転生リィンのやり直し   作:影後

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4/18Saturday

 

簡単な私服に着替えた後、

第三学生寮前の喫茶店兼宿《キルシェ》で簡単な朝食を摂る。

 

「あら、リィンじゃない。アンタは外出?」

 

そこに居たのはサラ教官だった。

特に仕事も無さそうで、朝っぱらから飲酒を始めている。

 

「えぇ、少しばかり帝都の方へ。

買い物のついでに、アストライア女学院に挨拶へ。

妹が在籍していまして、入学祝いをプレゼントに」

 

「そう、一つ言うわよ。問題を起こさないこと」

 

「…この刀と、我が称号にかけて」

 

サラ教官は一瞬、教官から遊撃士の。

歴戦の兵士や歴戦の勇士の目になった。

 

「そう、気をつけなさい」

 

「では」

 

会計を済ませ、列車に乗り込む。

本当ならベリルにも付き合って欲しかったが、

事前に話していなかったし、そもそも急に帝都を歩かないか?

等とは言えない、しかも目的は『発禁本』である。

 

(アンタ、何してるわけ)

 

(セリーヌ?何でここに)

 

正直、一人で行こうと思っていた所にセリーヌが乗ってくる。

 

(エマが駅に入るアンタを見て、

嫌な予感がするから監視を頼まれたのよ)

 

エマ、魔女の勘は優れているし、他に理由があったとしても、

セリーヌがいることで色々と計画を改める…

いや、この際別に良いだろう。セリーヌは口が硬い。

それに、本を気にするたちではない。

 

「っと、列車が来た。セリーヌ、肩から落ちるなよ?」

 

「なーお」

 

了解の返事を受けて、列車にのる。

子供が乗っており、セリーヌは直ぐ様人気者だ。

子供達に鰹節を分け与えていたら、頬に猫パンチされた。

どれだけ鰹節を好きになったんだ、セリーヌは。

 

「よし、セリーヌ。逸れるなよ」

 

「みゃぁ」

 

肩に乗って爪を立てたセリーヌ。

目的地は古本屋であり、事前に情報だけは手にしていた。

オスト地区にある古本屋は色々と取り押さえている。

正直、有名どころではない上に古本屋というが、

営業許可は取っているのか不明、実際にあるかも不明。

個人的に貯めた蔵書を売っているらしい。

つまり、たった一本の糸なのである。

ここになければ本当に無いだろう、

帝都で発禁本となっている『ディストピアへの途』。

これがあるか、無いかで、彼女を落とす難易度は変わる。

 

「ここか……」

 

見た目は完全に旧市街の一軒家。

店舗とは思えないほどだが、

一部の古書ファンには隠れスポットとして有名らしい。、

 

「いらっしゃい、また随分と若いお客様だこと」

 

そこに居たのは、若々しいおばあさん。

 

「すみません、『ディストピアへの途(みち)』

という本を探しているのですが……」

 

「アンタ、その年で発禁本読むのかい?」

 

「趣味の一つで、それに……

発禁本って逆に気になるじゃないですか?」

 

「知識欲ね、まぁ持ってても特に言われん物だしねー。

2冊あるけど欲しいかい?

私しゃ、全部読んで頭に入ってるさね」

 

「ください」

 

「8000ミラだよ」

 

「うへぇ…」

 

発禁本だし仕方が無いと割り切り、8000ミラを出す。

もとより、魔獣を仕留め続けていたのだから問題ない。

街道で倒した魔獣のセピスは全てミラに変えていた為、

残金は結構あるのだ。

 

「…お前さん、いや……ありがとうね」

 

「では」

 

なにか言いたげだったようだが、あえて無視する。

おばあさんも、深く関わる気はないようだ。

 

「それで…何よ、『ディストピアへの途(みち)』って」

 

「とある学者が書いた本さ、興味あるなら後で貸すよ?」

 

「私、猫だから本読めない」

 

「後で読もうか」

 

その後、お土産を買いサンクト地区にある

『聖アストライア女学院』に歩みを進める。

お土産は花束とケーキ、

フラワーショップで女性に贈る花束は何が良いかと聞いた時

店員さんに

「頑張ってください」

と言われた挙句、

薔薇の花束を渡された。しかも赤薔薇である。

 

セリーヌには

「アンタ、告白にでも行くの?」 

と睨まれた。

 

確かに主語が足りない気がするが、

俺は本来、家族や友人以外とはあまり喋らない方だ。

 

「……えっと、君は此処の生徒に何か用かな?」

 

「エリゼ・シュバルツァーに用件があり参りました」

 

警備員の目の前に赤薔薇の花束と、ケーキらしい箱。

そして肩には猫を乗せた男性が立っている。 

それだけで、聖アストライア女学院は浮き足立っている。

 

「え……あ……その、ね?うちはそう言う」

 

「あの、妹に入学祝いを」

 

「あ…え?…嘘?妹?」

 

「リィン・シュバルツァーと申します。

エリゼ・シュバルツァーに用件があり参りました」

 

「……えとね、主語がない。

大事なところ抜けすぎてるよ!君?!

後、此方でその…書類にサインしてね」

 

警備員の人に凄い困惑されたが、

そもそも勝手に邪推したのは相手側である。

 

「アンタ、本当に刺されるわよ」

 

「げせない」

 

そのまま女学院の中に歩いていると、

懐かしい緑髪の生徒に出会った。

第二分校で見慣れたショートではなく、

背中まで伸びるライムグリーンの長髪。

 

「あら、件の男性がこんな所に」

 

「君はエリゼ・シュバルツァーが何処にいるか知っているか?

入学祝いを渡しに来たのだが……」

 

「……入学祝いに赤薔薇の花束を手渡す殿方は、

本来居ないと思うのですが……」

 

「フラワーショップで、

女性にプレゼントする花はと聞いたら赤薔薇になった」

 

「……えぇ」 

 

あまりにも困惑気味なミュゼ。

セリーヌもウンウンと首を振っているし、

今この場に味方はいないのか……

 

「お兄様!」

 

「エリゼ、久しぶりだな。入学祝いを」

 

「入学祝いとは少なくとも昨年には渡すものですし!

既に受け取っています!そもそも、入学したのはお兄様で、

私ではありません!!」

 

凄い剣幕でその通りのことを言われた。

 

「お兄様!

そもそも、男性が急に訪ねてきて私に告白するという話が

女学院で至る所に」

 

「……すみません」

 

「その赤薔薇は」

 

「フラワーショップの店員に、

女性に贈る花束をと聞いたら…」

 

「妹と言いなさい!確かに嬉しいですが、姫様を」

 

「あら、この方がエリゼのお兄様なのね」

 

「姫様っ?!」

 

エリゼは驚いた顔で振り向くと、

ニコニコと笑うアルフィン殿下。 

居たのは知っているが、此処で現れる事に驚きを隠せない。

 

「驚いた顔がエリゼ先輩とそっくりです」

 

「え……っと、エリゼ・シュバルツァーの兄。

リィン・シュバルツァーです」

 

「硬くならずに結構ですよ。

しかし…エリゼのお兄様は、(格好良い方なのね)」

 

エリゼに何やら耳打ちしていおり、

エリゼが猫の威嚇のように俺の前に達塞ぎる。

それをアルフィン殿下とミュゼはニコニコと見る。

 

(この男、妹もおとしてる)

 

「セリーヌ、鰹節はあとでな」

 

(違うわよ馬鹿!)

 

テシテシと猫パンチされるが、

爪が立っていない為肉球の感触だけだ。

 

「とりあえず、一緒に来てください。

こうなっては、姫様とミュゼも一緒に……」

 

「エリゼ先輩の言う通りに!」

「あら、では私は左腕を」

 

「ミュゼッ!姫様ッ!!」

 

右腕にミュゼ、左腕にアルフィン殿下が腕を絡めてくる。

エリゼは起こりながら、庭園のような場所に案内してくれた。

 

「あら、終わりですね。

もう少し殿方を肌で感じてみたかったのですが」

 

「そうね……エリゼのお兄様。格好良いし」

 

「……はぁ、お兄様もお兄様です。

何故嫌がる素振りを」

 

「…大丈夫だ、エリゼ」

 

エリゼの顔を正面でみて笑ってみせる。

こうすると、昔からエリゼは黙り何も言わなくなる。

 

「あら、エリゼ先輩が真っ赤に」

 

「いったいどんな顔をして」

 

「絶対に見せません、これは…私だけの笑顔です」

 

何かとんでもない事を口走るエリゼだが、まぁ良い。

 

「エリゼ、ケーキもある。

ホールで買ってきた、友人と食べてもらおうと思ってね」

 

「では、紅茶の用意もします。お兄様も一緒に」

 

「わかったよ、」

 

「でしたらナイフとフォーク、お皿の準備も必要ですね」

 

「フフ、エリゼのお兄様とお茶会というのも面白いですね」

 

女学院3人の方が行動がはやく、

何もすることがなかった。

 

「あら、このケーキは」

 

「無名のところでしたが味見ができ、

中々美味しかったので」

 

「えぇ、してフワッとしていて」

 

「後で教えてくださいね、リィンお兄様」

 

「…ミュゼ」

 

「エリゼ?」

 

「なんでもありません」

 

一瞬ミュゼが俺の隣にいるエリゼを見て固まったが、

知らぬ存ぜぬを通す。エリゼが怒ると怖いのは、

既に身をもって知っている。

 

「そう言えば、ソチラの猫は」

 

「士官学院に向う電車であった猫、セリーヌだ。

鰹節をあげたら懐かれた。飼い主は俺の学友さ」

 

「そうですか」

 

「リィンさんはエリゼの幼少期や恥ずかしい事を」

 

「姫様、やめてくださ」

 

「エリゼの……でしたら一つ。

幼少期、エリゼは男女の違いがわからず人の前で、

何故お兄様とお父様はスカートを履かないのと?」

 

「い……」「「ふっ……」」

 

「お兄様のバカ!」

 

ミュゼとアルフィン殿下は笑っており、

微笑ましい目でエリゼを見ており、

エリゼはもう俺を見ず、黙々とチーズスフレを食べている。

 

「でしたら、仕返しです。

お兄様、お兄様の部屋のベット下。

そこに隠されたあの衣装」

 

「待て!待ってくれ、それだけは……

本当にそれだけは止めてくれ!思い出したくない!

思い出したくないんだ!」

 

「駄目です。

お父様も、お母様も、アレが収まった瞬間、

兄様を止めるので大変だったのですから」

 

それは人に言えない、知ってほしくない秘密。

所謂、厨二病なのだが俺はそれが治った瞬間、

アイゼンガルド連峰に登り、只管に心を癒していた。

無論、恥ずかしすぎて家族の顔が見れなかっただけだ。

 

 

「…あら、ソチラの本は」

 

「あっ…これは…」

 

心を痛めていた時に、ふとミュゼがそんな事を言う。

どう見せるか気になっていたが、かなり不味い。

よりにもよって、アルフィン殿下とエリゼの前は不味い。

いや、やれるかもしれない。

今は俺の過去とエリゼの過去の話で盛り上がっており、

此方に意識を向けていない。

 

「俺が私的に読む本さ」

 

ミュゼにはこの本をどうしても渡す必要がある。

彼女の『力』、俺の『千里眼』に似て非なるもの。

俺よりもはなるかに先を見据えることができるのだ。

今、協力関係を結ぶに越したことはない。

 

「……なぜだろう、君にはこの本が相応しいと思う。

あまりおおっぴらに読んではいけないよ?

帝国で発禁処分された貴重な本だから。

特に、『エリゼ』と『殿下』には絶対に見せてはいけない」

 

優しく、だが確かな意思を向けて手渡す。

ミュゼは賢い娘だ、この本を見せた意味。

言葉の意味を理解してくれるだろう。

 

「エリゼ、殿下、それ以上は自分も恥ずかしく」

 

「もう!お兄様のせいですからね!」

 

「ごめん」

 

「でも、エリゼ。

このトラブルがあったらリィンさんも楽しめたのでは?」

 

「えぇ、エリゼに良き友人達が居ることを確認できて…

本当に嬉しい思います。ミュゼ、殿下。

エリゼは自分のせいで本来なら要らぬはずの

蔑みを受けていてもおかしくないのです。

ですが……」

 

「お兄様、私はお兄様がお兄様でいてくれて嬉しいです。

ですから、そのような顔は」

 

「そうですよ、リィンさん。

乙女の前でそんな顔を見せては、

支えたくなってしまいますよ」

 

「影のある美男子、

エリゼ先輩に頼めばきっとすぐに会えるとなれば、

きっと」

 

「殿下!ミュゼも!

……はぁ、お兄様。紅茶も冷めてしまいますし、

食べてしまいましょう」

 

「あぁ、そうだな」

 

殿下、ミュゼ、エリゼ。

三人の友情が消える事はないだろう。

俺は守る、こんな笑顔を。

俺の近くにいる人達を、俺の手が届く限り。

 

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