さて二日目である。
やかましいオープニングとチュートリアルが終了したところでようやく本題として自由にゲームができるわけなのだが、そうはいってもやはりギャルゲーというべきか。常々現れる選択肢に頭を悩ますことになる。
→いつも通り時間ギリギリに登校する
→今日は早めに登校してみる
寝て起きたらこれか。自由とは何かを疑いたくなるな。
しかしせっかくギャルゲーの世界に入り込んだのなら楽しまなければ損だ。こんな経験めったにないしな。思う存分ちやほやされるとしよう。現実世界に戻ってから何か言われても、『ゲームの強制力が』とか言えばなんとかなるだろう。
となれば、誰のルートを選ぶかが重要になってくるわけだが。とりあえずライラ義妹ルートは却下。第一候補はクラミー幼馴染ルート、あるいはステファニー委員長ルートが安パイか。彼女らならぶっ飛んだ事はしないだろうし、普通のギャルゲーにありがちな普通の恋愛をすることができるだろう。他のルートは予想できそうにないのでできる限り避ける方向で行こう。
そうするとギリギリに登校すればクラミールートにはいけるはず。おそらく早めに登校したら優等生のステファニールートに行くだろうがジブリールやアズリールにつかまる可能性も大いにある。今回は無難にギリギリに登校しよう。あとわざわざ早くいくのめんどくさい。
→いつも通り時間ギリギリに登校する←choice!
→今日は早めに登校してみる
今日も今日とて遅くなってしまった。まぁ自分で選んだんですけどね。玄関のドアを開けると、予想通り幼馴染枠クラミーが立っていた。昨日のチュートリアルとは少し変わって不機嫌そうな顔だったが、俺に気づくと驚いた表情を見せていた。
「驚いたわ。無駄足になるかと思ってたのに。てっきりもう学校に行ったものだと思っていたのだけど」
「まぁ、わざわざ早起きする理由もないんでな」
それだけ言うと、俺はクラミーの横を素通りして学校へ向かう。すたすたと歩みを進める俺の後ろを何も言わずクラミーはただ追いかけてきた。
ギャルゲーであればこのタイミングで手をつないだり和気あいあいと話に花を咲かせながら親密度をあげるのであろうが、悲しいかな。そんなことができるのならリアルでぼっちを極めていないのである。昨日の登校時と同一人物か?と疑いそうになるくらい無言で距離を開けて歩き続ける男女二人。はたからみればこれが幼馴染とは誰も思わないだろう。
しばらく歩いていると、しびれを切らしたようにクラミーが声をかけてきた。
「ねぇ、あなた、これからどうするつもりなの?」
「どうって、普通にギャルゲーやり遂げるしかねぇだろ。お前らと違って俺リタイアできないらしいし」
「そうじゃないわ。なんでこんなゲームやらせてるのかって聞いてるのよ」
ピタリと足を止め、クラミーに振り返る。その表情はいたってまじめで、俺のうちに隠された真の目的を読み取らんとする獲物の目をしていた。
「勝者には報酬、ペナルティはなし、あなたは損するだけ。冷静になって考えてみれば、全員が全員のらざるを得ない条件。あなたが自分からこんな訳の分からないゲームを持ち掛けるなんてありえないわ。おおかた、空に言われて仕方なくやらされてるってとこでしょうけど、目的は何?いいえ、目的は時間稼ぎ、でしょう?空たち以外の有力者たちを一つに集めて、邪魔が入らない状態を作り出したうえで他種族に攻め込む準備を整えるつもりなんでしょう?」
違います。空がオ〇ニーしたいだけです。
「私たちに言えないような計画があることは理解しているわ。空の思考を共有したことのある私だからわかる。でも、あなたが知っている範囲で教えられる部分だけでいいから教えてちょうだい。空は、これから何をしようとしているの?」
ご明察の通り、空はこれからナニをしようとしています。
とは流石に口が裂けても言えないので、それっぽくごまかすしかなかった。
「…まぁ、半分くらいは当たってはいるが、それ以外は見当違いだ。それに、仮に推測が当たっていたとして、空はそんな計画を俺に話したりしない。だから俺は何も知らん」
「…そうかもね。ごめんなさい、忘れて」
再び歩きはじめるも、先ほどより空気は悪くなって会話も生まれなくなってしまった。早く来てー!フィールさーん!!!
「ちなみにフィーは今日美化委員の活動で先に行ってるわ」
なんてこった。きまずい。
せっかく選んだクラミールートにもかかわらず、親密度を上げるどころか気まずくなってしまいましたとさ。笑えねぇ。
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時間ギリギリに教室に行くと、何やら騒がしかった。
ジブリールを囲う男子どもがわめいているようだが、どうにも様子がおかしい。なんだか険悪な雰囲気が漂っている。ステファニーが仲裁に入っているものの、めずらしくあまり効果がないようだ。ちらりとステファニー視線をむけると、彼女も俺が登校してきたことに気づき、近づいてきた。
「八幡、なんとかしてくださいな」
「何も状況をわからない俺にどうしろと?」
「実は誰がジブリールとデートに行くかという話で盛り上がってしまい…ヒートアップして喧嘩騒ぎに…」
嘘だろ?昨日のアズリールが言ってた設定本当にありえるっていうのか?放置してたら学級崩壊待ったなし?
「というか、もうホームルームの時間なのになんでまだ先生こないんだよ。あの人来たら一発で静まり返るぞ」
「本日平塚先生は体調不良で休暇を取っているらしくて……ホームルームはクラス委員長の私に任されたんですの。でも、男子たちがあれよあれよとジブリールの方に勝手によっていって話を…」
なるほど、先生休んだのか。珍しい。そしてクラス人気の高いステファニーを差し置いて余りあるほどのジブリールの人気。これで嫉妬してないステファニーは本当にいい子だと思う。
ジブリールの顔を盗み見ると作ったような笑顔を張り付けているだけで仲裁どころか完全無視である。いつものあいつなら自分で毒舌吐いて蹴散らしそうなもんだが…。やっべなんか睨まれた。そんなこと思ってませんよ?
ジブリールの目の前が俺の座席なのだが当然占領されているので、遠巻きから様子を窺っていると、ジブリールの口が動いていた。周りの男子は喧嘩に夢中で全く気付いていないようだが、何か言ってる?
『た』
『す』
『け』
『て』
……。自分で何とか出来るだろう、というツッコみはさておいて。まぁ、ご主人様だしな。これでジブリールの策略だったらお見事である。
ステファニーに後は任せた、と軽く断りを入れて喧嘩中の男子の群れにつっこむ。わけもなく教室から出て迂回して裏からジブリールの元へ。教室の一番後ろの席でよかった。
「ジブリール、ちょっといいか」
いきなりジブリールに話しかける俺に、喧嘩をしていた男子どもも視線を向けた。何抜け駆けしようとしているんだ、という声が出てきそうなすんでのところで、ジブリールが口を開いた。
「何の御用でしょうか」
「お前の姉が呼んでる。なんか話すと長くなりそうだから内容は直接聞いてくれ」
そういうとジブリールは怪訝な表情を浮かべた。姉、という単語に引っかかっているらしい。アズリールがお姉ちゃんっていうのはゲーム内の設定ってだけだからな。慣れるのに時間がかかっているのだろう。
「姉?……ああ、アズリール先輩のことですか。すでにホームルームは始まっておりますが?」
「緊急の要件なんだとよ。遅刻ギリギリの俺に、焦ってジブリールを呼んでくるよう命令するくらいだ。直接メールすればいいのにな」
「……さようでございますか」
ガタリと音を立てて立ち上がり、もめていた男子たちに向けて失礼いたします、と一言。取り巻いていた男たちは、喧嘩なんかそっちのけであいさつされたことに顔を喜ばせている。ジブリールの姉が呼んでいるとなればないがしろにはできないだろうとふんだが、理由なんかなんでもよかったらしい。流石はジブリールさんの美貌。俺でなきゃ嫉妬しちゃうね。まぁいい、後はアズリールに上手い事対応してもらうように連絡をいれておけば…
そんなことを考えながら、ポケットから携帯を出そうとしていると、ジブリールは俺に向かって手を差し出した。
「では連れて行っていただけますか?」
男子の怒りが再燃した気がした。ばかやろう空気読めよ。
「いや、俺はただ伝言役で……」
「アズリール先輩の所属するクラスを存じておりませんので。よろしければ道案内をお願いしても?」
にっこりとほほ笑むジブリールと対照的に、ひきつった笑顔を浮かべてジブリールとともに教室を出た。流石に手を取ることははばかられたのでただ先導する形になってしまったのは許して欲しい。だれに許しを請うてるんだ俺は。
アズリールに連絡を入れる時間はなかったので、本当にアズリールのところに連れて行くわけにもいかない。それに俺もアズリールの教室知らねぇよ。上級生のクラスなんかいくことねぇだろ。
どうしようかと悩みながら階段を上っていると、踊り場に来たところでジブリールが俺の手を掴んだ。ぐいと引き寄せられ、ジブリールに壁ドンされる。
「ぐっ……なにすんだ」
「及第点、でございますね」
顔を近づけられ、目を覗き込まれる。視界に移る十字の瞳に、こころを見透かされているような気さえしてくる。
「アズリール先輩が呼んでいる、など嘘でございましょう?イレギュラーが起こるのは
「お前が助けろって言ったんだろうが。それに俺はお前を教室から出そうとしただけで、ついてくるつもりはなかった」
「はて?記憶にございませんね。マスターの勘違いでは?」
白々しい。しかし白を切られてしまってはこちらもどうしようもない。あくまでジブリールが「助けて」と言っているように俺からは見えただけの話で、本当にそんなことを言っているわけではなかったかもしれないのだから。
ジブリールは押し黙ってしまった俺を見て、クスリと笑った。
その笑みには、いつもの余裕があった。けれど、どこか嬉しそうで、ほんの少しだけ照れくさそうでもあった。
「ですが」
そう一息ついて、掴んでいた俺の手首をそっと離す。次の瞬間、ジブリールはそのまま、俺に抱き着いてきた。
「……っ」
あまりにも突然のことで、息が止まる。
胸に触れる柔らかな感触。背中へ回された細い腕。肩口をくすぐる白い羽の、ふわりとした肌触り。そして、すぐそばから漂ってくる甘い香り。
何もかもが近すぎた。
まるで今まで知らなかったジブリールの一面を、一度に見せつけられているようなそんな感覚。
いつも一緒にいたのに。初めて会ったあの時から、あの図書室で、お前がなんやかんやと俺をいじって、それを適当な屁理屈で煙に巻く、そんな毎日を過ごしてきた。
長く一緒にいるから分かり合えるなんてのは幻想だ、だからこそお前のことを分かっているなんていうつもりはない。ないが。でもそれ以上に、分からない。そんな気がしてならなかった。
いつも飄々としていて、いつも俺のことをいじってきて、いつも俺のことをマスターと呼んで敬ってくれて、何度か好きとか愛してるとか言ってくれた。俺はお前にとって、ただの観察対象でしかないはずなのに。本当に、何を考えているのか分からない女。
そんな彼女が今、俺の腕の中にいる。ジブリールの女性らしさを否応なく感じてしまい、体が勝手に反応する。
それをごまかすように、ついうっかり、ぎゅっと抱きしめ返してしまった。
すると、腕の中でジブリールが小さく身じろぎする。ジブリールはふふっと笑うと、耳元に唇を寄せるようにして、囁く。
「うれしかったです。とても」
時間が止まった気がした。
耳元で直接落とされたその言葉が、胸の奥へまっすぐ突き刺さる。心臓が、一度だけ大きく跳ねた。言葉を飾らず、シンプルに。だからこそ、その一言がひどく心深くまで入り込んできた。
たいしたことはしていない。
悪の組織から救い出したわけでもない。命の危機に陥った彼女を、間一髪で助けたわけでもない。ましてや、愛の告白をしたわけでもない。ただ、教室から連れ出しただけだ。それも、俺から進んでのことではない。ただ流れに身を任せた結果でしかないのに。
それなのに。
かつて、彼女から「うれしい」と言われたことがあっただろうか。「好き」とも「愛してる」とも違う、そのどちらにも負けないほど胸を満たしていく、不思議な喜びだった。
自分でも名前をつけられない感情が、じわじわと胸の内側を熱くしていく。そんな俺の動揺など知ってか知らずか。ジブリールは、うろたえている俺の頬に軽く唇を触れさせた。
ほんの一瞬。それだけだった。けれど、その一瞬がやけに長く感じられた。
離れていく彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっている。その表情を見た瞬間、ドクン、と心臓がまた大きく鳴った。
「愛しています。
壁ドン。
キス。
告白。
そして、名前呼び。
これまでまともに受けたことのない、慣れない愛の猛攻が、まるで一撃ずつ確実に俺の防御を削っていく。
まずい。本当に、まずい。
めっちゃ好きかも。
そんな言葉が、頭の中に浮かんでしまう。ヤバイ。このままだとジブリールルート入るぞ。
「……お前、前に恋愛でもしたことあんの?」
苦し紛れに、ようやく口から絞り出した言葉だった。少しでもこの熱を冷ましたかった。この胸の高鳴りを、別の何かにすり替えたかった。
けれど、その問いかけはむしろ自分自身に向けた最後の一撃だったのかもしれない。
「いえ。
あまりにも迷いのない答えだった。
それだけ言うと、ジブリールはくるりと身を翻した。白い羽がふわりと揺れる。そのまま、何事もなかったかのように先に階段を下りていく。
俺は、その背中を追いかけることができなかった。
ただ、その場に立ち尽くしてしまう。階段を下りていく彼女の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
やがて振り返ったジブリールが、いつものような笑顔を浮かべた。
「また何かあったら助けてくださいね、マスター」
その言葉だけが、いつまでも耳に残った。静まり返った踊り場に、一人取り残される。
頬に残った、ほんの一瞬の柔らかな感触。
腕の中に残る、羽の感触。
耳元に残る、あの囁き。
そして――。
「最初で最後」という、あまりにも甘く、重い言葉。それらが頭の中で何度も何度も繰り返される。
もう、まともに考えられなかった。
一人踊り場で立ち尽くす俺の頭の中には、ただひたすらに、邪な思いだけが残っていた。俺の負けだよ。ちくしょう。
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さて、気を取り直せず昼休み。
本日二回目になる選択肢の登場である。
→教室で昼食を食べる
→食堂へ向かう
→屋上に行く
→文化室へと向かう
→図書室へと向かう
→早退する
うーんなんともまぁご丁寧に。つまりはこういうことだろ?
→教室で昼食を食べる ステファニーorジブリール
→食堂へ向かう クラミーorフィール
→屋上に行く 巫女さんorいづな
→文化室へと向かう アズリール
→図書室へと向かう プラム
→早退する ライラ
もういっそのこと先生の家にお見舞いに行ってやろうか。先生裏ルート入れたりしない?しないか。
さっきのことがあったからジブリールとは目が合わせられないので教室は却下。食堂は人が多いので却下、アズリールは苦手なので却下、プラム男の娘ルートはまずいので却下、早退したら喰われるので却下、となれば必然的に屋上へ向かうほかない。昨日と同じことしてない?
→教室で昼食を食べる
→食堂へ向かう
→屋上に行く ←choice!
→文化室へと向かう
→図書室へと向かう
→早退する
屋上へと向かうとすでに巫女さんは昼食を取っていた。俺の存在に気付いた巫女さんは軽く困ったような様子でひらひらと手を振る。
「あてのところに来たんかいな。ほんにようわからん男やねぇ」
「いろいろあるんですよこっちも」
巫女さんの隣に座って昼食を取る。購買のパンをむさぼりながらちらりと巫女さんの弁当を見てみる。なるほど。おいなりさんか。
しばらく無言でお互いに食べ進めていると、ふと俺の頭に「何か足りない」という思考が降ってくる。そうだ。今日彼女はどうしたのだろうか。
「いづなはどうしたんですか?」
「ああ、いづなにはリタイアしてもろたわ。しばらく見とったけど、あの子には恋愛なんてまだ早すぎる思うてな」
なんということでしょう。癒し枠が一番最初にリタイアとは。こっからどうやって過ごせって言うんだ。
あと、それってまずくないか?いづなにエルキアに行かれでもしたらすべて水の泡なんだが。
「おい、アミラ。聞こえるんだろ?いづなっていまどうしてんの?」
(ん~?別に~どうもしてないよ~?そもそも
「は?どういうことだよ」
(このゲームってリタイアが認められてるんだけど~
流石、きちんとジブリールは考えていたらしい。これなら自然と脱落することができるうえ、時間稼ぎという必須事項もきちんとなすことができる。どうやら心配するだけ無駄だったようだ。
「あても時間の無駄やからリタイアしよ思うとったんやけど、抜けられへんからどうもな。一縷の可能性にかけて残っとるんよ。また騙された気分やわ」
はぁ、とため息をつく巫女さん。頬に手を当て眉間にしわを寄せているその様はまるで仕事に疲れたOLのようである。
「騙すも何も、俺何もしてないんですけど」
「ほな聞こか?参加費無し、優勝したら景品負けてもあてらにデメリットは無い、しかもその上リタイアもできる。そう聞いて乗ってみれば実態は勝利の可能性ほぼゼロ、リタイアしてもゲーム終了まで最低3日間は拘束され続けて、外の様子は一切分からん。その上いつ終わるかはアンタ次第。これを騙してないって言いはるんかいな?」
ごめんなさい。でもそれ俺がやってるわけじゃないんです。ジブリールが勝手にやってるだけで俺がやりたいわけでもなければ空の手伝いをしているだけなのでございまして。
沈黙で答えを返した俺を見て、巫女さんはまたため息をついた。
「ま、騙されるほうが悪いのは確かやね。いずれにせよ、
あんたが女で、あてがいのやったらなんとかなったかもしれへんけど、と付け加え自虐的にからからと綺麗に笑う。
「……卑下しすぎじゃないですか?少なくとも
「言うたやろ?
あの頃、というのは対戦時代のことを指すのか、それとも東部連合成立までの苦難のことを指すのか、それはわからなかった。戦争も、ただ一人で国をまとめるなんて偉業も経験したことがない俺にとっては、どちらもそう簡単に尋ねるというのははばかられたからだ。
巫女さんは、「そうですか」としか返せない俺を見て困ったように笑うと、せやから――と食べ終わった弁当を持って立ち上がり、大人の余裕を感じさせながら続けた。
「残る可能性……あんたが勝手にあてに惚れるんを待つわ。あんたが言うにはあてはええ女らしいからなぁ、変な男に釣られるより先に、早う捕まえてくれると助かるわ。なんにせよ、あてから手を出すことはないから安心しとき」
そう言って、そのまま屋上から出て言った。「昨日みたいに相談には乗ったるさかい、また声かけてな」と去り際に短く言い残して。
「……やっぱり、いい女ですよ。あなたは」
ひとりでに呟いたその声が届くはずもないのに、巫女さんがカラカラと笑っているような気がした。
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放課後に入る前に、まさかの強制イベント発生である。
しかも場所は、教室移動中の廊下。
次の授業が始まるまでそう時間もなく、廊下には同じように教室を移動する生徒たちが行き交っている。友人同士で話しながら歩く者、教科書を片手に急ぎ足で目的の教室へ向かう者。窓から差し込む午後の光が床に細長く伸びていて、どこかいつもより騒がしく感じる。
そんな中、俺は聞き覚えのある声を耳にした。
『あ~っ、比企谷君を見つけたのですよ~』
声のした方へ振り返る。すると、人の流れの向こうから、小さく手を振りながらこちらへ歩いてくるフィール先輩の姿が見えた。
長い髪が歩くたびにふわりと揺れ、その頭から伸びた特徴的なエルフ耳も、嬉しそうにぴこぴこと動いている。どうやら向こうも俺を見つけたらしい。
こちらに気づいたことがよほど嬉しいのか、フリフリと可愛らしく手を振ってくる。
……悔しいが、ドキリとしてしまった。
こういうところがずるい。
普段から距離が近いせいで、最近ではフィール先輩のこうした仕草にも多少は慣れてきたつもりだった。それでも、不意打ちでやられると未だに反応してしまう。
『どうも』
努めて平静を装い、軽く手を上げて返事をする。
しかし、フィール先輩は俺の素っ気ない反応が気に入らなかったらしい。さっきまで笑顔だった表情が、見る見るうちに不満そうなものへ変わっていく。
『む~。比企谷君がそっけないのですよ~』
そう言いながら、俺のすぐ目の前までやってくる。そして、少しだけ頬を膨らませた。
『朝会えなかった分、もっと私に構って欲しいのですよ~』
『そうはいっても、そんなに時間があるわけじゃないですし……』
俺は廊下の先にある時計へちらりと視線を向ける。次の授業が始まるまで、そう長くはない。
『それに、普段から日常的に構ってるじゃないですか』
そう答えると、フィール先輩は一瞬だけ黙り込んだ。
そして――
あからさまに機嫌を悪くした。頬をぷくりと膨らませ、眉を少し寄せる。「私は不満です」と顔全体で主張しているような表情だった。
……可愛い。
いや、違う。そうじゃない。
俺は何とか表情に出さないようにする。
しかし、そんな俺の内心など知る由もないフィール先輩は、しばらく俺の顔をじっと見つめていた。
やがて、その瞳が何かを思いついたように輝いた。…嫌な予感がする。
『そういう悪いことを言う口には~』
フィール先輩が一歩、こちらへ近づく。
『お仕置きが必要なのですよ~』
そう言った瞬間だった。
両手が伸びてきて、俺の頬をむにっと掴んだ。
『ひゃめてくらはい』
『だめなのですよ~』
左右から頬をぐにぐにと引っ張られる。思った以上に容赦がない。
『私に構ってくれたら止めてあげるのですよ~』
そう言いながら、フィール先輩は楽しそうに俺の頬をいじり続けている。
口元には、完全にいたずらが成功した子供のような笑みが浮かんでいた。
周囲から見れば、何をしているんだこいつら、という光景だろう。実際、廊下を通り過ぎる生徒の何人かがちらちらとこちらを見ている。
……気にしないことにした。
このままフィール先輩の好きにさせておくのも、別に悪くはない。
むしろ、こうして楽しそうにしている姿を眺めているのは嫌いではない。
ただ――。
そろそろ本当に授業が始まる。
それに、いつまでも一方的にやられっぱなしというのも癪に障る。
どうしたものか。
頬をいじられながら、そんなことを考える。
そしてふと、俺の視界の端に、あるものが入った。
ぴこ。
ぴこぴこ。
フィール先輩のエルフ耳が小さく動いている。
……なるほど。
これはもう、仕返しするしかないですよね。
『隙あり』
『え?』
不意を突かれたフィール先輩が目を丸くする。
そのまま俺は手を伸ばし、彼女のエルフ耳へと指を触れさせた。
耳の先から付け根へ。
驚かせないように、さわさわと優しく撫でる。
『ひゃうぅっ』
聞いたこともない声が漏れた。
瞬間、フィール先輩の動きが完全に止まった。俺の頬をいじっていた両手もぴたりと静止し、さっきまで浮かべていたいたずらっぽい笑顔も消えている。代わりに、みるみるうちに顔が赤くなっていく。耳まで真っ赤だ。
『え、えっと……あの……』
フィール先輩の口から、戸惑った声が漏れる。
視線が泳いでいる。
普段なら、何かにつけて俺をからかったり、楽しそうにこちらへちょっかいを出してきたりするのに、今は完全にフリーズしていた。
……なるほど。エルフ耳、弱点だったのか。
これはなかなか貴重な情報を手に入れてしまったらしい。
俺がそのまま眺めていると、フィール先輩はようやく我に返ったように慌てて姿勢を正した。
『そ、そういうのは……クラミーにやってあげて欲しいのですよ~』
なんとかいつもの調子を取り戻そうとしているらしい。だが誰がどう聞いても、声が明らかに上ずっている。
そして、俺から顔を逸らしながら、小さな声で付け加えた。
『私も、別に、嫌なわけじゃないのですけど~……』
最後の方は、ほとんど聞き取れないほど小さくなっていた。さっきまでの勢いはどこへやら。俺は思わず笑いそうになってしまった。
……やっぱり、可愛い。
そんなことを考えていると。
――キーンコーンカーンコーン。
廊下にチャイムが響き渡った。次の授業の開始を告げる音だ。
フィール先輩もその音に反応して、はっと顔を上げる。
『あっ……もう時間なのですよ~』
先ほどまでの赤みが残ったまま、フィール先輩は慌てて移動先の教室へ向かおうとする。
しかし、数歩進んだところで、ちらりとこちらを振り返った。
『……比企谷君』
『はい?』
『さっきのことは……』
そこまで言って、フィール先輩は何かを言いかけたまま口を閉じる。そして、少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした。
『……なんでもないのですよ~!』
そう言い残すと、今度こそ小走りで廊下の先へと去っていった。
その背中を見送る。
遠ざかっていくフィール先輩の長い髪が、歩くたびにふわふわと揺れている。
そして、その頭の上では――。
最後まで隠しきれなかったのか、エルフ耳が恥ずかしそうにぴこぴこと動いていた。
……どうやら今日は、俺の勝ちということでいいらしい。
……というのか、今回の強制イベントらしい。
それにしても強制イベントすごいな。ゲームだったらフィールへの好感度70は上がってるかも。いやこれゲームだったわ。もしかして俺、チョロイン?男だからチョローか。言いづらっ。
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さてようやく放課後。
→教室に残る
→ショッピングモールへ
→文化室へと向かう
→図書室へと向かう
→直帰する ←choice!
直帰一択である。ライラに会うのは憂鬱ではあるが、いずれにせよ家には帰るのだから遅いか早いかの違いでしかない。下手に選択肢選んでアズリールやジブリールなんかと鉢合わせでもしてみろ。面倒この上ない。
帰宅途中、アズリールから電話が来たが無視した。メールも連投されてた。即座に携帯の電源を切った。明日が怖い。
家にはライラはいなかった。どうやら部活らしい。久々に心を休ませられそうだ。
たまったプリキュアを消化していると、家のインターホンが鳴った。ライラは家の鍵を持っているし、クラミーは部屋伝いに勝手に入ってくる。配達などでもないのは明白なのでそれ以外、となれば面倒ごとの予感しかしない。どうせアズリールだろ。
しばらく無視しているとインターホンを連打し始めやがったので、やかましさに負けて出ることになってしまった。さっそく巫女さんに相談したい。……連絡先知らねぇわ。
玄関を開けるとそこに立っていたのはアズリールではなかった。
「……お前だとは思ってなかった」
正直言って、今一番会いたくない相手がそこにいた。
「……
八幡くん、とは呼ばずにいつもどおりのマスターという呼び方に、ゲームでの私ではなくリアルの方の私が話に来た、というのを暗に示しつつ、とりあえず入れろやと目が訴えてきている。
家まで来てしまっているのならもはやどこにも逃げ場はないので、頷くほかなかった。
流石に部屋に入れるのはメンタルが持たないのでリビングへとジブリールを通し、適当に冷蔵庫にあった麦茶でも注いで持って行く。できるだけ早く帰ってもらうようにちょっと少なめに注いでおこう。
「……ほら」
「ありがとうございます」
一口、喉を潤す程度に麦茶を嗜むと、ジブリールは「さてー」と話を始めた。
「マスターはこのゲーム、どうお考えですか?」
ずいぶんと曖昧な質問だ。麦茶を片手にしばし考えつつ、ちびちびとあおりながら答える。
「そのどうっていうのが何を意味しているのかは知らんが、とりあえず早く終わらせたいとは思ってるぞ」
「それは結構でございます。マスターの意志が私の意志にございますれば、どうぞ今すぐ私に告白でも何でもしてゲームを終わらせることをお勧めいたします。しかしながらその決断をなさる前に。マスターはこのゲームを時間稼ぎ程度にしか把握しておられないようでしたので、ご助言をと」
「……違うのか?空の自慰行為うんぬんから始まった話だろ。3日程度時間稼げって……」
「おっしゃるとおりにございます。ですがよく考えてみてください。もし本当に時間稼ぎがしたいだけなのであれば、
ピタリと麦茶を飲む手が止まる。確かにそうだ。いやでも。
「……言われてみればそうだが、そもそもこのゲームを提案したのお前だろ。他のみんなが参加したのも有無を言わさずって感じだったからしぶしぶ引き受けただけだったし…。ということはなんだ?最初っからこのゲームを提案した時点で、空からの時間稼ぎ要求とか関係なく、お前には別の狙いがあってそれを達成するためのゲームだったとでもいいたいのか?」
それこそまさかだろう。空が相談しに来たのはゲーム開始の僅か1日前だ。そこから何かジブリールが思いついて全員を巻き込んで実施できるレベルのゲーム設計に落とし込み、開発までやるというのはいささか無理がある気がする。
そもそも何か考えが及んだ時点でジブリールは俺の判断を仰ぐはず。ジブリールが勝手に何かした、というより、このゲームに細工をされた、と言われるほうがまだ納得できる。
しかし俺の考えとは裏腹に、ジブリールは俺の適当に挙げたナンセンスな回答を肯定した。
「さようにございます。このゲームを提案した時点、いえ、
マジかよ。いやまぁジブリールが何をしようと勝手ではあるのだが、相談くらいして欲しかった気もする。ほら、一応ご主人様なわけだし…。
困惑した表情を浮かべる俺に、ジブリールは続けた。
「マスターには注意していただきたいことは一点。単刀直入に包み隠さず申し上げますと、このゲームには隠し仕様があるのでございます」
「隠し仕様?」
「はい。
……なんだって?現実世界へ反映される?どういうことだ?
「……それはあれか?記憶とかは引き継ぐからこのゲームで生まれた黒歴史は残るとかそういう話か?高校入学してないのに高校ボッチの経験させてすいません的な」
「いえ。申し上げた通り、発生した事象がすべて現実世界へ反映されます。それはもう、例外なくすべて。記憶はもちろん、身体的な損傷や契約の締結に関しても。
そう言われた瞬間、俺は飲んでいた麦茶を噴き出した。
は!?冗談じゃねぇ!そんなことあってたまるか!十の盟約はどうしたんだよ!?
ジブリールは淡々と俺が噴き出した麦茶を台ふきで掃除しつつ、俺が頭で考えていたことの答えを述べた。
「おそれながらマスター。十の盟約で各種族は殺傷、略奪に準ずる行為は禁止されておりますがそれはあくまでゲーム外での話。ゲームの内容は相互間で同意が得られる限り、一切を問わない……それが殺傷、略奪行為を含んでいたとしても。まぁ限度はあるでしょうが」
「理論上はそうかもしれんが、誰もそんなゲームに参加しないだろ。少なくとも俺は同意した覚えはない」
「マスターはゲーム内容に関して、私に一任しました。ゆえにどのようなゲームであっても同意したとみなされます。他の者にしても、このゲームが成立している以上、同意したうえでの話でございます。……気休めですが、このゲームで多少の傷はつきますが死ぬことはありませんのでご安心を。システムによって致命傷は受けない仕様になっております」
本当に気休めでしかないな…。怪我したら怪我しっぱなしってことだろ?ヤンデレルート入ったらどうすんだよ。伊藤(誠)さんみたいに刺されたら終わりなんだけど。でもまぁあれはあいつが悪い。
とはいえすべて事実だとして、だいぶ面倒くさいことになってきたぞ。ただ適当にイチャイチャしてればいいってわけじゃなくなってきた。まぁもともとイチャイチャするつもりはなかったけど。記憶もそのまま、体もそのまま、契約もそのまま。じゃあ現実世界と変わらねぇじゃねぇか!
「なんでそんな設定にしたんだよ」
「元々、私は『恋愛感情』のみを現実世界にも引き継ぐようゲームを構築する予定でした。理由は、その……聞かないでいただけると助かります。しかしながらゲームを構築する際、何者かがこの仕様を書き換えたのでございます」
何でもアリだな魔法。『恋愛感情』うんぬんは、言う通り言及しないとしても。ジブリールが作った魔法を書き換えるなんて芸当、他の奴らにできるのか?普通途中で気づくだろ。ジブリールだって馬鹿じゃない、誰かがゲームの構築にバグを入れないかどうか多少なりとも意識しているはずだ。
「そんなこと、可能なのか?」
「実際、その何者かは私の目を盗みそれを遂行して見せたのです。何が理由で、どのような目的があるかは不明です。フィール・ニルヴァレンか、吸血鬼もどきか、あるいはアズリール先輩か……。おそらくあの女狐はシロでしょう。積極的な行動は見受けられませんでしたし、何よりゲームの構成に関与しておりません」
巫女さんはシロ、か。確かにそうかもしれない。どうやって気付いたのかは知らないが、巫女さんもこのゲームが本来のものとは違うことに早々に気づいたのだろう。だからこそ、先手を打っていづなだけは先にリタイアさせたのだ。そして自分もこのゲームから手を引いた。まだ参加しているのは漁夫の利があれば、といったところだろう。身に危険が及びそうになったらすぐにリタイアするに違いない。
まぁ可能性高いのは今のところフィールかなぁ…。今日の強制イベントあれだけだったし。無理やり好感度高めようとしてきたって言われたら納得しちゃうし。でもいい経験でした。
「お伝えするのが遅くなり申し訳ありません。二日目の午後になってまで気づかなかったのは私の不徳の致すところにございます。ともかく、選ぶ相手は慎重に検討なさるようお願いします。そしてできる限り早めのご決断を。想定したよりも多くの強制イベントが実施されており、マスターを篭絡しようとする蛆虫どものアプローチが見るに堪えませんので」
「ええ……じゃあもうお前でいいよ。ジブリールルート選べば万々歳だろ」
「ダメです。ちゃんと私に惚れてから告白してください。そんな風に選んで私に失礼だとは思わないので?」
拒否られた。嘘だろ?告白失敗するパターンってあんの?あれか?フラグ立てないといけないとかいうやつ?朝の件で建てられてないの?ハードル高すぎない?
「好感度メーターとかないの?」
「ありません。マスターからの好感度がどのくらいかは私たちはわかりますが、マスターが私たちの好感度を知るすべは設定しておりませんので」
「……不便すぎるだろ、このゲーム」
思わずそう呟く。ゲームなら普通、画面の隅にでも数値を表示しておくものじゃないのか。
『ジブリール 好感度:78』とか。
それならこっちだって、あと何をすればいいのか考えようがある。まぁそもそも俺攻略対象側だから、言いたいことはわかるけれども。
「…なら、お前を落とすなら後何をすればいいか、聞いてもいいか?」
適当にノリで言ったその言葉に、ジブリールはぴたっと動きを止めた。そして、頬を少し赤く染めて、視線をそらした。
「……マスターからの、本心からの、その…愛の告白があれば、成功する、かもしれませんね」
「……」
思わず黙る。なんだ、その乙女みたいな反応。可愛いなちくしょう。さっきまであんなに堂々と説明していたくせに、こういうところだけ普通に恥ずかしがるのかよ。俺も朝のことがあるからこういう雰囲気に持っていかれると弱る。
「……それだけ?」
「はい」
「イベントとかは?」
「ございません」
「好感度を上げるためのプレゼントとか」
「必要ございません」
「デートとか」
「それも必須ではございません」
「じゃあ、結局告白すればいいだけじゃねぇか」
「いえ」
ジブリールは視線を逸らしたまま、静かに首を横に振った。
「『ゲームを終わらせるために告白する』のではなく、『私を好きになったから告白する』のでなければ意味がないのでございます」
「……」
なんだそれ。攻略条件としては、あまりにも曖昧すぎる。しかも俺自身の感情が条件ってことだろ。そんなの数値化できないじゃねぇか。
「つまり、俺が本気でお前のことを好きになればいいってことか?」
「……はい」
さっきよりも小さな声だった。ジブリールはまだ俺の顔を見ない。
しばらく何というべきか頭の中でこねくり回し、やっぱ違う、と言うのをやめて、それを三回ほど繰り返した。
「…まぁ、その、なんだ」
そう言いながら、俺はジブリールときちんと話すために座る位置を直した。
「正直、俺は、お前のことが好きかどうか、よくわからん」
本心だった。でもそれと同時に、逃げの答えでもあった。
好意的にはみている。この世界に来てから色々世話にもなった。見た目は可愛いし、中身はちょっとあれだけど有能だし。あとちょっとエロいし。
だがそれと同時に、自分のこの好意は果たしてジブリールの思っている好意と同じなのか、疑問を抱いている。経緯が経緯だし、そもそも種族が違うのだ。俺の好き、が相手の好き、と同じとは限らない。もし違ってみろ。人生リセットボタン押してもう一回異世界転生したくなっちゃうだろ。
……でも。
もしかしたら、このゲームを続けていれば、分かるかもしれない。ジブリールの好意の形。
朝の様に、イベントやコミュニケーションを通じていればわかるかもしれない。
もしそれが俺と同じ形だったなら―――その時は。
だんだんと歯止めが利かなくなっているこの気持ちに、決着をつけようと思う。
だから、それまでは。
「もう少しだけ、時間くれ」
それが俺ができる最大限の答えだった。
ジブリールは顔を上げて、照れ臭そうに笑った。そして、蠱惑的に笑って、
「では、勝負といたしましょう」
と。やはりそういう表情の方が似つかわしい。はにかんでいる顔も悪くないが、そういう挑戦的な顔をしているほうが好みだ。
「勝負?」
「マスターが答えを出すのが先か、私がマスターを落とすのが先か。受けていただけますか?」
「……ま、勝利報酬が破格だからな」
そういうとジブリールは右手を上げた。ふっと薄ら笑いを浮かべ、俺もジブリールと同様右手を上げた。だが、なんとなく盟約に誓うのは違う気がした。
俺は右手を下ろして小指を突き出した。ジブリールはきょとんとして、差し出した小指を見つめるとクスリと笑った。そして俺と同様に右手を下ろし、そのまま小指を絡めた。
盟約には、誓わなかった。
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恋愛描写って難しいね
売れてる作家はすごいと思う
割と今回のオリジナルストーリーは長めに続ける予定なのでしばらくお付き合いください。
原作も進んでいるのでこちらも更新しなければ…(使命感)