無限城が崩壊した。
鳴女の血鬼術が消滅したことで、異空間はその形を保てなくなり、無限城は音を立てて崩れ始める。
次の瞬間――。
鬼殺隊士達は、一斉に地上へと投げ出された。
瓦礫が舞い、土煙が夜空を覆う。
「ぐっ……!?」
炭治郎は受け身を取りながら地面へ転がる。
全身が悲鳴を上げる。
だが、立たなければならない。
まだ終わっていない。
「みんな!」
周囲を見渡す。
義勇がいる。
伊黒、甘露寺も傷だらけながら立ち上がっていた。
その時……
ドォン――ッ!!
瓦礫が吹き飛び、一つの影がゆっくりと姿を現した。
鬼舞辻無惨。
黒い外套をまとい、その赤い瞳が鬼殺隊を見渡す。
「忌々しい……」
静かな声。
しかし、その声だけで空気が震える。
炭治郎は刀を握り直した。
(来る……!)
無惨は首を鳴らす。
「ここまで追い詰められたのは、実に久しぶりだ。褒めてやろう。だが――」
その顔に冷たい笑みが浮かぶ。
「夜明けまでに貴様らを殺せば、私の勝ちだ」
無数の触手が一斉に広がった。
「全員、散開しろ!!」
義勇の声が響く。
同時に柱達も動く。
義勇が水の呼吸で斬り込み、伊黒が蛇のような軌道で無惨の懐へ潜る。
甘露寺の刀がしなやかに舞い、炭治郎も刀を振るった。
しかし――。
「遅い」
無惨の触手が唸りを上げる。
「ぐあっ!?」
義勇の肩が裂ける。
伊黒も甘露寺も後退を余儀なくされた。
圧倒的だった。
珠世の薬で弱体化してなお、この強さ。
炭治郎は歯を食いしばる。
(それでも……止めなきゃならない!)
その時だった。
――コツ。
乾いた足音が響いた。
戦場には似つかわしくない、静かな音。
誰もが反射的に視線を向ける。
一人の男が歩いてくる。
質素な着流し。
腰には大小。
深く笠をかぶった浪人だった。
戦場の惨状を目にしても、その歩みは少しも乱れない。
まるで、いつもの町を歩くような穏やかな足取りだった。
「誰だ……?」
義勇が小さく呟く。
「一般人!?」
甘露寺が声を上げる。
「危ない!逃げてください!!」
しかし、浪人は足を止めない。
誰の声にも耳を貸さず、ただ真っ直ぐ前だけを見て歩いていく。
その視線の先にいるのは――。
鬼舞辻無惨。
無惨は浪人を見据え、小さく眉をひそめた。
「……?」
見覚えがある。
いや、あるはずがない。
そんな人間は、とっくに死んでいる。
無惨は訝しげに口を開く。
「何者だ」
浪人は答えない。
なおも歩みを進める。
あと十歩。
あと五歩。
やがて無惨から数間の距離で静かに立ち止まった。
そして――。
ゆっくりと笠へ手を伸ばす。
浪人は無惨から十間ほど離れた場所で足を止めた。
戦場に静寂が訪れる。
誰もが、その男へ視線を向けていた。
男はゆっくりと笠に手を掛ける。
夜風が吹き抜けた。
すっと笠が持ち上がる。
現れたのは、四十を過ぎたと思しき端正な顔立ち。
穏やかな眼差し。
どこか人を安心させるような笑み。
それでいて、歴戦の武人だけが持つ威厳を漂わせていた。
無惨は、その顔を見た瞬間――
息を呑んだ。
「……」
言葉が出ない。
目の前の男を見つめたまま、身じろぎ一つできなかった。
あり得ない。
そんなはずはない。
二百年前、確かにこの男は江戸にいた。
人間である以上、とうの昔に寿命で死んでいるはずなのだ。
なのに――
「……貴様」
無惨の声が震える。
「なぜだ……なぜ貴様がここにいる」
炭治郎は思わず目を見開いた。
(無惨が……動揺してる……)
義勇も驚きを隠せない。
あの無惨が、自ら話しかけている。
それも明らかに狼狽しながら。
浪人は静かに苦笑した。
「そう慌てるでない。余も気がつけば、この時代に立っていた」
空を見上げ、小さく息を吐く。
「どうやら……時を越えたようだ」
無惨は首を振る。
「違う……あり得ん!貴様は江戸にいたはずだ!!」
浪人は何も答えない。
ゆっくりと懐へ手を入れる。
取り出したのは、一振りの扇。
パチリ、と小気味よい音を立てて開く。
月夜に照らされた三つ葉葵。
それを静かに掲げると、浪人は穏やかな声で言った。
「余の顔を見忘れたか」
その一言で、無惨の表情が完全に凍りついた。
千年を生きた鬼の始祖が、まるで悪夢でも見たかのように、一歩後ろへ下がる。
「八代将軍……徳川……吉宗」
その名を聞いた炭治郎達は顔を見合わせた。
「徳川……吉宗?」
炭治郎が目を丸くする。
「えっ……まさか、あの徳川吉宗?」
「はぁ!?」
鬼殺隊の誰もが信じられないという表情で浪人を見つめる。
しかし、その場で最も驚いているのは、鬼舞辻無惨だった。
吉宗は扇を静かに閉じ、腰へ差した。
そして刀へ手を添える。
「鬼舞辻無惨……二百年越しの再会だ。今度こそ決着をつけるぞ」
その静かな一言に、戦場の空気が一変した。
上様スペック。
日の呼吸の使い手、型壱拾参まで習得済み。
全集中常中習得済み。
透き通る世界習得済み。
縁壱並みの達人。
珠世とも過去に面識あり、匿っていた。
鬼殺隊も影から支え、支援していた。
最も鬼を殺した最強の歴代将軍。
という感じ?