贖い   作:赤穂あに

26 / 26
ここだけpixivからではなく物理版からの再録です。
ささやかな書き下ろしでしたが、当時手に取って下さった方々、ありがとうございます。


エピローグ

 

 動機は不純そのものだった。顔がいい店員さんがいるからと、同僚に勧められたのが始まりだ。目の保養という名目で通い始めた喫茶店は、言葉通りに見目の良い男女の店員さんが切り盛りしていた。

 きっかけは不純の一言だったけれど、通い続けた理由に顔はあまり関係ない。食べたご飯が美味しかった、出されたコーヒーが美味しかった。それだけ。ある意味では、さらに煩悩に近づいた欲求に従い私はその店に長く通うことになった。

 しばらく通ううちに、男性の方は辞めてしまったらしく、私にとっては有難いことに若々しい客層も合わせるようにどこかに消えた。料理は変わらず美味しいままだったが、手の込んでいただろうメニューのいくつかがなくなってしまい、少しだけ落ち込んだ。

 絶対に口に出すことはないが、作れる人が限られているメニューに入れ込むものではないなとため息をついたのは、一度や二度ではない。

 とろけたクリームが美味しかったケーキに思いを馳せつつ、相変わらずの味を約束してくれているコーヒーを飲む日々を送っていると、お店には新しい店員さんが増えた。ここの店は顔採用なのだろうかと、一瞬だけ胡乱な目を向けてしまったのは致し方がないことだと思う。

 新しくやってきたその人は、以前いた店員さんと系統は異なるが、やはり目を見張るような美形だった。誰に伝えることでもないが、スタッフの顔面偏差値リレーが大変なことになっていて、一人で勝手に女性の店員さんの心の平穏を祈った。顔のいい男は、いつだって周りの女性が勝手に火種にするのである。

 新しく入った店員さんは、以前いた人とほど万能ということはなかった。……こういうとかなりの語弊を生みそうだが、思い返すと前の人がひたすらおかしかっただけな気もする。

 文字通り、客の目線から見て彼はなんでもできた。写真は嫌いなようだったが、あの外見とあのモテ具合だ。そこは察するにあまりある。それ以外は、本当に弱点などなかった。クレーム対応から魅惑の新規メニューまで……思い出したらまた少し悲しくなってきたが、ともかく。

 それと比べてしまうのは少々評価が厳しくなるが、やはり見劣りしてしまうところはある。目に見えて上達しているようなので、今後に期待したい。

 そんな私の胃袋からの欲求はさておき、繰り返すが新しい店員さんも見目は大層優れている。ので、当然の帰結とも言えるが、いわゆる固定客のような層がまた出来た。しかも、年齢層的には本気と書いてガチと読みそうな方々からの支持である。

 一度、昼ドラのような一方的な愛憎劇を目の当たりにした時は、自分がホストクラブにでも迷い込んだのかと思った。美醜に優れることはいいことばかりではないのだと悟り、親に感謝した。普通って素晴らしくて、平凡って尊い。

 ちなみに、その昼ドラの山場回のごとく一歩間違えれば死人でもできそうだった場面を鎮めたのは、彼の言葉だった。

「異性の好み? ……そうだな、黒髪で、芯が強くて、妹思いで……。死んだ後も地獄から見守っててくれるような、そういう人が好きだな」

 頭の茹ったその女性もさすがに理解したようで、その日以降見かけることはなくなった。以来、固定客は健在であるがあそこまで激しい層はいなくなった。

 故人には勝てないと悟ったのだろう。賢明な判断だと思う。あんなに優しい声色で、亡くした相手を愛しているのだと言外に伝えられてなお食い下がる気力があるのなら、いっそ別のことに向けたほうがいい。

 私には理解できない。あんなに心穏やかに語れる気持ちも、なんてことはないかのように過ごせる気持ちも。そして、理解できない幸福に感謝する。それだけだ。

「ああ、いらっしゃい。今日は食事かな? それともデザート?」

「こんにちは、ショートケーキまだありますか?」

「もちろん。好きな席で待っててくれ」

 あとコーヒーもお願いしますと、キッチンに向かう背中に頼めば、親指と人差し指で輪っかを作った左手が返事をくれた。指ですらどことなく色気があって、すごいなぁと同情してしまう。私としては、その麗しい指でよりよいメニューを開発してくれたら嬉しく思う。

 それくらいの、なんでもない悩みに唸っててくれたらいいなぁと、今後に期待して、そんなちっぽけな願いを抱いてしまうのだ。

 




本を見ながら直接打ち込んだけどついつい色々手直ししてしまいました。お付き合いくださりありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

だから付き合ってないってばよ(作者:冬乃菊)(原作:NARUTO)

 ナルト(九喇嘛も)とサスケが逆行してラスボスフルボッコを目標になんやかんやする話。仲良しパワーで革命だってばよ!▼ 中身は三十路という微妙に恥ずかしい秘密と起こりうる未来を共有しながら過ごすので、タイトルの通り、周囲からはなぜか変な目で見られるはめに。▼ ピタゴラ勘違い展開で主に恋愛面においてナルトもサスケもかなり不憫な目に合いますが、忍び耐えて世のため頑…


総合評価:3050/評価:7.91/連載:39話/更新日時:2026年06月26日(金) 22:34 小説情報

転生サトシの旅路(作者:ナノブ)(原作:ポケットモンスター)

これは、アニポケのサトシが一生を終えた記憶と、アニポケを見ていた人の記憶両方を持った転生者サトシが、波導と呼ばれるチートを駆使して行く旅路を記したもの。▼サトシ至上主義が書くポケモン小説です。▼作者はポケモンライト勢であり、にわかです。


総合評価:3712/評価:9.19/連載:36話/更新日時:2026年06月27日(土) 18:00 小説情報

詐欺占い師と米花町(作者:罠ビー)(原作:名探偵コナン)

 爆処同級生の未来が視える占い師≒詐欺師がコソコソする話。▼ pixivとのマルチ投稿です▼


総合評価:4831/評価:7.85/連載:21話/更新日時:2026年07月04日(土) 01:16 小説情報

魔法科世界の術式蒐集者(作者:パラレル・ゲーマー)(原作:魔法科高校の劣等生)

魔法が技術として体系化された世界――『魔法科高校の劣等生』の世界に転生した主人公・水瀬悠。▼彼が持つ固有魔法は《万象術式目録/アカシック・ライブラリ》。▼一度でも発動を直接観測した魔法式を完全複写し、精神領域内の目録へ永久保存するチート能力。▼しかも、魔法式を登録するたびにサイオン量、干渉力、演算速度、並列処理能力まで成長していく。▼強い。どう考えても強い。…


総合評価:7764/評価:8.27/連載:14話/更新日時:2026年06月02日(火) 19:37 小説情報

魔法科高校の退学希望者(作者:無淵玄白)(原作:魔法科高校の劣等生)

▼『現代日本』に住む男が死んだらば、色々とあって再び人へと転生したがそこは完全に誰かの創作の世界!▼しかも分かってしまった範囲では、とにかく地獄のような世界で有名な魔法科高校の劣等生という作品世界。▼こんな世界で魔法を使える立場など御免被りたい転生者の退学を目指していくどこまで続くか分からない物語。▼なにがなんでも後ろに向かって前進する(バック・トゥ・ザ・フ…


総合評価:6784/評価:7.81/連載:21話/更新日時:2026年07月03日(金) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>