劇場版でも、やはり俺の戦車道は間違っている。 作:ボッチボール
本当もう…君達試合中だよ?そろそろ八幡には手痛い目にあって貰わねば(いろいろと)。
考えてみればIV号戦車に乗る機会はわりと多い。
聖グロリアーナとの練習試合前にはほぼ拉致という形でIV号戦車が家まで迎えに来たし、戦車道全国大会の時だって祝賀会をやり過ごそうとした俺をほぼ拉致という形で彼女達は迎えに来た。
…思えばこいつらにいつも拉致られてんな。IV号戦車ってハイエースだったの?
それでも俺がIV号戦車に馴染みが薄く感じるのは練習試合では基本的に乗る事が無いからだろう。生徒会の暗躍を抜きにしてもそもそも車長、操縦手、通信手、装填手、砲手が揃っているチームに俺の席があるはずもない。
「…やっぱ狭いだろ、俺出る?」
要するに六人は明らかに乗員オーバーだ、アンツィオはよくCV33で三人乗りしようとしたもんだ。
「いや、まだ来たばっかじゃん…」
「…で、なんの話があるってんだ?」
わざわざ呼び出したって事は通信越しでは話せない事でもあるのだろうかと身構える。…正直身に覚えがありすぎてどれについて言及されるのかと。
「あ、うん。…じゃなんの話しよっか?」
「…は?話があるんじゃなかったのか?」
「えぇ、私達は比企谷さんとただお喋りがしたいと思っていましたので…いけませんか?」
「いや、今試合中なんだが…」
この移動中に相手が仕掛けてくる可能性は低いとは思うが…それにしたって気が緩みすぎなのでは?
「あ、そういうのはもうみぽりんでやったから」
「…西住」
視線で西住に抗議を送ると彼女は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「あはは…でも、うん。こういう時間が作れるのって今だけだと思うから」
それはまぁ…確かに。次の目的地に着いたらそこは恐らく、最終決戦の舞台になるだろう。
「いいんじゃないか、私達らしくて」
「これも士気向上の為ですよ、比企谷殿」
いったいこれの何が士気向上へと繋がるのかは疑問ではあるが…そう言われれば無下に出来ない。
「そんな訳で比企谷、何か話題お願いね」
「呼びつけといて無茶振りなんだよなぁ…普通そこは呼んだ側が提供するもんだろ」
「いやほら、やっぱこういうのって男の人にリードされたいっていうか…」
相変わらず武部は男子全般に理想を追い求めすぎだ。『いきなり女子4人組に呼び出されてお喋りの話題提供を要求される。』この無茶振りに対応できる男子生徒がどれだけこの世にいるのか?
いやそもそもそんなシチュエーションあってたまるか…と言いたくなるそこのあなた、気持ちは良くわかる。ほんとなんだこれ?
そんなあなたに教えるのが比企谷 八幡流会話術である。俺だって最早ぼっちとは呼べないくらいの経験は積んでいるのだ。これを否定する事はぼっちに対する冒涜でもある。
「あー…晴れて良かったな、もう天気もすっかり良くなったし」
「天気の話!それ話題が無い時に言うやつじゃん!!」
馬鹿な!俺の天気デッキが看破された…だと!?
「い、いや…他の話題なら気温の話もあるんだが」
「それはどちらも同じお話なのでは?」
え?そうなの…?そっちは切り札としてとっとこうと思ってたのに…。
「雨が上がったおかげかな?風も気持ち良いよね」
「ちゃんと乗っかるみぽりんがすごい…」
いや、これはまぁ…素ではあるんだろうが。
「…本当はね、もうちょっと上手くいくって思ってたんだ」
「西住殿…」
「…プラウダ高校や継続高校の皆さんが頑張ってくれたからなんとか戦況を維持できたけど、それが無ければ状況はもっと酷くなっていたと思う」
「そんな事ないよ、向こうはカール自走臼砲なんて卑怯なものまで持ち出してるんだよ!そうよね、比企谷!!」
「確かにカール自走臼砲はクソだが。…一応言っとくが兵器としてじゃなくてこの試合に出てきた話だぞ?」
本来レギュレーションには通らないであろうカール自走臼砲を魔改造して戦車と言い張る面の皮が厚さ…ほんとクソだわー。
「わかっています、兵器に罪はありませんから!!」
…それはそれでどうなんだ?いや、この話題を深掘りしても良いことは一つも無いと思うのでここはスルーしよう。
「まぁそれ抜きにしても…らしくはなかったな」
「え?そんなに駄目だったの?」
「黒森峰とプラウダの重戦車で山頂を制圧し、他チームを支援させる…手堅い定跡な戦術だとは思いますが」
「確かに手堅いな、だからこそそこを相手にも読まれた」
定跡とは王道だ、王道故に強くはあるがそれは狙いがわかりやすいという意味でもある。
「うん、みんなが来てくれたおかげでなんとかチームの形は出来たけど、やっぱり普段とは違うからなるべく序盤に戦果を上げたかったんだ」
それもわかる。頭数が揃った所で急造チームに変わりはない俺達にはわかりやすい王道の作戦が向いていた。まぁ相手はそれを込みして作戦を看破したんだろうが…。
ここにダージリンさんの言っていた『最初から勝負に出る』や姉住さんの言った『序盤に戦果を上げておきたい』にも繋がるのだろう。
「勝負を焦っちゃった私の責任だね…」
「いや、責任って話ならいきなり戦車も人員もバラバラな急造チームを引っ提げてきてそいつ等に指示しろって無茶振りかました奴が一番負うべきだろ」
「…自己紹介なのか?」
「よく考えれば…いえ、考えなくてもだいぶ酷いのでは?」
ほんと酷い奴が居たもんだなー…。
「だから西住、お前はそんなもん背負わず、もっと自由にやって良い…と思うぞ」
「…私の自由に?」
「そもそも大洗を見てみろ、おおよその作戦こそ決まってるがどいつもこいつも割と好き勝手にやってるだろ。そんでごちゃごちゃやってる内になんか勝ってんだし」
「…比企谷から見た大洗の戦車道チームってそんなだったんだ」
「生憎、戦車道は嫌いだったからな、元々他所のチームの戦術なんて知らなかったんだよ」
だからこそ、言える。
戦車道が嫌いで見て見ぬふりをし続けた俺に初めてそれを教えてくれたのが、他ならぬ彼女だから。
「俺が初めて戦車道を知ったのが西住の戦い方だ。安心しろ、その強さは身に染みてる」
いや文字通り、撃破されましたからね…。今更ながら初陣の相手が西住って難易度設定バグってない?
「だから、ここからは西住の戦い方をすれば良い」
「…私の戦い方。うん、私達に出来る戦い方で頑張ってみるね」
…半ば強引なのはどうかとは思うが、一応武部には感謝しておくか。大学選抜チームにはお気の毒だが、こうなった西住はマジで頑張るし、なんとかしてしまう安心感がある。
「まぁ次の目的地が遊園地跡だと聞いた時点で余計なお世話かとも思ったが、一応な」
「そんな事ないよ、話を聞いて貰えて良かった」
「そういえば…なぜ目的地が遊園地跡なんだ?」
「え?デートじゃないの?」
「遊園地跡だぞ…廃墟でデートすんの?」
「ロマンチックで素敵じゃない?」
駄目だコイツ…恋愛フィルター入れるとなんでもプラス思考に変換される。無敵かよ。
「あーあ…初めての遊園地デートがこんな形になるなんて」
戦車の大部隊で遊園地に進軍する事をデートと言い張るのなら最早何も言うまい…。
「…遊園地デート」
…西住が少し顔を赤らめて呟いた。その意味がわかってしまい、俺も気恥ずかしく感じる。
ボコミュージアム。果たしてあれをデートと捉えて良いのか。いやほら、俺ボコになってボコボコにされてたし…。
そもそも遊園地なのあそこ?マスコットキャラクターがボコボコにされてるんだけど…逆に有名なデスティニーランドのパンさんなんかは相手ボコボコにしそうなビジュアルしてるんだが。
「せっかくですから、お話の続きは比企谷さんの持ってきたマックスコーヒーを頂きながらにしませんか?」
「いいですね、では私はお菓子を用意します」
どこから取り出したのか、秋山はいつの間にかチョコやクッキー等、マックスコーヒーの甘さをより引き立つお菓子類を並べ始めた。
「お菓子だと!!…ぐぬぬ」
「駄目だよ麻子、操縦中なんだからお菓子は後」
…お母さん、それはちょっと厳しいんじゃないですかね?
ペリペリと手頃なチョコレートの封を切ってほいっと冷泉の口元に持っていってやる。
「ほい冷泉、チョコで良かったか?」
「…食べて良いのか?」
いや、わざわざ用意してやったんだから食べて貰わないとこっちも困るんだが…?
「いいから食え、チョコ溶けちゃうだろ」
「そ、そうだな…あ、あーん」
…うーん、戸惑いながらチョコを食べてく冷泉になんか違和感があるんだよなぁ。
「…えーと、八幡君?」
「比企谷殿…それはその、えぇっとですね」
冷泉以外のあんこうチームの視線が痛いんだが…あ!
「…いや待て、違う。ローズヒップにもやってたからつい同じ感覚になってただけだ」
「そうですか、ローズヒップさんとはそのようなやり取りを」
「これは尋問の必要がありそうですね」
…藪蛇だった。いや、完全に油断していた…そうだよね、ローズヒップくらいお菓子を定期的に食わせないとパフォーマンスが発揮出来ない操縦手が他に居てたまるか。
「…比企谷さん、次はクッキーが食べたいんだが?」
…いや、冷泉もある意味似たようなものなのでは?じっとこっちを見つめて待機してやがる。おい操縦手、前見ろ前。
「麻子ズルい!!」
「両手が塞がってるんだ、仕方ないだろ」
「さすが冷泉殿、ご自分のポジションを利用した見事な立ち回りです。…今が装填が必要な場面でしたら私も両手が塞がるのですが」
いやそれ、ドンパチやってる場面だからお菓子食べてる余裕なんて無いのでは…?
「しかしこれはシャーマン・イージーエイトでのお話をもっと聞く必要ができましたね」
「いや、別にそこはいいだろ…なぁ西住?」
「ううん、私も聞きたいかな。八幡君のチームメンバーのお話が聞ければこれからの作戦にも役立てるかもしれないし」
なんだろ…こう、圧が…圧がすごいんだが。
「…それ、本当にこの試合で必要なのか?」
たかが味方戦車1両のチーム事情がそこまで戦況を左右するとは思えないんだが…。あぁ、よほどメンバーがギスギスしてるとか思われてんのかな。
「…この試合だけじゃないかもだけど、必要かな」
はて、この試合だけじゃないとか。今日の試合が終わったら敵になるであろう彼女達から今のうちに少しでも情報を引き出せってこのなのかな?やだ…うちの隊長鬼畜すぎ。
ーーー
ーー
ー
「たでーま…」
「おかえりなさい、向こうではさぞお楽しみだったでしょうね!!」
IV号戦車での尋問を終えた俺に待っていたのはヒステリックアリサのヒステリックだった。これぞ理不尽。
「なんでいきなりキレてんだよ…むしろここは俺に感謝して欲しい所なんだが?」
「それはそれでなんでとは思うのですが…」
そりゃもちろん君達の情報を如何に当たり触りの無いように伝えるかでの大立ち回りをやってきたばかりなんですから。もっとこう…労って欲しい。
「そろそろ目的の遊園地跡に着くな」
「少し不安でしたがここまで相手の妨害もありませんでしたね」
「そういえばそうですわ、追ってくればぶっちぎってさしあげましたのに…」
なんで平和に行軍出来たのに不満そうなんですかね、このお嬢様は…お嬢様かな?まぁ格闘ゲームをしてるお嬢様も世間には居るらしいし、ぶっちぎるお嬢様が居ても良いのでは?と最近は思い始めてはいる。
「そりゃ相手からしても妨害する理由が無いからな、向こうと俺達で被害が一致してるってのが大きい」
「そうなんですの?」
そんなんですの。ここまで散々、今は相手も攻撃して来ないと考えていたのは余裕や願望等ではなく、もちろん根拠があってだ。
相手だって偵察部隊から俺達の目的地が遊園地跡なくらいは把握している。その上で静観を決め込む理由は一つ、彼女達にとってもそれが都合が良いからだ。
30両対30両の殲滅戦、これはどちらかが全滅するまで試合が終わらない。この手の試合で一番面倒くさいのは相手がバラバラになってただひたすらに逃げに徹せられる展開だ。
向かい合っての砲撃戦ならともかく、ただひたすら広い平原を逃げ回る戦車達の相手なんて向こうもしたくはないだろう。特にCV33みたいな小回りのきく戦車もこちらには居る。
「相手が勝手に逃げ場の無い遊園地跡に集まってくれるんだ、敵側にそれを止める理由は無いからな」
「…なんでわざわざ逃げ場の無い場所へ移動してるんですの?」
うむ、そこに気付くとは賢いなローズヒップ。ぶっちゃけそういう塩試合な試合展開も考えてはいたんだが。それだとこちらには決定打が無いので効果は試合の遅延と相手への嫌がらせくらいで勝ち目は無い。
「それがうちの戦い方だからだよ」
「えぇ、大洗はここからが手強い」
経験者であろうクラーラからの太鼓判だ、安心して良いだろう。
『大隊長車から各車へ』
西住の号令が響く。
『これより遊園地跡にて局地戦を行います、相手を園内に誘い込んでの遭遇戦を仕掛けましょう』
逃げ場の無い遊園地跡への籠城、ここまで追い込まれた事も事実だが。
平原での真っ向勝負な撃ち合いなんかよりもよほど、うちらしい戦い方だ。
『まっ…逃げ場が無くなったともいえるけどね』
『うちはそういう戦い方、得意だよ』
『アンツィオも得意だ!!』
自信満々なのが大洗とアンツィオなのが…なんかこう、悲しいなぁ。
『ふんっ…そんなの自慢にもなってないわね』
「はーん…天下の黒森峰様はこういう戦い方には自信が無いとみえる」
まぁ追い込む事はあっても追い込まれる事なんてそうそう経験して来なかっただろうしなー、仕方ないよなー(ニュアンス)。
『はぁ!?そんな訳ないじゃない!!そこがどんな戦場でも私達が一番に決まってるわよ』
『…ふふっ』
『…えっ?隊長』
『いやなんでもない、比企谷。君のその挑発、我々黒森峰への挑戦と受け取ろう』
おー怖っ…まぁ元々そんな心配はしてませんでしたけどね。
『面白い戦いになりそうね』
『お言葉ですがダージリン、データの上では厳しい戦いになりそうです』
『運命は浮気者、不利な方が負けるとは限らないわ。そうでしょ?みほさん』
『はい、私達は私達にできる戦いをしましょう』
「………」
ーーー
ーー
ー
「八幡君」
「…ん?」
帰り間際、ふと西住に声をかけられる。…もしかしてまだ聞きたい事でもあるのか?これ以上誤魔化すのも限界があるんですが。
「私は私の戦い方をするから、八幡君も八幡君の戦い方をしよう」
「確かに…これまでは比企谷殿にしては大人しかったですね…」
「…何を期待されてたんだよ、そもそもあさがおの部隊に居て好き勝手出来る訳ないだろ」
いや、好き勝手に突撃する連中なら居たんだけど…え?もしかして俺にも突撃を期待されてるの?
「じゃあここからは好きに動けるのよね?」
「…比企谷さんが好き勝手に、か」
「それはそれでどこか不安ですね…」
…いったいどろしろと?
「…まぁ、なんか機会があってやれる事があればな」
「うん、お互い頑張ろうね」
ーーー
ーー
ー
「…やれる事か」
西住をあぁやって焚き付けてたのだ。そのくせ自分は何もしないというのは道理も通らないだろう。
この試合はただ観客席で見ているだけだった今までの試合とは違う、考えを行動に起こせるチャンスはある。
だからこそ考えろ。比企谷 八幡が出来る、俺にしか出来ない戦いを。
ーーー
ーー
ー
【観客席にて】
その場で試合をしている選手からすればその実感が薄い故に、彼女達はもちろん。彼、比企谷 八幡もそこまで気付けてはいない事がある。
「突然味方に向けて砲塔を向けた時は何事かとは思いましたが…」
それは当たり前の事ではあるが。試合展開はもちろん、観客席に中継されている。
「ふふ…娘さんは比企谷さんとはずいぶんと仲が良さそうですね」
なのでもちろん、一連の流れは両流派の家元である二人にもバッチリ目撃されているのだった。
「…お見苦しい所を見せてしまいました」
味方に砲塔を向け、車長を呼び付けて。…何の話をしていたかまではわからなくとも、試合の最中に流派を背負う者としてやって良い事ではないだろう。
「ただ…勝負は別ですが」
「えぇ、目に見えてあの子の表情が変わりましたから、ここからが本当と戦いとなるでしょう」
「…勝負は別です。勝負は、ですが」
「あら…ふふふ、あなたのその雰囲気も久しぶりに感じるわね」
後に島田 千代は語る。その時のプレッシャーは試合上で彼女と会敵した時と同じ物だったと。
「…やっぱり戻ろう」←試合展開が一度落ち着いたので家元二人に声をかけにきた児玉七郎理事長。
大洗連合チーム23両VS大学選抜チーム24両。