魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第十七話 アジトへ GO

 

「そ、そんな、、まさか全滅、、、」

 

 司甲は非常に焦っていた。襲撃部隊が全滅したこと、すぐに兄である司一に伝えなくてはならなった。それにしてもだ。わからないことが一つある。

 

(どうして、、どうして勝てると思った?

俺はどうして、あの十文字金次に勝てると思った?) 

 

 彼もまた、自分の兄に洗脳されている一人に過ぎなかった。去年の騒動。金次の実力は学校の誰もが知っている。

 

(それなのにだ。何故俺は…………)

 

 考えても結論は出てこない。

 

(壬生の奴、なんで連絡を寄越さない…………)

 

 壬生と連絡がつかない事も焦る要因の一つとなった。計画は失敗。次の指示を仰ぐために、司甲は端末を取り出し兄に繋げようとしていた。その時、

 

「司甲だな?」

 

「だ誰だ!?」

 

 人がいる気配はなかった。にも関わらず、背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえてきて、反射的に身体を震わし、ガバッと後ろを振り向いた。

 

「な!? お前は司波達也!」

 

「こんな人気の無い、

 体育館裏で一体何をしている?」

 

 達也は司甲の手元に握られている端末をチラッと見た。

 

「おっ、お前には、かっ、関係のないことだ!」

 

 誰が見ても明らかに動揺している司甲。目は泳ぎ、その額には汗をかいていた。

 

「言わなくてもわかってるだろ」

 

「!?」

 

 達也の冷たく殺気だった瞳に、司甲は恐怖のあまり咄嗟にCADを抜いた。

 

「く、来るなぁ!!」

 

「お粗末過ぎる」

 

 CADを操作し発動する速さよりも先に、達也は司甲の懐へと入る。そして、その鳩尾に掌打を与える。

 

「ガバァ!?」 

 

「これなら近づいた方が速い」

 

 痛みで意識が飛んだ司甲は、地面に自由落下する。倒れた際に砂埃が舞い、達也はそれを手で払いのける。

 

(ここに金次先輩が来なかっただけでも、ありがたいと思うんだな。早く深雪のところへ向かおうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカと連絡がついた深雪は、摩利を連れて二年生のクラスがある階、その廊下を歩いていた。その廊下に座っていたのは壬生、片腕を抑えており、対するエリカは彼女の前で佇んでいた。

 

「そっちは終わった見たいね。深雪」

 

「えぇ。エリカ、ありがとう」

 

「高くつくよ〜〜。今度奢ってもらおうかな」

 

 パッと見た限りでは、エリカは傷を負っている様子は見られない。壬生の剣の腕も立つが、エリカはその上をいく。流石は千葉家の人間である。

 

「渡辺先輩………」

 

「壬生、正直残念だよ。お前が犯罪組織などに加担するなんて。お前の剣技はあれほど美しいというのに」

 

「ーッ!!」

 

 摩利の言葉は、壬生の地雷を踏み抜いた。

 

「ならどうして、私と戦ってくれなかったんですか! 私が二科生だったから! ウィードだったからじゃないんですか!」

 

 壬生は一年もの間、心のうちに秘めた思いを当の本人にぶつけた。すげなくあしらわれたこと、それにショックを受けたこと。しかし、壬生の説明に摩利は疑問に思った。

 

「チョッと、チョッと待ってくれ。去年の勧誘週間というと、私が剣術部の跳ね上がりにお灸を据えやった時のことだよな?」

 

「えぇ、そうです!」

 

「お前に練習相手を申し込まれたことも覚えている。けど、お前をすげなくあしらったりはしてないぞ?」

 

「傷つけた側が分からないなんてことは、よくあることです」

 

 過去を掘り起こすように、真剣に首を捻っている摩利に、エリカが皮肉を含めて避難する。

 

「ちょっとエリカ。静かに」

 

 それを深雪が注意する。

 

「壬生、それは誤解だ」

 

「えっ?」

 

「私はあの時、お前にこう言ったんだ。

 

 『すまないが、私の腕では到底、お前の相手は務まらないから、お前に無駄な時間を過ごさせてしまう。だから、お前の腕に見合う相手を見つけてくれ』 

 

                とな。違うか?」

 

「え……あっ……そういえば………」

 

 段々と二人の間にあった誤解が解けていく。

 

「それでは渡辺先輩、先輩は壬生さんの方が強いから、相手を辞退した、ということでしょうか?」

 

「あぁ。私の剣技は魔法の併用を前提としたものだ。純粋に剣の道を修めた壬生に、剣技でかなう道理がない」

 

「なるほど、そういうことだったのね」

 

「じゃあ……私の誤解、だったんですか?」

 

 すると、壬生の目から涙が溢れる。頬をつたい廊下にポタポタと落ちていく。彼女の嗚咽が廊下に響き渡る。

 

「私、バカだ。勝手に先輩のことを誤解して、

     逆恨みして………………ほんとバカだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金次が薄暗い工場の中へ進むと、ホール状のフロアに辿り着いた。そこには、『ブランシュ』のメンバーらしき人物たちが隠れもせず整列していた。

 

「初めまして十文字金次君。僕の名前は司一」

 

 手を広げ、大袈裟な仕草で歓迎のポーズをとった男こそ、『ブランシュ』のリーダー・司一であった。

 

「君の噂は弟から聞いて「あぁ、そういうの良いからよ」……………何?」

 

 金次は小指で耳をかいていた。

 

「一人で気持ちよく話しているところ悪いが、マジでどうでも良いから」

 

 司一はあからさまに顔を歪ませた。しかし、すぐに余裕の笑みを浮かべた。腹の底では敵の懐に入った金次を嘲り笑っているのだ。

 

「フンッ。十師族ともなると、こんな状況でも余裕と見える」

 

「状況?」

 

「見てわからないかな? 全員が銃を武装している。それに加え……」

 

 司一は懐から真鍮色の金属を取り出した。

 

「アンティナイト。キャスト・ジャミングを引き起こす希少な鉱石さ。これで君は魔法を使えない」

 

 司一は勝ち誇った笑みを浮かべる。すると、

 

「ハハハハハハ!!」

 

 金次は高らかに笑い始めたのだった。気でも狂ったか、そう思った『ブランシュ』のメンバー達。

 

「何がおかしい?」

 

「あーおもしろ。やっぱお前ら馬鹿だわ。そんなオモチャで、俺に勝てると本気で思ってるなんてよ」

 

「ーーッ! ならば、ここで死ね!」

 

 司一は天井高くアンティナイトを掲げる。そして、自身のサイオンに注入して魔法阻害のノイズを発生させた。

 

(馬鹿なのはお前のほうだ。

これで立つこともできまい。勝った……!)

 

「喧しい」

 

 金次は司一目掛けてジャンプした。それは工作員たちの頭をゆうに飛び越え、敵のリーダーの目の前に降り立つ。ただの人間の身体能力では起こり得ない。魔法を使っていなければ、到底出来ない芸当であった。

 

「はっ? な、今のは魔法!? 何故……!」

 

「俺に効くかよバ〜カ」

 

 金次の拳が司一の顔面を捉える。

 

「はぐぁ!!」

 

 情けの無い声がホール全体に響き渡る。掛けていたメガネは木っ端微塵になり、後方の壁へと激突した。その衝撃で意識を持っていかれ、力なく地面に横たわった。

 

「そ、そんな……!」 「リーダー……」

 

 魔法が使えないと完全に油断していたので、司一が殴られるのを呆けて見ているだけしか出来なかった。

 

「さてと」

 

 金次は司一から視線を外し、頭を失い混乱している者達へ地獄の切符を切る。

 

「さぁ、死にたい奴から掛かってきな」

 

 その後のことは、もはや語るまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件の後始末は、克人が引き受けてくれた。金次達の行為は、よくて過剰防衛、悪くすれば殺人未遂にも当たる。加えて、まだ学生の身分でありながら魔法の無免許使用という点も相まって司直の手が伸ばされる事になり得るが、それを全て克人がおさえた。

 

 十師族の権勢とは、それ程の力のあるとこの事件の関係者である生徒達は再認識させられた。

 

 壬生沙を含む"元"二科生達のスパイ未遂も、司一のマインドコントロール下にあったということで罪に問われることはなかった。

 

 学校側もそれを受け入れたが、百山校長は彼らには2ヶ月間の奉仕活動を命じた。

 

 事件はこれで幕を閉じた。そして一週間が経った日のことである。

 

「壬生さん、腕の調子はどう?」

 

「まだ完全に治るのには時間が掛かるそうです」

 

 あの後、壬生は入院していた。エリカとの戦いで負傷した右腕にヒビが入っていたこと。これ自体は大した怪我ではないが、彼女は他の"元"二科生達よりも深い洗脳状態に陥っていた為、その影響が残っていないかどうか、様子を見るためであった。

 

「改めて謝罪します。

 皆さんには本当にご迷惑をおかけしました」

 

「もう謝罪は何度も受け取ったわ。それに、計画を事前に察知出来たことで奇襲も防げたし、迷惑はそれほど掛かってないわ。あるとしたら、後始末を引き受けてくれた十文字君かしら」

 

「はい。十文字会頭にも改めて謝罪にいきます。あの、それと」

 

「?」

 

「剣道部のことなんですが…………」

 

 主将だった司甲は自主退学。壬生も奉仕活動で部活には顔を出せなくなった。そのせいで後輩達の指導をする人間が居なくなったことを壬生は懸念していた。

 

「あぁ、それは問題ねぇよ。先輩が足りなくなった分、剣術部が面倒を見ることになったから」

 

「えっ? 剣術部が?」

 

「後で桐原にも礼を言っておけよ。アイツがそうしたいって、俺に言ってきたんだからよ」

 

「桐原君が………」

 

 桐原が何を思ってそう提案してくれたのかは壬生には分からなかった。

 

「アイツなりのケジメってやつかな」

 

「どういうこと金ちゃん?」

 

「うるせぇ」

 

 金次は答えずそっぽ向いた。その姿に、事情を知っている服部だけはうっすらと笑みを浮かべていた。

 

「まっ、これで一件落着よね。いつもの日常が戻ってきたし、壬生さんの摩利との誤解も解けたようだしね」

 

 しかし、壬生は顔を俯いた。その表情はどこか暗い。

 

「はい………でも、私は一年間も無駄にしてしまいました。私はこれから、失った一年間を取り戻そうと思います」

 

 すると、金次は椅子から立ち上がった。

 

「いや、無駄じゃねぇよ」

 

「えっ?」

 

 顔を上げた壬生の瞳に、金次が映り込んだ。

 

「だから、お前の一年間は無駄なんかじゃねぇ」

 

「金次君……」

 

「エリカの奴が言ってたぜ。中学時代の剣技とは比べ物にならないくらいに強くなってたってな。たとえ、恨みや憎しみを糧に力をつけていたとしても、それはお前自身の手で高めたお前の剣だ。磨き上げたお前の一年間は、決して無駄なんかじゃねぇよ」

 

 壬生の目は涙を溜めていた。それを指で拭い、彼女は笑みを浮かべていた。

 

「ありがとう、金次君。私、これからも頑張るよ」

 

「おう。お前の"熱"、遠くから見せてもらうぜ」

 

 金次は壬生に拳を突き出し、壬生もそれに答えるように自分の拳を合わせた。その光景を、真由美達は微笑ましく見つめていた。深雪も金次の言動に素直に見直した。

 

「よし。久しぶりに()()でもやるか」

 

 ()()とは何だ? そう思う壬生を他所に、金次はいそいそと何かを用意し始める。

 

「金ちゃん、本当にやるの?」

 

「当たり前だろ。ケジメだよケジメ」

 

 金次の口から出た()()という言葉を聞いた途端、生徒会の面々が戸惑い始めた。最も、発言者の金次は怪しい笑みを浮かべており、市原はいつものように無表情のままだが、何故だろうか、壬生に同情するような目を向けている。

 

 一方の、まだ生徒会に入って来たばかりの深雪は、()()というのが一体何を指しているのかが分からないでいた。

 

「あ、あの皆さん、一体何の話を………」

 

「一年前から始まった、というか金次君が開催した生徒会の名物。度を越した問題を引き起こした生徒に与える、いわば罰ゲームです」

 

「罰ゲーム?」

 

 市原が淡々と説明する中、あずさは「ヒェ〜」と怯えた顔をしていた。

 

「金次、流石に()()は……」

 

「はいはい。はんぞー、真由美、市原先輩、準備してね♡」

 

 服部と市原は「はぁ〜」とため息を吐く。真由美は手を合わせて「ごめんね」と壬生に謝る。そして三人は、金次と一緒に壬生を取り囲むように円になって並んだ。

 

「深雪、お前ももう立派な生徒会の一員だからよ。よ〜く見て覚えておけ」

 

 見て覚える? はて?

 一体これから何が始まろうというのか。

 

「なっ、何!? 何が始まるの!?」

 

「「「「……………」」」」

 

「何で誰も説明してくれないの! ねぇ怖いよぉ!」

 

 深雪と同じく状況を理解出来ない壬生。怯える彼女を置き去りにして、それは金次の掛け声で突然始まった。

 

「可愛いものしりとりスタート!」 「へっ?」

 

 何が始まったって?

 

「うさぎ」 パンパンッ 

 

「「「「可愛い」」」」 パンパンッ

 

 可愛いもの、しりとり? 何だそれは? 

 それに、皆んなの手拍子は一体何なんだ? 

 何か儀式めいた金次達の行動。それを見てあずさは、『その時』が来るのをビクビクしながら待っていた。

 

「ぎょうざ」 パンパンッ

 

「「「「可愛い」」」」 パンパンッ

 

「ザリガニ」 パンパンッ

 

「「「「可愛い」」」」 パンパンッ

 

「ニワトリ」 パンパンッ

 

「「「「可愛い」」」」 パンパンッ

 

 次は自分が言う番だろう。そう思った壬生は、恐る恐る次の『り』から始まる単語を口にした。

 

「リ、リス……」 「「「「……………」」」」

 

 しかし、誰も合いの手を入れてくれる者はいなかった。ただ無言で、無表情で壬生を見ていた。

 

「全然可愛くない」

 

「なっ、何でよ! リスは可愛いじゃない! それに、ザリガニとニワトリは百歩譲るとして餃子が可愛いって何よ!」

 

「罰ゲーム! ハバネロ100%一気飲み!」

 

「ハ、ハバネロ!?」

 

 金次は何処から持って来たのか、小さなボトルを取り出した。そのラベルには『ハバネロ、脅威の辛さ100%』と記載されていた。

 

「い、嫌よ! 絶対嫌! 無理よこんなの!」

 

 これから何が起きるのかを察した壬生が必死に拒否する。

 

「無理じゃねぇ。やるんだよ。ほら口開けろ」

 

 金次はボトルの蓋を開けて、ニヤニヤと笑いながら壬生へと近づいていく。

 

「や、やめて! 誰か!

 中条さん! 深雪さん! た、助けて!」

 

「ご、ごめんなさい。私にはどうしようも………」

 

「……………」

 

 逃げたくても逃げられないよう、服部と市原によってガッシリと捕まえられた。そうして、少しずつ壬生の口元に迫ってくる。

 

「い、いや、、いやーーーーーーーー!!!!!」

 

 この日、生徒会室では一人の生徒の絶叫が響いていた。もちろん、その声は廊下まで届いており、何事かと駆け付けた生徒が扉を開けて目にしたのは、床で悶え苦しんでいる壬生の姿、それを見て笑う金次、同情を向ける真由美達、そしてそれを遠い目をして見ていた深雪だった。

 

「お兄様。私、入る場所を間違えたようです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦編 はじまる

 

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