火の無い灰に救済を   作:ラウガメア

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2021/05/19 追記
誤字修正
リア10爆発46様、ありがとうございます。


しかし信仰が足りない

「もう終わりか」

 

すこし残念そうに灰は呟く。辺りには『不吉な仮面』や『歴戦の矢先』などが散乱している。灰は協会の依頼によりヒルチャールの殲滅に来ていたのだ。そして周辺の草木は多少焦げている程度にとどまり、地形も数十分あれば修復可能な程度しか抉れていない。

おめでとう!灰は『てかげん』をおぼえた!

いそいそと戦利品を集め始めた灰を見ながらアンバーは達成感に身を震わせていた。ついにここまできた。ようやく後始末中に地平線の向こう側の太陽を見ることも空高くに輝く子兎座に笑顔でこんばんはしなくてもいいのだと。そう、アンバーにはようやく安寧が訪れた。意気揚々と、かつてないほどの上機嫌でアンバーは『禁呪の絵巻』を見ている灰に話しかけた。

 

「お疲れさま!……何見てるの?」

 

「なに、大した事ではない。少し、懐かしいと思っただけだ」

 

「……読めるの?」

 

灰は肯定の意を示す。

 

「……りぃさぁさああああん!」

 

その安寧は砂上の楼閣であった。

 


 

「本当にあなたは何者なのかしら?」

 

ところ変わって騎士団本部内の図書館。灰はリサに詰問されていた。彼女は騎士団の幹部の一人。普段は司書をしている、雷元素を用いる魔女である。

 

「何者と聞かれても旅人だとしか答えられんな」

 

対する灰はリサの高圧的な態度に一切引くこともなく強気な態度を崩さない。二人の間に重苦しい雰囲気が流れる。

なお、その間でアンバーはオロオロプルプルしている。哀れなり。

 

「もう一度確認させてもらうけど、あなたはモンドに敵対する意思はないのね?」

 

「当然だ。旅人は国家間の小競り合いには干渉しない。それとも味方をしたほうかよかったか?受けた恩を返すくらいはしてもよいが」

 

その言葉を聞いたリサは灰を見定めるように見つめ、灰は不機嫌な態度をあらわにする。リサの視点だと身元不明の要注意監視対象が何かのついでに未解決問題を解いたようなもの。当然怪しむだろう。対し灰の視点では平穏な日常を謳歌しているだけ。加えて最近では誰かに迷惑をかけているわけもない。にも関わらず目の前の女は一向に懐疑的な視線を向けられ続けている。そして、お互いがお互いの人となりを知らない。せいぜい本の貸し借りの為の事務的な関わりがある程度である。友好的な関係を築けるわけがなかった。そのことに気が付いたアンバーは悟った。己がやるしかない。二人を知る自分が相搏つ竜虎の橋渡しをしなければならないと。数分前の迂闊な自分を自身のもつ語彙力で最大限に罵倒(バーカ、バカバカばぁか!)していると、突然妙案を思いついた。このような修羅場を何とかする方法、どこかで読んだことある気がする!さあ、起死回生の一手だ。アンバーは二人の間で目一杯自己主張しつつ、言い放った!

 

「やめて!わたしのためにあらそわないで!」

 

ちなみに、この時アンバーは大混乱(ぐるぐるおめめ)をしていたそうな。

 


 

リサがざわついた騎士団を駆け回り誤解を解くのに要した時間は数時間にも及んだ。今現在、リサはとってもいい笑顔で(仄かに紫電を散らしながら)2人を正座させていた。アンバーは言わずもがな、灰はリサが奔走している間何もせず静観を決め込んでいたからである。

 

「もういいわ。アンバーちゃんに悪気があった訳ではないでしょうし。ちょっと彼と話があるから外しててくれないかしら。これで好きな物でも食べてきなさい」

 

ため息をつきながらリサは言い、アンバーに1000モラ(ちょっと豪華な昼食1食分くらい)を握らせる。ただ口調からどことなく疲労が漂っている。

 

「あい。グスッもうしません」

 

「…ん、終わったか」

 

なんとこの男眠っていた。これにはリサも青筋を隠せない。だがここで蒸し返すと話が進まないことをリサは理解している。再び煮えたぎり始めた腸に蓋をし、本題を進めることにした。

 

「それで!あなたはこれが読めたのよね?」

 

灰は首を縦に振る。

 

「これにはあなたが用いる火の術の基礎が書かれていると」

 

首を縦に振る。

 

「ならその内容は」

「悪いが答えられない」

 

灰は即座に拒否した。

 

「私は貴公の目を知っている。理を解き明かさんとする者の目だ。故に口を噤もう。この火は容易に人を蝕み焼き尽くす」

 

突然雰囲気を変えた灰にリサは言葉を失う。今までどこかこちらを揶揄うような空気だったのが一変して先程とは比にならないほどの圧と真剣さで話す灰に圧倒されたのだ。

 

「確かにこれは『術』だ。相応しき師に教われば誰でも手に入る力だとも。だが人は力を求めるものだ。公にされたら、どれ程の人が手を出し呑まれるか。それが分からない貴公ではあるまい。漸く火は絶たれたのだ。こんなもの継ぎなおす必要も無いだろう」

 

そこまで語った後、灰は何時ものどこか飄々とした雰囲気に戻る。

 

「何よりせっかく平和になったのだ。こんな物騒なものを用いる必要もない。何より、過ぎた力はそれだけで危険だと、初めに言ったのは貴公達だろう?」

 

皮肉げに笑いながら口にする灰にリサは反論できない。実際騎士団は灰個人の力が強大すぎるが故に監視を付けるといった行動に出たのだから。

 

「それはそれとして、こちらとしては貴公とも良い関係を結んでおきたい。代わりと言ってはなんだがこんなもので手打ちにしてくれないだろうか」

 

そう言って灰はなんとも言えない表情をした木製のなにか(人面 こんにちは)を取り出した。

 

「ええっと、それは?」

 

困惑しながらもリサは質問する。灰はその反応を後目にそのなにかを床に投げた。

 

Hello~

 

突然奇声を発したなにかにリサは言葉を失う。そして目線をあげると灰が全く同一のものをまだ持っていることに気が付き絶句する。

 

「このように\Hello~/何度でも\Hello~/使うことができ\Hello~/る。どうだ?\Hello~/面白いだろう?\Hello~/」

 

ここで漸くリサは気がついた。この男はだいぶ狂っていることに。まともに付き合うだけ疲れるだけだということに。

 

「……遠慮しておくわ」

 

そして彼女は考えることをやめた。あのアンバーが監視していて何もないのだから大丈夫なのだろう。人となりも悪い訳じゃないし、ちゃんと分別はついている。このままアンバーに任せればいいや。

 

「……そうか」

 

どこか悲しげな灰の姿を見て、そこまで危険人物ではないのかもしれないと、灰の評価を改めたリサであった。

 

ちなみにアンバーはちょっと太った。ヤケ食いである。




ちょっと真面目な報告があります。
投稿ペースが酷いことになっている件についてです。
大学が始まったりバイト始めたりと環境の変化も要因のひとつなのですが、一番の理由は私自身の原神に対するモチベーションが著しく下がっていることなんです。受験勉強で離れてから、復帰しようとしましたが進んだ環境についていけなくなりました。そしていつの間にか、楽しむために原神をプレイするのではなく、小説のネタのために原神をプレイするようになっていることに気が付きました。それに付随して、執筆のモチベーションもかなり下がっているのが現状です。
そのため楽しみにお待ちくださっている方々には非常に申し訳ないのですが、当小説は璃月の話までで打ち切ろうと思います。
璃月の話が終わるまではなんとか続けようと思っています。次話投稿は長い目でお待ちくださると幸いです。

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