いよいよ最後の物語の幕が上がった。
前回の聖杯戦争から生き残っているという8人目のサーヴァント。アーチャー、ギルガメッシュに敗れた士郎は、このことについて話を聞くために監督役であるコトミネ綺礼のいる教会へと向かっていた。だが、肝心のコトミネの姿はなく、逸る動悸を抑えてある地下室へと立ち入ってしまう。
『生き―――てる?』
「は?」
「え…、は…?」
「ほぼミイラなのに、生きてる、だと? それも、養分を吸い取られて……?」
「おいおいおいコトミネ…!」
「兄弟って…まさか」
「え、てことはあの時引き取られた子達は孤児院になんて行ってなくて、ここで“資源”として扱われてたって、そういう…?」
「嘘でしょ…」
明かされる衝撃の事実。動揺するシロウに、さらなる衝撃が襲いかかる。怒りをコトミネに向けたシロウの背後から、朱色の魔槍が生える。
『改めて紹介しよう。彼が、私のサーヴァントだ』
「は?」
「ランサー!!??」
「監督役がそんなことしていいのかよ!?」
「なんて奴だ…」
「またやられてる…」
その場はセイバーが駆けつけたことで窮地を脱したが、直ぐに次の困難が訪れる。
『セイバー。己が目的の為、その手でマスターを殺せ。そのあかつきには聖杯を与えよう』
「は?」
「おいおい、それはもう士郎が断って…」
「いや、なんか迷ってね…?」
「待て待て待て待て待てっ!? やめろぉ!ここでやったら今までの絆とかどうなるんだよ!?」
「シロウの方が意思が強かったか…」
「まあ頑固だし」
「……ふう、セーフ。しっかり断ったぞ」
「よーし、よく言ってやった!!」
「そっか、やっと願いに向き合ったんだな…。その上で断った。今までのモヤモヤが晴れたぜ…」
撤退しようとするセイバー陣営を食い止めるべく、ランサーが向き直る――が、コトミネが指を鳴らすと、新たな人物がそこに現れる。―――それは、件のサーヴァント。ギルガメッシュであった。
「は?」
「お前さっきから『は?』しか言えてないぞ」
「しゃーない。俺だってそーする」
「前回の聖杯戦争でもマスターやってたのかよコトミネ」
「ってなるとランサーとギルガメッシュで2対1か…厳しいどころじゃないぞこれ」
「いや、ランサーも知らなかったっぽいぞ」
そして、語られる聖杯の真実。万能の願望器という名の破滅と悪意を齎す欠陥品の存在を。
「とんだ詐欺じゃねえか…」
「じゃあトオサカは、アーチャーやキャスター達は何のために戦ってたんだよ……」
「戦ってもやばいのが出てくる。戦わなくても襲ってくる。どうしろってんだ」
『悪いな。手元が狂った』
「っ!?」
「ランサー!?」
「流石ランサーの兄貴!?」
「ランサーの兄貴、略して槍ニキ流石!!」
コトミネの不義理に反発したランサーの助力を得、なんとか教会を抜け出した二人。しかし、衛宮邸に待ち受けていたのは怪我を負ったトオサカと、イリヤが連れ去られてしまったという事実だけだった。
「何……だと……?」
「先手をうたれたか……」
二人はイリヤを救うため、聖杯による被害者を出さないため。聖杯を破壊することを誓い、ギルガメッシュとコトミネとの最後の戦いの地。柳洞寺へ向かうのだった。
「「「…………」」」
そして、最後の戦いの幕が上がった。セイバーはギルガメッシュと、士郎はコトミネと向かい合っていた。
セイバーとギルガメッシュの戦いは一進一退の攻防を繰り広げ、雨あられのように向けられる宝具を自慢の剣技で防いでいく。そして、コトミネと対峙した士郎に襲いかかるのは、聖杯から漏れ出した呪いの泥。
それは、かつて第三次聖杯戦争にて召喚されてしまったアヴェンジャーのサーヴァント。
「……アンリマユって言った?」
「え、ガチめにヤバイ奴じゃん」
「嘘やろ…。アンリマユゆうたら、
「何でそんな奴が負けて…?」
「あ、そうか…。いくら聖杯で召喚されたとはいえ、神がそのまま来るには制限があって、今の
「それがなまじ取り込まれたせいで一気にやばくなったってことかよ」
「アインツベルン大戦犯過ぎて草」
「イリヤたんを造ったことだけは感謝してやる」
悪意の呪いに侵される士郎。そして
誰もが固唾を呑み、傷だらけの二人の抵抗をハラハラしながら観戦する。
そして、奇跡は起きた。セイバーは紙一重の一歩先へと踏み込み、士郎は全ての呪いを受けて尚吠えた。
『『“
「あれが、アヴァロンの真の力……」
「すげぇ…ギルガメッシュの宝具すらも完全に防ぎきってる」
「この二人じゃないとこのタイミングでは出せないってことか」
『“
『セイバーァァアアアアアアア―――!!!!!』
『“
『“laβt”―――!!』
「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ―――――っっ!!!?」」」」」
――――決着。
二人の決死の一撃は見事にその存在の核を貫き、黄金の王と破綻した神父との勝敗がついた。
『――――手に入らぬからこそ、美しいものもある』
『――――なるほど。私も、衰える筈だ』
「ギルガメッシュ…コトミネ…」
「何だかんだ嫌な奴だったけど、いざいなくなると寂しくなるな…」
ボロボロの二人は最後、呪いを産み出そうとしている聖杯の元へと辿り着く。そして思い返される今までの記憶。短くも濃かった非日常の一幕。
二人の間に会話はない。話してしまえば、今にも消えてしまいそうだったから。そして、元凶を眼の前にして、最後の命令を告げた。
星の聖剣によって、汚染された聖杯は破壊された。
空が晴れる。終わったのだ。この儀式は聖杯を破壊したということで終了した。最早現世に繋ぎ止めるものもないセイバーは、光の粒子となって空に解けていく。
そして、最後の最後。騎士王ではないアルトリアが振り返り告げた。
『シロウ―――――貴方を、愛している』
返事をする前に、その姿は霧散した。仄かな寂しさを覚えるが、きっと、これでいいのだろう。
「ぁ………」
「…………」
「…………」
街を一望する丘の上、一人残された士郎は、けれど暗い気持ちは感じさせていなかった。
その後は、なんてことのない日常が繰り広げられた。まるであの争いがなかったかのように、普通の生活。ただ、変わったことがあるとすれば、雪の妖精のような可愛らしい妹(姉)が出来、高嶺の花であった少女との接点が出来たくらいだろうか。
けれど、あの戦いを、あの黄金の離別を、確かな決意を胸に秘め、彼らのその先は続いていくのだろうと、そう確信させるものであった。
場面は代わる。時は古代。騎士甲冑を身に着けた優男に連れられ、傷だらけの王はかの湖へと辿り着いた。
そこからは、みなも知ってのとおりだ。3度の忠告に渡って、星の聖剣は正しき場所に還された。
『見ているのですかアーサー王
――――夢の、続きを――――』
静寂と共に、これまでの話と共に最後のエンディングが流される。
「……終わった」
「…………」
それを、観衆は沈黙で見送っていた。つまらないのではなく、ただひとえにその感動と満足感から動けなくなっていた。
晴れ晴れしい気持ちと、遅れて寂寥感が襲い来る。達成感を胸に、最後に目に焼き付けておこうと流れる場面の一つ一つを眺めていく。
そして、エンディングも終わり、真っ黒な画面が広がって、ようやく重い腰を上げようとしたその時。
「ん? おい、まだ何かあるぞ」
その暗闇の中に浮かび上がる、Fate/staynightのロゴ。そこから青い導火線の様なものが二筋に伸び、鍵のかかった鎖が解き放たれ、赤い輝きを放つ「Fate/staynight-Unlimited Blade Works-」と紫紺に輝く「Fate/staynight-Heavens Feel-」。そして、離れていく画面から多くの線が伸び、灰色のロゴに覆われた大量のアイコンがズラリと並んでいた。
徐々にフェードアウトしていく画面を眺めて、さっきまでの染み染みとした沈黙から一転、住民たちのボルテージは最大限にまで達していた。
「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
「何だあれ、何だあれ!?」
「おんなじFate/staynightだけど何かついてたぞ!!」
「いや、他の奴もちらっと見えたけど、えっと、なんだったか、エク…なんとかとか、あぽなんとかも、これからあるってことか!!」
「まだまだ続きがあるんだな!」
「生きがいが終わったと思ったらもっと広大に広がってた…」
「おいおい、どんだけ俺達を楽しませりゃ気が済むんだよ…!」
「こうしちゃいられねぇ! 設定資料を見てFateの予習&復習だ!」
「待て、フィギュア販売? もこれから行われるから、金の使い道はしっかり考えなきゃな」
住民たちは終始大盛りあがり。激動のフィナーレを迎えた瞬間を目にした興奮と、まだまだ未知の、けれど確実に自分たちの予想を超える作品群が待ち受けていることに抑えきれない衝動が議論という形で溢れかえっていた。
結果として、このサプライズ演出は大成功。最終回ブーストもかかってか、今日のグッズ売り上げや関連商品は右肩上がりに爆増。これまでも早期になくなっていた商品が、上映終了から僅か1時間余りでオラリオの街から消えてしまったほど。
職人や委嘱先のファミリアにとっては嬉しい悲鳴だろう。因みに、これらのことも相まって、今後もご贔屓にとお得意様としてフジマル立夏の顔は覚えられたのだった。
――――…
アイズ・ヴァレンシュタインは一人、自室にて夜風を浴びていた。
その原因とは夕食の時に放たれた会話。自分たちの不手際によるミノタウロスの逃走。ベートが嘲笑するように被害者を嗤った。それに、巻き込まれたあの兎のような子。
あれを聞かれたのも、そのせいで店を飛び出してしまったのも、アイズに複雑な心境を抱かせていた。関わりがあるとは言えないが、何ともバツの悪く、苦々しい感じ。まして原因がこちらにあるのだ。年頃の少女であれば気にも病む。
そうして、アイズは憂いを帯びたままぼうっと外を眺めていたが、ふと、その優れた聴覚が耳慣れない音を捉えた。
それは、爆発の様な音や会話、そして鉄の重なり合うような音。普段であれば多少は違和感をもっても気にも留めない程度のものだったが、今が深夜帯であることを考えるとどうにも気にかかる。まさか本拠地でそのようなことをする団員がいるはずもない。
仮に夜中に体を動かしたくなったからといって、アイズのように訓練場で得物を振るう程度に抑えることだろう。
(何だろう…。もしかして、侵入者?)
その場合であれば、交戦状態にあってもおかしくはない。普通に考えればそのようなことがあれば夜中と言えど通達されるので、ありえないといえばありえないが、割と天然の入っているアイズは、愛剣――はメンテナンス中なので代剣のレイピアを腰に佩き、忍び足で廊下へと出た。
慎重に耳をすませ、音のなる方へと近づいていく。
角を曲がり、暗い廊下を進んでいくのは、何だかダンジョンに潜っているような気分だ。そして、音の発生源に辿り着いた。
(ロキの部屋から…?)
そう、それは主神である神ロキの私室から聞こえてきていた。扉の隙間から漏れ出る光は何度も色を変え、点滅している。
余計にワケが分からなくなったアイズは、こっそりとドアノブに手をかけ、隙間から様子を伺った。
――――そこには、衝撃があった。
壁に映った戦士達の絵画が、目まぐるしく戦闘を繰り広げている。アイズから見ても武芸者だと感じさせる冴えを魅せるその動きと判断の早さは、一人の剣士として感嘆を覚えるほど。
気が付けば、扉を開けて魅入っていた。勿論、初めて見る動く映像を目にしたという衝撃も相まってのことだったが、それでも気になっていた。
気が逸れたのは、その戦いが終わって少女達の会話が挟まってから。そこでようやく何か魔道具のようなものからその光が伸びていることに気が付き、その後ろで椅子に座りながらそれを眺めるロキに気がついた。
「…ロキ?」
「ひょぅわっ!? ちゃっ、ちゃうねん!! 決して真夜中の背徳感ウマー!とかそういうんやなくて、昼間は色々やらなアカンこととかあるから今見てるだけで―――――って、なんや、アイズたんか。どしたん、こんな時間に?」
声をかけられたことに相当驚いたのか、飛び上がるように映像を止めるロキと、堂々と部屋へと入り込むアイズ。
アイズはここへ来た経緯を話した。
「あー、そらすまんなぁ。もうちょい音控えればよかったな」
「ううん、大丈夫。私も元々起きてたし……。それよりも、さっきのは、何?」
「よくぞ聞いてくれました!! アレはな、アイズたん達が遠征に行ってから流行った動く絵物語、アニメ言うてな―――」
興味本位で聞いてみれば、続々と出てくるマシンガントーク。今日もあった筈だと言っていたが、遠征後のゴタゴタや整理などで見ている暇はなかったので、アイズ達は存在を知らなかったのだ。
言っていることは半分も理解できていなかったが、それでもそういうジャンルのものが今都市で流行っている、ということは分かった。
そして、今先程チラリと見た限りではあるが、既に興味をそそられていた。そのことを話すと、ロキは「お!興味ある!? せやな……。…じゃ、今はもう遅いし、朝体休めんのも合わせて一緒に上映会や!! 他にも興味ありそーな子達連れてきてもええよー」
沈んでいた気持ちがなくなったとは言えない。けれど、新たなる未知への好奇心を刺激されたアイズは、多少明日への楽しみが増えたといった様子で床につくことが出来たのだった。
――――翌日、ダンジョンにも潜らずロキの私室に向かうアイズを見て、ファミリア内に妙な噂が立ったのは、また別のお話。
因みにベルは心配になった立夏が駆けつけて装備だけはちゃんとしてから7層に行ってます。
アイズがFateを知る回でもありました