真選組の沖田さん(ドS)と型月の沖田さん(病弱)   作:芋けんび

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傘の置き忘れに注意

 

「へ?辻斬り?」

 

自室で団子を頬張っていた沖田が首を傾げる。

 

「ああ。それも幕府の高官ばかりを狙った、な」

 

土方がマヨネーズ入りのお茶を飲む。何でマヨネーズ?とツッコミを入れてはいけない。極度のマヨラーである彼にとって、マヨネーズとは万能アイテムなのだから。

 

「犯人に目星はあるんですか?」

 

「犯人なら検討はついてる。ーー人斬り似蔵。奴の仕業だ」

 

人斬り似蔵。

 

巷で噂になっている辻斬りの名である。盲目ながら抜き身を見せずに人を斬る居合の達人。その手口は残虐非道。夜間に運悪く出くわせば死あるのみ、とまで言われている。

 

一時行方を晦ましていたが、最近になって江戸で頻繁に目撃されているらしい。

 

沖田は内心で遂に紅桜篇が来たのか、と気を引き締める。銀魂初期の長編エピソード。それが紅桜篇。

 

「(介入…すべきなのか?でも、俺は真選組だしなぁ。あの空間に一人だけ真選組の隊士が混ざってたら違和感しかないだろ)」

 

手助けしたい気持ちはあるが、自分の立場を考えるとそう簡単に動くことは出来ない。

それに、今ここで下手に動いて今後の歴史が変わることがあればどうなるか分からない。最悪、取り返しがつかない事態が起きる可能性もある。

 

「(いや、俺と言う存在が銀魂世界にいる以上、原作からはもう掛け離れているのか)」

 

原作に沖田桜之進なんて登場人物は存在しない。だから自分がどんな行動を取ったとしても、それが未来を大きく左右するとは思えないし、そもそも自分がこの世界の人間じゃないのも事実だ。

 

もし、仮に介入したとして自分は何をしたいのか。何が出来るのか。それすらも今の自分には分からなかった。

 

天才剣士なんて呼ばれているが、所詮それは沖田さんボディだからの話であって、中身は凡人の自分には荷が重い気がしてならない。

 

いや、違う。

 

人を殺めた時点で、それは凡人とは大きく異なる。正義だとか、国とそこに住まう市民の安全を守る為だとか。どんなに上品な言葉で言い繕ったところで、人殺しは人殺し。本質は何も変わらない。

 

初めて人を斬ったあの感触は今でも忘れられない。殺気を込めた眼差しがこちらに向けられた瞬間、全身から冷や汗が流れ出た。身体中の血が逆流するような感覚に襲われて、頭の中では警鐘が鳴り響いていた。

 

ーー嫌だ、俺はまだ死にたくない。まだ生きていたいんだ。だってこんなにも毎日楽しいじゃないか。

 

近藤さんの役に立ちたい。堅物の土方さんをからかって遊びたい。そーちゃんとバカやって騒いで笑って過ごしたい。もっと真選組の皆と一緒に居たい。

 

そんな考えとは裏腹に身体は無意識のうちに刀を抜いていた。そこから先はよく覚えていない。ただひたすら無我夢中で相手の命を奪う為に振るっていたことは覚えている。そして気づいたら、辺りには屍が転がっていて…。

 

ーー自分の体の中でドロドロとした感情が沸き上がってくるのを感じた。まるで真っ黒な絵具を水の中に垂らして溶かしていくような感覚だった。

 

恐ろしいのは、人を殺めた罪悪感だとか、後悔などは一切感じていないこと。殺しそのものに何の感情も抱かない

 

ーーまるで歩く死人(・・・・)のように無機質な思考しか出来ない自分。

 

俺が狂っているのか、それともこの体の本来の持ち主である型月の沖田さんによく似た少女。『沖田桜之進』の精神に引っ張られているのか。どちらにせよ、今の自分が異常な存在であることに違いはない。

 

「攘夷浪士の中でも奴は特に危険視されている。他の隊に任せるには荷が重い。それでーーー」

 

「私に任せようと思った訳ですね」

 

「ああ、そういうこった」

 

土方はそう言って茶を一気に飲み干す。空になった湯呑みに再びお茶を注ぐと懐から二本目のマヨネーズを取り出して中身をどばっと投入する。うっぷ……。

 

「ん?お前も飲むか?」

 

「絶対に遠慮します。沖田さんはまだ死にたくないので」

 

沖田がそう言うと土方が「そうか…。美味いんだがな」と言って残念そうな顔をする。どうやら本気で言っているらしい。どんだけマヨ好きなんだよ!とツッコみたいところではあるが我慢する。この人に付き合っていたら話が進まないし、何より沖田さんのキャラが崩れますからね。

 

「お前の腕は信用しちゃいるが、相手はあの人斬り似蔵だ。くれぐれも油断だけはするんじゃねぇぞ。あと先に行っておくがーー発見したとしても殺すなよ。五体満足で捕まえろ」

 

「へ?」

 

「へ?って、お前やっぱり殺るつもりだったのか!?ダメに決まってんだろ!」

 

「も、もちろんわかってましたよ!」

 

「んな目泳がせながら言っても説得力皆無なんだよ!とにかく殺すな。いいな?」

 

「今日はやけに念を押して来ますね土方さん。何かあるんですか?」

 

「奴は高杉と繋がってる可能性があるらしい。幕府の重鎮ばかり狙ってるところを見るに間違いないと思うがな。だからもし遭遇したら殺さずに捕縛しろ。生捕りが無理なら最悪半殺しでも構わん」

 

高杉。桂と銀時と共に吉田松陽に育てられた三人組の一人にして、鬼兵隊の首領。過激派攘夷志士の中でも特に危険な人物であるとされている。

 

「無茶を言いますねぇ。ですが、分かりました。土方さんに言われた通り生け捕りにするよう努力してみます」

 

沖田が真剣な面持ちで言うと、土方は「任せたぞ」と短く告げた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

夜の帳が下り、町を行き交う人々は皆帰路についていた。沖田はその人々の流れに逆らって歩き続ける。

 

目的はもちろん人斬り似蔵を探す為だ。その手掛かりを求めて今彼女は夜の街を彷徨っている。昼間に比べて格段に治安が悪くなるのは百も承知。

 

「こういう真っ暗な裏通りは特に怪しそうですね。一応、警戒しておきますか」

 

路地に入り込んで辺りを見渡す。沖田の目が暗闇に慣れるまで数秒ほど時間を要した。目が慣れてきた頃合いを見て再び歩を進める。

 

「うーん。ここはハズレ、ですか」

 

沖田がそう思った瞬間ーー カチャッという音とともに目の前の地面が弾けた。沖田は咄嵯に横に跳んで攻撃を避ける。そのまま抜刀すると、すかさず体勢を整えてから斬り掛かるが、いとも容易く受け止められる。

 

このままでは不利と直感でそう思った沖田は、バックステップで後ろに下がった。

 

視線を前に向ける。

 

「…何者ですか」

 

「ほう、今のを避けるたァ中々やるじゃねーか。どうやら幕府の犬っころ共の中にも、少しは腕が立つ奴がいるらしい」

 

男の低い声が響く。それと同時に、沖田に向かって殺気が放たれ始めた。それは肌をピリつかせるほどの威圧を放っており、並大抵の人物ではないことが容易に想像出来た。

そして暗闇の中から現れた人物に思わず目を丸くする。

 

「あなたは……高杉、晋助?」

 

そこには編笠を被った隻眼で長身の男の姿があった。この耳が孕みそうなイケボに派手な着物。歩く18禁みたいな色気を放つのは高杉しかいない。ーーだが何故、攘夷浪士の大物であるこの男がこんな所に? 沖田は内心動揺していた。まさかこんな所で鉢合わせるとは思いもしなかったからだ。

 

「(何でこんな所に高杉が!?)」

 

しかも、沖田の知っている史実だと、高杉は春雨の船に居るはず。少なくともこんなにも早い段階で出会うなんて知らない。

 

「俺の気配に気づくたァ大したもんだ。それに、俺の剣を受け止めるだけの技量もありやがる」

 

「こんな所で夜のお散歩ですか?攘夷志士を纏める親玉と言うのも案外暇なんですね」

 

「ククッ、そうでもないぜ。今はちと野暮用があってな。それを終えた帰り道ってところだ」

 

余裕そうな笑みを浮かべて沖田を見る。まるで此方を品定めしているかのような眼差しだった。しかし、沖田からすれば全く笑えない状況だ。相手は攘夷戦争を経験した猛者である。今の自分でどこまで高杉に太刀打ちできるか…。

 

「………」

 

「いい目だ。そう殺気立つなよ。何も俺ァお前を殺しに来た訳じゃねぇ」

 

「突然不意打ちしてきたクセによく言いますね」

 

「お前さんのその特徴的な髪色に惹き寄せられてな。我慢できなくてつい手が滑っちまった。悪ぃな」

 

「手が滑って斬り掛かるとかどんな感性してるんです?」

 

まじまじと高杉が沖田の髪を眺める。桜之進の髪色は型月の沖田さんと同じ桜色の薄いピンクと、ブロンドが合わさったような髪色をしている。

 

その為か、物珍しさから振り返られることがしばしばあった。

 

「それより、岡田似蔵は貴方が連れている人斬りでしょう?今何処にいるんですか」

 

「さてな、質問に答える義理はねーな」

 

「そうですか。ならば力ずくで聞き出すまでです」

 

「フッ、肝が据わった女だ。敵にするにゃ勿体ねぇ。どうだ?俺と一緒に来ねぇか?」

 

唐突にそんなことを言ってきた。何言ってんだこの歩く18禁は。いきなり勧誘されても困るんですけど。

 

「ジョークにしても笑えないですね。私が真選組を裏切るなんて有り得ません。…ん?女ですって?」

 

ここで沖田は違和感に気づいた。今、目の前の男は何と言った? 私が女? その言葉を脳内で反覆させる。

 

え?いや、いやいやいや! 何でバレてんの?サラシで胸潰してるし、声だっていつもより低めに喋ってる。変装は完璧の筈だ。なのにどうして高杉は沖田さんの性別を見破ったんだ?

 

「初めはやけに色白の男が来たと思ってただけだがな。剣を交えて確信に変わった」

 

「だからどうしたというんです?女だからって舐めてると痛い目みますよ」

 

刀を構えていた沖田が突然柄を片手で回転させながら白銀に光り輝く刀身を鞘に戻して、身を低くして独特なポーズを取った。その瞬間、彼女の白い髪が靡き、鋭い殺気を孕んだ双眸は高杉の姿を捉える。

 

「一撃必殺にして神速の抜刀術。それがお得意ってか。面白ぇ」

 

一見隙だらけな姿勢に思えるが、それはフェイク。沖田が本気で斬りかかる時のみ使用される構えで、これを繰り出しているということは既に戦闘態勢に入っているということだ。

 

「ククッ…」

 

それに対して高杉は何故か嬉しそうに笑みを溢す。

 

一方の沖田は、

 

「(え?何この人怖い。何でこんな殺気ぶつけられて涼しい顔で笑ってられるんですか…)」

 

本気で少し困惑していた。

 





「土方さーん!新しい新技を思いついちゃいました!飛龍閃!」

「る〇剣じゃねぇか!!」
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