冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

60 / 70
 いよいよ冒険に旅立つ戦士さん。
 冒険の始まり『導きの扉』を抜けた先はどこかの山の頂上で。
 山を下っていると出会ったのは、何者かに狙われてるお姫さま。
 理由を調べるために王立魔術学院に忍び込んだら、何者かに襲撃されて。
 さらに山を下って羊飼いの少年に出会って。
 いろいろな理由の先に『竜の谷』に行くことになって……、そんなお話。

 第27話は、第1章、第2章、第3章第4章第5章第6章、の6回に分けて公開します。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGソード』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGソード』のプレイヤーキャラクター等の「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「戦士」→「戦士さん」
NPC「姫」→「姫さま」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 戦士(主人公)と羊飼い、は男性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

使った(引いた)カード
キャラクター:戦士
イントロダクション:試練の迷宮へ
シーン1:エレベーターの行き先は?
カード1:光:姫(NPC)
シーン2:スクール・スニーキング
カード2:光:羊飼いの少年(NPC)
シーン3:癒やしの草を求めて
カード3:光:暗所恐怖症
シーン4:迷宮ショッピング
カード4:闇:100の
シーン5:荒れ果てた町の出会い
カード5:光:軍団
クライマックス:滅亡の名は星

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.


第27話 宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第2章) [2/6] (冒険回)

 朝。

 窓から入る日の光で目が覚めた。

 朝の早め、たぶんそれくらいだ。

 部屋を出て1階へ。

 食堂はもう商ってる。

 まだ朝の早めだけど人が多い。もちろんほとんど全部が冒険者だ。

 俺も朝メシにする。やっぱりいちばん安いメシ。

 メシを食って部屋に戻って出発の準備。

 まず鎧を着る。道具袋とか怪物袋とかロープとかを腰に引っかける。

 次に盾、左腕に装備。

 最後に剣、鞘から少し抜いて、昨日しっかりと研いだ、だから刃がきれいに光ってる、鞘に戻して腰にセット。

 これで全部。

 部屋から出て改めて1階へ。

「じゃあ、行ってくる」

 宿のカウンター、親父に言う。

「帰ってこいよ」

 そう言ってもらって宿屋を出た。

 クエストに出発。

 冒険者ギルドへ向かう。

 まだ十分に朝だけどいつもより人が多い。もちろん多いのは冒険者。

 ギルドに到着。

 このクエストの件でギルドはもう開いてる。

 でも俺が用があるのはギルドじゃなくって。

 ギルドの裏にまわる。

 ちょっとした大きさの石造りの建物。

 それに向かって冒険者の列ができてる。列のいちばん後ろにならぶ。

 この建物は『導きの扉』。建物の中にある扉を使うと「クエストに関係がある場所」に出ることができる。

 とは言え、どんなところに出るかは分からない。

 「答え」、このクエストだったら『守国護の宝玉』のすぐ前に出るかもしれないし、「ヒント」、宝玉を盗んだ魔物の居所を知ってるやつのところに出るかもしれない。

 もちろん「残念」なこともあって、宝玉が盗まれた場所、王の都に出るだけのこともある。

 考えごとの間に列は少しずつ進んで、あと3人になって、ふたりになって、ひとりになって、俺の番になった。

 石造りの建物の狭い通路に入る。

 薄暗い中を少し進む。

 すぐに行き止まりで、行き止まりは鉄の扉。これが導きの扉だ。

 扉の横にコインの投入口があって投入口の上に2,000と書かれた札がある。

 ……導きの扉の使用料、2,000ダリル。

 「ヒント」がもらえるかもしれないからゼロから探索するよりかは格段に安い。

 だから投入口に500ダリルコインを4枚入れる。

 ゴゴゴゴゴ、と重たい音を響かせて鉄の扉が左右に開く。

 扉の中に入る。中はちょっとした部屋。

 ゴゴゴゴゴ、重たい音で扉が閉まった。

 部屋の中、扉の横にボタンが6個ある。

 このボタンで行く先が決まるらしいけどどれを押してもどこに出るのかは分からない。

 だから特に悩むことはなくボタンのひとつを押した。

 押してすぐ重たい音をさせて扉が開いた。

 部屋の外に出る。

 後ろで、シュン、とわずかな音がした。

 ふり向くと今くぐってすぐの扉が影も形もなくなってた。

 さて、ここは……。

 足下は砂利。

 まわりを見渡す。まわりには何もない。

 視線を下へ。まわりは全部下り。

 つまり……、山の頂上にいた。

 ここは……、どこだ……?

 山の上なんてそうそう来ることはない。

 だから今どこにいるのかなんて分かるはずがない。

 とりあえず……、下ろう。

 足下に気をつけて慎重に下る。

 少し下って、何も変わらない。

 さらに下って、やっぱり変わらない。

 導きの扉、はずれ引いたか……。2,000ダリルが悔しい。

 もう少し下ると大きな岩があった。

 岩のかげ、何かの気配がある。

 人だったらありがたい。けど場所が場所だ、人じゃないだろう。

 動物でもありがたい。動物なら妥当だ。

 悪いのは魔物。戦うか逃げるか。

 剣を抜いてできるだけ音を立てずに近づく。

 もちろん岩の後ろ、向こうからは見えないところから近づく。

 十分に近づいて、せーのっ、で飛び出した。

 岩かげにいる「何か」に剣を向ける。

「きゃっ!」

 と小さな声。女の子だった。

 人だった、安心しかけて思った。こんなところに女の子ひとり、絶対に怪しい。

「あんた、なにもんだ?」

 とりあえず聞く。

「王立魔術学院の生徒で、この国の……、姫、です……」

 言われると確かに、……王立魔術学院の制服だ。

 つまりここは王立魔術学院の近くらしい。

 それに「この国の姫」……、前に王の都であった祝典だったかで見たことがある。

 女の子の言葉はうそじゃないと思う。

 それに導きの扉で来たんだ。クエストに関係あるかもしれない。

 だから信じることにした。

 剣を収めて、もう少し聞こう、それに自己紹介だ。

 俺は『戦士』だと名乗って簡単に自分のことを言った。

 次に、

「どうしてこんなとこにいるんだ?」

 姫さまが答える。

「私は狙われてます。

 でもなぜ狙われてるのか分からないのです」

 つまり狙われてるらしい。

「狙われてるって、どう言うことだ?」

 姫さまが狙われてる。訳を聞きたい。

「一昨日、友達がひとりいなくなりました。

 昨日もひとり、いなくなりました。

 次は……、私です」

「なるほど、

 で、心当たりは?」

 理由があるはずだ。

「ありません。

 学校はいつも通りですし、何も特別なことはしてません」

 いや、ふたり失踪、絶対に理由があるはずだ。

「友達がいなくなる前、何かいつもと違うこと、してないか?」

 姫さまは思い出そうと考える。

「探検ごっこを……、しました」

「探検ごっこ?」

 いったい何をしたんだ?

 思ったままを尋ねる。

「何をしたんだ?」

「学校の誰もいないところに入り込む、

 それだけです」

 なるほど、特別なこととは思えない……。

 けど、……誰もいないところ。

 誰もいないから……。

 大事なことだ。

 考えたことを姫さまに言う。

「誰もいないところだ。だから何かがあった。

 姫さまたちはそれに近づいちまった。

 だから狙われた。

 そうじゃないか」

「かも、しれません」

 姫さまから不安げな力のない声が返ってきた。

 言葉を続ける。

「それに、『守国護の宝玉』の話はもちろん知ってるよな?」

「はい、知ってます」

 姫さまの言葉を受けて言う。

「それにつながるかもしれない」

「えっ!?

 でも……、それはさすがに……」

 姫さまは「ない」と思ったみたいだけど俺は「ある」と思う。

「学院に忍び込んで確かめる。

 探検ごっこ、どこに行ったんだ?」

 姫さまの答えと申し出。

「体育館倉庫です。

 私が案内します」

 そう言ってもらったけど姫さまは狙われてる。絶対に危ない。

「ここで待っててくれ。

 確認だけしてすぐに戻ってくる」

「私も行きます」

 もう1回言ってくれた。

「わざわざ危ないところに連れて行けない」

「ですが、ここにいても危ないことに変わりはありません」

 確かに……、そうだ。

 少し考える。

「だな、その通りだ。

 じゃあ案内してくれ」

 姫さまが前を歩いて山を下った。

 いくらか歩いて、王立魔術学院が見えてきた。

 学院は高い塀に囲まれてた。簡単に入れそうにない。

 ひとまず目立たないところに身を隠す。

 姫さまに来てもらって当たりだった。

「申し訳ないこと言った。

 姫さまに来てもらって正解だ」

「いえ、私が役に立てるなら」

 姫さまに教えてもらった。

 学院の出入り口は正門だけ。後は全部塀に囲まれてる。

 だから正面から入るしかない。

 として、俺の服装は……、鎧を着て、剣を持って、盾を持って……、怪しまれるしかない。

「入るなら変装、制服を着るのはどうでしょう?」

「だな、それがいちばんだ」

 とは言え、どうやって制服を調達するか……。

 少し考えていて、考えるよりも運が良かった。

「誰か出てきました」

 姫さまの声。

 門の前、制服姿の男性がひとり。

 あくびをして、伸びをして、のんびりしてる。

 全くもってありがたい。

 何も言わずに飛び出して悲鳴とかの前にみぞおちにこぶしを思いっきり入れた。

 一発で気絶。

 そいつを担いで隠れてたところに戻る。

 制服を剥がしてロープで縛り上げた。ロープを持っていて正解だった。

 もちろん猿轡もしっかりと。

 姫さまに向こうを見ておいてもらって制服に着替えた。

 装備一式はまとめて、これもロープで縛ってすぐに持てるようにした。

 姫さまは制服姿、俺も制服を着てる。

 ふたりで正門をくぐった。

 中はもちろん生徒でいっぱいだ。

 その中を姫さまに案内してもらって体育館を目指す。

 人の姿が減ってきて、体育館には誰もいなかった。

 体育館の裏手、体育館倉庫に案内してもらう。

 体育館倉庫、扉に鍵はかかってなかった。

 なるべく音を立てずに扉を開いて姫さまと一緒に中に入る。

 中には何の気配もない。

 だから倉庫のいちばん奥まで進んだ。

 倉庫のいちばん奥、何も置かれてない少し広い空間があった。

 床を見る。ほこりの積もり方が変だ。何かが置かれてたらしい。

「探検ごっこのときは黒いものがありました」

 姫さまの言葉。

「それが理由だな」

「はい」

 俺の言葉に姫さまの言葉。

 ガチャン、と金属音。

 扉が大きく開かれて倉庫の外に人っぽい黒いのが3人。

「こうなるよな……。

 姫さま、走るぞっ!」

「はいっ!」

 姫さまの手を引いて走り出す。

 黒い3人のひとりに体当たりして、そのままの勢いでもうひとりを蹴飛ばす。

 後は正門を目指して走る。

 もちろん生徒をかき分けながら。

 門から飛び出して隠れてたところを目指す。

 後ろを見ると黒いのが3人。すぐ後ろにいる。

 手にナイフらしいのを持ってる。

 ひとりがナイフらしいのを振り上げて振り下ろす。

「きゃっ!」

 姫さまの声、切られたか!?

 気になるけど確認してる余裕はない。

 隠れてたところまで走る。

 たどり着いてまとめてた装備から剣を抜く。

 すぐ後ろを走ってきた黒い3人。

 剣を構えて3人を向いて加速。

 3人を順番に切り倒した。

 動かなくなった3人を確認して、3人じゃなくて3匹、魔物だった。

 手にしたナイフのように見えたのは鋭い爪だった。

 これでとりあえずのところはどうにかなって、いくらかの間は大丈夫だろう。

 少し落ち着こうとして、そうだ、姫さまだ。

「姫さま、大丈夫か?」

「はい、少し切られただけです」

 左腕、制服が切り裂かれて肌が見えてる。

 小さな切り傷から血が流れてた。

「ちょっと待ってくれ」

 まとめてた装備をバラして道具袋から聖水、薬草、それに白い布を取り出す。

「しみるけどがまんしてくれ」

「はい、おねがいします」

 傷口に聖水を垂らす。シュウ、と小さな音。

「んっ」

 姫さまは痛みに耐えた。

 傷口、血は止まってて、だけど、小さな黒いすじが残ってた。

 気になるけどできるのは……。

「もう1回がまんしてくれ」

「分かりました」

 傷口に薬草を当ててその上から聖水を垂らす。また、シュウ、と小さな音がした。

「大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です」

 白い布で薬草をしっかりと縛った。

「これでどうにかなったか……」

「ありがとうございます。

 ここは……、早く離れた方が良さそうですね」

 姫さまの言う通りだ。

 制服を借りたやつはまだ寝てた。

 いつもの装備に着替えてそいつの上に制服を返した。

 この先どうするか。姫さまと話した。

 姫さまひとりは絶対に危ない。

 クエスト中の俺といるのも危ない。

 とは言え、俺と一緒にいる方がいくらかは安全だろう。

 だから、とりあえずふたり一緒に行くことになった。

 姫さまが言った通り王立魔術学院からは早く離れた方が良い。

 だからふたりで急いで山を下った。

 山を下りながらクエストの話をした。

 俺は知ってること全部を話した。

 話を聞いた姫さまが言うには、

「だったらなおのこと私が一緒の方が良い」

 とのことだった。

 それで決まった。

 さらに山を下る。

 もうすぐ山の麓、草地の広がりの中に黒い何かの群れがあった。

 また魔物か?

 慎重に観察して……、羊の群れだった。

 黒い羊とは珍しい。

 群れのそばに誰か、今度は間違いなく人間、がいた。

 そいつはこちらに気づいて近づいてきた。

 少年だった。

「冒険者さん、ですよね?」

 尋ねられた。

 その通りだから答える。

「ああ、そうだ」

「おねがいをしたいのですが……」

 少年は俺を確認して言う。

「クエストか?」

 今度は俺が尋ねる。

「そこまで大きなことじゃないですが、

 気になることがありまして……」

 今は守国護の宝玉がなくなって大変なことになってる。

 ちょっとしたことでも宝玉につながるかもしれない。

「分かった、聞こう」

 俺の言葉に少年は話し始めた。

 まずは自分のこと。

 少年は羊飼いとのことで、だから『羊飼いくん』と呼ぶことになった。

 昔は常夜の世界で羊を飼ってたらしい。それが祖父の代で剣魔王国に移り住んだとのことだ。

 だから黒い羊で、牧羊犬も黒い犬だと教えてくれた。

 なるほど、黒い羊の群れから少しはなれて3頭の黒い犬がいた。

 次に羊飼いくんの「気になること」。

「満月の夜に羊がみんな森の方を見て騒いでました。

 こんなことは今まで一度もなくって、森に入れば理由は分かると思いますが僕ひとりでは……」

 なるほど。

 話を聞いてるうちに俺も気になってきた。

「分かった、見に行ってくる」

 そう言ってから困った。

「森ってどう行ったら良いんだ?」

 このあたりのことはぜんぜん分からない。

「では案内します。

 着いてきてください」

 歩きだした羊飼いくんの後ろを俺と姫さまが歩く。

 森へ向かいつつ、姫さまの様子が何かおかしい。

「姫さま、調子悪そうだけど大丈夫か?」

「ええ大丈夫です。疲れただけです」

 姫さまはそう答えた。

「そうか」

 気になるけど大丈夫と言ってるから大丈夫なんだろう。

 森に入って少し歩いた。

「たぶんこのあたりです」

 羊飼いくんが言ってすぐ、ちょっとした広場に出た。

 広場の様子。淡くだけど邪気が感じられた。

「……魔物がいたみたいだな」

 そう言って、けど邪気はわずか。

 魔物はもうどこかに行ったんだろう。

 この森は大丈夫、羊飼いくんに説明した。

 俺の言葉に羊飼いくんは安心してくれて、森から引き返した。

 森からの帰り道、羊飼いくんとも守国護の宝玉の話をした。

 その話に羊飼いくんは難しい表情で何かを考え始めた。

 羊の群れのところに戻って、

「僕も一緒に行きます」

 そう言ってくれた。

「それはありがたいけど……」

 戦力になるのか?

 羊飼いくんは俺の心を読んだかのように言う。

「僕には力はありません」

 羊の群れを一瞬見て、

「でも仲間が戦ってくれます」

 俺は考えて、

「姫さまはどう思う?」

 意見を求めた。

「仲間はひとりでも多い方が良いと思います」

 姫さまの言葉で決まった。

「よし、一緒に来てくれ。

 けど……、羊はどうするんだ?」

 さすがに羊を連れて行く訳にはいかない。

「ちょっと待ってください」

 羊飼いくんは羊の群れに行って3頭の黒い犬を呼んだ。

 犬に何かを伝えてるらしい。

 すぐに用件を終えて羊飼いくんは俺たちのところに戻ってきた。

 3人になって、さてどうしたものか。

 そんな俺に、

「もう少し下ると村があります。

 まず村に行ってはどうでしょう」

 羊飼いくんが言ってくれた。

 村を目指して歩く。

 羊飼いくんの後ろに俺と姫さまが続く。

 村が見えてきたところで、俺の横を歩く姫さま、明らかに様子がおかしい。

「姫さま、本当に大丈夫か?」

 どう見ても大丈夫じゃない。

「はい、大、丈夫……、で、……す」

 力のない声を最後に地面に崩れ落ちた。

 あわてる。

「おい、どうしたんだ!?」

 姫さまを抱き起こそうとして姫さまの体に手が触れて。

 熱い!

 熱がある、なんてものじゃない。

 尋常じゃない熱さだ。

 羊飼いくんもあわてる。

 できること。

 姫さまを背負って村へ急いだ。

 村の宿屋、あてがわれた部屋に入って姫さまをベッドに横たわらせる。

 羊飼いくんが姫さまの腕に気づいた。

 王立魔術学院であったことを話すと羊飼いくんの顔色が変わった。

 腕のけが、薬草を縛りつけてる布を外した。

 縛りつけてた薬草がぼろぼろと崩れた。

 力を使い尽くしたと言うことだ。

 羊飼いくんは険しい表情で首の後ろに手をやって細いネックレスを外した。

 ネックレスにはペンダントトップがいくつか。

 そのひとつ、白い石を手にする。

 腕の傷に近づけると白い石が黒く濁った。

 傷から離すと白に戻った。

 もう一度近づける。やっぱり黒く濁った。

 その様子を見て羊飼いくんは真っ青になった。

「けがとか毒じゃありません!」

「じゃあ、何なんだ?」

 俺には分からない。

 羊飼いくんが言ってくれた。

「毒竜の……、呪いです」

 俺も真っ青になった。

 『毒竜の呪い』、毒系、呪い系で最高ランクのひとつだ。

 俺が知ってること。

「ってことは、よっぽどの呪術師じゃないと解けないよな?」

「……はい」

 羊飼いくんの返事は重たい声。

「いや、薬草でもどうにかなったんじゃ……?」

「はい、どうにかなります。

 ……ですが」

 言いにくそうで、けど言ってくれた。

「薬草だと……、ローズテイルが要ります」

 羊飼いくんの表情がもうひとつ厳しくなる。

「……ローズテイル」

 俺ももうひとつ厳しい表情になる。

 ローズテイル、最高級の薬草のひとつ。

 確かにローズテイルだったらどうにかなるだろう。

 とは言え、村の道具屋で売ってるとは思えないし、売ってたとしてもとんでもない値段だ。買えるはずがない。

 どうにかしてローズテイルを手に入れる方法。

 ……あるにはある。

 ただし命を捨てるようなものだ。

 けど、このままだと姫さまの命がないのは絶対だ。

 だから決める。

「竜の谷に行ってくる」

 羊飼いくんは、え!? と言う顔。

 当たり前だ。

「それじゃ戦士さんまで死んでしまいます」

「けど行くしかないだろ。

 竜だって上手くいけば逃げてこられる」

 『竜の谷』、竜が寝床にしてる谷。

 竜の力が充満してるから強力な薬草とか、逆に強力な毒薬の材料とか、が大量に生えてる。

 だけど竜の寝床だから竜がいる。

 見つかったら戦うか逃げるか。

 もちろん竜だ。戦って勝てる相手じゃないし、逃げても逃げきれる訳がない。

「ここからいちばん近い竜の谷はどこだ?」

 俺はもう覚悟を決めてる。

「それは……」

 羊飼いくんは言いよどむ。

「頼む! 教えてくれ!」

「……西の沢の谷、です」

 教えてくれた。

「場所はそのままだな!」

「はい……」

 小さな声で答えてくれた。

 部屋を出ようとして立ち止まった。

 道具袋から薬草と聖水、全部を出す。

「時間稼ぎ、ないよりはましだろ……」

「……はい」

 羊飼いくんの声を確認して部屋から出た。

 宿を出て、村を出て、西へ向かう。

 すぐに谷があって、沢があった。

 沢に沿って谷を登る。

 登るごとに景色が変わってきた。

 生えてる草、薬草の類が増えてくる。

 さらに登って、小川の水が聖気を帯びてる。ちょっとした聖水だ。生えてる草は全部が薬草だ。

 そろそろローズテイルがあっても良い。

 まわりを見渡すと少し離れたところにそれらしいのがあった。

 近づいて驚いた。そのあたりの全部がローズテイルだった。

 これで姫さまは助かる。ほっとした。

 けど、ほっとするのはまだまだ早すぎた。

 後ろから強い風が吹いた。

 嫌な予感しかしないし、見たくないけど振り向いた。

 竜がいた。鮮やかな緑色の竜。

『汝も薬草を求めるか?』

 竜の声? が心に響いた。

「そうだ!」

 正直に言う。

 言って剣を抜く。

『汝も我と戦うか?』

 そうだ! と言おうとして寸前で止めた。

 竜を前にして考える。

 竜は鮮やかな緑色。

 小川はちょっとした聖水。

 草は薬草だけ。

 『聖』はあるけど『邪』はない。

 つまり……。

 賭けてみよう。

 剣を竜の前に投げた。

 盾も竜の前に投げる。

 鎧も脱いで竜の前に。

 最後に道具袋と魔物袋、竜の前に投げた。

『汝、我と戦わぬか?』

「そうだ!」

 竜の言葉に即答した。

『おもしろい。

 なぜ戦わぬか?』

 俺は思った通りを言った。

「あんたは戦う竜じゃない!」

『くくくくく……』

 竜は小さく笑う。

 けどすぐに笑うのをやめて。

『汝、よく見るものよ。

 戦わず我を見抜いた。

 我が谷の全て、好きなだけ持って行くがよい』

 今度こそほっとできた。

 竜が持って行って良いと言ってくれた。

 だからローズテイル、まず1回分は要るから1回分。

 ……少し欲張った。あと2回分をもらった。

 それにいつもの薬草よりランクがふたつ上の薬草、3回分をもらった。

 今はこれで十分だ。欲張りすぎるのは良くない。

 竜に十分にもらったと伝えて帰り支度をする。

 鎧を、盾を、剣を、それに道具袋と魔物袋を身に着けた。

 感謝を示して帰ろうとして。

『汝、待つが良い』

 竜の言葉が心に響いた。

 声に応えて竜を向いた。

『汝も守国護の宝玉を求めるか?』

 竜からの問い。

「ああ、そうだ」

 正直に答える。

『汝ならあるいは……』

 何を言いたいんだ?

『東の沢の奥に迷宮あり。

 その奥底に宝玉あり』

 !

 宝玉のありか!

「分かった!

 迷宮に行く!

 俺にできるだけのこと、してみせる!」

 竜に背を向けようとして。

『汝にはもうひとつ……』

 そう言われて背を向けなかった。

 竜は口を少し開けて。

 パキッ、と小さな音。

 竜の口から小さく光る何かが俺のところにゆっくりと飛んできた。

 飛んできた小さな何かを手にした。

 竜の牙だった。

『見抜くもの、欲張らぬもの、まことおもしろい。

 我は汝とともにある』

 そう言って直後、竜は真っ白に輝いた。

 光がおさまって、竜の姿はどこにもなかった。

 俺の手には竜の牙。

 もらったものの使い方が分からない。

 けど竜に授けてもらったんだ。きっと良いことがある。

 さて、ローズテイルが手に入った。

 だから、姫さまだ!

 沢を下って、谷を下って、村へ急ぐ。

 村に入って宿屋へ。

 俺たちの部屋、ノックとかなしでドアを開けて入る。

 入りながら言う。

「姫さま、大丈夫か?」

 ドアの音に振り返った羊飼いくんが俺の言葉に反応してくれた。

「まだ大丈夫です!」

 間に合った。

 道具袋を探ってローズテイルを全部取り出した。

 羊飼いくんに渡す。

「これで大丈夫だよな?」

「えっ!? こんなにたくさん!?

 何があったんですか?」

 驚いて、尋ねられた。

「それは後だ、

 姫さまを早く!」

「はいっ!」

 羊飼いくんはすぐに手当てにかかってくれた。

 姫さまの腕、白い布を緩めて外す。

 傷に当ててた薬草がぼろぼろと崩れ落ちた。

 腕に残ってる薬草を払い落とす。

 ローズテイルを傷に当てて、当てた上に聖水を振りかけた。

 シュウッ、と小さな音がして傷があるあたりが小さく光った。

 わずかの後、姫さまの苦しそうな呼吸が穏やかになった。

 もちろん熱も下がった。

「これで大丈夫です」

「そうか、どうにかなったんだな」

 体から力が抜けた。

 いくらかの休憩をして、体を落ち着けた。

 体が落ち着いて、竜の谷であったことを羊飼いくんに話した。

 竜に会って無事に帰って来られるなんて!

 羊飼いくんに驚かれた。

 それは俺も同じだ。運が良かったと言った。

 けど、その言葉は羊飼いくんに否定された。

「運なんかじゃありません。

 竜は戦士さんに何かを見たのでしょう」

 そう言われてもうひとつ。

 竜の牙を取り出した。

「戦士さんには絶対何かあります!

 竜が牙を授けてくれるなんてよほどのことです」

 羊飼いくんは強い声で言った。

 そんな話をしていて。

「う……、あぁ……」

 姫さまの声。姫さまが意識を取り戻した。

「お姫さま、大丈夫ですか?」

 羊飼いくんが声をかける。

 姫さまは羊飼いくんを見る。

「はい……、大丈夫です……」

 力が感じられない声だけどもう大丈夫だろう。

 姫さまにも竜の谷であったことを話した。

 もちろん守国護の宝玉のありかについても。

「では、まいりましょう」

 姫さまはベッドから下りようとした。

「絶対に無理だ。

 体が十分になってから出発だ」

 強く言った。

 夜になって、俺と羊飼いくんは晩メシを食って、姫さまは食欲がない、と食わなかった。

 やっぱり出発できる状態じゃなかった。

 夜遅く、姫さまが完全に眠った後、羊飼いくんと話した。

 迷宮に行くこと。

 姫さまはまだ万全じゃない。

 だから明日、もう1日休んで迷宮へは明後日出発しよう。

 そう決めて俺と羊飼いくんも眠りについた。

 




 『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第2章)』、これにて終幕です。
 さて、今回は盛大にやらかしてます。
 戦士さんと姫さまで王立魔術学院に潜入して襲撃されましたが、この潜入で「何が分かったのか」の記述がすこーんとありません。
 ノリ的には、『守国護の宝玉』が仮置きされてた、あたりのはずですが、記載がないと言う……。
 ……心底反省したい次第。
 物語はNPCの姫さまと羊飼いくんが合流して、『守国護の宝玉』のありかが分かって、さてさてどうなるのか。

 次回は『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第3章)』です。
 では、今後ともご贔屓のほどよろしくお願い致します。
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