都から少し離れたところに小さい森があった。
木を大量に使う都の側にあって都建造前からある古来の森だった。どうしてそこの木々が伐採されなかったのかと言えば単純に貴族達の目の保養というわけだ。
そんな森だったが、手がつけられてない原生林に近いものであるためか、森の中は異様に暗かった。
紅葉樹の葉が月の光を遮ってしまいほとんどの光が届かない闇の中だった。普通の人間では一寸先も見えないだろう。
そんな森に駆け込んだ輝夜と協力者、そしてそれを追いかける月の使者も例外ではないはずだった。
少し遅れて森に入った私達は妖怪だから森の中がよく見えた。
薄暗い森でも意外と昼間のようによく見える。そしてサードアイから入ってくる情報は非常に騒がしかった。
「騒がしいですね……」
「そうかい?足音くらいは微かにするけど」
それでも微かにしか聞こえないのは森の木々や植物が音を吸収してしまうからだろう。
輝夜さんの思考を探して辿っていくと、随分と森の奥に逃げ込んだようだった。
「あっちですね」
途中で一人、月の使者と鉢合わせたので首を捻って永眠させつつ、輝夜の元に辿り着くことができた。
獣道のようなところから少し外れた藪の中で二人は息を潜めていた。
輝夜は気づいていないようですけれど協力者の方は私に早い段階から気がついて警戒していた。殺気がダダ漏れである。
「味方ですよ」
「その声は、さとりね」
私の声に輝夜が頭を上げた。
「姫様が言っていた妖怪ですか」
敵意がないのがわかったのか協力者も顔を上げた。やはり永琳だった。でもこちらが一方的に知っている状態で馴れ馴れしく話しかけるのもバッドコミュニケーションになってしまう。
「ええ、そちらは月の協力者ですか?」
「ええ、そうよ。正直貴女をいきなり信用しろって言われても無理だけれど」
「それは重々承知してます。兎も角、追っ手に気づかれずに森を脱出しますよ」
サードアイが複数の思考が近づいてくるのをとらえた。
ほとんどまっすぐ、それも早い。
同時に何か高周波の音が鳴り響いてきた。
「誰か来ます」
「この音は、機動バイク!」
ああ、もしかしてあの空中に浮いているバイク状の乗り物ですか。
「あれには複合式の対人センサーが付いているのよ。位置がバレているわ」
「な、なんだいそれ?」
話についていけない猫又が訪ねてきた。いきなりこの時代の人間にセンサーだとか言われても理解できるわけがない。
「神通力と思ってください」
「なるほど理解したよ」
そうしている合間に、それが姿を現した。
木々の合間あら突然飛び出してきたそれは私達の頭上を飛び越えて反対側の地面に着地した。二人乗りらしく後ろにいる人は小さな丸いものに向かって叫んでいた。
永琳があらかじめ弓を構えていたけれど彼女の第一射目は人に当たる手前で弾かれた。バイクにまたがる二人の手には小さな丸い円盤が装着されていた。それが急速に展開してバイク全体を隠すシールドに変形したのだ。
なんだそのビックリドッキリメカ。
「まずいわ」
「相手に出番は与えません……想起!」
バイクに乗っていた月の人間のトラウマが引き摺り出された。ふむ、なるほど……でしたら廃人にならない程度に……
二人の動きが完全に止まった。こっちに向けていた武器も引き金を引くことなく彼らの手からこぼれ落ちた。
そこを永琳が弓で射抜いた。心臓を長い矢が貫いていた。
主人を失ったバイクが倒れる人間に合わせて横転した。その瞬間にライトのスイッチが入ってしまったのかヘッドライトが煌々と輝き出した。素早く永琳がライトを射抜いたものの、あれだけ明るい明かりなら見られていてもおかしくない。
それに元々、応援を呼ばれていたらしい。
次々に森に入っていた月の人間が続々と集まってきていた。
「集まってきていますね」
「そうね、すぐに逃げないと」
「ここは引き受けます。脱出してください」
ついでに、倒した人から武器とか奪えば目的も完遂できます。すでに倒している人の分はこちらで回収といきましょうか。
「さとり⁈何を言っているの⁈」
「方位磁針で北西の方向に行ってください。森が途切れてなだらかな丘になっているはずです。そのまま行けば淀川に合流するのであとは川を伝っていけば山に逃げ込めます」
「さとり、その……死ぬんじゃないわよ」
「そちらこそ、死なないでくださいね」
「私は、死なないわ」
確かに、不老不死でしたね。なら安心です。
輝夜と永琳が駆け出した。
それと入れ替わるようにして月の人間が森の奥に見えた。
こちらに銃を構えて発砲しているのがよく見える。さすが銃ですね。人を殺すために生み出された武器の中でもおそらくこれが1番凶悪なのではないでしょうか。
でも狙いを定められていないからか私の体に当たる弾は無い。その上森の中で人を探し出すには人数が足りなさそうだ。
でもまあ好都合です。
即座に弾幕を展開し発射。紫と赤が混ざったような色をした弾幕がばら撒かれる。
突然の事で避けきれなかった月の人間が吹き飛ぶ。
銃と違ってこちらは構えたり狙ったりの動作が必要ないですからね。音もしないし一挙動で撃てるので即応性は段違いです。
流石に今のでこちらが狙っているということが分かったのか動きが完全に止まった。
「任せました!」
「はいさー!」
動きが止まってしまえばこちらの思う壺。月の民の集団に向けて猫又を放り投げた。
流石に暗闇ではこちらの動きは見えていないのか音も無く着地した猫又が近くの兵の首筋に爪を食い込ませて引き裂いた。
あの距離で密集している場合は同志撃ちになってしまうから銃火器は使えない。更にいえば近距離は猫又の得意な距離。それに動物ですからたとえ月の人間が接近戦に強くてもそう簡単にはいかないだろう。
でもそう長くは保たない。
最初こそ奇襲で優勢だった猫又ですが向こうもアホでは無い。直ぐに体勢を立て直して盾を効率的に使って猫又の攻撃を防いている。
「退きなさい!」
「え⁉︎わ、わかった」
私の言葉で猫又が森の中に逃げ込み視界から消えた。残っていた月の民が一斉にこっちに意識を向ける。ようやく私を認識できたようだ。
意識を向けてくれたので、こちらもサードアイで全員を読み取る。
流石に精神自体は人間と変わらないようだ。むしろ、脆弱性は人間のそれより妖怪に近いような感じだ。
だからこそ、私が付け入るには十分すぎる。
月の民が一斉に銃を私に向けて発砲した。
マズルフラッシュがいくつも光っている。
「な、なんで効かない!」
私の周りの木々や地面が銃弾により抉れ破片が飛び散る。当然そこには私や輝夜の身体も含まれていなければならないのだが、そんなものはない。
先ほどから銃弾は明後日の方向に向かっている。
ええ、彼らの意識では私に向けているのでしょうけれど、生憎もう彼らは私の術の中。
「何でって言われましても効かないんですから効かないんです」
まあいくらでも撃てばよいです。
私はゆったりと反撃しましょうか。
「うわあああ!来るなああ!」
適当に狙いをつけた人の元に歩いて行くと発狂された。私がどのように見えているのかはわかりませんが、まあそれなりに恐ろしいものに見えているのでしょうね。子供の頃に見たトラウマは大人になっても変わらない。そして貴方に逃げるという選択肢は無い。あってもそれは叶わない。
「やめろお!目が、目が潰れる!」
だから煩いんですよ。
首をへし折って放り投げる。
それが引き金になった。恐怖に支配された人間たちが一斉に逃げ出した。そんな彼らを一人一人捕まえていく。
彼らには何が見えているのでしょうね。ああきっととんでもない恐怖なのでしょう。人間が感じる原初の感情。それを引き出すのだからきっと想像以上に精神は掻き乱されているだろう。
「まだまだ遊びましょ?月の民さん」