転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます 作:こびとのまち
医務室に運ばれた親友は、未だ意識を取り戻さない。保険医曰く、頭を強打したショックで一時的に気絶しているだけだということだが……正直、不安で不安で仕方がない。
皆で医務室に詰めかけるわけにもいかないので、ひとりずつ入れ替わりで付き添うことになった。
混乱する場を仕切ったのはキャメリアだ。こういうとき、あたしみたいなのとは違って頼りになる。それに比べ、シランの親友であるあたしの、なんと無力なことか。
眠ったように意識を失っているシランの側で、あたしはぼそぼそと声を漏らす。
「なあ、皆シランが目覚めるのを待っているんだ」
「シラン、知っているか? たぶん気づいてないんだろうけど、お前ってけっこうな人気者なんだぞ。言ってもどうせ信じないだろうから、黙っていたけどさ……」
「いや、違うな。あたしはシランを皆に取られるのが怖くて黙っていたんだ。だってさ、中等部入学まではあたしたち、互いだけが友達だっただろ?」
「なのにさ、気がついたらシランひとり、輪の中心にいるんだもんな。そりゃあ、あたしが焦るのも多少は仕方がないと思うんだ」
「いや、変わったのはシランだけじゃないか。あたしだって、いつまでも子どものままじゃねえよ」
誰も聞いていないと分かっているからか、漏れ出す想いが止まらない。
「だからさ……あたしはいつの間にかシランのことが、心の底から大好きになっちまったんだ」
「起きているときにこんなこと言ったところで、笑われるだけだと思うけどさ……あたしの好きは、ラブの意味での好きなんだぜ」
こんな恥ずかしいこと、絶対シランには伝えられないよな。だからきっと、この想いは墓場まで持っていくことになるのだろう。
「……えへへ、そう、なんだ。ふーん」
シランの声が聞こえる。そうそう、シランが起きていたら、こんな感じでからかってくる気がする。
……ちょっと待った、
「ふふ。嬉しい、な」
「シ、シラン……おはようっ」
「うん、おはよ」
意識を失っていたはずのシランが、目を開いて笑っていた。その表情は、どことなく照れているようにも見える。
本来このような状況では、真っ先にシランの体調を確認した後、保険医を呼びに行くべきなのだろう。だが、今回ばかりは自分本位になってしまうことをお許し願いたい。そんなことよりもまず、確かめずにはいられないことがある。
「なあシラン……
「えっと……『いや、違うな』の辺りから?」
だいぶ初めからじゃねえか!
ということは、さっきの告白も……。
「ぐあぁあああああ、いっそ殺してくれぇええええええっ!!」
この世に絶望し切ったあたしの叫び声を聞いて、キャメリアを先頭に皆が雪崩れ込んできた。こいつら、揃いも揃って医務室の前で待機してたのかよ!
さすがに呟き声までは聞こえていなかっただろうけど、油断も隙もあったもんじゃない。
シランに異常がないか確認する者、安堵の声をあげる者、シランのベッドに潜り込む者、おろおろと狼狽える者……一応補足しておくと、ベッドに潜り込んだのはアネモネだ。まあ、すぐさまキャメリアに引っ張り出されていたので問題はない。
そして、皆の後ろからそっと顔を出したのはリリー。普段なら真っ先にシランに抱き着いていそうなものだが。まあ、リリーと過ごしているはずだったシランが放課後に単独行動をしていたことから、何となく事情は察することができる。
「その……シランちゃん。今朝は悪ふざけが過ぎてしまったわ。本当にごめんなさい」
「いいよ。気にしてない、から」
何があったのかは知らないが、リリーが頭を下げるほどだ。相当ヤバいことをやったんだろう。そして、シランの懐の広さは相変わらずだな。
しかしまあ、今回の事故に関しては誰が悪いというわけでもないので、リリーも変に罪悪感を感じる必要はないはずだ。これが良い薬になって、日常的な変態行為も多少は緩和すれば良い。
「リリーが今朝みたいなことした気持ち、ボクにもなんとなく、理解できるし」
「えっ? それってつまり、わたしの愛が遂にシランちゃんへ届いて……」
シランの言葉を聞いたリリーが、顔を赤らめて期待の眼差しを向けている。だが、シランの言葉はまだ続く。
「ボクも、アイリスのこと……大好きだから。誰かを独占したくなる気持ち、わかる」
「「「「……はいぃ!?」」」」
あたしとリリー、いや、それだけじゃないな……医務室にいる全員の間の抜けた声が、見事なまでにハモった。
そんな状況を理解しているのかしてないのか、シランがマイペースに起き上がる。そしてそのまま、すぐ横にいるあたしに抱き着いてきた。
まさに天国から地獄へと突き落されたリリーは、医務室の床に突っ伏している。だが、そんなリリーを気遣う余裕はない。
「シランのす……好きは、あれだよな? 親友として好きってことだよな?」
そう、あたしは何度も同じ過ちは繰り返さない。舞踏会の夜に撃沈したあたしに隙はないぜ。オチはちゃんと読めてるんだ。
「ううん、違う。これは……この気持ちは、ボクの初恋なんだから」
「ほらな、想像した通……り!?」
あれ? 想像していた答えとだいぶ違うぞ。
変な冗談言うなよとシランにツッコミを入れようとしたところで、シランの顔が息の届く距離まで急接近してくる。顔にかかるシランの吐息が、熱い。
「これが、
シランの唇が、あたしの唇にくっついた。シランはそのまま離れようとしない。あぁ、全身から力が抜けていく……。
歓喜と混乱で身動きが取れなくなるあたしと、ひたすら床に突っ伏しているリリー。そして、他面々の阿鼻叫喚が医務室に響き渡る中、シランの気絶騒動は幕を閉じた。
◇
目を覚ましたボクは、皆に連れられて中庭までやってきた。ついさっき、幸いなことに身体には異常がないと確認できたものの、まだ皆心配そうな表情を浮かべている。それはそうだろう。ボクが鈍臭い所為で、たくさん迷惑をかけてしまったのだから。しっかり反省しないとね。
……ん? なんだか良い匂いが。
「わあ……!」
案内された中庭に並んでいたのは、巨大なホールケーキと、様々なご馳走。そして、そのホールケーキには13本の蝋燭が刺さっていた。
「お食事は冷めてしまいましたけど……それはまあ、シランさんの自業自得ということですわ」
「あらあらキャメリアさん、そんなことが言いたいわけではないでしょう? では、生徒会長であるわたくしが、代表して言わせていただきますね。シランさん、お誕生日おめでとうございます!」
ああそうか、今日はボクがこの世界に生まれてから13回目の誕生日だったんだ。ついさっきまで記憶を失っていたから、誕生日のことなんてすっかり忘れてしまっていたよ。
だけど、うん、たしかにボクはシランとして13年間生きてきたんだよね。それを祝ってもらえることが、認めてもらえることが、とても嬉しい。
「心配かけて、ごめん。それと……ありがと!」
優しく微笑んだ大切な友人たちに囲まれ、ボクのバースデーパーティーは幕を開けた。
◇
「……ねぇ、シランちゃん。さすがにそろそろアイリスから離れない?」
「やだ」
「や……やだって、そんな駄々っ子みたいな」
「やだったら、やだ」
中庭の隅でアイリスの膝に乗っかり、ボクはケーキを頬張っていた。ちなみに、苺は最後まで取っておく派。
そんなボクに対してリリーがいろいろと言ってくるけど、今日はこのまま過ごしたいんだ。だって、ようやく自分の気持ちに正直になれたんだよ?
「そ、そういうわけだからさ。悪いな、リリー」
苦笑しながら口を開くアイリス。いや、なんで苦笑しているのさ。むぅ……。
「うぅう……そんな風に余裕でいられるのは今だけよ。人の気持ちなんて、ちょっとしたきっかけで変化するものなんだから。今は二人がラ……ラブラブなのかもしれないけど、そのうち必ず、わたしがシランちゃんのハートを奪ってみせるわ!」
「……似たようなこと、他の奴らにも言われたなぁ。どいつもこいつも前向きすぎるだろ」
あくまで強気に、そして諦めた様子など欠片ほどもない前向きな表情で、リリーが宣戦布告する。
だけど、本人が目の前にいる状況でそういうこと言っちゃうのか。いや、いるからこそ、なのかな?
「シランさん、またそんな隅っこにいて……。貴女はこのパーティーの主役なんですのよ? さあ、早くこっちにいらっしゃいな」
そんなボクたちのもとにキャメリアがやってきた。そして、会場の中心へ来るよう促す。
うん、まあ、キャメリアの言う通りだね。せっかく皆が用意してくれたパーティーなんだから。
ボクはゆっくりと立ち上がり、キャメリアに手を引かれて歩き出した。その後ろには、相変わらず苦笑いを浮かべるアイリスと、何やら闘志に燃えているリリーがついてくる。
そのとき、裏庭に一陣の風が吹いた。
そして、目の前にいたキャメリアのスカートが、ふわりと舞い上がる。
「きゃあっ……ってシランさん、しれっと覗かないでくださいな!?」
キャメリアは真面目そうな振る舞いの割に、今日もセクシーなのを履いているんだね。
うん、これからも充実した日々を送れそうだ。