メアリー、解毒剤の開発者の正体を知り、浅見が隠していた理由を理解すると同時に絶対に守らなくてはと胃がキリキリし始める。
不二子? 蠍から受けた傷が治っていないためお休みだよ
162:ツインタワービル
――キャーンプキャンプ! きょーうはキャンプ! あしたもキャンプ! あさってもーー!
「コイツら好きだねぇキャンプ……」
「はっはっは、子供はこういうのが好きじゃからのう。それにほれ、普段から浅見君があちこち連れ回しておるから」
「アイツはアイツで野生児だからな」
江戸川コナンを含める少年探偵団との恒例になりつつあるキャンプ。
いつもは運転手兼引率を買って出る浅見透が不在のため、代わりに阿笠博士の運転で彼らは西多摩市へと来ていた。
(……そういえば、例の事件以降ここに来た事なかったな)
「それにしても残念ですね、灰原さん。用事で来れないなんて」
「浅見さんと一緒に、外国の親戚に会いに行ってるんだっけ?」
「いーなー灰原。美味ぇもんたくさん食ってんだろ?」
「元太君だっていつも食べてるじゃない……。亀倉さんの所で料理の練習しながら味見で色々食べてるってお兄ちゃんから聞いてるよ?」
(浅見の奴、元太の事特に気に入ってるからなぁ)
助手席に座るコナンは、先日釣りに行ったときに、自分で釣った魚を自分で食べられるように丁寧に子供達に魚の捌き方を教えていた浅見透の姿を思い出していた。
その浅見透の話を大人しく、そしてしっかり聞いている元太の姿も。
「ほう、元太君は料理を習っとるのか。感心じゃのう」
「元太には釣りの才能があるって浅見言ってたからなぁ」
元太は以前鯛を釣り上げた事があった。その時から浅見は、元太にあれこれと叩き込んでいた。
「……お兄ちゃん、人に料理教えるの好きだから」
「? そうなの楓ちゃん?」
「ふなちが料理出来るのって、お兄ちゃんのおかげらしいから」
「へーーー」
(あのふなちがねぇ。そういえば、桜子さんが来る前まであそこの家、食事は交代で作ってたな)
最近では浅見たちが仕事などで動けない時に、小沼博士と共に面倒見る事が多い家政婦も今日は来ていない。
人数の事もあるが、浅見透の離れの屋敷に引っ越してから荷解きをしていなかったため、しばらくは自分の部屋を作るのに使っている。
「にしても、この道いいね! 綺麗に富士山が見える!」
「そうだよね楓ちゃん……あれ?」
「? どうかしました? 歩美ちゃん」
「うん……あの建物なんだろう?」
後部座席に座る歩美の疑問の声に、コナンが彼女の見ている方を確認する。
「あぁ、あれは西多摩市に新しく出来るツインタワービルだよ。高い方で319m、もう片方が294mだったかな。東都タワーより少し低いくらいだよ」
「へぇ~」
「良く知ってましたね、コナン君」
歩美が感嘆の声を上げて、光彦も感心した顔でコナンに尋ねる。
「いや、浅見さん……ってか越水さんが、完成したらあそこに事務所を入れるって話をしてたからさ」
「あぁ、七槻お姉ちゃんもふなちも出かけてるのってそれかも。スーツ新しく買ってたし」
浅見透の家で暮らしている楓は、当然ある程度家族の動向を把握している。
「そうじゃなぁ、なんなら明日、帰りに寄ってみるのもいいかもしれんのぅ」
「ホントかよ博士!」
「やったーー!!!」
「……お前ら、喜んでいるけど中に入れるかどうかは分かんねーぞ? まだオープンしてないんだから」
「「「えーーーーーーー…………」」」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「オフィスエリアに居住区、ショッピングエリアにホテル……コンサートホールまで……随分と盛りだくさんなビルですわね、七槻様」
「その分、完成すればどんな人が来てもおかしくない施設だから、ウチみたいな会社には向いてるよね」
越水七槻、中居芙奈子。
元浅見探偵事務所の副所長とその補佐を務めていた彼女たちは、調査会社の社長副社長の経験を積んだ上で、今では実質浅見グループの重鎮。ある意味で経営面のトップになっていた。
なので、こういう場に呼ばれるのも大変増えているのである。
「いかがですか? 我が常盤グループが誇るツインタワービルは」
二人を呼んだのは常盤美緒。
常盤グループの令嬢であり、ここ最近なにかと浅見透と絡むことの多い女性である。
(……この人、なんか雰囲気が猫被ってた時の青蘭さんに似てて警戒しちゃうんだよなぁ)
なお、越水七槻の中の要警戒女性リストのトップ5に入る女でもある。
「素晴らしいですね。まさか、これほどの高層から富士山を眺める事になるとは思いもよらなかったです。改めまして、常盤グループの成長を感じました」
「あら、ありがとう。……透君、やっぱり今度のオープンセレモニーには間に合いそうにない?」
「ええ。どうしても本人が動く必要がある事態になりまして……いえ、私も詳細は聞かされていないのですが」
越水やふなちは、浅見からは灰原の家族絡みと説明を受けていた。
さすがに浅見にも、『ちょっと小学生連れて暗殺集団の本拠地近くで潜伏してあれこれ工作してくる』とほざいたら無残な死を遂げるくらいの予測を付ける頭はあった。
「帰ってきたら必ずこっちに顔を出すとおっしゃっておりましたわ」
「そう……。あの子、いつも大怪我するからちょっと心配だけど」
(……まぁ……哀ちゃんが付いているなら無茶な事はしない……と思うんだけど……)
残念。
現実は無常である。
「あ、越水社長にふなちさん! お久しぶりでーす」
越水たちが到着して定型の挨拶をしていると、その三人に声をかける人間が現れた。
探偵事務所が誇る
「およ? 瑞紀様もこちらに?」
「ひょっとして、セレモニーで瑞紀さんショーを?」
「ああ、いえいえ。今回のセレモニーで私は出ませんけど、オープン後に高名なマジシャンを数名集めたマジックショーをやろうって話が出てまして」
浅見透に、悲しいほどに胸がないパッド娘と認識されているマジシャンは、
「それで、完成したうちのホールの下見に来てくれていたの」
「ほら、例のテーマパークでのホール作りの勉強にもなりますし」
ここ最近は本人の希望で、調査よりもテーマパーク計画に関わっている瑞紀は在宅の仕事が増えており、現場での仕事は自分の弟子である黒羽快斗に任せる形になっている。
結果、不思議と小泉紅子が黒羽快斗に食料やドリンクの差し入れを頻繁に行っており、それを知った中森青子も物品を持ってきて奇妙な補給合戦が起こっているのはまた違う話である。
「瀬戸さん、いつもありがとう。貴女の即興手品、社員の間で評判いいわよ?」
「それはなによりです! 人を楽しませるのがマジシャンの一番の仕事なので!」
最近常に謎の疲労と睡眠不足と戦い続けている瀬戸瑞紀は、ステージに立つ者としてのプロ意識で一切それを表に出さない。
隈はメイクで隠し、笑顔を絶やさずに明るく、不快にさせない程度の大きな声で皆にニコニコと話しかけている。
それはそれとして浅見透はもう三十回ほど無残に死ぬべきである。
「一応コンサートホールと、あと今度行われるオープンセレモニーの会場も見てきました」
「透君の部下として、なにか気になるところはありました?」
「う~~~ん、今のところは特に……大体の大きさや設備、ギミックは大体頭に叩き込みましたけど……はい、問題は特にないですよ?」
唯一瀬戸が気にしたのは、窓ガラスに防弾性能がない事と、壁が銃撃戦に向いていない事くらいだが、それが頭に浮かんだ時点で彼女は自分の脳が汚染されていることに気が付いて気持ちをリセットしている。
ドジなのは8割演じているだけで、やれば出来るタイプなのである。
「まぁ、演出面では私も一応専門家ですが……安全保障面とかそういうのになると所長や安室部長の専門になりますので」
「……やっぱり、一度透君の意見が欲しかったわね」
「まぁ、明日にはキャメルさんも来ますので」
今現在浅見探偵事務所に控えているのは鳥羽初穂とアンドレ・キャメルの二名だけ。
沖矢昴は遠野みずきと共に、密漁グループを追跡するために海上保安庁に協力した後アメリカへ、恩田遼平はシンシア・クレイモフの勧誘と受け入れ態勢の調整。
調査部部長の安室透も公安の風見刑事と用事があるらしく、事務所には来ていない。
マリーも私用により、有休を取っている。
他にいるのは高校生組の面々だけである。
「ええ、明日には毛利先輩も来てくださるんですよ」
「へぇ、小五郎さんが……会社設立以来顔を合わせる回数減ったなぁ」
「一応今日はホテルの部屋をテストという事で泊まりますし、明日挨拶すべきかと」
「だなぁ」
越水からしても、毛利小五郎は大事にしておきたい人物だった。
あまり目立たないが、毛利小五郎は浅見透を一番止め得るブレーキ役なのである。
浅見透の無茶を止めようとする人間は所内にそれなりにいるが、その大体が同じ無茶を走り抜けて負担を減らそうとするタイプである。
そういう中で、完全に一般人であるためにそうそう無茶が出来ない毛利小五郎が側にいると、浅見透が無茶をする確率が2割くらいは下がる気がしなくもない。
(透君、哀ちゃんの家の問題に首を突っ込んでくるって……一体何やってるんだか)
潜水艦の中で息をひそめています。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
世界で一番背の高い双子を、フルフェイスヘルメットで顔を隠した男がバイクにまたがったまま見上げている。
「ツインタワービル、か」
「例の会社のメインサーバーがあるのはここなんでしょう? ジョン」
「……そう聞いている」
その後ろにまたがり男の腹に手を回している、やはりフルフェイスで顔を隠した女も一度見上げていたが、すぐに興味を失くしたかのように目線を地上に戻す。
「例の組織が動くとしたらここって本当?」
「確率の問題ではあるがな」
気軽に煙草を吸えない事に少しイラついている男は、見上げたまま続ける。
「組織は様々な方面で優秀な人材をかき集めていたが、その中でも特に薬学、それと並んでプログラマーの蒐集には力を入れていた」
「つまり、ITを初めとするテクノロジー業界である常盤は、貴方の前のお仲間からすればお宝の山」
「ああ……なにかしらの形で、ジンも動くはずだ」
ジン。
組織の重要幹部であり、内部の粛清役。
そして、あるいは二人が知りたい情報を持つかもしれない男。
「だけど、貴方は裏切り者と言うことになっているわ。どうやって話を聞くつもり?」
「……まずは、土産を用意する必要があるな」
男は建物を見上げる事を止め、今度は入り口やその周囲をチェックする。
「組織は今、資金源の再確保が急務になっていると予想している」
「あら、あの老人のおかげで裏のお金流れはよくなったんじゃないの?」
女のいう事は真実だった。
潜伏生活を続けている二人が生活に困らないのも、そこそこ地味で稼げる仕事がわんさか入っているからだ。
「海外の派手な強盗団や海賊といった多数――いや、無数の新興勢力が既存の裏組織のシェアを奪い、稼ぎ、この日本はそういった稼ぎの
「それを組織が狙っているんじゃなくて?」
「いや……あの老人が程よく組織の存在を匂わせたからな。奴らが表ざたにならずここまで来たのは慎重さのおかげだ。だからこそ、こういう時に奴らはまず守りに入る」
名を捨てた男は、組織の幹部だったこともあって内情を理解していた。
組織の性質上知らない事がほとんどなのだが、それでもこういう時の動きは何となく理解している。
「今頃、自分達に近づこうとしている半端者を消すのに手間取っている。なら、かなりの金を使っているハズだ」
「そこでなにかしらのお金?」
「あるいは、本来ならば大金を使う必要があるもの」
ツインタワービルは、言うなれば次代の常盤グループの象徴であり、いわばフラグシップのようなものだ。
本社の機能も移転されつつあるというのは有名な話だった。
「奴らは、目当ての物を持っている常盤財閥の情報を欲しがっているハズだ。おそらく、例の物はもうここに運び込まれているはず」
「……なるほど」
「狙いは常盤のメインサーバーへの接触ね?」
※二話続けて薄味で申し訳ありません。
今回から、本来の流れと前後した『天国へのカウントダウン』編へと突入しますが肝心の奴らがいない悲しみ。
感想でまとめてくれという声も出ていますが、今現在解説を付け加えながら1ページ目のキャラまとめを作っておりますのでもう少々お待ちください
いやまぁ、メインキャラだけなら言うほど増えていないんですが……
いっそ向こう側の現実世界のwiki風に書いてみようかと思ったけど、コナン視点だとどう見てもあさみんが黒確定な情報しか出てきてないから難しい……
掲示板風とかで毒syアニキャラ語らせてみる奴とかも中々に難しい……
うん、出来るだけ急がせますので気長にお待ちください