夜の事務所は、いつもより静かだった。
カウカウファイナンス。
雑居ビル三階の薄暗い部屋。
蛍光灯の白い光が机を照らし、帳簿の影を床に落としている。
この部屋には、金の匂いと人間の腐った欲が染みついている。
俺は椅子に座って煙草を吸っていた。
最近、妙な違和感があった。
取り立ての効率が落ちている。
借りている連中の態度が、妙に落ち着いている。
普通なら震える。
逃げる。
泣く。
だが最近の連中は違う。
「……」
煙を吐く。
何かが裏で動いている。
その時、ドアが開いた。
柄崎だった。
顔が少し険しい。
「社長」
俺は煙草を灰皿に押しつけた。
「最近野郎どもから金を取れない理由分かりました」
俺は言った。
「早く言え」
柄崎は舌打ちするように言った。
「両津勘吉です」
部屋の空気が少し変わった。
俺は眉を動かした。
「警察のあいつか」
柄崎が続ける。
「便乗して“警察が守ってやる”って言って金を徴収してます」
「しかも」
「うちの情報まで売ってビジネスしてる」
沈黙。
俺はゆっくり煙草を取り出した。
火をつける。
「……」
煙が天井に上がる。
「なるほど」
つまりこういうことだ。
俺が作った恐怖。
「逆らうと死ぬ」
その噂を利用して
あの警官は金を巻き上げている。
俺は小さく笑った。
「警察のくせになんて汚ねえ」
最初に会ったときのことを思い出す。
俺は言った。
「何もしないなら」
「こちらも何もしない」
だがあいつは
金の匂いに負けた。
仕方ない。
俺はノートを見た。
机の上。
黒いノート。
デスノート。
俺は言った。
「両津勘吉を殺す」
柄崎が眉をひそめた。
「社長」
「一応警察ですぜ」
腕を組む。
「アウトローの連中は抗争扱いで軽く調べられただけですが」
「さすがに警察の旦那をやったら」
「ちゃんと調査されます」
俺は答えた。
「関係ねーよ」
煙を吐く。
「どうせ俺らは」
「アリバイを作る」
机を指で叩く。
「疑われても逮捕できねぇ」
それがこの国の法律だ。
証拠がなきゃ捕まらない。
俺は言った。
「今日と明日は取り立てだ」
「明後日」
「全員でアリバイを作る」
「その日に殺す」
柄崎が頷く。
俺は続けた。
「それと」
「両津は金を持ってる」
「死ぬ前に全部吐かせる」
部屋を見渡す。
「江崎」
奥のソファの男が顔を上げた。
「お前とまさる」
「両津を尾行しろ」
「生活パターンを洗え」
「高田」
「加藤」
「両津の金を調べろ」
「銀行、借金、隠し金」
「全部だ」
二人が頷く。
「小百合」
事務机の女を見る。
「いつも通り仕事しろ」
「記録は全部残せ」
「俺は」
煙草を潰す。
「一人で取り立てをやる」
理由は簡単だ。
アリバイ。
二日後。
江崎とまさるは尾行を始めた。
両津は変な警官だった。
昼は派出所。
夜は飲み屋。
そして
金の匂いのする場所には必ず現れる。
まさるが言った。
「ほんとに警察かよあいつ」
江崎が笑う。
「警察だから稼げるんだろ」
一方、高田と加藤。
二人は金を調べていた。
銀行。
知り合い。
裏ルート。
結果が出た。
「社長」
「両津」
「かなり持ってます」
「数十億」
「下手すりゃ兆」
俺は頷いた。
「全部回収する」
三日目。
夜。
全員そろっていた。
場所は千葉の温泉旅館。
旅行。
完璧なアリバイ。
レシート。
宿帳。
監視カメラ。
全部残る。
俺は部屋でノートを開いた。
ペンを持つ。
レムが横で見ている。
「また殺すのか」
俺は答えない。
ページの中央に書く。
両津勘吉
死因を書く。
金を全て引き出す。
指定の場所に隠す。
そして――
心臓麻痺。
ペンをゆっくり動かす。
名前を書き終えた。
インクが乾く。
部屋の時計の秒針が動く。
カチ
カチ
カチ
俺は煙草に火をつけた。
「……終わりだ」