「新人を鍛えようと思う」
「いきなりだな」
数日単位でのお館様一家の引っ越しも無事終わり、俺と宇髄には明日の新邸で行われる柱合会議に備えて待機命令が出されていた。
錆兎含め丙以上の隊士は撹乱用に用意された複数の籠の護衛に動員されたため、この場には居ない。
かなり格の高い宿で、部屋には二人きりである。
「やっぱり新人育てなきゃダメだと思うんだよ。最近隊士が弱くなってるし」
「それには大賛成だが、錆兎を継子にしないために全力出してたヤツが言うか?そもそもお前ほぼ錆兎としか任務してないから関係無いだろ」
「…………」
マジレス乙。
「まあ隊士の質が落ちているというのは確かだな」
「そうだ。ということで蝶屋敷にいる三人の隊士を育てたい」
「おう、頑張れ」
ホ?手伝ってくれないの?
「なんだよ、フクロウみたいな顔でこっち見んなよ。だいたい柱の中でお前が一番余裕あるんだからお前がやれよ」
「おい、俺の管理地域がどんだけ広いのか知ってるか?手伝ってくれよ!」
「錆兎がいるから良いじゃねえか!あいつ強いだろ」
「俺はお前が説明するの面倒臭くなったときに『まあ、一門流が言ってたからな』で誤魔化してるの知ってるんだぞ!」
「知ってたのかよ!でもお前だって『宇髄が言っていたんだ、間違いない』て勝手に言ってるだろ!」
『宇髄が言っていたんだ、間違いない』は俺にとって万能な言葉である。例えば、
『一門、それは本当か?確証はあるのか?』
『宇髄が言っていたんだ、間違いない』
『忍びが言っていたということは、既に調査済みということか。なるほど』
のような感じで某ネチネチ柱の追及をかわせたりできるのである。
「…………まあいいだろう」
「なんでそんなに偉そうなんだよ。というかどうして俺なんだ?雷の呼吸でもいるのか?」
「霹靂一閃だけを極めたヤツが一人……」
「首の骨折られないように気をつけろよ。とりあえず俺は他にやることがあるから、頑張れ。それと例の件だが……」
例の件ってなんだっけ。俺は姿勢を正した。
蝶屋敷にて。
「善逸さん!喚いてないで早く飲んでください!」
「イヤだよぉぉ!!苦い苦い苦すぎるよコレェ!」
くさい湯呑みを前に、仁王立ちで眉を上げる神崎アオイと泣きじゃくる我妻善逸がいた。
「我慢して飲まなくては治るものも治りませんよ!ホラ!」
「無理なものは無理なのぉ!」
アオイが無理やり湯呑みを口元に近づければ、善逸はイヤイヤと首をふる。
ほとほと困り果ててしまうアオイ。それを退けて一人の影が現れる。
「どけ」
それは死んだ目で立つ白衣を纏った男。
男はアオイから湯呑みをふんだくるとそのまま勢いを殺さずに湯呑みで善逸を殴り飛ばした。
「つべこべ言わずに飲めぇ!!!!」
「とみお"かぜんせい”!!」
胡蝶しのぶによるメタメタ計画によって五徹目、イライラゲージマックスの冨岡義勇である。
「アオイ……、後は、頼んだ……」
しかしその拳に全力を出し尽くした冨岡はそのままベッドに倒れこみ、力果てたのだった。
「とりあえずお仕置きは終わりねー」
どこからともなく現れた胡蝶カナエは栗落花カナヲを引き連れて冨岡を担いだ。
「アオイ、お疲れさま。休憩よ。お昼ご飯あるから、しっかり食べてね」
「あ、ええ……はい。ありがとうございます」
突然過ぎる出来事に硬直していたアオイだが、すぐに気を入れ換えてパタパタと走る。
「カナヲ、運ぶの手伝ってくれる?あと、炭治郎君の鍛練につき合って欲しいんだけど……」
「はい」
カナヲは腕に抱えていたおじいちゃんカラスを自らの頭に乗せて、カナエの反対側から冨岡の腕を肩にかけた。
「ギユウ……、大丈夫カ?」
カナヲはおじいちゃんがいちおう冨岡義勇の鎹鴉であったことを思い出す。
「だ、大丈夫」
慣れないながらもおじいちゃんを安心させるように声を出したカナヲを見て、カナエは笑みを深くするのだった。
カナヲの心はカナエが生存しているのでけっこう柔らかめに。