朝の通勤電車で、隣の男の声が聞こえた。> 口は閉じたままだった。
宍戸恭司、三十四歳。業務用資材の卸会社「伊庭興産」の総務課、主任。
独身。貯金は少し。怒鳴られても笑って頭を下げるのが、十二年間の仕事だった。

心が読める。手を使わずに物が動く。
試しに、課長の頭の中へ「怖い」を一粒落としてみた。
課長は翌朝から、俺の目を見られなくなった。

だから決めた。
まずは、この会社をもらう。
次は、会社に金を貸しているヤクザの組をもらう。
その次は、街を。国を。

正義の味方は来ない。来たとしても、俺には心の声が聞こえる。
――ただひとり、心の声が雑音にかき消される刑事を除いて。