でも戦士さんには思うところがあって。
それよりも大変なのは国王さまとの食事会。
テーブルマナーなんてぜんぜん知らない戦士さんと羊飼いくんは付け焼刃でも良いからと。
最後は王の都を後にするんだけど……、そんなお話。
第27話は、第1章、第2章、第3章、第4章、第5章、第6章、の6回に分けて公開します。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGソード』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。
『のびのびTRPGソード』のプレイヤーキャラクター等の「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「戦士」→「戦士さん」
NPC「姫」→「姫さま」
等々となっています。
先に記しとく設定、
戦士(主人公)と羊飼い、は男性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
使った(引いた)カード
キャラクター:戦士
イントロダクション:試練の迷宮へ
シーン1:エレベーターの行き先は?
カード1:光:姫(NPC)
シーン2:スクール・スニーキング
カード2:光:羊飼いの少年(NPC)
シーン3:癒やしの草を求めて
カード3:光:暗所恐怖症
シーン4:迷宮ショッピング
カード4:闇:100の
シーン5:荒れ果てた町の出会い
カード5:光:軍団
クライマックス:滅亡の名は星
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
意識が戻る、と言うよりも、目が覚めた。
体はもう大丈夫そうだ。
ヒーラーがすぐに来て体の状態を見てくれた。
問題はなにもない、とのことだった。
だから祭壇から下りてヒーラーに礼を言って部屋を出た。
外は十分に明るくなってた。
部屋を出て、部屋の前に羊飼いくんがいた。
俺が心配だったらしい。
心配してくれてたことを感謝した。
体が穏やかになって心も穏やかになってる、そう感じた。
けど羊飼いくんの次の言葉、驚いて、ぞっとした。
今日の予定。
昼メシを国王さまと一緒に。
昼からは、守国護の宝玉を取り戻したこと、魔物の軍勢を征したこと、で褒賞を授けてもらう。
加えて『護国の勇者』の称号までもらうことになってるらしい。
最後に夜、晩餐会が行われる。
もちろん国王さまと一緒にメシだ。
嬉しいとか、誇らしいとか、今はそんなのはない。
国王さまとメシを食うのにテーブルマナーなんてぜんぜん知らない。
羊飼いくんに教えてもらおうと考えたけど、羊飼いくんも知らないと言ってくれた。
何か良い手段。
昼メシの準備を始めてる執事のひとりを捕まえた。
時間がないから最低限のマナーを教えてもらった。
昼前。
国王さまと昼メシだ。
国王さまの前に出るために十分に立派な服を着せてもらった。
昼メシ。
国王さまと王妃さま、それに姫さまとふたりの王子さま、姫さまの兄と弟とのことだ、とメシを食った。
国王さまは、姫さまを助けたこと、宝玉を取り戻したこと、魔物を征したこと、俺をたたえてくれた。
けど国王さまの言葉、何か引っかかった。
あと、テーブルマナーは散々だった。
昼メシが終わって。
すぐに褒賞の授与式の準備が始まった。
国王さまの前に立つ。
それも国の重鎮とか貴族とかに囲まれての式典だ。
冒険者としてでも正装が要る。
俺の装備。
服はぼろぼろになってて昼メシの前に着替えさせてもらった。
鎧もぼろぼろになってて、剣と盾は行方不明、剣の鞘は残ってた。
そんなのだから装備が手元にあっても正装と言えるはずがない。
だから王宮の鎧と剣を借りることになった。
鎧、白銀のプレートアーマー、ずっしりと重たい。
剣、ロングソードとして十分すぎる長さで聖気が宿ってるちょっとした聖剣。もちろんずっしりと重たい。
羊飼いくんも正装になってた。
貴族の最上位の衣装を借りたとのことだった。
後は式典が始まるのを待つだけになった。
俺は昼メシのときに引っかかった国王さまの言葉を考えた。
しっかりと、じっくりと、それに絶対に後悔しないよう考えて、決めた。
式典が始まる時間になった。
ふたりの兵士、もちろん式典用の整った服装、の後ろについて玉座の間に入った。
玉座には当たり前だけど国王さまがいる。
国王さまの両横に王妃さま、姫さま、ふたりの王子様がならぶ。
玉座の間の両側にはたくさんの人がいる。
兵士ふたりが左右に離れた。
大きな拍手に迎えられて俺と羊飼いくんは国王さまの前に進む。
玉座、国王さまの前で足を止めてひざまずいた。
拍手がやんで、静か、静寂になった。
国王さまが玉座から立ち上がった。
1歩、2歩、歩いて俺たちの前に立つ。
守国護の宝玉を魔物から取り戻したこと、魔物の軍勢を征したこと、たたえてもらった。
国王さまの言葉のたびに大きな拍手が上がった。
国王さまの言葉が終わって、次は褒賞の授与。
「戦士、羊飼い、そなたらに褒賞を授ける」
国王さまの声が響いた。
次は俺、「ありがたく頂戴いたします」って言うところだ。
けど俺は言わなかった。
かわりに言った。
「この褒賞、いただけません」
国王さまはもちろん驚いて、玉座の間にいる全員も驚いた。
とは言えさすがは国王さまだ。
すぐに落ち着いて、
「訳を聞こう」
尋ねられた。
理由、言うことは決めてた。
「私は宝玉を探索した冒険者のひとりにすぎません。
宝玉はたくさんの冒険者が探索しました。
私はその中のひとりです」
玉座の間がどよめく。
「なるほど、
では魔物について聞こう」
これも決めてた。
「魔物を征したのはあの戦場にいた全ての戦人です。
私も魔物のいくらかは倒しました。
ですが星の数の魔物を倒したのは戦場にいた戦人の全てです」
国王さまの言葉。
「うむ、
確かにその通り。
だが、それで良いのか?」
俺が返す。
「はい、褒賞をいただけるのなら、
宝玉を探索した全ての冒険者に、魔物に立ち向かった全ての戦人に、
いただければ幸いです」
すぐに国王さまの言葉が返ってくる。
「なるほど、
しかし戦士はそう望むとして、
羊飼い、そなたはどうする?」
羊飼いくんも言ってくれた。
「私も宝玉を探索したひとりで、戦場にいたひとりにすぎません。
戦士さんと同じです」
羊飼いくんの言葉が終わって玉座の間から音が消えた。
その中に国王さまの声が響いた。
「では決まりだ。
宝玉を探索した全てに、魔物に立ち向かった全てに、
褒賞を授けよう」
国王さまの言葉の後、玉座の間はやっぱり静寂で。
その中に拍手がひとつ生まれた。
それがきっかけ。
拍手はどんどん大きくなって玉座の間を満たした。
その中で国王さまが俺と羊飼いくんに言った。
「『護国の勇者』の称号はどうする?」
羊飼いくんと視線を合わせてお互いにうなずいて俺が答えた。
「もちろん全ての人に!」
国王さまから言葉が返ってきた。
「全員が勇者と言う訳にはいかん。
称号はなかったことになるが良いのか?」
今度は羊飼いくんが答えた。
「はいっ!」
これで全部が決まった。
俺たちは拍手の渦に包まれた。
褒賞の授与式が終わって。
剣を置いて鎧を脱いで、ひと息ついた。
やっぱりひと息ついてた羊飼いくんと視線が合ってお互いに笑顔になった。
次は……、晩餐会!
テーブルマナーだ!!
今度は執事の控え室に行って執事のひとりにテーブルマナーを叩き込んでもらった。
晩餐会。
国王さまとその家族、もちろん姫さまも、がいちばんの席。
次の席に俺と羊飼いくん。
こんな扱いをしてもらって良いのか? と思う。
国の重鎮がいて、貴族がいて、騎士団の団長もいる。
それに冒険者もいた。
もちろんただの冒険者じゃない。
この国でいちばんの勇者のパーティーだ。
ほかにも俺には分からないけどきっとすごい人、がたくさんいた。
こんなところにいて良いのか? とも思う。
晩餐会が始まって、盛り上がってきて。
国王さまが改めて俺と羊飼いくんをたたえてくれた。
続いて将軍がたたえてくれて、貴族、たぶんこの国でいちばんの貴族、がたたえてくれた。
その後に騎士団の団長が、勇者が、俺と羊飼いくんをたたえてくれた。
勇者には「私たちのパーティーに入らないか?」とも言ってもらった。
ジョークとかじゃなくって本気で。
もちろん感謝の言葉で断らせてもらった。
たくさんの人と話をして、たたえてもらって、晩餐会が終わった。
晩餐会が終わって。
たくさんの人にたたえてもらえたのが夢のように思えた。
俺たちがしたことはとてつもなくすごいことだった。
今更になって気がついた。
夜が遅くなって。
俺と羊飼いくんは王宮に泊めてもらうことになった。
ふたりの兵士が案内してくれた。
王宮に泊めてもらう。
きっと立派な部屋だろう。
兵士の後を歩いて、石造りの建物が見えてきた。
なるほど、さすが王宮だ。
兵士のひとりにさりげなくどんな建物なのかと尋ねた。
兵士からの答え、
馬小屋、
とのことだった。
馬小屋!?
俺のいつもの宿よりもずっと立派な建物だ。
兵士に着いて、さすがに馬小屋の横は通らずに大きな建物に入った。
中はきらびやかな装飾。
階段を上がって2階へ。
2階を少し歩いて大きなドア、羊飼いくんの部屋だそうで、羊飼いくんが案内された。
その隣が俺にあてがわれた部屋。
大きなドアを開けてもらって部屋に入る。
立派できらびやかで……、俺には表現できない。そんな部屋だった。
案内してくれた兵士が部屋から出て、当たり前だけど部屋には俺ひとりになった。
部屋を見まわす。
大きなベッドがあって、そこに行って布団を触ってみた。
とてつもなくふかふかだ。
ここで寝るのか? 眠れる自信が出てこない。
もう一度部屋を見まわして。
壁際に、鎧とか、装備一式が置かれてた。
褒賞の授与式で借りたプレートアーマーとロングソード。
その横にぼろぼろのウッドアーマーと剣の鞘。
ウッドアーマーはもう使えそうにない。剣も鞘だけじゃどうしようもない。
愛着のある装備。
心にぽっかりと穴が開いた。
さみしくて、悲しくなる。
けど仕方ない。
気持ちを切り替えた。
明日の午前中に王宮を出ることになってる。
だからしっかりと休もう。
本当に使って良いのか? ベッドに上がった。
こんなにもふかふかなものが作れるのか。
布団に入って、落ち着かない、眠れそうにない、眠れない。
部屋のはしにソファがあった。
ベッドから出て、ベッドにあった中でいちばん薄いシーツを取った。
ソファに横になってシーツを被った。
それでもいつもの宿よりも十分に良い寝床だった。
夜が明けて。
窓からの光で目が覚めた。
今日は国王さまと朝メシを食って、出発の準備をして、昼前に王宮を出る。
まずは朝メシ。
ふたりの兵士が部屋に来てくれた。
部屋を出て隣の部屋、羊飼いくんが出てきた。
兵士に案内してもらって朝食のための広間に向かう。
広間に着いて、国王さまたちが来るまで羊飼いくんと話をした。
羊飼いくんにベッドの話をすると、いちばん薄いシーツでソファで寝た、羊飼いくんもだった。
国王さまたちが現れて朝メシになった。
昨日、俺と羊飼いくんはするべきことをした。
国王さまもひと段落だろう。
だから落ち着いたほのぼのとした朝メシだった。
朝メシが終わって出発の準備。
俺は装備を整えようとして、困った。
鎧はぼろぼろ、剣と盾はない。
どうしたものか。
考えてたところに兵士がひとり、部屋に来た。
出発の準備を手伝う、とのことだった。
ちょうど良い。装備をどうすれば良いか尋ねた。
兵士は、少々お待ちください、と部屋を出た。
少しして兵士が部屋に戻ってきた。
兵士と一緒に少し立派な軍服を着た兵士が部屋に来た。兵士の上官だそうだ。
装備について話すと、褒賞の授与式で使った鎧と剣をそのまま使ってくれ、とのことだった。
もちろん盾も用意させる、とも言ってくれた。
けど俺には……。
ここまで立派な装備はもらえない。そう言った。
上官は、それでは、と武器庫に行くことになった。
王宮の中を少し歩いて、やっぱり石造りの大きな建物、武器庫に案内された。
建物に入って、武器と防具、とてつもない数があった。
好きなものを選んでくれ、との言葉。
俺は武器庫の中を見てまわって。
まずは鎧。
たくさんの鎧がならんでる中のいちばんはし、目立たないところにとりあえず置いてある、そんなプレートアーマーを選んだ。
プレートアーマーとは言うものの薄いプレート。プレートで作ってるからプレートアーマー。そんな鎧。
だけどウッドアーマーよりはもちろん頑丈。
次に盾。
これもいちばんはしの目立たないところにあったスモールシールドを手にした。
木の盾だけど金属でしっかりと補強されてる。
俺が使ってた盾よりも強いのはもちろん。
最後に剣。
やっぱりいちばんはしの目立たないところにあったロングソード。
正直、地味な剣。
けど、このロングソードはロングソードの定義を十分に満たしてる。
もちろん俺が使ってたショートソードよりも強い。
この3つをもらうことにした。
上官には、そんなので良いのか? と驚かれたけど俺には十分だ。だから、良い、と答えた。
だけどもうひとつ欲しいものがあった。
それなりの大きさの袋をおねがいした。
鎧と盾と剣を持って部屋に戻った。
すぐに兵士が袋、しっかりした皮の袋、を持ってきてくれた。
礼を言って袋を受け取った。
装備を整える。
初めにぼろぼろになったウッドアーマーと鞘を皮袋に入れた。
次にプレートアーマーを身に着けてロングソードを腰に。
道具袋も腰に引っかけようとして、袋の中で、ジャリッ、と音がした。
袋をひっくり返して中身を全部出す。
出した道具を袋に入れなおして、最後に石のかけらが残った。
これだったのか。
納得して石のかけらはズボンのポケットに入れた。
改めて道具袋を腰に、魔物袋も腰に着ける。
スモールシールドを手にして、最後にウッドアーマーと鞘を入れた袋を持った。
出発の準備ができた。
少しの時間がすぎて。
もうすぐ出発の時間。兵士が迎えにきてくれた。
兵士に導かれて羊飼いくんと一緒に王宮の正面に立った。
俺と羊飼いくんが立ってすぐ、国王さま、王妃さま、ふたりの王子さま、それに姫さまが王宮から出てきた。
国王さまたちが俺と羊飼いくんに言葉をくれた。
姫さまの番になって、そう言えば戦いが終わってから姫さまとはきちんと話をしてなかった。
「またお会いできる日を楽しみにしています」
そう言ってくれた。
だから俺は、
「はい、私もその日を楽しみに待っています」
と言葉を返して、
「私も楽しみにしています」
羊飼いくんも言葉を返した。
一礼して正門を向いた。
王宮の正面から正門へ。
両側に騎士団がならんでる。その間を歩く。
次は王国軍の兵士。その間を歩く。
正門を出る。
街の人がたくさんと、冒険者がやっぱりたくさん、道の両側を埋めてる。
大きな歓声が上がる中を俺と羊飼いくんは歩く。
歩いて少しずつ人が減る。
減ってまばらになって、もうすぐ城門。
日常の風景になってた。
城門をくぐって王の都から出た。
城門を出たすぐ横に黒い犬と黒い羊がいた。
足を止める。
羊飼いくんが黒い犬に何かを伝えた。
「大丈夫です」
「じゃあ、行くか」
俺と羊飼いくんが歩き出してその後ろを犬と羊たちが歩き出した。
「でも、良かったんですか?」
「何がだ?」
羊飼いくんの質問に質問で答えた。
「褒賞です。みんなで分けるって」
「良いに決まってる。
俺ひとりでもらうにはどう考えても多すぎる。
それに、みんなで分けても俺には十分すぎる」
そう返した。
「そうですか」
今度は俺が尋ねる。
「羊飼いくんこそ良かったのか?
でかい牧場がもらえたのに」
すぐに羊飼いくんから言葉が返ってきた。
「はい、僕にはあの山がぴったりです」
「だな、俺にはあの街がぴったりだ」
俺もすぐに言った。
少し言葉が途切れて。
「最後の巨人、正直だめだと思いました。
でも押し返しました。
あれが戦士さんの本当の力なんですか?」
聞かれると痛いところだ。
けど羊飼いくんに答える。
「俺の力じゃない。
こいつの力だ」
ポケットに手を突っ込んで中身を取り出した。
石のかけらを見てもらう。
「これの力……、ですか?」
赤い石のかけらと青い石のかけら。
「なに……、ですか?」
不思議そうに尋ねられた。
「力の宝玉と護りの宝玉。
持ってたの完全に忘れてた」
そう返す。
「じゃあ、これのすごい力で勝ったんですね」
「いや、力の宝玉は攻撃力を1%上げる、
護りの宝玉は防御力を1%上げる、
ってやつだ」
羊飼いくんに言って、
「1%……、ですか」
納得できなさそうな声。
「1%って言っても、
勇敢なる覇王の力はとんでもない。
だから1%でもとんでもない、ってことだ」
「そう、ですね」
納得してもらえた。
ふと足を止めた。
羊飼いくんも足を止めた。
後ろを振り向いて、王の都が見えた。
「さて、行くか」
「はいっ」
黒い犬と黒い羊たちを連れて、俺と羊飼いくんは王の都を後にした。
了
『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~』、これにて終劇です。
褒賞をもらえることになっても戦士さんだったら絶対に素直には受け取らないだろう、です。
だからみんなで分けて、それでも戦士さんには十分すぎる褒賞だったみたいです。
羊飼いくんとふたり王の都を後にして、日常が戻ってきます。
最後は『ふたつの宝玉』、です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
繰り返しになりますが『宝玉戦記 ~ふたつの宝玉~』はこれにて終劇です。
ですが『冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~』シリーズは続きます。
今後ともお付き合いいただき、ご贔屓いただけると幸いです。