【完結】スパイになってしまったのだが   作:だら子

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番外編
番外編: 「コナン世界でスパイになった一般人」


「どうして私は黒の組織なんぞにいるんだ…」

 

棒付きキャンディーの飴の部分を歯でガリガリと砕く。そのまま死んだ目で青空を眺めた。その時、ピィーと小鳥が鳴きながら私の頭上を通り過ぎてく。思わず「鳥になりてぇな」と考えてしまう。そうやって現実逃避でもしなけばやっていられなかった。天元突破しているストレスによる胃痛から逃げるためには。

 

現在の私の職業を言ってやろうか?

 

――――名探偵コナンの世界で黒の組織の構成員である!

 

一つ言っていい?

 

(神は私を見捨てた!!)

 

本当にふざけないで欲しい。私の運命は一体どうなっているんだ。私の命運を握っている管理者出てこいよ!! むせび泣きながら崩れ落ちたい気分である。でも、そんなことを組織内ですれば、即死だけどな! 世知辛い。

 

こうなっているのには理由がある。私の名誉のために言うが、好き好んでこんな場所にいるのではない。そんな奴がいれば余程の物好きか馬鹿である。とりあえず、順を追って説明しよう。

 

突然だが、私は転生者である。

 

頭がおかしい奴だとは思わないでくれ。私も何年か真面目に悩んだが、頭は至って正常だったんだ…。

そんな私は一番初めは平成に生きるただの凡庸な女だった。しかし、どんなミラクルが起きたのか、気がつけば大正時代に誕生。最初はなんの冗談かと思ったさ。その上、身体は男になっていて、このまま成長すれば自分が大人になった時に第二次世界大戦がモロ被りすると知ってしまったのである。

その瞬間、泣いた。四つん這いになり、右手を床に叩きつけながら、叫び散らかした。

 

「確実に徴兵されて戦争に行く羽目になるじゃん!! ふざけんなよ!!」

 

だが、泣いたって現状は変わらない。というか、今世の私は男だから泣けば父親に「男のくせに泣くな!」とブン殴られる。本当に世知辛いな。

仕方がなく、私は腹を括った。どうしたらいいのかない頭を悩ませて悩ませて考えた。結果、私はこんなことを思いついたのである。

 

『政府に金を握らせて出兵拒否したらいいんじゃね? 会社の社長なってガッポガッポ金を稼いでやるわ!!』

 

我ながら頭が足りていない。だが、当時の私はこれくらいしか思いつかなかった。海外逃亡しようにもこの時代の有色人種への差別はキツイものがあるからなあ…。平成でも差別がまだまだあったくらいだ。私が今いる時代の人種差別なんて、もうお察してくださいと言いたいレベルである。

つーか、そもそも海外へ行けるほどのお金がない。この時代、海外へ行って、まともに働くためには本当の金持ちくらいだから…! 本当に今世の人生がベリーハード。泣くぞ。

 

転生者としてのアドバンテージを活かして、私は何とか様々な知識を身につけた。大学を卒業後、「さぁて、頑張るぞ!」を意気込んでいた時に『彼』に私は出会ってしまったのだ。

 

 

――――『魔術師』『魔王』と名高いスパイマスター、結城中佐と。

 

 

当時、結城中佐に声をかけられた時、私は彼があの『ジョーカー・ゲーム』の『結城中佐』だとは気がつかなかった。そりゃそうだ。まさか自分が小説の中にいるとは思いもしないだろう。結城中佐に「試験を受けてみないか。お前の望むものをやろう。可能性をくれてやる」などと勧誘された際、私が思ったことはただ一つだけ。

 

「やッッッべぇ! 私、非国民として見られている…?! 捕まる?!」

 

現在、この国は徹底的な天皇主義の世界である。それに対して、私はガチガチの民主主義教育をされた平成人。民主主義にも欠点が数多く存在するとはいえ、私には天皇主義は肌に合わなかった。無論、天皇陛下に敬意はある。しかし、一度こびり付いた垢というものは中々取れないものだ。人の性格が簡単に変わらないように、根付いた価値観というものもそう易々とは変えることはできない。

 

必死に隠していたはずの『考え』が『誰か』に見破られた。どれだけ驚愕したことが。どれだけ恐ろしいと思ったか。この国で、確固たる民主主義を持ちすぎることは非国民として裁かれかねないものである。この時代では民主主義は悪だという教育をしているのだから。平成で社会主義はどちらかといえば悪いものだと教えられているように。

 

(アカン。これ、行かないとシメられるやつだ)

 

そう考えてガクガクブルブルと震えてしまったのが運の尽き。私は結城中佐の試験を受けてしまったのだ。更に救えないことに、凡庸なはずの私は数多の偶然と幸運が重なり彼の試験を乗り越えてしまった。結果、気がつけば――――。

 

スパイになっていた。

 

ふざけるんじゃねぇぞマジで!! しかも、D機関の訓練生になった時に、私はようやく「アッここジョーカー・ゲームの世界だ」と悟ったのである。気がつくのが遅すぎて逆に自分に腹が立つ。

いや、でも、少し言い訳させてくれ! まさか自分が小説の世界にいるとは思わないじゃん?! ついでにあの結城中佐に勧誘されてるとは思わないじゃん?! 私は自分の思想のせいで殺されると思い込んでるから焦っていたからさ?! 分かるわけねーよ!!

 

『こんな凡人、直ぐに首を切ってもらえるだろう』と思っていたのに何故か辞めさせられない。他のD機関員と比べて遥かに劣っているのに。劣等生の私はそのまま奇跡的に訓練生を卒業。嫌々ながらスパイとして活動する羽目になった。

しかも、何故か私は死なずに諜報活動を続け、晩年には結城中佐の後釜となり、D機関の長となることに。切実に退職したかった。つーか、他の奴らがなれよ。何で私?!

 

(なんとか後輩に立場を押し付けて逃げても、同期の奴らが追いかけて来やがるし…)

 

何度も何度も引っ越しても、顔を変えても、私を見つけて来やがるD機関員達。「藤原〜元気にしてるか〜? 酒持ってきたぞ〜」と引っ越す度に尋ねてくる彼らに殺意が湧いたものである。だって、あいつら酒と一緒に仕事も持ってくるんだぜ?! もう私はスパイ活動はしないっつってんだろ! お酒は美味しかったけども!!

余談だが、藤原は私の名前である。偽名だけどな!

 

そんな風に仕事を続けながら、私は寿命を全うした。だけど、気がつけば――――。

 

また転生してしまっていた!

しかも、コナン世界に!!

 

小学校の時、結城中佐と偶然にも遭遇して、唐突に思い出したのである。あまりの量の多さに悶え苦しんだな…。ついでに自分が『米花町』に住んでいることに絶望した。ジョーカー・ゲームからコナン世界へ転生って…お前…。罰ゲームかな??

 

困惑している私に対して結城中佐からのお言葉がこれ。

 

「お前、藤原か」

「おじさん何の話してるの…??」

「藤原だな」

「はい!!!!!!」

 

結城中佐のドスを利かせた声に咄嗟に私は返事をしてしまった。私の魂に、『結城中佐には敵わない』という感情が刻み込まれていることが発覚した瞬間である。嫌だよそんな感情…。

 

というか、結城中佐はどうして私が藤原だと確信しているのか。確かに私はジョーカー・ゲームにいた時と同じ容姿ではある。だが、彼は私の幼少期の姿は知らない筈だ。

そもそも何故中佐までもが前世の記憶を所持しているんだ。結城中佐の前世の記憶は消せよ!! あの魔王に前世の記憶なんてもの一番持たせてはいけないだろ!! まさに鬼に金棒!

 

私も前世の記憶を所持していることを知った結城中佐はこう言った。

 

「藤原、貴様には現代の最新技術を学んでもらう」

「エッッッッちょ、結城中佐、私は今世でスパイになる気はありませんよ? 私は一般人として――――」

「いいな」

「はい!!!!!!!!!!」

 

元気よく私は返事をした。前世から常々思っていたが、結城中佐は私と言葉のキャッチボールをすべきである。言葉のドッチボールはお呼びでない。

 

ちなみに、今世の私はなんとか結城中佐から逃げようと奮闘した。だが、結城中佐は既に今世の私の両親と仲良くなっていたのだ。駄々をこねても、他の方法を取ろうとも、結城中佐から逃亡はできなかった。結城中佐の手配が早すぎて目が死んだものである。もしや結城中佐、私に会う前から手回ししていたのではありませんか。あの魔王ならあり得る…。

 

(ああ、今世も男として生まれてしまった私が憎い。女ならまだ逃げ切れたものを…! 結城中佐は「女はスパイには向かない」と仰る方だから…!)

 

中佐からの逃亡は不可能であると悟った私は泣く泣く彼の教えを受ける羽目になった。主に機器類等である。相変わらずのスパルタぶりで何度死にかけたことか。まあ、奇跡的にも私は訓練をなんとか熟せたから良かったものの。結城中佐からの扱きを受けつつ、大学を卒業して、気がつけば―――

 

 

警視庁特殊事件捜査部D課に所属していた。

 

 

いや、何でだよ!!

 

どうして私は『D』の付く組織に再び入っちゃったんだ…。表沙汰に出来ない極秘案件や隠密調査を請け負う、警察における暗部機関って何よこれ。こういう仕事は公安の仕事じゃないの?! 更には、この機関ときたら海外での諜報活動もやってるんだけど。それは防衛省陸上幕僚監部運用支援・情報部別班の仕事じゃねーの?! 組織上、存在しないと言われている情報・諜報機関で、主に海外での諜報活動を行っている組織があるじゃん!! 何でウチもやってんだ!!

 

(後さ、私、警察学校とかも行っていないんだけど?!)

 

それなのに警察になっちゃっていいの?! 大丈夫?! 普通、警察官に必要な基本的な知識、技能、体力を身に付けるために必ず警察学校には行かなくちゃいけないんじゃないの?! 突然、中佐に警官の身分証明書を渡された時はびっくりしたわ…。しかも、当たり前のように偽りの経歴や名前なんだけど…。結城中佐ェ…。

 

加えて、このD課には前世のD機関員達も勢ぞろいしていた。二度見どころか五度見したわ!! もう本当にやめてほしかった。結城中佐ゼッテーこれ確信犯じゃん。何、前世の機関員達を集めてんだよあの魔王!! 疲れた顔をしながら私は三好声をかけた。

 

「よぉ」

「話しかけるな」

 

三好はこちらへ視線を向けることなく、ピシャリと私の言葉を遮った。めっちゃ塩対応!! 前世で私、お前に何かしたっけ?! いや、したな! お前の死亡フラグをへし折れなかったとか色々あったわ!! まあ、いいや。こいつらの塩対応は慣れているし。なんか虚しいけど。

 

この時、私はただ単にいつもの塩対応だと思った。しかし、日が経つに連れて、彼らの態度や言動におかしさを感じることとなる。

 

 

――――あの人でなし共が演技ではなく、本当に此方を知らないように振る舞ってくる。

 

――――あのプライドエベレスト野郎共が前世で習得したはずの技術の基礎を勉強している。

 

――――あの化け物共が!

 

 

――――私より技術面で劣っている!!

 

 

ありえなさ過ぎて死ぬほどキョドッた。あまりに動揺していたので結城中佐から直々に肩パンされた程である。痛いです。貴方の肩パンは洒落にならないくらい痛いのでやめて下さい。下手をしたら関節が外れます。

 

(肩は痛いけど! それよりも! エッッッッ?!)

 

先程も言ったが、こんなのは『ありえない』。あり得るはずがない。これから導き出される答えはたった一つだけだ。

 

今世のD機関員達には前世の記憶がない。

 

ふっっっつーにあの化け物共には記憶があると思い込んでたわ! だって、結城中佐に記憶があったし、奴らの塩対応はいつものことだったしさァ…。完全に機関員達に記憶がある体で接していたんだけど…。

 

(あ、だから、随分前、奴らに『えっ、この程度出来なかったけ、お前? 大丈夫?』ってビビって言ったら睨まれたのか!)

 

射殺さん勢いでガチ睨みされたのはそのせいか!! 今日は調子悪いのかと完全なる善意で言ったのが裏目に出てやがる。あいつらにとっては『え? お前らこの程度が出来ないの? プークスクス』と言われているようなものだ。完全に喧嘩売ってんじゃねーか私!! 殺される!!

 

それに勘付いたとしても結城中佐からは逃げられない。魔王による訓練をあの化け物共と一緒に受ける羽目になったのだ。寿命が縮む日々だったよ…。しかし、不思議とあいつら半殺しにはされなかった。良かった。あの馬鹿共は真面目に殺しにかかってくるから…。でも、毎日のように『ゼッテェ貴様に目に物を言わせてやるからな…待ってろよ…』的な目で見られ続けたけどな! マジあいつらプライドエベレスト。やめて欲しかった…。切実に。

 

それから更に時が経ち、D課の者達はいつのまにか私を越えた。その事実にめちゃくちゃ安堵したものである。あいつらより秀でている時は優越感よりも違和感による恐怖の方が強かったから…。

 

胃薬の量が減った頃、ついに私は結城中佐に呼び出されることとなる。この世界で初めての任務だ。しかし、その際に死刑宣告にも近い仕事内容を告げられた。

 

「藤原、この犯罪シンジケートに諜報活動へ行け」

「はい、わか――――待ってください」

 

資料を拝見した時、見たことのある名前が出てきて思わず二度見した。目をパシパシさせようが現状は変わらず、命知らずにも私は結城中佐に『待った』をかける。いや、だって――――。

 

資料にジンとかウォッカとかベルモットとかあるんだもん!!

 

え、何? 私に回ってきた仕事は黒の組織への潜入調査なの? あの頭脳チートのコナンや降谷、赤井が手こずるような組織へ行かなきゃいけないの?? 絶対ややこしさしか感じない、命の危険満載の所へ?? 私がスパイ活動??

 

(行きたくねェ!!)

 

未だ嘗てないほどに行きたくない!! 確かにNOCに命の危険はつきものだ。公的身分を偽っているため、バレれたら即死に繋がる。いつもそんなスパイ活動はしたくないと嘆いているが、黒の組織への潜入調査だけは嫌だ! 死んでも嫌だ! 私、映画で見たもん! 観覧車の上でドンパチしている化け物NOC共! あんなのを熟せなきゃ黒の組織のスパイは務まらないんでしょ? え、普通に無理だわ。他のD課の奴らにやらせて。人間辞めているあいつらなら出来るから。

 

でも、それでも逃げる事はできない。結城中佐からの仕事はYES OR はい! のみ。なんという横暴。なんという恐怖政治。もう私の命運は結城中佐に握られているのではと思うくらいだ。シクシクと泣きながら、私は黒の組織へ潜入調査をする事となったのである。

 

――――そして、冒頭に戻る。

 

青空から目線を逸らして私は再び溜息を吐いた。ごくりとキャンディーを飲み込む。すると、向こう側から降谷零――――いや、今はバーボンと言うべきか。バーボンと彼の幼馴染スコッチが此方へやって来た。彼らの隣にはタバコを吹かしているライもいた。私はそれ見て、ギュッと赤いスポーツキャップを目深に被る。

 

「ライさん、バーボンさん、スコッチさん、お疲れ様です」

「ああ」

「ありがとうございます」

「脇谷(わきや)もお疲れ様」

 

なーーーんで私はお前らと一緒にいるのかな?? ん??

ヤのつく職業の方のように内心でメンチを切る。小一時間程問いただしたいぐらいだ。まあ、そんなこと小心者の私にはできねーんだけどな!

 

ちなみに脇谷というのは今の私の偽名だ。フルネームは脇谷英二(わきや えいじ)。脇役Aって感じの名前みたいで嫌だ…。まあ、これ実名なんだけどさ。脇谷英二さんは実際に存在している人である。その彼をコピーして、今、私が演じているのだ。え? 本物の脇谷英二さん? 彼はとある犯罪で捕まり、牢屋の中である。本当は一から一人の人間をでっち上げてもいいのだが、それだと必ずどこかでボロがでるからね。既に存在している人間を演じる方が楽でいいのだ。

 

(まあ、今はそれよりも、ライとバーボン、スコッチだよなあ…)

 

少し前くらいにライ、バーボンとスコッチが組織入りを果たした。初めて彼らを見たときは思わず二度見したぐらいである。アメリカのFBIはともかく、何で日本の公安がいるんだ…。私が既に二年ほど前から潜入してっぞ?! 私という存在がいるから原作とは違い、バーボンとスコッチは組織へ潜入調査しないと思ったのに。何でいるんだお前ら?!

 

慌てて定期報告の時、結城中佐に報告した。すると魔王はニヤリと笑ったのだ。

 

「ゼロ達も来たか。上手く奴らを使ってみせろ」

(できねーよ?! どうしてできると思った?!)

「あの、結城さん」

「どうした」

「…、…あのゼロ達は優秀です。彼らの能力は我々D課に匹敵するでしょう。いや、それ以上の部分さえあります。そんなゼロ達なら完璧に諜報活動をやってのけるはず。私は帰還してもよろしいでしょうか」

 

いっ、言ってやったッ!! あの結城中佐に言ってやったぞ!!

 

本当に降谷零とその幼馴染君は優秀なのだ。彼らを見ているとD機関、いや、D課の化け物どもを思い出すくらいには。もうあいつらだけで大丈夫だよ…。後は我らが主人公コナン君がいるし…。私がいなくても立派に組織の情報をガッポガッポ抜き出してくれるよ。ついでにあのゼロ達なら上層部の弱みも握って警察内部の改革もしてくれるよ。降谷零ならできちゃう雰囲気あるもん。大丈夫大丈夫。

 

(それに、何で結城中佐が私を組織へ送り込んだのかすらイマイチ分かっていないし!!)

 

本当、結城中佐は何を狙ってんの?? 組織の壊滅?? いや、結城中佐の性格的にもっとエグいことしそうなんだよなあ…。はあ、私に諜報活動させている理由くらい教えてほしい。けど、中佐はそういった『理由』は教えてくれないことがあるからなあ…。

 

その訳は『うちのスパイならそれぐらい自分で分かって当たり前』という風潮があるから。もう一つは『もしもスパイとして捕まった時、情報を引き抜かれないため』である。どれほど鍛え抜いたスパイであろうと、捕まる時は捕まってしまう。一応、非常時に備えて常に我々は重要情報を意識のそのまた下に入れ込むという化け物じみたことはしている。だが、万が一のために中佐は我々に『本当に大切な情報』だけは教えないことがあるのだ。

 

はーやってらんねー。ちなみに、私の場合は大概『理由』は教えられない。多分、私は捕まりやすいからだろう。分かっているけど、腹が立つな!

 

そんなことを考えて、一瞬だけ顔が歪む。だが、今は結城中佐の返答を聞く方が先決だ。そう思い、緊張した面持ちで結城中佐の返答を待つ。数秒後、短く結城中佐はこう言った。

 

「藤原、やれ」

「イェッサァァッ!」

 

理由すら答えてくれない!! 知ってた!! 結城中佐の私への扱いが雑いのは藤原、知ってた!! 基本的に私に重要な情報は教えてくれないもんね、貴方は!! もういいよやればいいんでしょやれば?! 死ぬ未来しか見えねーけど。次に結城中佐と会う時は死体かもしれないね…。考えたら震えてきた…。

 

(死なないようにだけ頑張るか)

 

私は静かに溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、スコッチさんとライさんは後ろへ」

「サンキュー」

「分かった」

「バーボンさんは助手席で大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です」

 

俺――――降谷零ことバーボンは静かに返事をした。そのまま俺は助手席に座る。組織の構成員の一人である脇谷英二は、俺達全員がシートに座ったことを確認した後、車を静かに発進させた。窓から見える移りゆく景色を眺めながら俺は内心で溜息を吐く。

 

(組織へ諜報活動を始め、コードネームから随分と経つもんだ)

 

俺、降谷零は公安警察である。世界だけではなく、日本でも活発に行動する巨大犯罪シンジケート――通称『黒の組織』へ現在諜報活動中だ。幼馴染み兼相棒のヒロと共にこの組織へスパイ活動をしているが、想像以上に恐ろしい組織である。一瞬でも隙を見せれば、俺達は直ぐに胴体から首が離れるだろう。

 

(この組織だけでも大変だというのに、D課という部署にまで頭を回さないといけないとはな)

 

――――警視庁特殊事件捜査部D課。

 

数年前に新たに設立された諜報機関。表沙汰に出来ない極秘案件や隠密調査を請け負っているらしい。だが、いくら探ってもその実体は掴めない。設立者は結城という男だとか。

 

(ゼロの情報網をつかっても少ししか掴めなかった。その上、掴んだ情報は曖昧という体たらく)

 

同じ警察機関内だというのにゼロがこの程度しか情報を掴めないのは異常だった。何故ならば、このD課があるのは警視庁だからだ。俺が所属するゼロは警察庁にあり、その警察庁は全国の警察をまとめている組織となっている。対して、D課のある警視庁は日本の東京都を管轄する警察組織。つまり、力関係からいえば警察庁は警視庁よりも強いのである。そのゼロが警視庁のD課という組織を把握しきれていないなど――――ありえない。ありえなさすぎる! ノウハウから見ても、他の面から見ても、警察庁と警視庁との間には雲泥の差があるのだ。その警察庁のゼロが警視庁のD課を把握していないなんて異常事態である。

 

(加えて、D課の構成員は全て偽名を名乗り、警察学校にすら行っていない一般人で構成されているという)

 

諜報活動をするゼロとて必ず警察学校及び警察大学校へ行くのだ。それなのにも関わらず、あのD課構成員達は誰も学校を出ていないという。恐らくは、構成員達の跡を残さないためだろう。徹底した秘密主義だ。全てを闇に葬り、諜報活動だけに信念を注ぐその姿勢には脱帽する。

 

(だが、俺達ゼロに何の報告もないのは何故だ)

 

俺がD課について考えている理由はただ一つ。つい最近、D課構成員達が黒の組織へ諜報活動をしているという報告が上からあったからである。それだけならまだいい。D課とくれば、全く俺達と協力しようとしないのだ! 潜入した報告はあっても、それ以上は何もない。お互いに協力した方が遥かに楽にスパイ活動ができるというのに。奴らは一体何を考えているんだ?

 

(全く頭が痛いな)

 

再びハアと溜息を吐く。すると隣で運転していた組織構成員の脇谷英二が怪訝そうな顔で此方を見てきた。

 

「どうしましたか、バーボンさん」

「いえ、何でもないですよ」

 

俺がそう言うと脇谷英二は興味が失せたかのように顔を元の位置へ戻して、運転を再開させた。俺は脇谷英二がいつも被っている赤色のスポーツキャップを眺める。不意に自分の脳内ベースから『脇谷英二』のデータを取り出した。

 

――――脇谷英二。

 

彼は黒の組織の構成員である。地位は低いが、ドライビングテクニックが秀でているため、ネームド達の足に使われている人物だ。

脇谷英二の組織への加入理由は家の貧しさから。彼の父親は既に亡くなり、母親は病気。それ故に金を手に入れやすい犯罪に手を染めた。ここまでが脇谷英二の簡単な経歴だ。

 

(そういえば、彼は凡人でありながら、よくもまあ、組織で生き残っているよな)

 

黒の組織は弱肉強食の世界だ。弱ければ死に、強ければ生きる。現実世界でも弱肉強食と言えるだろうが、組織の場合は生死に関わるため、その分ハードルが高いだろう。その中で脇谷英二はなんだかんだで生き残っていた。

 

(ま、悪運が強いだけだろうが)

 

脇谷英二は何かとタイミングがいいやつである。例えば、ズッコケタと思えば、頭の上を弾丸が通過して、運良く生き残るなどだ。何度もそれが重なるので、「こいつまさかわざとやっているんじゃ…」と思ったこともある。

だが、脇谷英二は毎回それに気がつく度に尋常じゃない怯え方をするのだ。酷い時には顔面崩壊レベルの号泣までしていた。あれが到底演技でできるとは思えない。

 

(脇谷英二がD課の人間だったら簡単に事が済んだというのにな)

 

まあ、それは有り得ないだろうが。ドライビングテクニックが上手い程度で諜報員は務まらないだろう。ましてや、ゼロすら欺くスパイ共だ。脇谷英二がD課構成員だというのは幻想に近い。

そこまで考えて、俺は再び溜息を吐いた。助手席のシートへ背中を預ける。

 

「もっと簡単にいけばいいんだが」

 

この時、俺は気がつかなかった。隣で運転する脇谷英二が笑みを浮かべていたことなど。俺は知らなかったのだ――――。




この後、藤原は結城中佐にこき使われまくって黒の組織で(ミスりまくる)暗躍をすることになり、最後の最後までコナン以外の誰にも気がつかれずにコナンに怯えられる話を書きたいけど、力尽きました。

久々のジョカゲ投稿できたので、とても楽しかったです。ありがとうございました!
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