深淵の門—銀河英雄伝説異聞   作:でてこ@子(dc1394)

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本業が忙しくて、更新が滞っておりました。


第三十二話「天秤」

百六十七

 

宇宙暦七九六年十月十日 オーディン・ローエングラム元帥府

 

 報告書は、三枚だった。

 

 ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥は、それを二度読んだ。

 

 叛乱軍の動きが、九月末から変わっている。ハイネセン周辺の軍需輸送が増え、後方の補給部隊が再編されている。艦隊単位の演習も繰り返され、その内容は回廊方面への進出を想定したものだった。

 

 「一個艦隊規模と見ます」

 

 報告を持ち込んだ幕僚が言った。

 

 「叛乱軍は、門の側に相当な戦力を残したままです。回廊へ向けられるのは、多くて一万三千から一万五千隻。出撃は、早ければ数日以内かと」

 

 「分かった。下がれ」

 

 幕僚が退出すると、ラインハルトは報告書を机に置いた。

 

 七月、叛乱軍の一個艦隊がイゼルローンの主砲を沈黙させ、味方に一隻の損害も出さずに引き揚げた。あの一件から、三ヶ月が過ぎている。

 

 勝利は、それだけでは終わらない。次の勝利を要求する。

 

 「もう一度、来るということか」

 

 誰に問うたわけでもなかったが、隣に立つ赤毛の青年が答えた。

 

 「一度の成功は、次の期待を生みます。指揮官が同じなら、なおさらでしょう」

 

 ジークフリート・キルヒアイスだった。

 

 「同じ指揮官だと思うか」

 

 「他に、誰を選ぶ理由がありますか」

 

 ラインハルトは、窓の外へ目をやった。オーディンの空は、この季節、いつも灰色に濁っている。

 

 あの男が、また来る。

 

 ヤン・ウェンリー。三十歳。少将から中将。要塞の主砲を、一発も撃たせずに黙らせた男。

 

 「イゼルローンには、誰がいる」

 

 「駐留艦隊司令官はベルガー大将、要塞司令官はファルケンベルク大将です。八月に着任しました」

 

 「腕は」

 

 「ベルガー大将は堅実です。家格ではなく、実務で大将まで昇った人物です。ファルケンベルク大将は——門閥貴族の出です」

 

 キルヒアイスの声には、余計な評価が含まれていなかった。だが、その言い方だけで十分だった。

 

 駐留艦隊一万五千。要塞の主砲は、まだ沈黙している。堅実な将が一人、家格の高い将が一人。それで、ヤン・ウェンリーを迎える。

 

 ラインハルトは、頭の中で数を並べた。

 

 叛乱軍の上限見積もりは一万五千。指揮官がヤンなら、二倍に近い兵力を用意したい。三万あれば、戦術上の余裕を持って迎えられる。

 

 駐留艦隊は一万五千。ならば、自分の麾下から、もう一個艦隊を出すべきだった。

 

 「足りんな」

 

 ラインハルトは言った。

 

 その一言に二つの意味があることは、キルヒアイスにも分かっていた。イゼルローンにいる戦力が足りない。そして、それを埋めるために自由に使える戦力も足りない。

 

 オーディンから八十万キロの首都圏外縁には、ハイネセン近傍へ直結する門が開いている。そこには六個艦隊を並べてあった。

 

 叛乱軍も、向こう側に同じだけ置いている。互いの数は、フェザーンを通じて互いに知られていた。

 

 どちらも減らせない。減らした瞬間に、相手が先に通行技術を得ていた可能性を、否定できなくなる。

 

 ラインハルトは、卓上の配置表に目を落とした。

 

 門方面、六個艦隊。イゼルローン、駐留艦隊一個。領内、四個艦隊。手元の予備、二個艦隊。

 

 視線は、領内の四個艦隊のところで一度止まり、それから先へ進んだ。そこに五万隻と記されていても、自分の命令で動く五万隻とは限らなかった。

 

 皇帝の容態も悪い。門、イゼルローン、そして帝国内部。三つの危険に備えなければならない。

 

 そのために確実に使えるのは、手元の予備だけだった。

 

---

 

## 百六十八節(オーディン・ローエングラム元帥府)

 

 ラインハルトが次に呼んだのは、一人の中将だった。

 

 オスカー・フォン・ロイエンタールは、部屋に入ると、いつもの通り完璧な姿勢で敬礼した。左右で色の違う目が、ラインハルトの手元の報告書に一瞬だけ向いた。

 

 「叛乱軍が、また回廊へ出るらしい」

 

 ラインハルトは前置きを省いた。

 

 「規模は一個艦隊。指揮官は、おそらく前回と同じだ」

 

 ロイエンタールの異色の双眸が、わずかに細くなった。

 

 七月、この男は叛乱軍本隊への攻撃命令を発する寸前だった。「ファイ——」の一語が完成する前に、要塞司令部からの緊急通信が届いた。命令は撤回され、艦隊戦は始まらなかった。

 

 あの中断は、まだ彼の中で終わっていない。

 

 「行ってもらう」

 

 ラインハルトは言った。

 

 「一万隻。今回はベルガー大将の駐留艦隊との連携を前提とする。ベルガー大将は堅実な人物だ。互いの指揮権を侵さず、必要な協同を取れ」

 

 「どこから出されますか」

 

 「予備からだ」

 

 予備は二個艦隊、約二万五千隻。そこから一万を抜けば、手元に残るのは一万五千だった。

 

 ロイエンタールは、一度も配置表を見なかった。

 

 「敵の上限見積もりは一万五千。駐留艦隊と合わせて二万五千。最大見積もりの倍には、五千足りません」

 

 ラインハルトは、同じ計算が終わっていることを知った。

 

 「一個艦隊を出したかった。一万五千だ。だが、出せん」

 

 「門ですか」

 

 「あそこの六個艦隊は、一隻も減らせん」

 

 ロイエンタールは、それ以上を訊かなかった。

 

 門が理由なのは事実である。しかし、予備を一万五千も手元に残す理由が、それだけではないことも理解していた。皇帝の病状と、領内の四個艦隊。口に出されない数字が、配置表の外にある。

 

 「一万で足りるようにしてくれ、とは言わん」

 

 ラインハルトは言った。

 

 「足りない戦力で、どこまでやれるかを見せてくれ。それが今、私が貴官に頼めることだ」

 

 「承知いたしました」

 

 ロイエンタールは即答した。

 

 「ベルガー大将との連携要領は、出発前に確認いたします。要塞司令部とは、権限の線を明確にしておきたいと存じます」

 

 前回の停止命令については、口にしなかった。

 

 「そうしてくれ。今回は、誰がどこまで判断するかを曖昧にするな」

 

 ラインハルトは、そこで一度、言葉を切った。

 

 「一つ、先に言っておく。私が撤退を命じることがあれば、それは戦況以外の理由だ。その時は、理由を問わずに退け」

 

 ロイエンタールの異色の双眸が、ラインハルトの顔に留まった。訊きたいことがあるはずだった。だが、この男は訊かなかった。

 

 「御意」

 

 ロイエンタールは敬礼し、退出した。

 

 扉が閉まった後も、ラインハルトはしばらくその方を見ていた。

 

 あの男は、前回より深く踏み込むだろう。だが、その深さまで含めて任せられる者は、他にいなかった。

 

---

 

百六十九

 

 同日夕刻。国務尚書官邸。

 

 クラウス・フォン・リヒテンラーデの執務室は、暖房が効きすぎていた。

 

 老人は寒がりなのだろう。あるいは、訪ねてきた者が汗をかくのを、何十年も眺めてきたのかもしれない。

 

 ラインハルトは、襟に手をやらなかった。

 

 「イゼルローンの主砲と、門の解析の件だ」

 

 リヒテンラーデは、挨拶を省いた。座れとも言わなかった。

 

 机の上には、二冊の報告書が置かれていた。

 

 一冊は、トゥールハンマーの修復計画。もう一冊は、門内部の長距離把握手段に関する研究計画だった。

 

 「技術部の報告は読んだかね」

 

 「読みました」

 

 要塞の修理に専門技術者を集中すれば、主砲は一年ほどで本来の機能を取り戻せる。しかし、その間、門の解析はほぼ止まる。

 

 門の解析を優先すれば、主砲の完全復旧は二年近くまで延びる可能性がある。

 

 両方を予定通り進めるだけの技術者は、帝国にはいなかった。

 

 「七月の報告では、修復期間は最低一年でした」

 

 「要塞だけを直すならな」

 

 リヒテンラーデは、痩せた指で二冊を左右に分けた。

 

 「こちらが要塞。こちらが、あの穴だ。必要な技術者は重なっている。人間の数は、一つしかない」

 

 あの穴——リヒテンラーデは、ワームホールをそう呼ぶ癖があった。オーディンの喉元に開いた、閉じない穴。

 

 「同じことを、私は今日、艦でやりました」

 

 ラインハルトは言った。

 

 「回廊へ一個艦隊を送りたかった。門と領内への備えを崩せず、一万に減らしました。技術者と同じ形です」

 

 リヒテンラーデが、初めて顔を上げた。

 

 その目に感心の色はなかった。測る者の目だった。

 

 「気づいたか」

 

 「気づかざるを得ませんでした」

 

 この老人は、自分がどこまで見えているかを測っている。よく切れる刃は便利だが、柄を握る手まで傷つける。その値踏みだった。

 

 「この帝国には、二つの正面がある」

 

 リヒテンラーデは、左右に分けた報告書へ手を置いた。

 

 「どちらも塞がねばならん。塞ぐ手は一組しかない。技術者も、艦も、兵も、同じだ。割れば、どちらも薄くなる」

 

 「一つ、伺ってよろしいですか」

 

 「何だ」

 

 「領内の四個艦隊。あれは、何のために置かれているのですか」

 

 リヒテンラーデの手が止まった。

 

 「貴族領の警備だ」

 

 「警備」

 

 「そう書いてある」

 

 老人は、それだけ言い、ラインハルトの顔から目を離さなかった。

 

 ——待っている。

 

 あの四個艦隊は当てにならない、と口に出すのを待っている。口にすれば、証拠のない断定になる。若い元帥は帝国軍の一部を根拠なく疑った、と記録することもできる。

 

 餌だった。

 

 警備という言葉は正しい。門閥貴族はまだ旗を揚げていない。四個艦隊も、命令通り貴族領を警備している。

 

 嘘がないから、手をつけられない。

 

 「そうですか」

 

 ラインハルトは言った。

 

 それだけ言って、口を閉じた。

 

 リヒテンラーデの目が、わずかに細くなった。落胆でも安堵でもない。一つ、覚え書きが増えたという目だった。

 

 老人は二冊の報告書の角を揃えた。

 

 「元帥。帳簿というものはな、数と勘定が同じとは限らん」

 

 「……はい」

 

 「あの四個艦隊は、数には入っている」

 

 勘定に入るとは、言わなかった。

 

 ラインハルトは、その一言を頭の中で二度読んだ。この老人は、四個艦隊のことだけを言っているのだろうか。数に入っている者が、勘定に入るとは限らない。今この部屋にいる二人も、互いの帳簿の上では、まだ数のうちである。

 

---

 

百七十

 

 四個艦隊の指揮官たちは、まだ誰にも明白な忠誠を移してはいない。

 

 だからこそ、勘定に入れられなかった。

 

 彼らは、どちらが勝つかを見ている。自分を取り立てた家に従う者もいれば、勝った側へ従う理由を探している者もいる。いずれにせよ、決着が見えるまでは動かない。

 

 門閥貴族にとっても、最も安全なのは待つことだった。

 

 叛乱軍と手を組む必要はない。ラインハルトと叛乱軍が戦い、双方が艦を減らせばよい。動かずにいた五万隻は、何もしないまま相対的な重みを増す。

 

 命令違反ではない。費用もかからない。貴族領を警備したまま、勝者が疲れるのを待てる。

 

 叛乱軍と戦って勝つことは、そのまま、背後の五万隻に対して弱くなることだった。

 

 安く勝たねばならない。

 

 安く勝てなければ、勝っても負ける。

 

 ラインハルトは、その結論を口にしなかった。口に出した瞬間、それもまた記録になる。

 

 門方面の六個艦隊は、今のところ任務に従っている。それで数えるほかなかった。だが、確実に自分の意志で動かせるのは、予備と、自分が選んだ麾下の将たちだけだった。

 

 リヒテンラーデは、二冊の報告書へ指を戻した。

 

 「どちらに重みを置く」

 

 「優先順位を一つだけ付けるなら、穴です」

 

 ラインハルトは答えた。

 

 「要塞には、装甲と駐留艦隊が残っています。だが、叛乱軍が先に大艦隊を秩序立てて通せるようになれば、その時点でオーディンの前面が戦場になります」

 

 「私も、危険の大きさだけなら、そう見る」

 

 リヒテンラーデは、要塞修復の報告書を指で押した。

 

 「だが、こちらを止めれば、主砲を欠いた回廊防衛が長く続く。ヤン・ウェンリーが一度で満足すると思うかね」

 

 ラインハルトは答えなかった。

 

 両方が正しかった。だから、一つを選べば、もう一つの危険を自分の名で引き受けることになる。

 

 「元帥。正しい意見というものは、責任を取らん」

 

 「では、どうなさいますか」

 

 「両方を止めない」

 

 リヒテンラーデは、二冊の報告書を重ねた。

 

 「要塞にも、穴にも、それぞれが要求する人数の半分程度を回す。要塞の修理は遅れる。穴の解析も遅れる。どちらも予定通りには進まん。だが、どちらかを完全に捨てたという記録も残らん」

 

 軍事上、最善の配分ではない。政治上、最も説明しやすい配分だった。

 

 「決裁は、政府と軍の共同判断とする」

 

 老人は続けた。

 

 「元帥にも署名してもらう」

 

 ラインハルトは、その意味を正確に受け取った。

 

 うまくいかなかったとき、記録には、国務尚書と軍の元帥が協議の上で決定した、と残る。老人が欲しいのは判断への助言ではなく、自分の名の隣に置く名前だった。

 

 断れば、配分そのものは老人の名で実施されるだろう。そして自分には、政府との協議を拒んだという一項が残る。今、それを選ぶ利はなかった。

 

 戦場なら、戦力の分散は敗北を招く。だが、これは戦場ではない。二つの敗北の可能性を、同時に少しずつ遠ざける場所だった。

 

 「異存はありません」

 

 ラインハルトは言った。

 

 言った瞬間、自分が最も嫌う種類の判断に名を貸したことを理解した。決めきらない判断。天秤を、どちらにも傾けない選択。

 

 覚えておこう、と思った。この老人が自分の名を必要とするのは、責任を分けたいときだけである。そういう相手との付き合い方は、一つしかない。必要な間だけ、必要なものを渡す。

 

 「賢明だ」

 

 リヒテンラーデは言った。

 

 褒め言葉には聞こえなかった。この老人が賢明と言うとき、それはよく切れる刃物に向けられる言葉だった。

 

 ラインハルトは一礼して、部屋を出た。暖房の熱が背中から離れ、廊下の冷たい空気が首筋に触れた。

 

 皇帝が死ねば、この老人は摂政の座を狙うだろう。そのとき必要になるのは軍であり、軍を握っているのは自分である。老人は自分を使っているつもりでいる。どちらが使われているかは、あと一年もすれば分かることだった。

 

 扉が閉まると、リヒテンラーデは椅子に深く座り直した。

 

 若い青年は、今日も餌に手をつけなかった。しかも、餌が何であったかまで理解した。拾いすぎる、とリヒテンラーデは思った。

 

 門閥貴族を片づけるまでは、必要な男である。片づけたあとは、要らない。むしろ、危ない。

 

 だが、そう考えているのは自分だけではないだろう。あの目は、そういう目だった。

 

 老人は、机の上の書類をもう一度揃えた。角を合わせ、端に寄せる。

 

 順番は、まだ決まっていない。どちらが先に、相手を勘定から外すか。それだけの話だった。

 

---

 

百七十一

 

 元帥府へ戻ると、キルヒアイスが待っていた。

 

 「配分は、双方に半分程度と決まった」

 

 ラインハルトは、外套を脱ぎながら言った。

 

 「要塞も、門も、予定通りには進まん」

 

 「……そうですか」

 

 キルヒアイスは、それ以上は言わなかった。だが、その短い返事に含まれたものを、ラインハルトは聞き取った。

 

 「不満か」

 

 「いいえ。ただ、ラインハルト様。どちらも必要な時期に届かない可能性があります」

 

 「あるだろうな」

 

 ラインハルトは椅子に腰を下ろした。

 

 「だが、他に取れる形がなかった」

 

 その答えの薄さは、本人が一番よく分かっていた。

 

 机の上には、帝国全図が広げられていた。オーディン。イゼルローン。そして、地図の上では一点にしか見えない門。

 

 要塞を持っているから、修理しなければならない。修理に人を割けば、門の解析が遅れる。既存の優位を保つために、次の競争で手が遅れる。

 

 叛乱軍には、直すべき巨大要塞がない。門だけに技術者を注ぐことができる。

 

 「キルヒアイス」

 

 「はい」

 

 「持つ者は、持っているものに縛られるのだな」

 

 キルヒアイスは、少し考えてから答えた。

 

 「ですが、持っているから守れるものもあります」

 

 「そうだ。だから捨てられん」

 

 ラインハルトは、帝国全図の領内へ視線を移した。

 

 「自由に置ける艦隊が、もう一個あれば、私はあそこへ置く」

 

 貴族領が重なり合う、帝国の内側だった。

 

 「置ける戦力がありません」

 

 「ない」

 

 門は減らせない。イゼルローンには増援が要る。手元の予備は、皇帝の死後に起こりうる事態へ残さねばならない。

 

 帝国軍の名簿には、なお多くの艦があった。だが、ラインハルトが今すぐ動かせる艦は、その名簿ほど多くなかった。

 

 「ロイエンタールは、明日出発します」

 

 キルヒアイスが言った。

 

 「一万隻。本来なら、あと五千は付けたかったところです」

 

 「言うな」

 

 ラインハルトは短く言った。

 

 キルヒアイスは、それきり数の話をしなかった。

 

 「あの男は、前回のことを忘れていない」

 

 「忘れないでしょう」

 

 キルヒアイスは静かに言った。

 

 「命令に従ったことが正しかったとしても、その正しさは、失った戦機を返してはくれません。二度目には、前より深く踏み込むはずです」

 

 ラインハルトは、赤毛の親友の顔を見た。

 

 この男は、戦場の話をしながら、人の心の話をする。

 

 「止めるべきか」

 

 「いいえ」

 

 キルヒアイスは首を振った。

 

 「他に送れる人がいません。それに、ロイエンタール中将は深く踏み込みますが、溺れません。そういう方です」

 

 窓の外で、オーディンの灰色の空が夜へ沈み始めていた。

 

 ラインハルトは、報告書の一枚目にもう一度目を落とした。

 

 叛乱軍、一個艦隊。指揮官、おそらく前回と同じ。

 

 その男が、こちらの誰と当たるかを、今日、自分が決めた。

 

 向こうは、まだ知らない。

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