学校。
未熟とされる若い人間を集め、強制的に学びを与えることを目的とした機関の名称。学園、学院などもほぼ同じ意味である。
同じ制服に身を包み、同じような朝食をとり、同じ通学路を通り、同じような授業を受け、同じ毎日を過ごす。そこにどれほどの学びがあるのだろうか。
くだらないと一蹴し、机に突っ伏して寝ること早2年。代わり映えのない日常。変わらない景色。いつもの友情ごっこ。
しかし日常というのは、ある日唐突に崩れるものである。今回だってそうだ。あの日、教室の扉が開かれた時、俺の物語は始まった。
「ドキッ♡女の子だらけの学園生活~みんな俺のことが好きすぎて困っちゃう~」
通学路。やけに重く感じる通学カバンを片手に、今日も今日とて強く照らし続ける朝日にガンを飛ばしつつ、学校という憂鬱なシステムを嘆く俺。
『あー…学校めんどくせぇなぁ…いや、本当に面倒くさいのは人間関係か…ということは学校とかそんなレベルの話ではなく、世界そのものが面倒なのでは…?』
つまり世界が悪い。
早々にこの世界に見切りをつけ、とりあえずの足がかりとして学校をサボろうかと画策しているとそこに、バシンと強く俺の背中を叩くやかましい女性が現れる。
『何朝っぱらから辛気臭い顔してるのよ!そんなんじゃ神様に見捨てられるわよ!』
『おう…お前はいつも元気だな。元気すぎて不安になるわ。大丈夫か?色鮮やかなキノコとか食ってないか?』
『ねぇ、あんた私のこと馬鹿にしてるでしょ?長い付き合いだからって何でも言っていいと思ったら大間違いなんだからねっ』
その女性の名はクラミー・ツェル。俺の幼馴染だ。
小さい頃から家族絡みの付き合いで、腐れ縁と言ってもいい。
どっかしらの国とのハーフだが、名前と違い外見は日本人要素がくっきり残っており、大和撫子が如く艶やかな黒髪に目を奪われる男性も多いとかなんとか。
そして、彼女を語るならこの人の存在を忘れてはいけない。クラミーの後ろからひょっこりと現れ、彼女の隣に立って天然な発言をする女性のことを。
『昨日からの食事のメニューにはキノコは含まれてなかったのですよ〜?』
そう言ってふわりと柔らかな微笑みを浮かべるのはフィール・ニルヴァレン。
その名も轟くニルヴァレン家のご令嬢で、彼女もまた俺の幼馴染であり、クラミーの主人である。
クラミーの一家は代々ニルヴァレン家の使用人として仕えており、クラミーもまた例外ではない。
ただし、フィールがクラミーを特別に感じているのか、はたまたただの気まぐれなのかは分からないが、主従関係と言うよりは遊び相手に近い。
実際、ニルヴァレン家に仕える使用人はメイド服的な衣装に身を包まねばならないのだが、クラミーがそれを着用しているところは見たことがない。
『分かってますよ…冗談ですって。一々天然発揮しないでくださいよフィール先輩』
『も〜年上だからって敬語は必要ないのですよ〜?昔みたいにタメ口で、できれば先輩じゃなくお姉ちゃんって読んで欲しいのですよ〜』
『いやまぁ…お互いいい歳なんで、常識とかモラルとかハラスメントとか気にした方がいいと思うんですよね。あと普通に身分差あるし』
先ほどのクラミーの発言を借りさせてもらうと、幼馴染という枠組みであるからこそ、蔑ろにしてはいけない一線がある。
本人が許しているからと言って敬意を持たない振る舞いは絶対に許されない。これは俺の矜持によるものではなく、単純に先輩の家の圧力によるものである。くわばらくわばら。
『そんなこと言ってる場合じゃないわ!あんた時間ギリギリに登校してるってわかってるの!?遅刻するわよ!』
『いつも同じ時間に登校してるお前に言われたくない』
『誰のせいでこの時間に合わせてると思ってんの!?あんたがこの時間にしか出てこないから、一緒に行こうと思ったら遅刻覚悟で出なきゃ行けないのよ!?』
『いや…別に一緒に行く必要な』
バシン!(背中を叩く音)
『いってぇ!?』
『バカ!あんたなんか遅刻すればいいわ!ふん!』
スタスタスタ…
『あっ!?待つのですよ~クラミー!じゃあ、また後で会いましょうね八幡くん』
スタスタスタ…
『…なんなんだよ…』 ⬇︎next
当然の如く遅刻をすれすれで躱し、無駄なく席へと着く。
ぼっちにはぼっちの過ごし方がある。ぼっちの「おかし」をご存じだろうか。(自分の背中を)押さない、(知り合いの番号を知らないので電話を)かけない、(空気を読んで)しゃべらないである。
当然のように誰とも話すことなく、ほどなくして朝のホームルームが開始される時間となる。チャイムが鳴り響くと同時に、担任がクラスのドアを開けていつものように教壇へと立つ。
『チャイムが鳴ったのが聞こえなかったのか?早く席に着きたまえ。今日はいつもより話す内容が多いんだ』
この担任、話し方独特なんだよなぁ…。女性のくせに男っ気があるというか。あんまり女性らしくないというか。まぁ俺にとってはどっちだろうとうまく話せないことには変わりないんですけどね。
『さて、ホームルームの前に君たちに話しておかなければならないことがある。今日このクラスに転校生がやってくる。高校での転校はアニメだけのものであると思っていたのだが、どうやらこういったこともあるらしい』
先生のこの一言に教室内がざわつく。先生の言う通り高校の転校は少ないし、初めてであるからどうしても気になってしまう。加えて、リア充たちにとっては恰好のイベントであることに間違いはないだろう。
そして案の定リア充グループから『男ですか?それとも女の子ですか?』とかいう質問がなされた。あと十分も待てばわかる答えを今聞きたくなってしまうのは、やはり転校生という言葉の魔力なのだろう。
『よろこべ野郎ども。転校生は女だ。同性の私から見ても見た目はなかなかのものをしていると思うぞ』
その回答に、またもや教室がやかましくなる。主に男で。無論、その男の中に俺は入っていない。
しかしやかましくしてないだけで俺も興味はある。仲よくしようだとか、話しかけてみようだとかそういったことを考えているわけじゃない。シンプルにどういった女子なんだろうとか、先生がなかなかの見た目だというその姿を見てみたいとかそういった方向性での身体的要素に対する学術的興味関心と言いますかですね。
先生もやかましくなることは理解していたようで、ジェスチャーで黙れ、と教室全体に指示をしたのち、速やかに転校生を紹介する運びとなった。
『まぁ、私がこの口から言うより、見て、そして話してみるほうが手っ取り早いだろう。入ってきたまえ』
ガラガラと音を立てて教室の扉が開く。コツコツとなる彼女の足音が良く聞こえる。息をのむというのはこういうことを言うのだろう。先ほどまでの喧騒が嘘のように聞こえないのだから。
時間にして数秒。しかしたったそれだけの時間でこの教室にいるすべての人間はこう思ったことだろう。この女性は住んでいる世界が違う、と。
美しい顔。モデル顔負けのスタイル。ゆったりとなびく桃色がかった長い髪の毛。見る人をうっとりと魅了する所作。どこをとっても他の人間とは格が違った。端的に言えば、可愛すぎたのである。
気が付いたときにはすでに自己紹介は始まっていて、先生からの転校してきた理由云々のどうでもいい話が終わっていた。やってしまったと思うと同時に、自分には関係ない話だと思いなおした。
あれだけのものをお持ちであるならばクラスのみんなからは引っ張りだこであるだろうし、友達作りにも苦労はしないだろう。ぼっち真っただ中の俺にわざわざ興味を持つ理由がないのである。
そして、俺も仲良くしようだなんて思ってもいない。クラスの日陰者が人気者と仲良くするとどうなるか知ってるか?大体ろくなことにならない。上履きを隠されたり、物を壊されたり。陰湿ないじめが横行すること間違いなしだ。エリートボッチはリスクヘッジを忘れない。メリットを得ないことは最強のリスクヘッジなのである。
出身がどこか、今はどこらへんに住んでるのか、好きな男のタイプ、趣味など、クラスのみんなが知りたいであろうプロフィールをあらかた聞き流したところで、再び教室にチャイムが鳴り響く。先生に促され、最後にもう一度だけ恭しく頭を下げて彼女は名を名乗った。
『では改めまして。ジブリール・ド・ラ・フリューゲルと申します。どうぞよしなに』
にっこりと笑う彼女の顔を見て、美人局には気を付けろという父親の言葉を思い出した。 ⬇︎next
一限の授業が始まった。いつも通りよくわからない数式にやる気をそがれ、頭の中の睡魔という天使のささやきに耳を傾ける。どうしてこう数学っていつも眠くなるんでしょうね。気がつけば開始数分と経たないうちに、机の上のノートにミミズがのたうち回っている始末。
いっそのこと堂々と寝てしまえば楽なのだが、今日に限ってはそうもいきそうになかった。理由は簡単。めちゃくちゃ注目されているからである。
当然俺が注目されているわけではない。たびたび感じる好奇のまなざしは俺の後ろの席に向けられたものだった。そう、転校生のジブリールだ。
ジブリールとかいう超絶美少女も転校生というからには学生の一人であり、クラスメイトなわけであり、授業を受けるのも至極まっとうなわけであるが、そうなれば必然彼女が今後授業を受けていくにあたり「座席」というものが新しく必要となるのである。
新しく席を置く、となれば教室の後ろに付随する形で置くほかない。そりゃそうだ。前に置いたら全体が後ろに下がってしまう。転校生一人のためにそこまで面倒で非合理的なことをするはずもない。
そうなるとだいたい廊下側一列目の一番後ろに席が確定してしまうわけなのだが、これが俺にとっては大問題だった。そう、俺の後ろの席なのである。
授業中は男子からの好意の目線が絶え間なく、女子からの妬みの視線がうっとうしい。休み時間ともなれば周りをクラスメイトが取り囲み、どうでもいい自慢話や知ってどうすんだ?といった身の上話で煩わしい。その上ちょっとでも席を外そうもんなら自然な流れで俺の席が奪われる。
あえて言おう。外れだ。クラスメイトから話しかけられづらい角席というプレミアムチケットから一転、バブルも真っ青な大暴落だ。
しかしこうなってしまったものは仕方がない。できるだけ視界から外れるように、こっそりと、そ~っと机につっぷして寝るしかない。見よ。これが俺のミスディレクション。ボクは影です。パスはいりません。
『ちょ…ちょっと!なに突っ伏してるんですの!?』
寝る姿勢を整えると間もなく、隣の席に座っているステファニーが声をかけてきた。くそ。邪魔しやがって。優等生め。
クラスメイトのステファニー・ドーラ。赤い髪が特徴のクラス委員長だ。何の因果か、席替えしても必ず俺の隣の席になるのでなにかとつっかかってくる。今回に限って言えば、廊下側の端っこで隣になる確率減ってんのにドンピシャで隣に来やがった。魔法でも使ってんのかこいつ。委員長ならせめて『俺がお前の隣にいたいからくじを操作した』とかいう根も葉もないうわさを沈静化しろ。
とまぁ俺からのヘイトは中々だが、クラス全体としてみれば彼女の好感度は非常に高く、敵にするともれなく全員が敵に回ることになるのであんまり邪険には出来ない。サボり癖のある俺には天敵と言っていい。
『…何の用だ』
『授業中ですのよ!?当てられたらどうするんですの!?』
『安心しろ。当てられてもどうせ答えられん。どっちにしろ答えられないなら寝てたほうがいいだろ』
『そういう問題じゃ…あっ』
なんだよ。あっ、て。やばいもんでも見たような顔して。数学の先生ならまだ教卓の近くにいるじゃねぇか。
『一限から堂々と居眠りとは、中々肝が据わっているじゃないか比企谷?』
うしろから怒気の孕んだ、聞きなじみのある声が聞こえる。ゆっくりと振り向くと、そこにはいつの間にか教室へと入ってきていた担任の先生がいた。
…あんたなんでこんなとこいるんだよ。暇なの?
『たまたま今日は一限に現国がなかっただけだ。生活指導の職務を全うしていたところで指導が必要そうなやつを目にしたからなぁ、不思議ではあるまい?』
…エスパーか?
『…声に出てました?』
『言わずとも顔に出ているよ。クラスメイトの忠告を聞いておくべきだったな』
言い終わるや否や、比企谷を借りていきます、と数学の先生に断りを入れ俺の手を引っ張り教室から連れ出そうとする先生。やめて!助けてドーラえもん!
ちらりとステファニーに視線を向けると、気まずそうな顔をして目をそらされた。裏切り者め!(裏切ってない)
ステファニーにうらみを抱くより先にこの状況を打破せねば。流石に授業中連れ出されてお説教は恥ずかしすぎて勘弁願いたい。
『今授業中なんですけど』
『そっくりそのまま返すとしよう。いい機会だ。邪魔されることなくゆっくりと話し合おうじゃないか』
『もう十分反省してるので。心入れ替えて授業うけますから』
『その台詞を信じたのも一度や二度の話ではないよ。もっとも、そう簡単に心を入れ替えてくれるのなら生活指導なんていらないだろうがね』
『今回こそ本当なんで。あれですよ。転校生がきて心機一転ってやつです。心も転校したがってるんですよ』
『ほう。なら君の心は転校初日の一限から堂々と居眠りをするとそう言いたいのか?なおさら指導が必要らしい』
まずい。この人レスバ強すぎる。まぁ全面的に俺が悪いから不利にもほどがあるんだが。
鉄拳制裁を喰らうのももはや時間の問題、と考えた矢先、思わぬところから救いの手が舞い降りた。
『お待ちください平塚教諭』
声をかけたのは、まさかの転校生であった。
いつもならあまり歩みを止めない先生も、転校生ということもあってか顔を向ける。
『なんだね?』
『彼の言うことも一理あります。お説教なら、授業後の休み時間に行えばよろしいのでは?』
自己紹介を除いて初めて口を開いた彼女に、クラスの全員が注目する。美しくも魅力的な声に、板書中の数学教員でさえ手を止めた。
『残念だが、次の時間は授業がある。比企谷と話すと、なんやかんやと言い訳をつけて休み時間の10分じゃ到底たらん』
『でしたら放課後に残らせればよいではありませんか。担任のあなたであれば彼が逃げることもないでしょうし』
軽い沈黙、数秒の思考ののち、先生は俺の手を離した。
『ふむ、確かに君の言うとおりだ。説教で授業をサボらせるより、放課後の時間を奪うほうが反省するだろう。放課後みっちりと付き合ってもらうとしよう』
もう一度寝たら今日は帰れないと思え、となかなか怖いことをいいながら先生は教室を出て言った。
完全に授業は止まり、教室全体の視線がこちらに集約している。針のむしろというやつか。きまずい。こんな状態で寝られるかよ。
『よかったですね。捕まらなくて』
『……』
くそ。こんなことなら捕まっておくんだった。帰ってきて先生!そしてここから連れ出して!⬇︎next
昼休みになった。教室は転校生のおかげで騒々しくなってしまったので、ありがたくベストプレイスへと足を運ぶ。
俺が好むベストプレイスは二つ。一つは図書室。蔵書の数はそこまで多いわけではないが、幅広い分野の書物が取り揃えられている。有名どころからニッチなものまであるので暇なときにはうってつけの場所となる。本を読まない場合は飲食も可能という世にも珍しい図書室なので割と重宝している。なお、守らない人も多いので本の所々が濡れた形跡だったり食べかすが挟まれていたりと不快に感じる要素が盛りだくさんなのは玉に瑕だ。雨の日にはよくここで昼休みを過ごす。
もう一つは屋上だ。普通の高校は危険なため屋上への立ち入りは禁止とされている場合が多いが、ウチの高校はかなり大きな柵が設けられているため生徒が自由に立ち入りが可能だ。とはいえ、特に何もないし特段広いわけでもないのでほぼ誰も使っていない。そのためほぼ貸し切りでノイズも少なく、昼頃にはちょうどいい風が吹いて心地がいい。無論今向かっているのも屋上である。
扉を開ければいつもと変わらない心地よい風が出迎えてくれた。備え付けのベンチに腰かけ、ランチタイムとしゃれ込む。めずらしくもない購買のパンに舌鼓をうち、教室の喧騒を気にすることもなくゆったりとした時間を過ごす。毎日のストレスから解放される唯一至高の時間と言って差し支えない。
ちょうどパンも食べ終わるころ、ギィという音をたてて屋上の扉が開く。やはり今日も彼女たちは来たらしい。
『今日も来てはるんかいな。ホンマによう飽きんねぇ』
そう言っておにぎりを片手に俺の隣へと座ってくる彼女はカラカラと笑っていた。
彼女は俺の一つ年上で先輩にあたる。よく屋上を利用する物好きな人で、接点はそれくらいしかない。
話してみるとフレンドリーで、俺の嫌いな陽の人物かと思ったのだが、話し方に反して人付き合いは得意ではないらしい。軋轢を生まないために話し方をそうしているだけで、深く狭い友人関係を望んでいると聞いたことがある。どうでもいい人間関係のわずらわしさから一時でも逃れるために屋上を利用するそうだ。
彼女のことは「巫女さん」と呼んでいる。初めて会ったときにそう呼べと言われた。よく呼ばれるあだ名らしく、なんでも本当に巫女の仕事をしているらしい。
そして彼女の横にぴったりとくっつく、この子のことも忘れてはいけない。
『ヒッキー、いっつも暇にしてやがる、です。いづなが遊んでやる、です』
この子はいづな。巫女さんの妹だそうだ。やたら小さいし言葉もたどたどしく、どうして高校に入れたのかわからないがとにかく俺の後輩に当たる。
いつも巫女さんと一緒にいるが、内向的というわけでもない。現に初めて会ったときもゲームをしようと持ち掛けられ、一緒に遊んだのはいい思い出だ。なお、全敗した。
よくなついてくれているので、癒しの一つとなっている。恥ずかしくて口に出すことも出来ないが、彼女たちがいてこそベストプレイスが完成するといってもいい。ただヒッキー呼びは止めてほしい。
『暇じゃないの。俺今飯食ってるから。今日は特に教室がやかましくて逃げてきたんだよ』
『ああ。なんや転校生が来たっちゅう話やないの。えらいべっぴんさんや言うてたけど、興味とかないん?』
『一目惚れしやがったか?です』
『そりゃあないかと言われれば興味はありますけど、話すことがないです』
『別になんでもええんとちゃう?転校生なんやったらなんでも話のネタになるやろ。得意教科でも、趣味でも、家庭環境でも、適当に思いついたこと聞いたらええやん。女子の話なんて大抵そんなもんや』
なるほど、一理ある。特に巫女さんの場合、リア充との会話をうまくやり過ごしてきた年上の女性というステイタスがあるためかなり意見に重みがある。ではせっかくなので適当に思いついたことを聞いてみるとしよう。
『じゃあ巫女さんは転校した先で知らない男子に「今日いい天気ですね」とか、「ちょっと教室暑くない?」とか、「髪切りました?」って聞かれたらどう思います?』
『…あんたの会話デッキそれだけなん?』
『個人的にはtier3くらいの強さだと思ってるんですけど』
『誰がどう見ても環境外やわ。もう少し女子受けのいいカード入れへんとこの先苦労するんとちゃう?』
『プレイヤーが環境外なんでデッキ強くしても意味ないんですよね』
『逆やろ。デッキが強くないからプレイヤーが環境外なんや。まともに受け答え出来ひんからできるだけ人から遠ざかろうとする。あんたの場合は少し違うやろうけど、似たようなもんや。もう少し自分磨きして、自信持ったらええ男になると思うで?なんやったら、あてが教えたる』
『いや別に…モテたいわけじゃないですし』
何やら勘違いしているようだが、1人でいるのは友達が作れなかったからでも、モテてないからでもない。友達を作らなかったのであり、自ら1人でいることを選んだのである。
友達を作るとどうなるか。内輪ノリに合わせたり、空気を読んで作り笑いを浮かべたり、興味のないエピソードトークを熱心に聞いたり、度々起こる乗り気じゃないイベントに参加せざるを得なかったり。誰がどう見ても1人でいる方が圧倒的に楽である。
その気になれば友達なんて余裕でできる。誰かさん曰く、3回喋ったら友達らしいからな。ちなみにモテるかどうかは諸説ある。
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さて放課後である。当然部活動なんぞに入っているわけもないので時間はあまりあまっているのだが、お説教のせいでいつもより帰るのが遅くなってしまった。
ちらほらと運動部の声が聞こえる。どうにもあまり好きになれそうではない。
何も考えずいつもどおり帰路につくべく下駄箱へ向かうと、そこには顔なじみがいた。ちょうど帰るところで鉢合わせたらしい。
『あ、先輩。お疲れ様ですぅ』
俺の存在に気が付くとご丁寧にもお辞儀をして挨拶をしてくるこいつはプラム・ストーカーと言う。名前にストーカーとついての通り、俺のストーカーである。たまたまなんだけどね。
めずらしく東京に出かけたら、なんということでしょう。とんでもない美少女が屈強な男の人に絡まれているではありませんか。誰か助けてやれよと目配せしつつ、触らぬ神に祟りなしと見てみぬふり一直線かまそうか悩んでいるところで、目があってしまったのだ。その後、気まずいながらも男たちに割り込み、「ごめーん、まった~?」作戦を決行したのち、「誰だお前」「今この子と話してるのわからない?」「とりあえず兄ちゃん金かせよ」カウンターを喰らいつつ、土下座モードに突入したところでたまたま見回りに来たおまわりさんに助けられた。歌舞伎町って怖いね。
ほとんど何もしてないし巻き込まれただけなのだが、外国人の彼女は勇気ある日本人に感銘を受けてしまったそうで。それ以降ストーカーになってしまったというわけだ。その出来事から1週間後に通ってる学校突き止めて転校してた時はそりゃあびっくりしたし、本人の口から『ストーキングしてこの学校まで追いかけてきました』と言われたときはもっとびっくりした。あと『ボク男です』と言われてよりびっくりした。せめて女であれよ。男にストーカーされてうれしい奴なんかおらんだろ。
とはいえ、視線が気になるとか変な贈り物してくるだとか害があるわけではないので特に気にしてはいない。強いて言えばどっから仕入れたかわからん俺の情報を当たり前のように持っていて、たまに会話してるとき怖いくらいだ。
『おう、お疲れさん。今帰りか?』
『ちょうどボクの委員会活動が終わるタイミングで、先輩が受けてるお説教が終わりそうだったので待ってたんですぅ』
『なんでナチュラルに上級生の地味な説教事情知ってんだよ…』
にっこりとほほ笑むプラム。どうやら、これ以上聞くのは野暮らしい。だから怖えって。
『そういえば今日、先輩のクラスに転校生が来たらしいじゃないですかぁ。可愛かったですかぁ?』
『美少女ってのは間違いないだろうな。一躍時の人だったし』
『注意したほうがいいと思いますよ?ボッチに優しいギャルは創作物の中だけですぅ。うっかり告白なんかしようものなら先輩の生活終わりですぅ』
お前は先輩を何だと思ってんだ。世界最強ともいわれるボッチのリスク管理能力を舐めるなよ?鋼の意志を越えるタングステンメンタル。ヘンダーソン先生も腰ぬかすレベル。八幡、千葉の名産ピーナッツ好き。
『まぁぶっちゃけて言うと転校生が可愛かろうとブサイクだろうとどうだっていいんですけどぉ。先輩この後暇ですよね?ちょっと付き合ってもらえませんかぁ?』
『どこか遊びにでも行きたいのか?』
『それができたらボクもうれしかったんですけどぉ…あいにく今日は別件ですぅ。なんか、先輩を呼んできて欲しいって言われたんですよぉ』
『誰に?』
『アズリール先輩ですぅ』
誰だ?マジで知らんぞそんな変な名前の奴。少なくとも同学年には絶対いなかったが…3年にそんな奴いたか?
俺が不思議そうに頭を悩ませていると、コロコロとプラムは笑う。こうしてみると本当に男には見えない。
『噂にはなってたので知ってると思ってましたが…やっぱり先輩らしいですぅ。アズリール先輩も今日転校してきたんですぅ。なんでも、先輩のクラスに転校してきた子のお姉さんだとか』
なるほど、姉妹そろって転校してきたというわけか。なら俺が知らないのも無理はないし、ジブリール同様日本人離れした名前なのも納得だ。
『で、そのアズなんたら先輩がどうして俺を?』
『知りませんよぉ…ボクはただ委員会帰りにお使いを頼まれただけですぅ。『キミ、暇だにゃ?適当に2年の男の子一人連れて4階文化室に来るにゃ』って言って断る間もなく走っていったんですぅ』
『じゃあ俺じゃなくてもいいじゃねぇか』
『よくわからない先輩のお願いを気軽に頼める男の先輩が比企谷先輩以外にいると思ってますぅ?』
…確かに。こいつも転校生だしな…見た目も相まって、そう気軽に男友達ができないとすら嘆いていたっけ。下心ありきの視線に鬱陶しさすら感じるとかなんとか。
『…まぁいい。とりあえず、ついていけばいいんだろ?』
俺がそういうと、プラムはぱぁと明るい顔をして俺の手を引っ張る。おいやめろ。そういうのはヒロイン枠がするもんだ。うっかり好きなのかと思っちゃうだろ。いやこいつストーカーだったわ。やだ、おれのこと好きすぎ?
『ありがとうございますぅ!じゃあ、行きましょう!』
うん、いい奴すぎるなこいつ。知りもしないやつのお願いを聞いてあげるに収まらず、得するわけでもないのに俺にありがとう、だと。いい奴すぎて泣けてきた。こんないい奴に迷惑をかけるのは忍びないから二度と関わらないようにしようと思いました。まる。
⬇︎next
プラムに連れられて文化室へとやってくる。確かこの時間は文芸部が活動しているはずだが。アズリール先輩とやらは文芸部にでも入ったのだろうか。
ドアを二回ノックし、返事を待つ。すると奥から『入るにゃ』と声が。これじゃ『入れ』なのか『入るな』なのかわからねぇだろうが。
少し思案しているうちに、先にプラムが『おじゃましますぅ』と入ってしまったので、仕方なく俺も続いて文化室に入る。中には見知らぬ女性が一人。おそらく彼女が俺を呼び出したアズリールとやらなんだろう。奥の回転する椅子に座って偉そうにふんぞり返っている。
なるほど、確かにジブリールの姉らしい。美しく長い髪と整った顔立ちは言うまでもないが、ジブリールと違ってどこか大人びた雰囲気が感じ取れる。場数を踏んできたというか、上に立つもののオーラとでも言えばよいのだろうか。ジブリールの親しみやすさのステータスを実力に全振りしました、みたいな。
『よく来たにゃそこな男。まぁとりあえず座るにゃ』
『はぁ、失礼します』
急に呼び出しといてなんだその態度、という言葉を一旦飲み込んでおとなしく席に着く。いくら変な人だったとしても、先輩は立てておくべきだろう。あとシンプル逆らいたくない。
プラムは立ったままおどおどとしている。自分も座るべきなのか判断しかねているのだろう。ちらりとアズリール先輩のほうに視線を向けると、アズリール先輩はもう用済みとばかりに、プラムをにらみつけていた。それに気づいたプラムは完全に委縮してしまい『じゃ、じゃあボクはこの辺で失礼しますぅ…』と先に帰ってしまった。
プラムが帰ったことを確認すると作ったような完璧な笑顔を向けて、話し始めた。
『はじめまして、かにゃ?ウチの名前はアズリール・ド・ラ・フリューゲル。本日付で転校してきた、2年のジブちゃんのおねぇちゃんにゃ。まずは君の名前を聞こうかにゃ?』
『はぁ、比企谷八幡です』
『比企谷八幡クン、うん、覚えたにゃ。よろしくにゃ?ところで比企谷クン、彼女とかいるかにゃ?』
初対面で聞くことじゃねぇだろ。何?気があんの?ないか。ないよね。知ってた。
『いません』
『じゃあ、好きな子とかいるかにゃ?』
『…いないですけど』
『じゃあ逆に女性が苦手だったりするかにゃ?』
『苦手と言えばそうなんじゃないですか?女性も男性も苦手です』
『うーん、適当に選びすぎたかにゃあ?でも、面倒くさいしキミでいいにゃ』
何だその言い草は。先輩じゃなかったら速攻逃げてるぞ。というか、ほんとに何の用事なんだよ。
アズリール先輩は作った笑い顔から神妙な面持ちになって、話しかけてきた。
『キミに、一つやってほしい仕事があるにゃ』
『いやです』
逆らったらまずそう、という思考が置き去りになるほどに早く俺の口は動いていた。
『キミには、ジブちゃんに近づくゴミを排除してほしいのにゃ』
人の話聞けよ。大丈夫?この年で難聴とか笑えないよ?
『ジブちゃんはとてもとてもかわいくて…クソったれの男どもが後を絶たないにゃ。だから、キミにはそんな男どもを海の藻屑にして欲しいのにゃ』
ヤクザの孫娘か。高校生に求めるハードルじゃなくなってるんだが。言いたいことはわかるけども。
『ボディーガードでもしろと?言っときますけど、転校初日だからちやほやされてるだけで数日もたてばおさまりますよ。美人は3日で見慣れるって言うでしょう?相手にされないと分かれば男は寄り付かなくなりますって』
『甘いにゃ。前の学校ではジブちゃんの美貌のせいで学級崩壊が起こったにゃ。早めに手を打たないとあの時の二の舞にゃ』
もしかして転校の理由それ?すげぇな。まぁたしかに可愛かったけど。学級崩壊が起こるまでではなくない?
だがまぁありえなくもないか。今日のクラスとんでもなく騒がしかったしな。あれがずっと続くならそんなことも起こりうるんだろう。
『まぁ百歩譲って理由に文句をつけないとして、自分でやればいいじゃないですか。あと、先言っとくと俺やりませんから』
『前やったらやりすぎて男子がジブちゃんの周りから跡形もなく消え去ってて、ジブちゃんに死ぬほど怒られたにゃ』
『なにしたんですか』
『本当に知りたいかにゃ?』
『…いえ、結構です』
マジでなにしたんだ。校舎裏にでも呼び出してリンチでもしたのん?なんか腕っぷしも強そうだし、あながち間違ってもないかもな。
『他人に任せるなら、合理的に考えてジブちゃんと同じ学年の子がいいにゃ?』
『女子でなく男子である理由は?あと、俺やりませんから』
『ウチは『剣は絶対にペンより強し』をモットーに生きてるにゃ。いざとなれば力づくでもジブちゃんから男を引きはがす必要がある…となれば、男のほうが合理的にゃ?』
『男子に任せたらそいつがジブリールと近くなりますけど、いいんですか?あと、俺やりませんから』
『安心するにゃ。キミは多分ジブちゃんと近づくことはないにゃ。もし近づいたら東京湾に沈めておくにゃ』
なにするつもりなんだ。あとやらねぇって言ってんだろ。
『俺やらないって言ってるんですけど』
『強情だにゃあ…まぁ別にキミである必要もないけどにゃ。でも本当にいいのかにゃ?』
『面倒くさいじゃないですか』
後普通にアンタが怖い。お近づきになりたくねぇ。ジブリールとお近づきなったらセットであなたもついてくるんですよね?もうこの世の男子全員近づいてこねぇよ。
『ちなみに引き受けてくれたら給料も出すにゃ。最初に言ったにゃ?これは仕事にゃ。基本的にはジブちゃんの周りの怪しげな男を見張って逐一ウチに報告する、ただそれだけの仕事にゃ』
『…ちなみにいくらですか?』
『一日1万だすにゃ』
『やります』
⬇︎next
比企谷八幡、人生の最大の失敗。金に釣られてつい了承してしまった。報告先としてアズリール先輩のアドレスもゲットしたが、全然嬉しくない。高校入ってから初めての女子の連絡先なのに…。
しかも長々と話し込んでしまったせいで帰るのがだいぶ遅くなってしまった。あいつ怒ってんだろうな…。
家に帰って、そーっとリビングの扉を開ける。そこには、下着姿の義妹が仁王立ちで立っていた。
『遅い!私、心配したんだからねっ!!』
『わ、わるい。ちょっと先生に怒られてて…というか服を着なさい。風邪ひいちゃうでしょ』
『普段からほぼ全裸で泳いでるんだから寒さには耐性あるもの』
『女子のスク水見てほぼ全裸だと思ったことねぇわ』
軽口をたたきながら、台所へと向かう。おなかすいたー、と足をジタバタするだけのライラを尻目に夕飯の準備を始める。
ライラ・ローレライ。父親の再婚により生まれた俺の義妹だ。勉強、家事、運動全般できないが、水泳だけは何故か得意で日本一の早さを持つ。見た目は可愛いので、キャラクターとしてそりゃあモテる。俺だって同級生なら告る。今月だけで10人に告白されたらしい。全部フったらしいが。なぜかって?
『おにーちゃんすきー』
ブラコンなのである。重度の。
『俺も愛してるぞー。だから夕飯作るの手伝って?』
『S〇Xしてくれたら手伝ってあげるー』
『聞かなかったことにしてやるから大人しくテレビ見てろ』
『…はーい』
とまぁこんな感じで隙あれば襲おうとしてくるのだ。キスやハグならまだしも、初手から最高火力たたき出してくるのがヤバイ。正直まんざらでもないのでうっかり理性が働かんようなら手を出してしまうだろう。義妹とは一応結婚できるしなぁ…。
寝込みを襲われたときは流石にもうやっちまおうかと思ったが、すんでのところで親に見つかってなんとか致さずに済んだ。なお、俺がしこたま怒られた。解せぬ。
何で手を出さないかって?いやそりゃあ…ねぇ?一応、今まで妹として見てきたし?なんか、常識的に考えてってやつ?
そんなことを考えているうちに夕飯が出来上がった。今日のメニューはカレーだ。一人分ずつ皿によそっていき、ライラのには仕上げにハバネロペッパーを気持ち多めに振りかけておく。
『できたぞ』
『ありがとう!おにいちゃん大好き!』
ぴょこぴょこという効果音が似合いそうなほどに可愛らしくやってくるライラに、カレーを手渡す。待ってましたと言わんばかりに椅子に座る前に食べ始めてしまった。
『辛い!痛い!美味しい!』
水欲しい!と叫びながら、パクパクと食べ続ける。手元に水はあるというのに一口も手を付けていないところを見ると、そういう食べ方が好きなんだろう。
『ライラって、本当に辛い物好きだよな。見てるこっちが痛くなってくるわ』
そういうと、ライラはスプーンの手を止めて、何を言っているんだ?と言いたげな表情を浮かべた。
『は?嫌いだけど?私外では基本甘いのしか食べないし。だれがこんな辛いだけのものを好き好んで食べるのよ』
お前それブーメランだってわかってる?さっき美味しいっつってただろうが。
『じゃあなんで俺の料理には必ずハバネロかけろって言ってくるんだよ』
『だって、それくらいでしかお兄ちゃんがいじめてくれないんだもの』
―――はい?いじめてくれない?
『おにいちゃんは私が何度お願いしても殴ったり蹴ったりしてくれないじゃない?』
『当たり前だろうが。千葉の兄妹にそんな人でなしはいない』
『放置プレイも嫌いじゃないけど、やっぱり拒絶されてる感が薄いのよね。普段の生活態度で嫌悪感まるだしとかならまだ我慢できるけど、おにいちゃんの場合は最低限の愛情はもってくれてるみたいだし、なんというか不完全燃焼なの』
『何の話してんの?』
『でもそれとなく私の嫌いな食べ物とか辛い食べ物とかがおにいちゃんから出されると、不味くて、つらくて、苦しくて、吐きそうで…『私の本当に好きな食べ物は知らないんだ…いつもは優しいけど、やっぱりわたしに興味なくてどうでもいいって思ってくれてるんだ』って感じですっごいゾクゾクするの。ああ、ダメ、話してたらなんかイキそう…♡』
『ええ……』
そういえばこいつ、厄介ドМだった。自分のことが好きじゃないやつが好きとかいうどうにも救えない性癖をお持ちの義妹は、どれだけアピールしても決して手を出そうとしない俺に熱烈というわけだ。
『お前俺に惚れてほしいんじゃないの?それとも嫌われたいの?』
『惚れてほしいに決まってるじゃない!でもすぐ手に入ったら面白くないでしょ!?今すぐにでも振り向いて愛してほしい…でも全然振り向いてくれない…何度も何度もアピールして、自分の全部をあげて、それでも足りなくて、もどかしくて泣いてすがりたくなって、手の打ちようもなくなって、ようやく少し希望の光が見えたと思ったらそれも勘違いで…そういうのを繰り返していって、最終的に向こうが折れてしぶしぶ関係が持てるようになるのがいいんでしょうが!!』
『…どこで育て方間違えたんだろう』
⬇︎next
自室に戻って、ふぅと一息。
今日は中々大変な一日だった。
クラミーには思いっきりビンタされ、ステファニーにはお小言を言われ、巫女さんには心をえぐられ、プラムにホイホイついて行ってみれば転校生(姉)から半ば強制的に転校生(妹)のお目付け役に任命され、義妹の性癖を再認識させられてしまった。
なんじゃこりゃ。いづなくらいしか癒しがねぇじゃねぇか。
さてと。これからどうしようか。
→とりあえず部屋で小説を読む
→電話をかけてみる
→何もせずそのまま寝る
………。
……。
…。
「あ、自由に動ける」
頭の中に勝手に流れてきていた地の文も止まって、ようやく自由が手に入った。思考もクリアになり、言いたくもないセリフが勝手に口から流れ出てくることもない。一挙手一投足が縛られることなく動かせることの幸せを再認識させられた。
いや、というより。
「チュートリアル長すぎんだろ!」
時は少し前にさかのぼるが、空の自慰行為(笑)を手助けするとかいうふざけた理由で空と白以外の知り合いをすべて集めてゲームをしなければならなくなった俺は、頭を抱えた。
その結果、半ば拉致という形で空間転移により一瞬で全員をオーシェンドに集合させ、何も説明なくゲームの開始を宣言したのである。十の盟約どうなってんの?とつっこみたくなるが、一応拉致る際に「マスターがおよびですので転移させますね」と一応断りを入れてはいたらしい。そんなんで盟約が無効化されたらたまったものではないが事実転移しているので受け入れるしかなかった。
しかし拉致はできてもゲームの参加意思は当人たちに委ねられているので、ゲーム内容の把握と報酬の詳細がなければだれも参加することはないのだが、天使様は当然準備をしていたらしく、
「ゲーム内容は『恋愛シミュレーションゲーム』。マスターの好感度を稼ぎつつ、マスターの恋人に選ばれれば勝利となります。勝利報酬についてですが、勝者はマスターに対して、なんでもひとつ命令を下せる、というのはいかがでしょう?基本自由に動いてもらって構いませんが、一部イベントなど固定ストーリー展開の際には発言、思考、行動が制限されますのでご注意を。魔法や血塊、水精の加護などは無効化され、素のステイタスのみが反映されますので純粋な恋愛勝負になります」
と。俺に何でも命令できるとかいう誰得報酬ではあるが、そもそも報酬にされたくはないので抵抗するも、むなしく押し切られた。
当然ジブリールは参加。
という流れで全員参加することになり、ジブリールが企画提案しそれを
まぁそんな流れで今ゲーム中なのは理解している。チュートリアルだから発言、思考、行動が制限されていたのも納得できる。しかしだな。
キャラ紹介で一日終わったけど?正気か?1ヶ月くらいやらせる気じゃないだろうな?まさかリアルの方で流れてる時間はもっと短いとか言わないよな?
(残念でした~そのまさかで~す)
「うわっ」
頭の中にアミラの声が聞こえる。進行役ってこういうことかよ。
(今多分始まってから1時間くらいだよ~?)
「嘘だろ…!?3日ってことは…単純計算で72日も!?」
2ヶ月もやるとか正気じゃねぇ。止めだ。やってられねぇ。リタイアしまーす。
(それ無理♡マスター君以外はリタイアできるけどね~☆)
「クソゲーすぎる」
やっぱりジブリールに任せるんじゃなかった。もう二度と人に任せない。天使だったわ。
(それより早く選択肢選んだら~?ストーリー進めずに放置してもいいけど、クリアしないと結局出られないんだから余計な時間食うだけだよ~?)
「うるせぇ。部屋でゴロゴロするっていう選択肢を選んだんだよ」
(あはは~♡おもしろ~い♡でも~ほんとうにそれでいいの~?)
「なにがだよ」
(このゲームって~
「…は?」
→とりあえず部屋で小説を読む
→電話をかけてみる
→何もせずそのまま寝る
→とりあえず部屋で小説を読む
→電話をかけてみる
→何もせずそのまま寝る
new!
→部屋でゴロゴロとする←choice!
どたどたと廊下から誰かが走ってくる音がする。何だかまずい気がしてきた。急いで扉の鍵をかけようとするも、一足遅く侵入者が入り込んできた。
「あなた!…じゃなかった、おにいちゃん!今暇?暇でしょ?ごろごろしてたもんね?S〇Xしましょ大丈夫天井のしみかぞえてるあいだにおわるからはやくズボン脱いでっ!!」
「うぉおおおっ!!!???ライラ止めろっ……!?というか今更だけどお前が妹枠は無理ありすぎっ……て力つよっ!?」
嘘だろ!?選択肢選んでも選ばなくてもストーリーが進行するのかよ!?初手の選択でライラ義妹逆レエンドはシャレにならなすぎるっ……。
しばらくライラとつばぜり合い(負け気味)をしていると、俺の部屋の窓がガラリと開いて、救世主がやってきた。そうか。俺には幼馴染がいた。
何が目的だったのかは知らないが、幼馴染枠のクラミーが耳を赤くして寝間着姿でやってきた。その後、部屋の惨状をみて顔まで真っ赤に染まっていく。
「八幡今日一緒に……ってあんたたちなにやってんの!?まだ初日の夜でしょ!?飛ばしすぎよ!」
「
「ええ!?ど、どうしよ……フィー!フィー!?早く来てー!!」
その後、フィールの助けもありなんとか喰われずに済みました。今後はおとなしく選択肢を選ぼうと思います。
→とりあえず部屋で小説を読む
→電話をかけてみる
→何もせずそのまま寝る
new!
→部屋でゴロゴロとする←choice!
→とりあえず部屋で小説を読む
→電話をかけてみる
→何もせずそのまま寝る←choice!
new!
→部屋でゴロゴロとする
⬇︎next
次話、作れるかなぁ…。