とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第172話 ドームライブ

 ルナのドームライブの日がやってきた。

 関係者席のチケットを事前に用意してもらっていた俺と朝香は、開演の一時間前から会場入りしていた。

 

「うわ、すごい熱気だな」

 

 会場に足を踏み入れた瞬間、地鳴りのような歓声が肌に伝わってくる。

 ドーム全体を埋め尽くすペンライトの光が、開演前から既に波のようにうねっていた。

 

「ここまで大きな会場でやるとはね」

「あの炎上を乗り越えたからか、熱気もすごいわね」

 

 朝香が感慨深そうに客席を見渡していると、後ろから聞き覚えのある声がかかった。

 

「おーい、二人とも!」

 

 振り返ると、伊本さんが手を振りながら近づいてきていた。

 

「伊本さん! 来てくれたんですね」

「そりゃ来るさ。西遊記メンバーの晴れ舞台、見逃す手はないだろう」

 

 伊本さんは自分の胸に手を当てて、嬉しそうに笑った。

 

「三蔵法師一行、勢揃いですね」

 

 そう考えると、俺にとって西遊記は俳優としてのキャリアだけでなく、かけがえのない仲間を得ることができた大切な作品と言える。

 撮影は大変だったが、俺にとっては一生モノの宝だ。

 

「こんな大きな会場でルナちゃんのライブが見られるなんてなぁ」

 

「あの現場で一緒に苦楽を共にした仲間の晴れ舞台ですから、しっかり見届けないと」

 

 俺の言葉に、朝香が力強く頷いた。

 

「ふふん、ペンライトも用意したわ」

「気合入ってるな」

 

 朝香がバッグから取り出したのは、ECHO DOLPHINの公式物販で販売されているペンライトだった。

 かなり気合の入った一品で、ライト部分はイルカになっている。普通にインテリアとしてもアリな一品だ。

 

「一本は翼の分よ」

「用意周到だな。いくらだった?」

「税込み五千七百円よ」

 

 気合い入った値段してるなぁ。

 

「伊本さんの分もありますよ、ほら」

「おお、ありがたい! はい、六千円で」

 

 朝香から受け取ったペンライトを掲げて、伊本さんは嬉しそうに目を細めながら財布を取り出していた。

 

「そういえば、猪八戒として現場にいたときも、ルナちゃんの努力量にはずいぶん驚かされたなぁ。裏で人一倍練習してたもんね」

「あのすっぴん演技も、伊本さんが後押ししてくれたおかげですよ」

「いやいや、あれは翼君と朝香ちゃんの根回しがあってこそだよ。僕のしたことなんて大したことじゃないよ」

 

 案内された関係者席は、ステージからほど近い位置だった。

 照明が落ち、会場全体が暗闇に包まれる。

 開演を告げるカウントダウンが流れ始めると、客席のボルテージが一気に跳ね上がった。

 

「来るぞ」

「ええ」

 

 俺と朝香は、示し合わせたようにペンライトを構えた。

 オープニングの映像が終わり、ステージにルナが姿を現した瞬間、会場全体が爆発的な歓声に包まれる。

 ルナがマイクを持って、一曲目のイントロに合わせて踊り始めた。

 

「ソイヤ! ソイヤ!」

 

 まず動いたのは朝香だった。

 両手を高く突き上げ、腰を落として左右に振る動きは、明らかに素人の域を超えていた。

 

「なんでそんなに手慣れてるんだ?」

「コールの振り付け動画を徹底的に分析したもの」

 

 こういうところは相変わらずである。

 朝香にとって、ルナはそれだけかけがえのない存在なのだ。

 

「オイ! オイ!」

 

 俺も負けじと声を張り上げる。

 子役時代、現場で愛想を振りまいてきた俺にとって、大声を出すことも身体を動かすことも造作もない。

 

「二人とも、気合入ってるねぇ」

 

 隣の伊本さんが、腹を抱えて笑いながらそう言った。

 彼自身もペンライトを両手に持って、慣れた様子でオタ芸めいた動きに参加している。

 

「伊本さん、意外とキレありますね」

「若い頃は海外の僻地でダンスする企画なんてざらだったからね」

 

 曲がサビに入ると、ルナがこちらのブロックに向かって手を振ってきた。

 一瞬だけ視線が合った気がした。

 

「ルナー!」

「ルナ! こっちよ!」

「ルナちゃーん!」

 

 俺と朝香、そして伊本さんまでもが声を張り上げると、ルナの口元がわずかに緩んだのが見えた。

 プロとしての笑顔の中に、一瞬だけ素の笑みが混じったような気がした。

 

 次の曲が始まると、俺たちは再びペンライトを構えた。

 会場の熱気に負けじと、俺たちは声を張り上げ続けた。

 

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