いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第二十一話

 

「と、まぁここまでは一位になった時の特典ばかり話したが、当然その逆もあり得るわけだ」

 

「逆というと…」

 

「最下位ってことよね?」

 

 外村と小宮山の二人が黒川先生の足元でヘラヘラと笑っているのをこの場にいる全員が無視し、黒川先生の話の続きに耳を澄ます。原作だとこのまま合宿に行く流れになった気がするけど、果たしてこの世界ではどうなるやら。

 

「そうだ。売り上げ最下位となった部は、部の消滅及び勝者の奴隷となる」

 

「「「奴隷ッ!?」」」

 

 女子三人の声が重なり、そこに至って外村と小宮山の二人も現実に帰ってくる。奴隷ってそんな大袈裟な…。先輩達からのパシりとかそんなんだろ?

 

「男子は主に肉体労働。西野や東城、それに北大路なんて可愛いんだから、何されるかマジでわかったもんじゃないな」

 

「と、外村が言うようにそんな事が起こるかもしれない。まぁ、最下位にならなければそれは自動的に回避されるがな」

 

 正直、東城達三人がいれば最下位にはならねぇとは思う。黒川先生っていう大人の色気ムンムンの人もいるわけだし。

 

「とまぁ色々言ったが、ようは一位を取ればいいわけだ。さっきも言ったが、ここには美人所が四人もいるわけだ。これを利用しない手はないだろ?」

 

 黒川先生は、上から三人の顔を右から左というように見回していく。それに「う…」「あう…」「上等よッ」とそれぞれ反応を返しはしているが、あれは黒川先生の雰囲気に飲まれてしまってるな。

 

「ふん。それじゃあ詳しい事はまたお前達の方で考えておいてくれ。私が手伝えるものは極力手伝うからな」

 

 俺達というか女子三人を煽るだけ煽って、黒川先生は部室を出て行く。西野はその背に向かって舌を出し、東城は俯いてため息を出し、さつきは黒川先生に向けて拳を突き出している。

 

「よしッそれじゃあ今日はこのまま解散!各自どんな映画を上映するかとか色々考えてくること。明日もまたこの時間に部室集合な」

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 外村の言葉を最後に、三々五々散るように部室を後にした。と、言えればなんとなく小説っぽいんだが、いかんせんこれは現実。俺は今、三人の女子達と一緒にファミレスでドリンクバーを飲んでいるところだ。

 

「ふぅーでも淳平君達の先生凄いよねぇ。あの色気とか普通の先生には出せないでしょ」

 

 向かいの席でミックスジュースを作って飲んでいる西野が、背もたれに背を預けてうーんと伸びをしながらそう話す。色気云々よりも、ドリンクバーを頼んだらジュースを混ぜるその癖を治した方がずっと大人になる近道だと思うけどな。

 

「あんたに同意すんのは悔しいけど、確かにあの人の色気には勝てないわね。胸があるとかないとか、あの人には関係なさそうだし」

 

 西野の隣で、レモンティーを飲むさつきは部室で黒川先生がしていたように、自分の胸をぐにゅぐにゅしながら話す。マジでこいつアホだろ。こんな公共の場でそんな事すんじゃねぇよッ!こっちが恥ずかしいわボケッ。

 

 と、文句を言いたいのを我慢して明後日の方に顔を向けて黙ってコーヒーを飲む。文句を言っても、直ぐに言い返されて負けるのがオチだ。さつきには口喧嘩で勝てる気がしない。

 

「あはは…でも色気で勝負っていうのは私は嫌だなぁ。恥ずかしいし…」

 

 俺の隣でそんなことを言うのは東城だ。眉を八の字にして困っている、

 

「まぁねぇー。でも最後のアレを見る限り、あの先生絶対に何かあたし達にさせようとしてるよね。外村君達もだけどさ」

 

「やるのは別にいいけど、真中以外の男に見られるってのがちょっと引っ掛かるかなぁー。ってそうだ!真中ッ夏休みだし、海行こうよ海!」

 

「あぁッ!ちょっと何勝手に淳平君誘ってんのよ!こっちは前から約束してるんだからね!」

 

 ああだこうだと、また始まった二人による口論を東城と俺は苦笑を浮かべて見るしかない。必ず、どこかで俺もしくは東城が巻き込まれることになるからだ。

 

 と、今回は東城が西野によって巻き込まれ、三人がわちゃわちゃと話しているのを横に、なんとなく窓の向こうに目を向ける。

 

 まだ、お昼が過ぎて間もないというのもあり、外ではたくさんの人々が行き交っている。本来なら俺もあの人たちと同じように、仕事に精を出していたかと思うと不思議な気持ちになってくる。

 

 勉強することが学生の仕事。自分の生活を守る為、家族の生活を守る為、大人は給料を貰う為に働いている。労働が大人の仕事なのかな。学生がするバイトとも違う、大人の仕事には責任が伴ってくる。

 

 …俺は誰のために仕事をするんだろう。自分の為?それとも…。ふと、外にやっていた視線を隣にいる女の子に向ける。

 

「…君の為なのかな?」

 

「え?」

 

 って何考えてんだよ俺は!東城だけじゃく、西野もさつきも俺の方見てるし、何より東城の顔真っ赤だぞ!?俺何言った?口から出てたのか?

 

「ま、真中君、どうしたの?あの、いきなり、君の為って言われても、その…」

 

 …マズい。明らかに口走ってたなこれは。西野とさつきの顔を怖くて見れない。

 

「ま~な~かぁ?」

 

「じゅんぺ~くん?」

 

「ハハハハ…気のせいじゃね?」

 

 その後、俺の誤魔化しは当然通用するはずもなく、三人と別れるその時までイジリ倒されることになってしまった。油断大敵。これを俺の心の辞書に入れておこう。

 

 とにもかくにも、俺達は嵐泉際で上映する映画をどうするか考えることになった。原作だと映画を自分達で作っていくわけだけど、真中が俺だからなぁ。映画を見るのは好きだけど、撮るのは好きじゃない。というか、ビデオ自体撮ったことが殆どないってのが正直なところ。

 

 携帯のムービーとか、そんな簡単な物なら俺だって撮ったことはある。友達とふざけて撮ったのが大半だけど。

 

 ま、実際どうなるかわからねぇけど、俺は俺でTUTOYAで色々借りてくるか。ジャンルも色々あった方が面白いだろうし、東城とか西野、さつきの三人だけでも選んでくるジャンルは違いそうだから面白いよな。

 

 さて、三人を送ったら早速借りて来よう。映画を決めるだけでダラダラと時間を潰しても仕方ないしな。 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

唯side

 

 …ここは本当に変わってないなぁ。引っ越してから5年も経ってるのに、あの時のままだ。…『アイツ』も変わってないのかな。って、変わるわけないか。

 

 それにしても、お父さんってば本当に心配性だよね。唯だってもう中3だよ?半年も経てば高校生だって言うのに…。

 

 ガラガラと着替えとお土産を入れたトランクを引きながら、今も覚えている道を私は歩いていく。

 

 あ…ここ、犬に追いかけられたところだ。私が小4の時だから6年前か。アイツってば、唯の肉まん投げちゃうんだもん。せっかくアイツに奢らせて、食べるの楽しみにしてたのに。

 

 でも…。あの時のアイツ、ちょっとカッコよかったな。

 

 唯の記憶の中で、走って逃げたから息が苦しくなって、でも唯に笑いかけてくるアイツの顔は、何だかちょっとだけ誇らしいんだ。

 

 覚えてるかな、唯のこと。…もし忘れてたりしたら蹴っ飛ばしてやろっと。

 

「待ってろよ。泣き虫じゅんぺー!」

 

「…どなたを待っていればよろしいんでしょうか、おちびさん?」

 

「うぇッ!?」

 

 後ろから突然話しかけられてビックリし、直ぐに振り向いてみればツンツン頭の男の人がそこにいた。

 

「え、えと、その…」

 

 いつもなら初対面の人でも普通に受け答え出来るのに、今は聞かれていた恥ずかしさとおちびさんと言われたことにムカついたので、頭がいっぱいになってしまった。

 

「たく…人の名前に泣き虫なんて付ける癖に、何も言えないのなお前って。まぁ俺は大人であるからして、君を許してあげようと思う。どうかなおちびさん?」

 

 ッ!!また唯の事おちびって言った!初対面の女の子にそんなこと言う!?マジでムカついた!恥ずかしさなんて、この怒りの前では塵にも等しいと教えてやるんだから!!

 

「人の事おちびおちびって失礼でしょ!それに、唯が待ってろって言ったのは、アイツの事であんたの事じゃ……」

 

 そこでハッとなって、改めてツンツン頭の男の人を見てみれば、唯の知ってるアイツを大人にしたような顔がそこにあった。

 

「ほぉ~それじゃあおちびは誰を待ってたのかな?じゅんぺーって名前は確かに俺以外にもいるし、俺の人違いだったらすま「じゅんぺー!!」おっと」

 

 じゅんぺーだ!唯が助けて上げてたじゅんぺーだ!でも、目の前にいるじゅんぺーは唯の知ってるじゅんぺーより大きくて、ガッシリしてて、…ちょっとカッコ良かった。

 

「人違いじゃなかったな。そう、お前の知ってる淳平は俺だよ。んで、4、5年前に引越ししたおちびがどうしてここにいるんだ?」

 

「おちびって言うなってば!これでも、14…cmはあるんだよ!」

 

「いやいや、誤魔化すにしても無理があるだろ。で、マジでどうしたんだ?そんな荷物持って。確か中学も夏休みだろ?」

 

 そう言ってじゅんぺーは唯が手を放したせいで転がっていたトランクを起こした。あ、もう傷が付いてる。お父さんに買ってもらったばかりなのに…。

 

「ん?あぁこれはさっき落とした時に付いたんだな。って、こんくらいで泣くなっての!確かさっき買ったジュースに…よし、このシール貼れば目立たねぇだろ」

 

 じゅんぺーは持っていたビニール袋の中からペットボトルを取り出して、その口先に付いていたオマケのシールをトランクの傷付いている所に貼った。

 

 そのシールはご当地ヒーロー物みたいだった。黄色のトランクとそのご当地ヒーローがちぐはぐしていて、思わず笑ってしまった。

 

「お、気に入ったのか?こんなのが嬉しいなんて、おちびはまだまだ子どもだな」

 

「子どもじゃないしおちびでもないってば!」

 

「おーおーそれだけ元気が出れば大丈夫だな。さて、こんな荷物を持ったまんまじゃ流石にかわいそうだから、俺ん家行くぞ~」

 

「あッま、待ってってばー!」

 

 じゅんぺーの背中を慌てて追いかければ首だけで振り返って。

 

「そういや、あいさつがまだだったな?おかえり…唯」

 

 なつかしいような、でも今は高校生っていうちょっと大人なその顔は…

 

「…ただいまッ淳平!」

 

 ちょびっとだけ、そうちょびっとだけ!カッコいいかも?……ううん。やっぱり気のせいだ。だって…だって…

 

「ッてじゅんぺー!女の子がこんな重たい荷物持って歩いてるんだよ!?普通なら持って上げるのが男だろー!!」

 

「俺は男女平等主義」

 

 やっぱり、じゅんぺーはじゅんぺーだった。これでも、引っ越ししたあっちじゃ唯だってちょっとはモテるのに…。馬鹿じゅんぺーッ!

 

 




……シレっと投稿してみたりします。
大変にお久しぶりです。まだ読んで下さる方がいることにびっくりしつつ、
本当にしばらくぶりに指を動かしてみました。
文字数も全然足りませんし、投稿したら変に期待させてしまうかもとも思いましたが、リハビリも兼ねて書いてみました。
やはり、文章を書くことって難しいです。
次の話を投稿するのか、はたまた時間を開けてしまうのかそれはまだ分かりませんが、どうぞ期待をせずにお願いします。
それではまた、いつか。
うたわれな燕。
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