鬼殺のソリティア   作:ディヴァ子

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何時もの事。


無惨様の憂鬱

 無限城、通が好みそうな居酒屋の末席。

 

『ああっ、もう……いやっ! イヤッ!』

『おやおや、どうされました、我が君? そんな何か小さくて可愛い奴らみたいな声を上げて、元気が良いですね。何か良い事でもありましたか?』

『何処がだぁ! 元気処か疲労困憊しているし、頭の先から足の先まで怒りで沸騰しておるわぁ!』

『そんな時は、この壺の音色をお聴き下さい。和みますよ?』

『あ、良い音……じゃなくてぇ! どうして調査役の玉壺(おまえ)がここに居て、城主が自ら出撃して暴れているんだぁ!』

『それは勿論、「お前今回は黙って見過ごせ。じゃないと殺す」と言われたので、待機しております故。あと職場虐め(パワハラ)で訴えてよろしいでしょうか?』

『駄目に決まっているだろう! むしろ私が訴えたいぐらいだ!』

『しかし、鬼の始祖は我が君なので、それ以上はありませんよ?』

『なんたる理不尽!』

『そんな事を言われましても……』

 

 今日も今日とて無惨(むざん)が喚き、今回はお留守番(強制)の玉壺(ぎょっこ)が相手をしていた。壺から生えた変態の怪人が女将役を熟しているという、どう見てもシュールな光景なのだが、本来であれば上役である無惨の方が飲んだくれのように喚き散らしている為、相対的に変態女将の方が真面に思えてしまう、この不思議。タイミング良く(悪く?)無惨が女郎の姿に擬態している事も相俟って、風俗の一画感が半端じゃない。どないなっとんねん。

 

『まぁまぁ、鳴女様が猪突猛進するのは何時もの事ではないですか。それに今回の敵じゃあ、彼女の相手にはなり得ませんよ。事が済み次第、頭が冷えた辺りで回収すれば充分でしょう』

『それはそうなのだが……』

 

 至極冷静な判断を下す玉壺に、納得し切れていない様子の無惨。本当に一体どっちが上司なのだろう。飲みの席で上司の愚痴を溢されるとかいう最悪なシチュエーションなのに、文句一つ言わず淡々と仕事をしている玉壺は紳士である。どないなっとんねん。

 

『あ~あ、もうお前の事、上弦の壱まで昇格させちゃおうかな~』

『酔ってますねぇ~。流石は二十年物の稀血。……まぁ、私の実力では黒死牟殿の上に立つのは不可能ですよ。伸びしろに関しても、おそらく彼に軍配が上がります』

『だが、戦闘能力だけで言えば、鳴女に敵う奴は居ないぞ』

『だからこその「上弦の零」でしょう? 彼女は例外にして切り札。そして私は斥候で、彼は切り込み役。適材適所って奴ですよ』

『う~ん、そうかぁ……』

 

 その上、部下としては反応に困る話を振る始末。これ「はい」も「いいえ」も地獄過ぎて、笑って誤魔化すしかないのだが、玉壺は上手い事流している。お前、本当に玉壺なのか?

 

『(やはり無惨様は上司には向いてないですねぇ。王様には向いているのかもしれませんが。ロバの耳とか似合いそうですし。もしくは黄金の手か。何れにしろ、「鬼」という種族の看板を背負い立つ姿が一番です。丁度、今は“娘”ですしね)』

 

 まぁ、内心では的確に見下していたりするのだけれど。自分の上司を裸の王様もしくは広告塔呼ばわりとか、無礼にも程がある。

 

『……そもそも、何故今回は伊達 政宗に接触を図ったのです? 確かに鬼の素体としては申し分ないでしょうが、あの我の強さでは第二の鳴女様となりかねませんよ?』

 

 と、ナニカの刺し身を提供しつつ、玉壺は抱いていた疑問を口にする。イカレた奴は鬼への適性こそ高いが、過剰な自尊心は反逆の芽を生む。鳴女は例外だが、第二・第三の彼女が発生しないとも限らない。

 

『いや、用があるのは奴では無い。その親族だ(・・・・・)

『親族?』

 

 どういう事ぉ~?

 

『……所で、貴様は神を信じるか?』

『お水飲みます?』

『酔った勢いでは無い。真面目な話だ』

 

 さらに、話の舵を急に切り出す。何処へ行こうというのかね?

 

信仰と実在は(・・・・・・)別物だと(・・・・)考えています(・・・・・・)

その答えが(・・・・・)聞きたかった(・・・・・・)

 

 どうやら、無惨の無理難題の答えは、これで合っているようだ。

 

『昨今の動きを鑑みるに、幕府の連中は何かを探している。それも「鬼」や「真祖吸血鬼」などでは無い、もっと脅威となる存在を、だ』

『その心は?』

『恐怖心だ。私には分かる。生存本能って奴だな』

『………………』

 

 まるで貴方ですね、とは流石に言わない玉壺であった。

 

『伝承に登場するような手も足も出ない存在であれば、奴らも指を咥えているだけだろう。しかし、現実には軍隊を差す向けてまで、火種を消そうと躍起になっている。つまり、どんな形であれ、この世に実在しているのだ。そして、それは我々にとっての脅威でもある』

『それと伊達 政宗に何の関係が?』

『だから、親族だよ。もしくは関係者か』

『……そういう事ですか』

 

 ようするに、伊達 政宗に近しい人物の中に「神」が潜んでいると、無惨は睨んでいるのである。

 

『何処情報ですか?』

『勘だ』

『勘ですか……』

 

 思わず物申したくなるが、こういう勘に限って的中してしまう、嫌~な能力が産屋敷の家系には存在する。無碍にする訳にもいかないだろう。

 

『――――――という訳で、良い感じの所で鳴女を回収して来い。私は引きこもる』

『分かりました。仰せの通りに……』

 

 そして、何の感情も無く、玉壺は動き出した。

 

『(ま、私にとっての神は別に居るんですがね。少なくとも、貴方では無い……)』

 

 芸術家としての本心を、邪眼のベールで包み込みながら。




◆神

 古今東西に伝わる上位存在の総称。唯一絶対の時もあれば、単に現存生物の上位互換だったりと形こそ様々だが、共通して“言葉は通じても話は通じない”連中ばかりである。隔絶した力を持つ故に、この世の全てを見下す者、それが「神」なのだ。むろん、慈愛に見えるそれは、歪な自愛の形に過ぎない。

神:「皆弱々しくて見ていて面白いンゴねぇ~。たっぷり愛情を注いであげるンゴ~♪」
それ以外の奴ら:「あの、ちょっとご意見が……」
神:「はぁ? ペットの分際で意思を持つなよ。貴様らは未来永劫都合良くあれ」
それ以外の奴ら:「ピキピキピキピキ!」
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