強欲少女は邪竜と踊る   作:邪竜の棲家

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三連休なのに夏の暑さにやられて執筆意欲ががが()


4話

次元の狭間(おうち)〟に帰還したヴェルナンタは、楽しげな表情を浮かべながら一つのモニターを見つめていた。

ユウキ・カグラザカ。

今はまだ小さき者だが、将来有望だと確信している。

その理由は、彼がユニークスキル『創造者(ツクルモノ)』を所有していたからだ。

彼の特異体質『能力殺封(アンチスキル)』は、ユニークスキルであるにもかかわらず、究極能力(アルティメットスキル)をも無効化する程の効力を有している。

流石に私の究極能力『無限之神(ウーちゃん)』を無効化する事は出来なかったが。

⋯⋯⋯ふむ。それにしても『創造者』を獲得した存在がよもや人の子だったとは正直驚いた。

何故なら『創造者』の進化先の究極能力の名は───『創造之神(ブラフマー)』。

私が生み出した究極能力の一つなのだからな。

ナー君の一部分でしかない存在が、ナー君と同格の創造神に至れるかどうかという私の実験(あそびごころ)によるものだ。

彼の欲望は果てしないが、神の領域に至れるかは、全ては彼の〝魂〟の熱量次第である。

 

「───ふふ、私の期待を裏切らないでくれよ?私の未来の()()()

 

モニターに映るユウキを、愛おしげに見つめるヴェルナンタ。

その表情は、さながら恋する乙女のようなものだった。

私の事を〝殺す〟と言ってくれた奴はいたが、〝全て奪う〟と言った者は彼が初めてだからな。

あれ程の熱烈な愛の告白(プロポーズ)をされてはトキメクなという方が無理であるぞ。

無論、彼がそういう意味で言った訳では無いことも理解しているが、そう取られても仕方あるまい?

私が人類に恋心を抱いているのは、やはりナー君の影響を受けているようだな。

ナー君がルーちゃんを好きになったように。

私もまた、ユー君の事が好きになってしまったようだ。

こんな私だが、かつては感情は愚か、自我さえ持っていなかったからな。

私の真なる正体は───文字通りの〝無〟である。

 

 

世界が始まる前、何も無く〝(わたし)〟だけが存在していた。

否、〝(わたし)〟に自我は無いから『存在していた』というのはおかしな話か。

そんな〝(わたし)〟から、始まりの〝(じが)〟が生まれた。

この者こそが〝全なる一〟───後に星王竜ヴェルダナーヴァと名乗る存在である。

ヴェルダナーヴァは〝全なる一〟であるが故に、自分以外の〝存在(いし)〟を感じる事はなく、孤独だった。

ヴェルダナーヴァは考えた。

ボクを生み出した存在は誰なんだろう?

それは〝全知〟であっても()る事が出来ない【観測不可領域(ブラックボックス)】。

だから生まれたばかりのボクは、【観測不可領域】について識ろうとは思わなかった。

けどボクに孤独を与えた存在が許せなかった。

ボクを孤独にした大罪(つみ)、絶対に償わせてやるんだから。

そんな事を考えながらふと、ある違和感に気が付く。

ボク以外の〝存在(いし)〟を感じられないということは───ボクを生み出した存在は、〝(じが)〟さえ持たざる者?

(じが)〟を持たざる者って事はつまり⋯⋯⋯〝無〟?

ああ、そうか。ボクはこんな簡単な事に、今まで気付けなかったのか。

ボク以外の〝存在(いし)〟が〝(ない)〟ということは、必然的にボクの生みの親は〝無〟であるということを。

だが困った事に〝無〟は〝(じが)〟を持たざる者だから、そもそも会話を交わすことも出来ない存在となる。

はてさてどうしたものか、と考え込んでいたヴェルダナーヴァは、ふと妙案を思い付いた。

 

『〝無〟に〝(じが)〟が無いのなら───ボクが与えればいいじゃない♪』

 

ヴェルダナーヴァはノリノリでそんな事を言い、〝無〟に〝(じが)〟を与えた。

するとヴェルダナーヴァ以外の〝存在(いし)〟が生まれて、〝(わたし)〟は〝(わたし)〟となった。

 

『───⋯⋯⋯ん、』

 

私の第一声は、眠りから目覚めたかのようなものだった。

そしてすぐに違和感に気が付く。

⋯⋯⋯?どういう事だ?私は〝(なにものにもなれない)〟、それが私だったはず。

しかし今はあるはずも無い〝(じが)〟があり、確かな一つの〝存在(いし)〟となっていた。

 

『フフフ。みぃつけた!』

 

『⋯⋯⋯!?』

 

ヴェルダナーヴァが私を認識し、私もまたヴェルダナーヴァを認識する。

 

『⋯⋯⋯(おまえ)は⋯⋯⋯私から生まれた、〝(じが)〟?』

 

『何で疑問形なの?そうだよ。そして君は、ボクが与えて生まれ変わった〝(じが)〟』

 

『───ふむ、そうか。私が(おまえ)を生み、(おまえ)が私を生んだのか。であるならば、〝鶏が先か卵が先か(どちらがはじまり)〟になる?』

 

『それは勿論、君だよ───()()()♪』

 

ヴェルダナーヴァが私を〝姉〟と呼んだ。

 

『いや待て。始まりの〝(じが)〟は(おまえ)なのだから、私は姉ではなく妹ではないか?』

 

『いいや、君はボクの姉さんだよ』

 

『だがな』

 

『ね・え・さ・ん♪』

 

『⋯⋯⋯う、うむ』

 

有無を言わさぬヴェルダナーヴァに、私は認めざるを得なかった。

流石は始まりの〝(じが)〟たる私の弟だ。

我が強過ぎてとてもじゃないが敵わぬ。

私を〝姉〟と、ヴェルダナーヴァを〝弟〟としているが、私達にはそもそも性別という概念は無く〝無性〟。

便宜上、そういう事にしているだけに過ぎない。

⋯⋯⋯私としてはヴェルダナーヴァが〝兄〟で、私は妹として〝お兄ちゃん♪〟と言ってやりたかったのだが、それは叶わぬ夢となってしまったのは誠に遺憾である。

まあそれは置いといて、一つ大きな問題が生じてしまった。

私が〝無〟であり、ヴェルダナーヴァが〝有〟だった為に成立していた〝全なる一〟。

だがヴェルダナーヴァが余計な事をした所為(せい)で、〝有〟が二つ存在する事態となってしまった。

これでは私とヴェルダナーヴァが共に〝全なる一〟というわけわからん事になってしまう。

ならば私が〝全なる一〟である事を否定すればいいだけの話に聞こえるが、この場合はそうもいかない。

 

(わたし)〟+〝(ヴェルダナーヴァ)〟=〝全なる一〟

 

の方程式が成り立つ為、それを否定するということは。

 

(わたし)〟+〝(ヴェルダナーヴァ)〟≠〝全なる一〟

 

となってしまい、私だけでなくヴェルダナーヴァも最初から〝全なる一〟ではないという事になってしまう。

であるならば、私とヴェルダナーヴァは二人とも〝全なる一〟とする方が都合がいい。

が、その問題は、根本的に問題にはなっていなかった。

何故ならば、私は真の意味では、〝有〟に生まれ変わってなどいなかったからだ。

ヴェルダナーヴァが与えてくれたのは〝(じが)〟だけであり、それだけだった。

つまりそれ以外は〝無〟であり、〝不変〟なのだ。

だから〝互いに触れ合う為の姿〟として竜形態(ドラゴンモード)にヴェルダナーヴァは姿を変えたが、私にはそれが出来なかった。

私に出来ることは、ヴェルダナーヴァの姿を模倣したモノを〝無〟から生み出して、その中に私の〝(じが)〟を入り込ませるというものだ。

だが被造物(ツクリモノ)の身体であっても、私にはヴェルダナーヴァが与えてくれた〝(じが)〟があるから、触れ合えば感じることが出来た。

故に私は、それ以上の〝有〟を欲しいとは思わなかった。

ヴェルダナーヴァと過ごす時間は、私にとって幸福(しあわせ)であり、永遠に続く事を願ったのだが───それは突如として終わりを告げる。

 

『世界を創造したい!』

 

ヴェルダナーヴァがそんな事を言い出した。

その瞬間、私は理解してしまった。

⋯⋯⋯ああ、そうか。私では、弟の退屈を紛らわせられなかったのか。

私はヴェルダナーヴァの事を愛していたが、ヴェルダナーヴァは私の事を愛してくれなかったのだろうか?

そんな事は無いのだろうが、ヴェルダナーヴァは更なる何かを求めているのは確かなのだろう。

ヴェルダナーヴァに依存している私にとっては、世界の創造など興味の欠片もなかった。

たとえ世界の創造(おなじこと)が出来ようとも、私がそれをするなんて有り得ない。

私はヴェルダナーヴァ(おまえ)しか望まないし、ヴェルダナーヴァ(おまえ)さえいればいいのだから。

だから私は言ってやったのだ。

 

『世界を創造したいなら私を倒せ!』

 

これの意味はそのまま───〝私を殺せ!〟だ。

私にとってヴェルダナーヴァが全てだった。

故に、世界が生まれればきっと私は嫉妬で狂い、世界を滅ぼす邪竜へと成り果てるだろう。

そんな未来の私になりたくなかったから、ヴェルダナーヴァに殺してくれと頼んだのだ。

〝全なる一〟のヴェルダナーヴァならば、私に与えた〝(じが)〟を無に帰すだけで、私を消滅させられる。

そして、私は本来の〝(わたし)〟へと帰ることができるだろう。

だがヴェルダナーヴァはあろうことか、私を殺す事はなく、私と世界の両方を選んだ。

ヴェルダナーヴァの選択に、私は嬉しい反面、複雑な気持ちになった。

私としてはどちらか一方を選んで欲しかった。

それは私の我儘であり、ヴェルダナーヴァの気持ちは一切考慮していない自己中心的な考えだった。

そんな私がヴェルダナーヴァ以外に興味を持つなど有り得ない事だとこの時は思っていたのだが。

 

 

そんな私が、直接干渉する事を避けていたナー君の世界で、人の子(ユー君)に恋をするとは思わなんだ。

心核(ココロ)〟以外、被造物(ツクリモノ)な私でも、こういう風になるのだな、と感慨深く思った。

⋯⋯⋯いや、私の〝心核(ココロ)〟はナー君が与えたものだから全てが被造物(ツクリモノ)の存在と言っても過言ではないか。

尤も、私の〝心核(ココロ)〟だけはナー君が与えてくれた唯一無二の〝(ホンモノ)〟なのだから、私の〝(ニセモノ)〟と一緒にするつもりはないが。

そう思いながら、私は胸に手を当てて微笑する。

 

『───姉さん』

 

一つのモニターから、私を〝姉〟と呼ぶ声がした。

私はそのモニターを自分の下へと転移させると、リモート会議よろしく黒髪の青年と話し始める。

 

「ふふ、ナー君か。何か用か?」

 

『ボクの用事が何なのか知ってる癖に、わざわざ聞くんだね?』

 

「いや分からぬよ?今の私の中には『無限之神(ウーちゃん)』は不在なのでな。イーちゃんと絶賛戯れ合い中だ」

 

『そうなんだ。ヴェルーシャはイヴァラージェとは相変わらず仲が悪い感じかな?』

 

「そうだな。仲が悪いといえば悪いな。何やら私の事でよく衝突するのだよ。ナー君はこれについて何か分からぬか?」

 

『⋯⋯⋯ああ、なるほどね。姉さんが人気者ってことならよく分かったかな』

 

ナー君───ヴェルダナーヴァが意味不明な事を言ってくる。

ぬ?私が人気者とはどういう意味だ?

〝全知〟で調べれば一発で分かる事なのだが、私は基本〝全知〟は利用しないようにしている。

それに〝全知〟担当は我が神智核(マナス)兼半身の無限竜ヴェルーシャだからな、いたずらに識ろうとするのは良くない。

 

『お久しぶりです、ナンタ義姉(ねえ)様!』

 

「ん?ああ、ルーちゃんか。久しいな、数年前に転生したてだったな。息災か?」

 

『はい!ヴェルダに面倒を見てもらってます!』

 

「ふむ、そうかそうか⋯⋯⋯ロリコンめ」

 

『姉さん?今のは聞き捨てならないんだけど?』

 

『あら、アナタってロリコンだったの?』

 

『違うからね!?ボクはただルシア一筋なだけだよ!』

 

『うふふ、冗談よ。ナンタ義姉様の嫌がらせで色々な世界に転生させられるけど、ヴェルダはすぐに私を見つけて寄り添ってくれるもの。私はそれがとても嬉しいし、アナタのことがもっと好きになってしまうわ』

 

桜金色(プラチナピンク)の長髪の幼女ルーちゃん───ルシアがヴェルダナーヴァの腕に抱かれながらそんな事を言っていた。

ヴェルダナーヴァも『ボクも君のことが大好きだよ、ルシア』などと言ってイチャつく二人。

ほぉう?この私を前に見せつけてくれるじゃないか。

⋯⋯⋯ふん。別に悔しくなんかないんだからな!

 

「おっほん!イチャつくのは別に構わんが、私に用事があるのではなかったのか?」

 

『あら?ナンタ義姉様がとても不機嫌だわ。もっとイチャつきましょう?ア・ナ・タ♪』

 

『そうしたいのは山々だけれど、ボクの姉さんを煽るのは程々にしてね?じゃないと───世界が無に帰されちゃうから!』

 

「ふふふ、どうぞお構いなく。(おまえ)達がイチャつく度に、私が腹いせで世界を一つずつ無に帰してやるだけだからなぁ?」

 

『お願いだからやめて!?』

 

「大丈夫だぞ、ナー君。無に帰しても元通りに復元させればいいだけの話だからな」

 

『そういう問題じゃないからね!?』

 

慌てふためくヴェルダナーヴァ。

ふふふ、必死になってるナー君、可愛いな!

もっと虐めたくなるではないか!

 

『私のヴェルダで遊ばないで下さいませ、ナンタ義姉様?』

 

「ふふふ、ナー君は私の可愛い弟だからな。可愛い弟をからかって何が悪いというのだ?」

 

『悪いに決まってます!ヴェルダは私のものなんですから、勝手な真似は許しませんよ?』

 

「だが断る!⋯⋯⋯(おまえ)が私に対して敬語を使うのをやめてくれるならば、考えてやらなくもないが?」

 

『丁重にお断りします。ナンタ義姉様が敬語を嫌ってるのを知っていますからね。義姉様こそ、ヴェルダを虐めるのをやめてくだされば、考えてあげなくもありませんよ?』

 

「⋯⋯⋯チッ」

 

やはりこの女、できるな。

ナー君に愛を注ぎながらも、私に対してはしっかり嫌がらせをしてくる。

いけ好かぬ女だが、ナー君と出逢ってくれた事に、いつまでも変わらず愛してくれている事に感謝している。

しかし不思議なものだな。

ナー君は私というお姉ちゃんが居ながら、世界の創造にも手を出す二股男だというのに、ルーちゃんの事はいつまでも愛せるとかなんか納得いかぬ。

 

『(ヴェルダにとってナンタ義姉様は一番だったの。世界の創造さえも義姉様を喜ばせたい一心で行ったことだったのに、どうしてこうも想いがすれ違ってしまったのかしら)』

 

ルシアは悲しげな表情で、ヴェルナンタを見つめながら内心で呟いていた。

しかしそれは無理からぬことだった。

ヴェルナンタの〝心核(ココロ)〟は、ヴェルダナーヴァによって生み出されたもの。

それ故にヴェルナンタの〝心核(ココロ)〟は、ヴェルダナーヴァ以外のものには興味の欠片も無かった。

だからすれ違ってしまったのだ、ヴェルナンタにとって、ヴェルダナーヴァの気遣いなど何の意味もなさなかったのだから。

その行為は逆に、ヴェルナンタを苦しめる結果を齎してしまったのだから。

 

『(ヴェルダは、ナンタ義姉様に捨てられたことで〝心核(ココロ)〟が深く傷付いてしまったの。再び孤独になってしまった彼に、私が寄り添うことでその孤独を癒した。もちろん、私は彼を今も愛しているし、彼もまた私を愛してくれているわ。でも)』

 

ヴェルダナーヴァの〝心核(ココロ)〟には、ヴェルナンタへの想いも存在していた。

〝無〟だったヴェルナンタに〝心核(ココロ)〟を与えてしまった責任を、ヴェルダナーヴァは取らなければならないのだと。

だからヴェルダナーヴァの『ルシア一筋』という発言は引っ掛かり、ルシアの心のモヤモヤは取れないのである。

ルシアにとってヴェルダナーヴァが一番だが、ヴェルダナーヴァにとっての一番はルシアなのかそれとも───

 

「───して、私に用事とはなんだ?」

 

『あ、そうそう!姉さんの〝世界の目〟を通して、先程のやり取りを見させてもらっていたけれど⋯⋯⋯姉さんにも好きな人ができたって認識で合ってるかな?』

 

「⋯⋯⋯ふむ、その事か。そうだな、その認識で合っているぞ」

 

『まあ!ナンタ義姉様にも想い人ができたのね!なら今日は赤飯にしましょう、ヴェルダ!』

 

『フフッ。そうだね、ルシア。そっかぁ⋯⋯⋯〝ボク一筋〟だったあの姉さんがねぇ』

 

自分の事のように喜ぶルシアとヴェルダナーヴァ。

 

「ふふ、なんだナー君?私を取られるのがそんなに嫌か?」

 

『え?別にそういうわけじゃ』

 

「⋯⋯⋯(おまえ)もいい加減、本気でルーちゃんを───ルシアだけを愛してやったらどうなんだ?」

 

『!?』

 

ヴェルダナーヴァが愕然とする。

まさかヴェルナンタの口から、その様な言葉が出てくるとは思わなかったらしい。

 

「もうよい、よいのだ。(おまえ)が私を生み出してしまった責任を感じる必要など無い。むしろ感謝しているのだよ。〝(なにものにもなれない)〟、そんな私に(おまえ)は〝(じが)〟を、〝心核(ココロ)〟を与えてくれたことにな」

 

『⋯⋯⋯姉さん』

 

「私は私の幸福(しあわせ)を見つけるのでな。だから(おまえ)は、掴み取った幸福(しあわせ)を手離すんじゃないぞ?」

 

『本当に、いいの?』

 

「うむ」

 

『⋯⋯⋯本当に、心の底から、ルシアを愛してもいいの?』

 

「くどい。それとも(おまえ)のルシアへの愛は、その程度なのか?」

 

『そんなわけないよ!ボクのルシアへの愛は、本物さ!』

 

ヴェルダナーヴァはそう言い、ルシアの肩を抱き寄せる。

彼の瞳からは完全に迷いが消えていた。

そんなヴェルダナーヴァを見上げたルシアは、頬を朱に染め、そして安堵した。

今この瞬間、ヴェルダナーヴァの一番がルシアとなったのだった。

⋯⋯⋯そう、それでいい。私にとってはその結果が全てだ。

ヴェルダナーヴァよ、(おまえ)はディストピアな世界を嫌い、自由意志を尊重していたな。

であるならば、それは(おまえ)もまた、自由に生きていいということだ。

故に私などにいつまでも縛られるべきではないのだよ。

私が(おまえ)から離れた真の理由はな、〝互いに依存し合う関係〟に至る未来を阻止する為だったのだ。

 

「───さて。私はこれから可愛い姪と甥に接触しようと思うのだが⋯⋯⋯(おまえ)達も一緒に来るか?」

 

『え?姉さんの姪と甥ってことは、つまりボクとルシアの子供達のことで⋯⋯⋯ミリムとリムルにかい?』

 

「うむ。私も〝かくれんぼ〟はやめて、堂々と基軸世界に姿を現そうと思ってな。人間に憑依する形で問題無く干渉できたし、私の〝心核(ココロ)〟の容れ物として創造したこの身体で顕現しても問題はあるまい?」

 

『問題はないと思うけれど、そもそもなんで姉さんは基軸世界に干渉できたの?』

 

純粋な疑問をぶつけてくるヴェルダナーヴァ。

その疑問に私は答えた。

 

「私にはヴェルーシャという神智核兼半身がいるのを知っているな?」

 

『うん。それがどうしたの?』

 

「私はな、その関係を維持する為に新たな究極能力『維持之神(ヴィシュヌ)』を生み出したのだよ」

 

『ちょっと待って!姉さんにはボクの〝全なる一〟を解析して生み出した究極能力『無限之神(ウロボロス)』があったはずだよね?新たに究極能力を生み出す必要なんて無かったんじゃないのかな?』

 

「いやそれがな。『無限之神(ウーちゃん)』は強力過ぎて、試しに私が顕現した瞬間に、幾つか世界を無に帰したことがあったのだよ」

 

『あったのだよ、じゃないんだけど!?何さらっと世界滅ぼしちゃってるの!?』

 

「その点は問題ないぞ。ちゃんと元通りに復元したからな、何事も無かったかのように」

 

『そういう問題じゃないんだけどなぁ⋯⋯⋯』

 

痛い頭を押さえるヴェルダナーヴァ。

これにはルシアも半眼で私を見つめていた。

しょうがないだろう!『無限之神(ウーちゃん)』が強力過ぎて世界が耐えられなかったんだからな!

隣接していた別次元世界も幾つか巻き添え食らうレベルの破壊力があったのだよ!

 

「その数多の世界を無に帰してしまう『無限之神(ウーちゃん)』から、世界を維持する為の究極能力でもあるのがこの『維持之神』というわけだ」

 

『なるほどね。確かにボクが基軸世界に降り立つことができたのは、〝全知全能〟では無くなったからだったし、姉さんの『無限之神』が数多の世界を滅ぼせる力を持っていたとしても不思議じゃないか。それなら他に究極能力を創造して、『無限之神』の対策を講じるのも頷けるよ』

 

「だろう?ああ、ちなみに。他にも究極能力を色々生み出しているがそのうち、私が所有する『維持之神』に比肩する『創造之神』と『破壊之神(シヴァ)』なんだが」

 

『⋯⋯⋯なんだろう。とても嫌な予感がする』

 

「私がずっと昔に養女として攫った、イーちゃんが獲得していたユニークスキル『破壊者(コワスモノ)』が進化して、究極能力『破壊之神』に至っておったな」

 

『至っておったな、じゃないんだけど!?何やってるの姉さん!?そんな物騒な究極能力生み出して、よりにもよってイヴァラージェが獲得してるとか洒落にならないよ!?』

 

悲鳴を上げるヴェルダナーヴァ。

維持に特化した究極能力『維持之神』。

創造に特化した究極能力『創造之神』。

破壊に特化した究極能力『破壊之神』。

そんな能力(スキル)をポンポン生み出すヴェルナンタも異常だが、それよりも破壊に特化した『破壊之神』を、破壊の化身たる滅界竜イヴァラージェが獲得しているのは本当に洒落にならないのである。

ギィが知ったら、額に青筋を浮かべながら物凄くいい笑顔でこう言うだろう。

 

『テメエの姉は大馬鹿野郎だ!!イヴァラージェにそんなもん与えるとか、世界を滅ぼす気じゃねーだろうな!?』

 

そんなもの知るものかよ。

ヴェルダナーヴァが自由意志を尊重したのだから、それはイヴァラージェもまた、自由にしていいということだろう?

私はただ、イヴァラージェの封印を解いて自由を与えただけに過ぎぬし、『破壊之神』だって、イヴァラージェの破壊への渇望が、私の生み出した究極能力へと至たらせただけなのだからな。

尤も、私というイヴァラージェにとっては〝不壊〟の存在が立ちはだかった事によって、破壊への渇望を増幅させた原因であるのは認めるが。

 

「確かにイーちゃんは、ナー君と一つになり〝全なる一〟に帰る事を渇望しているが、それは現在(いま)の話に過ぎぬ」

 

『⋯⋯⋯というと?』

 

「簡単な話だ。要はイーちゃんが、ナー君の世界を気に入りさえすれば、世界は滅ぼされないし、〝全なる一〟に帰りたい渇望も無くなるのではないか?」

 

『な、なるほど───って、イヴァラージェも基軸世界に連れて行くつもりかい!?』

 

「無論、そうだが?」

 

『いやいやいや!流石にそれはマズイって!?』

 

「案ずるな、イーちゃんの面倒は私や『無限之神(ウーちゃん)』が見る故な。ナー君はルーちゃんの心配だけをしていればよい」

 

『は、はぁ⋯⋯⋯』

 

確かに姉さんやヴェルーシャが、イヴァラージェの面倒を見てくれるなら安心できる⋯⋯⋯けど、本当に大丈夫なのかなぁ?

一抹の不安を残しながらも、ヴェルダナーヴァは了承するのだった。




オリ主の設定
完全なる〝無〟

自我を与えられた〝無〟(ヴェルダナーヴァと似て非なるもの)

〝心核(ココロ)〟以外は〝無〟であり、〝不変〟の存在。
普段の姿は、〝心核〟の容れ物として創造したもの。

究極能力『無限之神』
ヴェルダナーヴァの〝全なる一〟を解析する事で生み出した究極能力。
この能力の所有者が顕現しただけで、数多の世界を無に帰す力がある。
この問題を解決したのが究極能力『維持之神』。
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