白薔薇家の秘蔵っ子   作:八田里

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6話 カウントダウンは始まっている

 「モーディ、珈琲いれて。」

 一回目の定期考査が話題にのぼり始めた時期。とくに人手がいることはないはずなのに、なぜか私は此処にいる。

 

 「はい、どうぞ。」

 にこにこ笑っている聖さまの前に空のカップと粉のインスタント珈琲を置く。すると一瞬で聖さまの麗しい顔がしかめっ面になった。それでも美人なんだから流石です。

 

 「姉にたいして失礼ね。」

 「ロザリオを受け取っていないので、妹ではありません。ただの拉致された一般生徒です。」

 「今日はいつにもまして反抗的ね。」

 「ご自分がなさったことを胸に手を当てて思い出してください。」

 

 私はご立腹中なのだ。山百合会の仕事もなく、真っ直ぐ家に帰ろうとしたところを聖さまに拉致された。せっかく新作の漫画を読もうと思っていたのに。

 

 「あら、今日の桜ちゃんご機嫌斜めね。」

 「ごきげんよう。白薔薇さま。」

 聖さまとテーブルをはさんで睨みあっていると白薔薇さまがいらっしゃった。これで白薔薇ファミリーは集結した。 

 

 「紅茶を一ついただけないかしら。」

 「はい、ただいま。」

 「ちょっと。」

 視界の端で青筋をたてる白薔薇のつぼみはいなかった。いいね(念押し)。

 

 ここに紅薔薇のつぼみ辺りがいたら咎められたかもしれないけど、ちょうど白薔薇さましかいないので聖さま以外怒らない。もし、他に人がいたら私だってちゃんとやる。リリアンは持ち上がり組が多くてのんびりしている割には上下関係に厳しいのだ。

 

 お湯を沸かして戸棚からカップを3つ取り出していると、後ろからニュッと長い腕が巻きついてきた。

 

 「いじわるしないでよ。」

 拗ねた声が耳元で囁いた。

 大人びた彼女からは想像できない幼い声。

 でも、絆されてやるものか。

 

 「私、友達と一緒に帰るの楽しみだったんですよ。」

 

 私が怒っているのは、帰宅後の漫画タイムを邪魔されたからだけではない。

 同好の士である友達と途中まで一緒に帰ろうとしていたのを邪魔されたからだ。家で読もうとしていた漫画を教えてくれた人で、話したいのだけど別のクラスでなかなか気軽に会えない。偶然、下駄箱で会って嬉しかったのに、そこを聖さまが横やりをいれてきたのだ。役付きの上級生に遠慮して「彼女たちは別の日にしましょう」とにこやかに帰って行った。

 

 「聖ったら。それじゃ桜ちゃんもご立腹になるわよ。」

 「わかっていただけて何よりです。」

 

 事情を知った白薔薇さまも呆れている。

 一方、聖さまは不満そうに呟いた。

 

 「学年も違う私のほうが会えないし。」

 「薔薇の館でたくさん会っているじゃないですか。」

 「全然足りない。もっと桜に会いたいし話したい。この気持ちは迷惑?」

 「迷惑って。その聞き方はズルいですよ。」

 

 その姿は大きい幼子のようだった。

 自分よりも身長の高い美人にメソメソされると心臓に弱い。いや、そりゃ毎度やられたら困るから少しお灸を据えようと思っただけで、そこまでダメージを受けるとは思っていなかった。

 

 白薔薇さまに視線で助けを求めると「ごめんなさいね」というように苦笑された。この方は本当に聖さまを大切にされているから。白薔薇さまが止めないということは、今の聖さまはかなり繊細な時期らしい。

 

 「聖、しゃっきりしなさい。桜ちゃんも言うほど怒っていないわよ。」

 白薔薇さまの素晴らしいところは甘やかすばかりでないということだ。私が手にしたカップを指した。

 

 その意味に気づいて途端にご機嫌になる聖さま。そうですよ、ちゃんと聖さまの分も淹れますよ。だって聖さまはアイドルであり、推しであり、崇拝対象なのだから。こうして同じ学校で同じ空気を吸えるということだけでも女神さまにお祈りしないといけないくらい幸せなんですから。

 

 「のめり込み過ぎると視野が狭くなるのが貴女の悪い癖よ。」

 「はい。申し訳ございません。お姉さま。」

 2つの紅茶と1つの珈琲を持ってテーブルにもどる。聖さまは白薔薇さまとお話をしていた。

 

 「桜、ありがとう。」

 「モーディ、ありがとう。」

 2人はにっこり笑ってそれぞれカップに口をつけた。

 私も続いて紅茶を飲む。

 

 「ねえ、前から気になっていたのだけど、聖は桜ちゃんのことをずっと『モーディ』と呼び続けるの?」

 「はい。ぬいぐるみみたいで可愛いでしょう?」

 「私は普通に『桜』と呼んで欲しいのですけれどね。」

 「じゃあ、お姉さまと呼んでくれたら考えるわ。」

 聖様のわがまま娘。

 でも、許しちゃう。可愛いから。

 

 妹になることはないと思うけど。 

 

 窓の外は初夏。

 もう少し経てば山百合が咲く季節になる。

 山百合の花言葉は「人生の楽しみ」。

 当初の予定とは大幅に違うけど、こんな日々も悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思っていた頃が私にもありました。(二回目)

 

 「桜、薔薇の館に行ったのだってね。とうとう白薔薇の蕾の妹になったの?」

 「どうしてそれを。」

 夕飯に呼ばれて、食べ終わると久仁子さんに部屋に呼ばれ開口一番に尋ねられたのだ。

 

 「どうしてって。あなた達がお弁当を食べているのは密室ではないのよ?」

 つまり噂になっていると。

 

 「教えてくれてありがとう。妹にはなっていないよ。でも、勘違いされると困るから久仁子さんも聞かれたら訂正してほしいな。」

 「無理よ。」

 「なぜ!?」

 「白薔薇様はあなたを聖さんの妹にするつもりよ。」

 

 なんと白薔薇さまは久仁子さんに私を妹にする気はあるのかと確認しに来たそうだ。どうやら根回しにきたらしい。白薔薇様のことを思い出しているのか、久仁子さんはうっとりした顔をしている。推しに話しかけられて嬉しそう。私も祝福したいけれど、身内が敵だったことで素直に喜べない。

 

 「これから大変ね。」

 「そう思うなら助けてよ。」

 「あなたが本心から嫌がっているなら私も考えるけれど、そこまで嫌がっていないならいいかなって。姉妹のいざこざに口出す者はマリア様に怒られてしまうわ。」

 「だから、姉妹じゃないって!」

 

 それから必死に否定しても「はいはい」と軽く受け流され、「今度お話を聞かせてね」と帰らされてしまった。絶対に白薔薇の蕾の妹にはならないからな!

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