冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 『守国護の宝玉』を王の都に持ち帰った戦士さん、姫さま、羊飼いくんの3人。
 それぞれがそれぞれの役割に向かい合って。
 もちろん戦士さんも自分の役割に心を向けて。
 決戦はもうすぐそこに。
 覚悟を決めて決戦に挑んで。
 戦いの結果はどうなるのか……、そんなお話。

 第27話は、第1章第2章第3章第4章、第5章、第6章、の6回に分けて公開します。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGソード』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGソード』のプレイヤーキャラクター等の「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「戦士」→「戦士さん」
NPC「姫」→「姫さま」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 戦士(主人公)と羊飼い、は男性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

使った(引いた)カード
キャラクター:戦士
イントロダクション:試練の迷宮へ
シーン1:エレベーターの行き先は?
カード1:光:姫(NPC)
シーン2:スクール・スニーキング
カード2:光:羊飼いの少年(NPC)
シーン3:癒やしの草を求めて
カード3:光:暗所恐怖症
シーン4:迷宮ショッピング
カード4:闇:100の
シーン5:荒れ果てた町の出会い
カード5:光:軍団
クライマックス:滅亡の名は星

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.


第27話 宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第5章) [5/6] (冒険回)

 時間は少しずつ、でも確実にすぎて。

 日の出まであと1時間くらいか。

 少しずつ明るくなってきた。

 けど明るさが違う。

 わずかに明るくなってきた空は赤黒い。

 魔物の邪気のせいだ。

 恐怖を感じる。

 だけど俺が怖がってちゃいけない。

 俺は堂々として、勇敢な顔をして、絶対に勝てる自信を持ってふるまう。

「戦士さん!」

 姫さまの声がした。

 声の方を向くと姫さまと羊飼いくんが指揮所に入ってきた。

「僕も戦います!」

 羊飼いくんが言って、姫さまがうなずいた。

「どうしてここに?」

 姫さまが教えてくれた。

 まず姫さまが王宮から抜け出して冒険者ギルドへ。

 ギルドで羊飼いくんと合流してここに来た、とのことだ。

「けど、戦うって言ったって……」

 ありがたい申し出だけど俺は困惑してしまう。

 羊飼いくんが言う。

「僕は戦えません……、

 ……でも仲間が戦ってくれます」

 どう言うことだ?

 羊飼いくんにうながされて3人で指揮所から出た。

 場所を空けて欲しい。

 羊飼いくんに頼まれて指揮所のまわりにいた連中に動いてもらった。

 十分に広い場所ができて。

 羊飼いくんはネックレスにつけてるペンダントトップのひとつ、小さな棒を手にした。

 棒のはしを口にくわえて。

 笛なのか?

 思いっきり吹いた。

 ……だけど音はない。

「犬笛、ですか?」

 姫さまが尋ねる。

「はい、そうです」

 羊飼いくんが答えて、

「どうなるんだ?」

 俺も尋ねる。

「仲間が来てくれます」

 羊飼いくんはそう答えてくれた。

 仲間?

 少しして。

 ドドドドド……。

 低い音。

 たくさんの何かが走ってる? ような音。

 音が大きくなってくる、つまり近づいてくる。

 俺たちから見て王の都の向こう側の空を何かがこちらに近づいてくる。

 近づいてきて「黒い何か」なのは分かった。

 さらの近づいてきて指揮所の近くに作った広い場所に「黒い何か」が空から駆け下りて止まった。

 「黒い何か」は黒い犬が3頭と黒い羊がたくさん、だった。

 羊飼いくんの犬と羊だ。

「えっと、犬と羊が仲間なのか?」

「はい、戦ってくれます」

 羊飼いくんの言葉にはしっかりした自信が感じられる。

「ですが……、驚かないでください。

 見た目は怖いですが、怖くはありません」

 羊飼いくんの言葉をまわりにいる連中に伝える。

 まわりに話が広まって、十分に広まったのを確かめて、羊飼いくんはもう一度笛を吹いた。

「「「ワォーン!」」」

 3頭の犬が力強く吠えた。

 笛の音に反応したんだ。

 吠えてすぐに異変が起こった。

 まず3頭の目が赤く輝いた。

 次に、

 バキッ、ベキッ、バキッ、

 3頭の体から鈍い音が聞こえる。

 音に合わせて体が大きくなる。

 ある程度大きくなって、

 ボキッ、バキッ、バキッ、

 音が続いて、体が大きくなりつつ体格が変わり始める。

 前足が浮かび上がって後足だけで立つ。

 ベキッ、ボキッ、

 音が終わって、人のようにも見える姿。

 だけどもちろん人じゃない。

 人よりも大きな体、赤く輝く目、口には鋭い牙、前足には長く鋭い爪。

 魔犬ってやつか。

 どう見ても恐ろしい姿だ。

 まわりからもどよめきが上がる。

 けど、恐ろしさも邪気もぜんぜん感じない。

 まわりの連中もそうらしい。

 だから混乱は起きない。

「「「ワォーン」」」

 3頭が吠える。

 その声に今度は羊たちが反応した。

 羊の全部、目が赤く輝いた。

 ゴキッ、バキッ、ベキッ、

 犬と同じ。鈍い音をさせて体が大きくなる。

 ボキッ、バキッ、ベキッ、

 やっぱり体が大きくなりながら体格が変わる。

 前足が浮かび上がる。後足で立つ。

 ベキッ、

 最後の音が終わると羊たちも人のようにも見える姿で。

 だけどどう見ても人じゃない。

 体、人のふたまわりか、もっと大きい。

 目は赤く輝いてる。

 ひづめは前足も後足も頑強そうで鉄槌を思わせる。

 魔羊、って言えば良いのか?

 これも恐ろしい姿だけど恐ろしいとは感じない。

 まわりもやっぱり同じらしい。

 それどころか、

「これが仲間になるのか……」

「絶対に強すぎるぞ……」

「勝てるっ!」

「おう、勝てるぞ!」

 力の入った声が上がる。

 犬の様子、羊の様子を見てた羊飼いくんに尋ねる。

「こいつらは何なんだ?」

「はい、ヘルハウンドとバトラーシープ、

 僕の仲間です」

 羊飼いくんの言葉に納得した。

「次は私ですね」

 姫さまの声。

 ヘルハウンドとバトラーシープを囲んでる人垣。

 俺の後ろから姫さまが一歩、前に出た。

 胸の前に手をやって言葉を紡ぐ。

 胸の前に光が生まれて大きくなる。

 姫さまの前の地面に光が降りて光が弱まる。

 替わりに宝玉が姿を現した。

 守国護の宝玉と一緒にあった宝玉。

 確か『大いなる力の宝玉』だ。

 姫さまは宝玉を確認して改めて呪文を唱える。

 大いなる力の宝玉が白く輝いて、輝きが宝玉から空へ打ち上げられた。

 上空、兵士とか冒険者とかの十分な上で白い輝きが弾けた。

 本来の海辺で戦いの準備をしてる兵士や冒険者に白い光が降り注ぐ。

 もちろん俺たちにも。

 宝玉の力だ!

 体の底から力が湧き出した。

 これなら勝てる!

 自信が持てた。

 けど次の話で不安になった。

 王宮の方から走ってきた兵士の声。

「王宮からの報告です!

 魔物の数は不明、多すぎます。

 加えて巨人が相当数。こちらも数は不明です」

 海だった方を見る。

 魔物は分からないけど巨人は分かった。

 人の10倍かそれ以上の人のような姿がたくさんあった。

 大丈夫か? 弱気になってしまう。

「戦士さん、絶対に大丈夫です」

 俺の心を察してか姫さまが言ってくれた。

「大丈夫って……」

「まだ続きがあります」

 続き? どう言うことだ?

 姫さまは左手、手の甲を上にして胸の高さで前に伸ばした。

 小さくつぶやいて。

 手の甲に銀色の紋様が浮かび上がった。

 さらにつぶやく。

 手の甲の紋様から白銀の光があふれ出した。

 あふれ出した光が俺たちの上で白銀に光る大きなエンブレムを形作った。

 できあがったエンブレムから白銀の光が降り注いだ。

 光を浴びて、景色が見えた。

 空から見下ろして、俺たちが見える。

 何が起こってるんだ?

「『ファルコン・アイズ』、戦場の全員が戦場の状況を把握できます」

 説明されなくてもなぜか分かった。

 空から見下ろしてて青い点がたくさん。これが味方。

 姫さまが続けて言う。

「次が最後です」

 左手と同じように右手を上げる。

 言葉を紡ぐ。

 右手の甲に金色の紋様が浮かび上がった。

 小さな言葉の後、紋様から黄金の光があふれ出した。

 今度は姫さまの、俺たちの前にだけ光が降り注ぐ。

 降り注ぐ光が形になっていく。

 大きな足?

 足の形に光が積み上がって脚になる。

 さらに積み上がって胴、腕もできあがって、最後に頭ができた。

 驚くしかない。

 金色の鎧、金色の剣、金色の盾。

 黄金色に輝く巨大な戦士が現れた。

「『勇敢なる覇王』です」

 姫さまの声。

 『勇敢なる覇王』、巨大な魔物、巨人と同じくらいの大きさだ。

 これなら勝てる。

 そう思ったけど……。

 金色の戦士、勇敢なる覇王には力が感じられない。

 俺が思ったことに対してか、姫さまの言葉。

「勇敢なる覇王には魂が入っていません。

 ですので戦えません」

 どう言うことだ? 戦えないって?

「じゃあ魂を入れてくれ」

「それはできません」

 それじゃどうにもならない。

「どうして入れられないんだ?」

 すぐに姫さまの言葉が返ってくる。

「勇敢なる覇王は強すぎます。

 剣のひと振りで魔物を消滅させられます」

 それこそありがたい。

「ですが、そのひと振りで魔物だけでなく王の都も、

 それどころかこの地方の全てが消滅します」

 ……確かに、強すぎる。

 魂を入れられない訳が分かった。

「それじゃどうしろって言うんだ?」

 俺の言葉に姫さまが言う。

「戦士さんが勇敢なる覇王の魂になってください」

 そう言われて、ためらう。

「俺で良いのか?」

 姫さまの言葉が返ってくる。

「戦士さんは宝玉を取り戻した冒険者です。

 十分すぎます」

 確かにそうだけど……。

 けど、いや、そんなやつが金色の戦士になって戦ったら?

 兵士も冒険者も絶対にテンションが上がる。

 勝ちが近づく。

「分かった。

 それでどうすれば良いんだ?」

 姫さまに尋ねる。

「力を抜いて、目を閉じてください」

 その通りにする。

 温かい何かに包まれて、体が浮かび上がったように感じた。

 体が浮かび上がってる感覚がなくなって、

『もう目を開いても大丈夫です』

 姫さまの声が心に響いた。

 目を開ける。

 高いところ、塔の上か、からの景色だ。

 けどそうじゃない。

 右腕を動かしてみる。金色の剣を握った金色の腕。

 左腕を動かす。金色の盾を支える金色の腕。

 つまり俺は勇敢なる覇王になったらしい。

 これなら絶対にどうにかできる。

 海があった先を見る。

 魔物の大軍勢とたくさんの巨人。

 日の出までもうすぐになってた。

 兵士が、冒険者が、配置に着く。

 誰も何も言わない。

 日の出を待って、朝日が輝いた。

 魔物に支配された空だから朝日も赤黒い。

 けど朝日には違いない。

 海だった先、魔物がいっせいに動きだした。

 ファルコン・アイズでは赤い点がこっちに向かってくる。

 俺たちもだ。

『全軍、戦闘開始っ!!』

 俺の声が戦場に響いて、兵士が、冒険者が、魔物へと向かう。

 ファルコン・アイズの中でたくさんの青い点とたくさんの赤い点がぶつかった。

 勇敢なる覇王から見る。

 最前線、魔物との戦いが始まった。

 戦いが始まって、とんでもない戦いだ。

 王国の騎士団。

 ナイトが剣を振り下ろすたびに魔物が吹き飛ぶ。

 それも1匹2匹じゃない。もっとの数が吹き飛ぶ。

 王国軍の兵士。

 一糸乱れぬ攻撃。

 兵士の剣が魔物を切り裂いて、槍が魔物を貫く。

 冒険者。

 ファイターの剣が魔物を切り伏せる。

 ヘビーアーマーの槌が魔物を砕く。

 アサシンのダガーが魔物の急所を的確に突く。

 もちろん空を飛んでくる魔物もいる。

 けど、そいつらはアーチャーが放った矢で撃ち落される。

 その中でいちばんのとんでもない戦い。

 ヘルハウンドとバトラーシープ。

 ヘルハウンドが1歩前に出るたびに何匹もの魔物が切り裂かれて、かみ砕かれる。

 バトラーシープが進むたびにひづめが振り下ろされて何匹もの魔物が叩き潰される。

 後ろからの攻撃もすごい。

 ソーサラーの魔法。

 最前線は混戦になってるから狙えない。

 だからその後ろの魔物を狙う。

 火球が飛んで、爆発、魔物が吹き飛ぶ。

 氷の槍が飛んで、魔物を貫く。

 もちろん弓兵もいる。

 いっせいに放たれた矢が空を飛んで魔物に突き刺さる。

 ファルコン・アイズ、赤い点がどんどん消えるけどそれでも減ってるとは思えない。

 巨人が近づいてきた。

 俺も出撃だ。

 として迷った。

 味方を踏んでしまう。

 俺の迷いに姫さまが答えてくれた。

『勇敢なる覇王は邪悪なものしか傷つけられません』

 分かった。

 俺は1歩前に出る。2歩目、前に出る。

 3歩目、味方を踏むことになった。けど、踏んでるのに踏んでなかった。

 よし!

 どんどん前に出る。

 明らかに仲間を踏んでるのに踏んでない。

 最前線に出た。

 最前線への1歩。仲間は踏んでるのに踏んでない。魔物を踏むと踏み潰した。

 小さい魔物は味方に任せる。俺の相手は巨人だ。

 足元の魔物を踏み潰しながら巨人に向かう。

 巨人の1体目、剣を振り上げて思いっきり振り下ろした。

 巨人が倒れる。

 まずひとつ。

 と、姫さまの声がした。

『持久戦になります。

 力を温存してください』

 確かにそうだ。

 納得して力を少し抜いた。

 それでも勇敢なる覇王は強い。

 巨人を切り伏せて、切り倒して、数を減らす。

 けど減ってるとは思えない。

 ファルコン・アイズを意識する。

 最前線、赤い点はどんどん減ってる。だけど青い点も少しずつ減ってる。

 それはもちろん気になるけど俺は俺のするべきことをする。

 だから巨人を1体ずつ切り倒して、切り裂いた。

 

 どれくらい切ったか。

 赤黒い空の赤黒い太陽が高くなってる。

 ようやく巨人が減ってる実感が出てきた。

 さすがに息が上がって、剣も盾も重く感じる。

 けどそんなことは言ってられない。

 目の前にいる巨人を1体ずつ切り倒す。

 切り倒して、切り伏せて、巨人は1体だけになった。

 最後の1体。今までのやつとはぜんぜん違う。

 今までのは、俺、勇敢なる覇王と同じくらいの大きさだった。

 対して目の前のは俺よりも頭ふたつ分は大きい。

 それに装備。

 今までのは何も持ってないか、持ってても棍棒くらいだった。

 けど目の前のやつは鎧を身に着けて、剣を持って、盾を持ってる。

 とは言っても俺はするべきことをするだけだ。

「うおおぉぉぉーっ!」

 声を上げて巨人に向かう。

 巨人も俺に向かってきた。

 俺は剣を振り下ろして、巨人に剣で受けられた。

 次は巨人が剣を振り下ろして、俺が剣で受ける。

 剣を剣で受けて、剣を盾で弾いて。

 そんなのが何回も何回も。

 どれくらい続いたか。

 俺はふらふらになって、脚はがくがくしてるし、腕の感覚もなくなってきてる。

 けど相手、巨人にも疲れが見えてる。

「もう1回っ!」

 剣を振り上げて振り下ろした。

 巨人も剣を振り上げて振り下ろした。

 お互いの剣をお互いの盾で受けた。

 剣と盾で押し合い。力くらべになる。

 力くらべになってすぐに分かった。

 絶対に俺が不利。

 俺は力を出せるだけ出してるけど、巨人にはまだ余裕があるように思える。

 剣と盾、これも巨人のには余裕があると感じる。対して俺のは限界が近い。

 押し合いで負けるのが先か、剣と盾がやられるのが先か……。

 何かを感じた。

 この戦場、何かが変わってる。

 ほんの一瞬だけファルコン・アイズを意識した。

 分かった。戦場に赤い点はひとつだけ。ほかは全部青い点。

 つまりこの巨人が最後の魔物。

 加えて一瞬のファルコン・アイズで戦場の「声」が聞こえた。

『いけーっ!』

『つっこめーっ!』

『たのむーっ!』

 そんな声がたくさん。

 体も剣も盾も限界だけど、

「まけ……、られる……、かーっ!」

 出せるだけ全部を出した。

 パキンッ、パキンッ、

 鋭い音、何かが弾けた音がした。

 がくがくしてた脚に力が入った。感覚がなくなってた腕に感覚が戻った。

 全身に力が戻ってる。

 それだけじゃない。限界のぎりぎりだった剣と盾にも力が戻ってる。

 何が起こったんだ?

 分からないけど良いことが起こったのは確かだ。

 だから、

「まだっ、まだーっ!」

 全力で巨人を押した。

 俺の盾が巨人の剣を押して、俺の剣が巨人の盾を押した。

 バキンッ、と大きな鋭い音。巨人の剣が折れて砕けた。

 バコンッ、と大きな鈍い音。巨人の盾が割れて砕けた。

「これでっ!」

 剣を思いっきり振り上げて、

「さいごーっ!!」

 俺の力の全部をこめて振り下ろした。

 剣は巨人の肩に食い込んで、勢いそのままに巨人の体を切り進んで、反対側のわき腹に抜けた。

 体の上下、巨人の体はふたつになって崩れ落ちた。

 巨人が崩れ落ちたのを見て、俺にも限界がきた。ゆっくりと背中に倒れた。

 倒れて空を見て、赤黒い空を「青」が塗り潰した。

 守国護の宝玉の力が戻った……。

 目の前が黒になった。

 

『……か』

『……うぶか』

 目の前が黒になってすぐ後なのかずっと後なのか、時間の感覚がない後。

 音、人の声? がかすかに聞こえる。

「……じょうぶか」

 同時に頬に何かの感覚。

 軽く叩かれてるような感覚。

 ゆっくりと目を開いて。

「大丈夫か?」

 そう言われながら頬を叩かれてた。

 まわりにはたくさんの人がいる。

「気がついたか、

 大丈夫か?」

 体中が重くて痛い。

 だから、大丈夫じゃない、って言いたい。

 けど言う訳にはいかない。

「大丈夫だ」

 俺に声をかけてくれてた男に言った。

「立てるか?」

 次はそう尋ねられた。

 立てない、って言いたいけど、もちろん言う訳にはいかない。

「立てる」

 そう言って無理矢理、体を起こして脚に力を入れる。

 そのつもりだったけど、ぜんぜん力が入らなかった。

 まわりにいたひとりが肩を貸してくれた。

 何とかして立ち上がって、空を見上げた。

 やっぱり青い空だ。

 俺たちの勝ちってことだ。

 まだ残ってた力、今度こそ使い尽くして、

「おーっ!」

 と声を上げた。

「「「おーっ!」」」

「「「おーっ!」」」

「「「おーっ!」」」

 俺の声に続いてたくさんの大きな声が上がった。

「海が戻るぞーっ!」

 沖合いの方から声が聞こえた。

 魔物がいなくなって、空が戻って、もちろん海も戻る。

 全員が本来の海岸線へ向かう。

 俺も肩を借りて海岸線を目指す。

 向かう先にあった砂浜。

 砂浜の十分に大丈夫なところまで上がった。

 少しして、水、海が戻ってきた。

 これで本当に全部終わりだ。

 改めて意識を失った。

 

 心地良い温かさに体が包まれてる。

 意識が戻った。

 ここは?

 ぼんやりしてる意識がはっきりしてくる。

 どこかに横になってる。

 まず分かった。

 どこなんだ?

 俺の上、高くない天井に模様がある。

 しっかり見る。

 細かい幾何学模様が描かれてる。

 分かった。

 俺は『治癒の祭壇』に寝てる。

 天井の幾何学模様は『回復の魔法陣』。

 少し考える。

 魔法陣ってこんなに細かかったっけ?

 意識が一発で戻った。

 こんなに細かい魔法陣、俺がいるのはとんでもない強力な治癒の祭壇だ。

 致命傷を負ってても命を落とす前にここに連れてくれば助かる、それくらい強力だ。

 力を使い果たした俺を連れてきてくれたのだろう。

 治してもらえるのはもちろんありがたい。

 けどこんなにすごい祭壇。俺が料金を払える訳がない。

 体はまだひどく重たい。だけど早く出た方が良い。

 動こうとごそごそしてる俺に気づいて誰かが来てくれた。

 緻密な幾何学模様が描かれた法衣を着た男、おそらく最上位のヒーラー、だった。

 俺はまず金のことを言った。

 払う金がない。

 そう口にして、ヒーラーの言葉を聞いて、ひとつほっとできた。

 俺がいるのは王宮の治癒の祭壇で、俺は魔物との戦いを征した冒険者。

 だから金はいらない、とのことだ。

 次に俺の体のこと。

 勇敢なる覇王として戦ったから体はぼろぼろになってる。

 今は戦いが終わった夜で、回復は明日までかかると教えてくれた。

 なるほど、と理解して、また意識を失った。

 




 『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第5章)』、これにて終幕です。

 決戦が始まって、勝負がつきました。
 『勇敢なる覇王』が出てきたと言うことで、剣魔王国と連合王国には何かしらのつながりがあるのかもしれません。
 この辺りはいずれ書きたいな、と考えていますが「カードの都合」もあるのでどうなることやら。
 戦いの決着は……、うん、だよね、的な「平坦な」話です。
 今回で戦いが終わって、次は「戦いの後」です。
 どんなエンディングになるのか?
 やっぱり「平坦な」話ですが、お付き合いいただけると幸いです。

 次回は『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~ (第6章・最終章)』です。
 では、今後ともご贔屓のほどよろしくお願い致します。
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