あなたはオカルトを信じますか?
あるいは祝福の導きを祈っていますか?

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ブランク解消で書いています。短いです


オカルティズムに、絵を描けば?

 絵を描くというのは、ともすれば写すという行為であり、それに嵌りやすいものだ。

 

 幼稚園の落書きから、躍動感溢れるイラスト。もう数歩も進むか別れ道を選ぶと、原点復帰したような、世界中から喝采されるような絵が生まれてくることも、ある。

 

 そこには常に想像力が働き、補完するものだ。見たことの無いものを描ける能力、人の獲得した力の一つ。

 

 

 人は弱く、ゆえに現実を直視し続けることは不可能だ。思い出に縋るしか、道は無かったんだ。

 

 

 

 ではもし。

 目の前にない、いやもう無くなったそれを。

 かつてと同じ姿で描かんとし、完成させなければならないならば。

 

 

 

 

 それはもう、二度と描きたいものを描けないという罰ではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 私は、彼。罪人 あるいは 絵描き

 

 ずっと、描き続ける。もう戻らないことも、分かっている。

 これは私の 彼の罰。完成させる、それが刑。

 

 目の前の巨樹。葉脈の太く 皺だらけの幹

 これも とても不格好。黄金樹と比べるのも おこがましいほど

 

 翳る。陽射しが木を灼く

 本当に一瞬、見える それを写す。繰り返す 何度も

 

 天に回る円環 異郷の天使が戴く 神の使いの象徴。

 巨樹との重なりが、あれを思い出させる 見えるだけ 本当にそれだけ

 

 これは描いている? ただ 写している?分からない

 どちらでもいい 完成すれば・・・・・・

 

 

 

 

 「し~しょ~~!!」

 

 絵筆を止める。振り返る。

 

 「今日はこちらでしたか!にゅふふ、私のアルカナも精度を増してきましたね!」

 

 とても うるさい

 

 「ああと、ごめんなさい。今日もその画法でお聞きしたいことがありまして、ぜひお聞きしたく!」

 

 白髪 ビッグハット どこかの学院の制服 それと銃筒

 色を反転した隠者 いかにもらしい子ども キラキラした瞳。それが 見つめてくる。

 

 

 いつか見た、光のように。

 

―――――

 

 

 

 夜は退けられ、挿し木の一族の贖いもまた終わった。

 それは夜を渡る戦士たちが、散っていったことを示していた。誰も誰かがどこに行ったかは知らないが、共に戦うものたちの運命は、えてしてそういうものだ。

 

 

 とはいえ、だ。この絵描きの者ほど奇妙な場所に飛ばされた夜渡りはいないだろう。

 

 目を覚ませば、砂漠。見上げれば、天に浮かぶ光輪。

 道を行けば。二足で歩く知性の高い獣の亜人、召使い人形が嫉妬しそうな綺麗な鉄の人形たち。

 そして空のそれに近い、薄い光輪を頭上に浮かばせる少女と少女たちが談笑しながら歩く、光景。

 そんな子供たちが鉄臭い銃筒をさも気楽に放ちながら、子供らしい下らないことで戦争するこの都。ただ平和ボケしているのか、どうなのか。命をかけて戦ってきた彼にとっては、遠い日の日常過ぎて答えを出すことは出来なかった。

 鉄の目の仕事人も、これを戦い続けられる理想の環境とは首を振らなさそうな、くだらなく血の匂いのしない戦いばかりだった。

 

 

 幸か不幸か、この絵描き――執行者もまた奇特な出で立ち。

 全身を赤金の鎧で覆う、刀を携えた風貌。どちらもこの都には、縁遠いものだった。

 

 幸というのは、ここが見た目で排斥してくるような「カッコウ野郎どもの住処」*1ではなかったこと。詰所で道を聞いても「お兄さんコスプレ?ハロウィンって今日だったっけ」と隈の濃い警官にスルーされる始末。彼女には水をやって立ち去った。

 

 不幸というのは、まさにこの地に飛ばされたことだろうか。

 

 学園都市キヴォトス、それがこの地。執行者の身を置く場所である狭間からは、遠く離れた場所。

 執行者は、罪人だ。挿し木の子孫とは関係のない、ただ罪を犯した者。

 絵描きの指名は黄金樹の完成。それまで、刑は執行されなかった。

 

 

 そこに、夜が来た。絵描きの黄金樹は、奪われたのだ。

 夜を渡ったのは黄金樹を描くためだった。罪人なれど絵描きとして、再びそれにま見えるために。

 

 だがそれももう、恐らく叶わないだろう。処刑人の気まぐれが長引かせ、遂に執行された、最も残酷な罰。

 心のどこかで、それも当然だと思う自分がいた。あるいは、彼のものかもしれなかった。

 

 

 

 それでも、描くことはやめなかった。やめれなかった。

 あの日の黄金樹を、記憶に刻まれた大樹を描くために。

 執行者はせめて、この地で。微かなれども、黄金の影を垣間見える場所を転々と過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 そうして現在。

 

 「師匠~ぅ!今週の課題どうしましょう!!何もアイデアが湧きません!」

 

 

 執行者はある少女に絡まれていた。

 

 彼女の名は白尾、齢16の少女だ。絵描きを目指しているらしく、「お願いです!私を弟子にしてくれませんか!?」人の気配に振り向いて開口一番そう言ってのけたのだ。葦の地特有の土下座までして。

 突然撃ちぬいて来るガーディアン・ゴーレムの狙撃くらいにびっくりした彼は、言葉を発さずにいてしまった。そうして彼女がそれを承諾と捉えてしまい、現在に至るというわけだ。

 

 彼女の母校は規則に厳しいらしく、外出許可もそう出るものではないそうだが、それでも週何回というかなりの頻度で出て来ては執行者に会いに来る。

 最初は鬱陶しいと感じなくもなかったが、こちらが集中しているときは静かに見ているだけに留めてくれる。絵の具や画材の補充も手伝ってくれた。最近では己の描きたいものを何となく理解してきたのか、おススメの森や樹木の生える場所を教えてくれたりしている。

 

 弟子にしてくれ。とは言われたが、最近はこの子の方がよほど絵に詳しいのではと思い始めている。

 何せ執行者の画法はほぼ我流だ。誰かに教えを乞うたこともない。

 一方エリは多くの画法や染料の種類、絵の保管方法や画材の管理なども知っていた。描き終わった絵をその辺に転がしていたら謎に怒られたのは今でも覚えている。

 

 

 傍から見れば親密そうに見えるが、エリは執行者の声を聞いたことも無く、執行者もエリに返事をした覚えはない。

 エリが話し好きなのかと言われれば違うそうだが、どうやら彼女は「おかけん」なる部の長らしく、部員も4名ほどいると聞いているから、他に話し相手がいないからというわけではないのだろう。

 だからこそ分からないのだ。己より芸術に詳しいであろう学院を出て、かなり面倒な外出手続きをしてまで、なぜ会いに来るのかが。

 

 友とおかるとに話し合い、芸術の道を進めばいい物を。その時間を減らしてまで、果たして。

 

 こんな面白みのない絵描きに、好んで寄り付く存在がいただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 自分の絵がつまらないと感じ始めたのは、いつからだろう。

 

 

 昔はただ、描きたいから描いていたのだ。目の前にあるものを、どうしようもなく描きたかったから。絵筆を取った理由も、それの延長線だった。

 好きこそものの上手なれか。学年が上がっていくにつれ、上手な絵と褒められることもあった。自分の顔を描いてと言われて、嬉しくないわけがなかった。

 

 エリちゃんならワイルドハントに行けるよ!

 

 嬉しそうに言うクラスメートの顔は、今では思い出せない。

 おかしいですよね。その子の似顔絵、たくさん描いたと思うのに。

 

 

 ワイルドハントでの日々は、とても忙しかった。

 

 誰もが自分なりの芸術を極めようと、あらん限りのリソースをつぎ込んで自己実現しようとする様に押されっぱなしだった。そんな皆が話し合う言葉も、あまりに専門的すぎて、知らない世界に放り出されたみたいな、実際そんな感覚でした。

 それは絵もそうで。

 絵筆に限らず、ただ描くだけでもない技法の数々。こんな絵があるのかと、驚くしかない自分の見分の狭さに辟易した。自分が井の中の蛙だとそれまで思いもしなかったのに。

 

 ただ絵がうまいだけの自分が、ここに居ていいのか。なんて思ってしまうのも自然なことだった。酷い時は退学届に手を伸ばそうとしたこともあったけど、なんとなく惰性で1年も過ごしてしまった。

 

 同級生も先輩も、優しくしてくれる。こんな私を、なんて汚い言葉がココロから出てしまって。ますます自分が嫌になった時期もあった。カノエ先輩に誘われてなかったら、ここに居たのかな。なんて考えることもありました。

 自分の芸術はオカルトの道にある!すっぽり嵌ってしまい何だかんだ楽しく過ごせるようになっても、絵では中々上手くいかないことも多くて、気分転換がしたかったのだ。タロットに従い、誰も来ないような学園の森まで来て。

 

 

 いるはずのない、絵描きに出会ったのだ。

 

 どうして銃でなく刀を持っているのか。全身鎧は新手のプロテクターか何かだろうか。こんな人に会えるなんてやっぱりオカルトの導きはあるんだ!と。

 そういういつもの思考よりも。後ろから見えたその絵に、惹かれた。

 

 

 木だ。それも、黄金色の。後から気づいたけど、その人は黄金の木ばかりを描いていた。目の前にあるのは青々とした幹の太い、いっそ注連縄の似合う生命力に溢れた立派な木なのに。

 

 その絵の木は、とても雄大で眩しくて。でも孤独で、森から追放されているみたいな寂しさを感じる。矛盾した、アンバランスな木だった。

 子どもの落書きかな、なんて思う題材でした。だって黄金の木なんてあるはずないし、それを描くならむしろこの緑色の木々は邪魔でしかないはず。想像したのなら、もっとありのままに描いてもいいはずなのに。

 

 彼の絵は、あまりにも緻密だった。

 写実主義よりもいっそ現実的な、まるで本物の木を創ろうとしているくらいに、その人は丁寧に描いていた。

 

 慈しむように、じっとその眼に焼き付けるように。

 

 

 気づけば私はその絵を覗き込んでいて。

 

 『絵、好きなんですか』

 

 なんて言葉をついてしまって。慌てて謝る私に、その時は何も言わずに絵を描き続けてしまっていたけれど。

 

 

 その姿が、一心に描きたいものを描こうと足掻いているその人が。何だか子どもの時の私みたいで。

 絵描きの人は、その木を見たことがあるのだろうか。彼が失敗作として積まれた絵を見ていると、感じてしまうのだ。

 

 

 世界にはこんなに凄い木があるんだ(黄金樹は、ここに在り)

 

 そう宣言しているように感じてしまうのだ。学生の身で何を言っているんだと思われるだろうが、だってそう言っているんだ。

 この絵も。この人の背中だって。

 

 

 

 だから私は、今日もあの人に会いに行く。

 誰にも知られずに。一途にあの木を求めているその人から、目を逸らせなくて。

 

 

 「師匠!少々お時間いただきますね!」

 

 この導きを、決して忘れないように、って。

*1
学者に曰く


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