とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第174話 クリスマスデート その1

 会場を出ると、外はすっかり夜になっていた。

 会場の外壁には、控えめながらイルミネーションが飾られている。

 そういえば、今日は12月25日だった。

 ライブの熱気に押されてすっかり忘れていたが、世間的には特別な夜らしい。

 

「じゃあ、僕はここで失礼するよ」

 

 伊本さんが腕時計を確認しながら、そそくさと帰り支度を始めた。

 

「あんまり遅いと怒られちゃうからね」

「クリスマスですもんね」

「ああ、帰ったらサンタの服装に着替えないといけないしね。二人とも、良いクリスマスを!」

 

 伊本さんは軽く手を振ると、あっという間にタクシーへと乗り込んでいった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は隣に立つ朝香をちらりと見た。

 

「朝香、このあと予定あるか」

「特にないけど」

 

 当たり前のように答えてから、朝香は数秒遅れて何かに気づいたように目を丸くした。

 

「……クリスマス当日に予定を聞くのってどうなの?」

 

 朝香はそう言いながらも、どこか楽しそうにコートの襟を正した。

 

「せっかくだし、ちょっと歩きましょう。そのまま帰るのも味気ないわ」

「朝香から察して提案してくれるなんて思わなかったよ」

「文化祭以来、あたしも普通のことができるようになったのよ」

 

 得意げに胸を張る朝香を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 二人で会場を出ると、駅前の広場に大きなツリーが立っていた。

 電飾が規則正しく点滅していて、その周りには家族連れやカップルが写真を撮っている。

 

「綺麗ね」

 

 朝香がツリーを見上げながら、ぽつりと呟いた。

 

「子役の頃、こういうのゆっくり見た記憶がないな」

「あたしも。クリスマスだろうと、ドラマや映画の収録があったもの」

 

 駅前から続く並木道は、青と白のLEDでトンネル状に飾られていた。

 歩くたびに光の粒が頭上を流れて、まるで川の中を進んでいるような錯覚に陥る。

 

「これ、去年もやってたのかしら」

「さあな。去年は受験勉強で忙しかったからな」

「それもそうね」

 

 並木道の途中には、小さなオブジェがいくつか設置されていた。

 トナカイの形をした電飾、雪だるまの形をした電飾。

 どれもありきたりだと言えばそれまでだが、朝香は一つひとつ立ち止まって眺めていた。

 

「イルミネーションがそんなに気になるのか」

「気になるっていうか……こういうものを、ちゃんと〝見る〟ことをしてこなかったのよ」

 

 朝香は雪だるまのオブジェの前で足を止めたまま、独り言のように呟いた。

 

「現場に行くときも、車の窓から一瞬見えるだけ。それで終わりだった……師匠の言ってたことも尤もね。こういうのを素で楽しむことも覚えないと」

 

 朝香はそう言って、また歩き出した。

 俺もその後を追う。

 

 並木道を抜けると、広場の中央に一際大きなツリーが見えてきた。

 高さは二十メートル近くあるだろうか。

 金と赤を基調にした装飾が、規則正しく光の色を変えている。

 朝香はツリーを見上げたまま、しばらく動かなかった。

 

 その横顔が、いつもの分析するような目とは違って見える。

 純粋に、目の前の光景を楽しんでいるだけの顔だった。

 

「せっかくだから、あったかいものでも飲もうか」

 

 近くの屋台からは、ホットワインやチュロスの甘い匂いが漂ってきていた。

 朝香がじっとその屋台を見つめている。

 

「ホットチョコレートとかどうだ?」

「……別に」

「目に飲みたいって書いてあるぞ」

「うっさいわね」

 

 軽口を叩き合いながら、俺たちは屋台の列に並んだ。

 湯気の立つホットチョコレートを二つ買って、ベンチに腰を下ろす。

 

「ほい」

「ありがと」

 

 紙コップを受け取った朝香が、両手で包み込むようにして口をつけた。

 

「んー、あったかい……」

 

 その顔が、あまりにも自然な女の子の顔で、俺は思わず視線を逸らした。

 仕事のときの朝香とは違う。

 演技で作られた表情ではない、ただの田中朝香だった。

 

 広場の向こう側に、小さなマーケットが並んでいるのが見えた。

 木製の屋台に、アクセサリーや雑貨が所狭しと並んでいる。

 

「あっちも見てみるか」

「ええ」

 

 俺たちはホットチョコレートを片手に、マーケットの方へと足を向けた。

 

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