フリーレンとフェルンは、壬氏から頼まれて街を見回っていた。
二人なら、人間に擬態している魔族でも魔力を見れば分かる。
都は広い。人も多い。見つかる確率は低い。
しかし、それしかないと頼まれ、フリーレンとフェルンも了承した。
武人達と協力して都の中を巡回する。
市場。
路地。
商人街。
住宅地。
「どうです?」
同行していた武人が尋ねる。
「今のところは」
フェルンが答える。
「特には――」
「そうだね」
フリーレンは警戒を解かずに言う。
「フェルン、分かっているだろうけど人間に擬態する魔族でなく、純粋に強い魔族という可能性も捨てきれない。それなら人間に擬態しなくてもちょっとした隙で武人を簡単に倒せるかもしれない。」
猫猫達をさらに不安にさせるのであまり言えないが、その可能性も捨てきれない。
「そうですね」
「だから、油断は出来ないよ」
そういう会話をしていた時だ。フリーレンがふいに足を止めた。
「…………」
「フリーレン様?」
「フェルン」
「はい」
「感じるね」
フェルンも目を細める。
「ええ」
空気の中に微かな、だが明確な魔力。
強い、とまでは言えない。でも、明らかに魔力を感じる。
この世界の人間にはないもの。
「近い」
「はい」
二人は歩く。
路地へ。
そこに一人の子供がいた。
幼い。十歳にも満たないように見える。
一人で立っている。
フリーレンが止まる。
「…………」
子供が二人を見る。
「お姉ちゃん達?」
フリーレンは静かに言った。
「あなた」
「?」
「魔族ね」
子供が首を傾げる。
「まぞく?」
「…………」
「何それ?」
無邪気な顔。怯えたような目。
「僕、分かんないよ」
フェルンは黙っている。
フリーレンも表情を変えない。
子供は続ける。
「お姉ちゃん達、怖い……」
一歩下がる。
「僕、何もしてないよ……」
「…………」
「助けて……」
だが、フリーレンはため息をついた。
「無理だよ」
「え?」
「全然隠せてない」
「何が?」
「魔力」
「…………」
子供の表情がほんの少しだけ変わった。
フリーレンは言う。
「この世界の人間には、魔力がない」
フェルンも続ける。
「あなたからは、はっきり魔力を感じます」
「…………」
「しかも」
フリーレンは静かに言う。
「魔族の魔力」
子供はしばらく黙った。
そして、また怯えた顔を作る。
「そんな……」
「…………」
「お姉ちゃん達、怖いよ……」
フリーレンは杖を向けた。
「ゾルトラーク」
光。
「!」
子供が反応する。
魔法障壁。光が弾かれる。
「…………」
フリーレンが言った。
「やっぱり」
フェルンも杖を構える。
今のゾルトラーク、威力は落としてある。
殺すためではない。
正体を暴くためのものだ。
「普通の人間なら防げない」
フリーレンが言う。
子供はしばらく俯いていた。
そして。
「…………ちぇ」
声が変わる。
「ばれちゃ仕方ないな」
顔から幼い表情が消える。
身体が揺らぐ。
姿が変わる。
子供の姿が別の姿へ。
角。
人と同じようで、人ではない。
魔族。
「なぜ」
魔族が聞く。
「なぜ魔法使いが、この世界にいる」
フリーレンが答える。
「それはこちらの台詞」
「…………」
「あなた」
「…………」
「どうやって来た?」
魔族が笑う。
「教えると思う?」
「思わない」
フリーレンは即答する。
「じゃあ聞くなよ」
次の瞬間、魔族が魔法を放った。
黒い光が一直線にフリーレンへ。
しかし、フリーレンは動かない。
軽く杖を振る。
障壁。
魔族の攻撃がまるで何でもないように消える。
「なっ」
魔族の顔が変わる。
フリーレンは平然。
「弱いね」
「!」
その言葉に、魔族が怒る。
さらに魔法。
複数。
だが、全て防がれる。
「フェルン」
「はい」
フェルンが杖を向ける。
「ゾルトラーク」
「!」
魔族が飛び退く。
光が地面を抉る。
もう一発。
魔族が避ける。
さらに。
「そんなもの――」
逃げようとする。
だが。
「遅いです」
フェルンの周囲に。
魔法陣。
一つ。
二つ。
三つ。
さらに大量。
「な……」
魔族の顔が引きつる。
「待っ――」
光が放たれる。
一斉射撃。
魔族が必死に避ける。
障壁を張る。
「ぐっ!」
いくつかを防ぐ。
避ける。
だが、完全には逃げ切れない。
「くそ……!」
そして、空へ逃れようとした瞬間。
「逃がさないよ」
フリーレンの声。
魔族が振り返る。
「!」
杖、魔力、圧倒的。
「ま、待て!」
フリーレンの表情は変わらない。
「ゾルトラーク」
閃光、魔族の身体を貫く。
「――!」
身体が崩れる。
魔力の粒子となり。
風へ。
消える。
静寂。
「…………」
フェルンが杖を下ろす。
「終わりましたね」
「うん」
フリーレンも杖を下ろす。
同行していた武人達は、少し離れた場所で呆然としていた。
「…………」
一人が呟く。
「今の……」
「魔族だよ」
フリーレンが答える。
「子供に見えたが……」
「擬態」
「…………」
武人達が顔を見合わせる。
フリーレンは、魔族が消えた場所を見る。
「やっぱりいるね」
「はい」
フェルンも頷く。
魔族を一体。見つけた。倒した。
それ自体は成果。
だが、問題は何一つ終わっていない。
人間に擬態できる魔族はまだいるかもしれない。
人間に擬態するまでもなく人間を殺せる力のある魔族もいるかもしれない。
「フリーレン様」
「何?」
「今の魔族」
「うん」
「偶然この世界に来たわけではないようですね」
「多分」
「つまり」
フリーレンは頷いた。
「あいつら」
静かに言う。
「自分達の意思で来てる」
その言葉の意味は重い。
迷い込んできたのではない。
入口を知っている。
通り方も。
そして、向こう側にはまだ魔族がいる。
「この世界、魔法使いはいない、人は多い、魔物や魔族から見れば、絶好の狩場に思えるかもしれない」
フリーレンは遠くを見る。
「次に見つけた魔族は出来れば、すぐには殺さない」
フェルンが少しだけ驚く。
「情報を聞きだすのは無理としても、力のある魔族だったら、その魔力を解析すればどこから来たのか辿ることは出来るだろうね」
世界と世界を繋ぐ場所。
魔族達が使っている道。
そして、その向こう側にいる存在。
ようやく、ほんの少しだけ、敵へ続く糸が見え始めていた。