午前五時台。
東部方面より複数の緊急連絡。
国境付近において武装部隊の越境を確認。
所属について初報錯綜。
午前六時台。
ソビエト軍部隊による越境との確認報告。
複数地点。
装甲車両を伴う。
東部各拠点に対し、既存の避難・分散計画を即時適用。
西方戦線における航空および地上活動は継続中。
備考。
西部戦況良好との報告数件、同時刻に受領。
一九三九年九月十七日。
夜明け前。
昨日まで反撃を続けていたポーランド軍のある野戦司令部では、珍しく悪くない報告が重なっていた。
地図の一部には、まだ数日前より西へ戻した線が残っている。完全ではない。昨日の反撃で奪った道路の一つはすでに放棄したが、別の村はまだ持っていた。
さらに、夜間に行われた部隊再編もおおむね予定通り進んでいる。
参謀が報告書を読み上げた。
「昨日午後に後退した部隊は、指定位置への集結を完了しました」
軍司令官が地図を見る。
「重火器は」
「一部を失いましたが、主要なものは持ち帰っています」
「負傷者」
「後送継続中です」
「航空隊」
「分散飛行場から活動可能。今朝も偵察予定があります」
司令官は頷いた。
数日前なら。
こうした報告だけでも。
十分。
ありがたかった。
参謀長が少し離れた紙を取る。
「ドイツ軍側の前進速度も、一部では明らかに落ちています」
司令官が顔を上げた。
「どれくらい」
「当初予定との差は地区ごとに違います。ただ、少なくともこちらの反撃を受けた地域では再編と補給に時間を使っています」
若い参謀が地図を見ながら言った。
「このまま何日か稼げれば」
参謀長がすぐ止めた。
「何日か、という言葉を軽く使うな」
若い参謀は少し気まずそうにする。
司令官が横から言った。
「だが、昨日より言えるようにはなった」
参謀長が見る。
司令官は地図を指した。
「一週間前は今日の朝まで組織が残っているかどうかも分からなかった。今は、明日の配置について相談している」
少しだけ。
部屋の空気が緩んだ。
若い参謀が笑う。
「では明日も地図を使えそうですね」
司令官も少し笑った。
「使える地図を残すのがお前らの仕事だ」
その直後だった。
電話が鳴った。
誰も。
特別なものだとは思わなかった。
この九月。
電話は何百回も鳴っている。
西から。
南から。
北から。
前線。
飛行場。
鉄道。
補給。
負傷者。
撤退。
反撃。
そのどれかだと思った。
通信士官が受話器を取る。
「はい」
聞く。
鉛筆を持つ。
しかし。
書かない。
数秒。
そのまま。
聞いている。
参謀長が気づいた。
「どうした」
通信士官は。
片手で受話器を押さえた。
「東部からです」
司令官が地図を見る。
「何があった」
通信士官は答えない。
再び。
受話器。
「確認してください。所属は」
少し。
沈黙。
「もう一度」
聞く。
顔色。
変わる。
「分かりました。そのまま情報を送ってください」
受話器を置く。
誰も。
急かさなかった。
通信士官が言った。
「東部国境で戦闘が始まったとの報告です」
若い参謀が眉を寄せた。
「何と」
「まだ確認中です」
参謀長が聞く。
「国境警備隊か」
「可能性があります」
司令官は東側の地図を見る。
ドイツ軍ではない。
少なくとも。
普通なら。
「再確認しろ」
「はい」
別の電話。
鳴る。
今度は。
別の回線。
別の通信士官が取る。
少し後。
「こちらも東部です」
参謀長が近づく。
「場所は」
地名。
一か所目と。
離れている。
司令官の顔から。
さっきまでの表情が。
消える。
「何が越境した」
「装甲車両との報告」
「所属」
「確認中」
また。
電話。
三本目。
さらに。
伝令。
無線。
東。
東。
東。
一つなら。
誤報。
二つなら。
混乱。
三つ。
四つ。
離れた場所から。
同じ方向。
同じ時間帯。
司令官は地図の東端を見たまま言った。
「ソ連か」
誰も。
すぐには答えなかった。
答える前に。
もう一度。
電話が鳴った。
---
同じ頃。
WILK本社。
元独立運動家は、昨夜届いた報告書を読んでいた。
昨日の反撃。
道路一か所保持。
別地点で部隊再編成功。
Turによる夜間負傷者搬送。
Bizon二機が修理から復帰。
決して。
勝っているとは言えない。
それでも。
数日前より。
状況を持たせている。
元白軍将校がコーヒーを持って部屋へ入ってくる。
「何かいい話は」
元独立運動家が紙を上げる。
「Tur一機戻った」
「それはいい」
「昨日重損だったやつ」
元ドイツ軍技術者が別の机から口を挟む。
「重損じゃない。中損だ」
元白軍将校が笑う。
「昨日お前が重損って言ってたぞ」
「分解してみたら違った」
「じゃあ昨日の診断は」
「外れた」
「珍しい」
元ドイツ軍技術者が睨む。
「戦争中に整備判断が良い方へ外れたんだ。喜べ」
ユダヤ人実業家も書類をめくりながら言う。
「今日は朝から機嫌がいいな」
「機体が戻ったからな」
ポーランド軍将校は地図の前にいた。
西部。
昨日。
少し。
持ち直している場所。
元白軍将校が近づく。
「まだ残ってるな」
「何が」
「昨日の線」
「ああ」
「消さずに済んだ」
ポーランド軍将校は少しだけ笑った。
「今のところは」
元独立運動家が言う。
「その言い方、また戻ったな」
「癖だ」
そこで。
電話が鳴った。
元独立運動家が取る。
「WILK本社」
聞く。
「どこ」
顔。
変わる。
元白軍将校が。
気づいた。
「何だ」
元独立運動家は手を上げた。
静かにしろ。
という合図。
受話器。
「確認したのか」
返答。
「誰が」
もう一度。
聞く。
「分かった。次の連絡まで勝手に判断するな。既存の避難計画だけ進めろ」
受話器を置く。
四人が見る。
ポーランド軍将校が聞いた。
「東か」
元独立運動家が驚く。
「なぜ分かった」
ポーランド軍将校は答えなかった。
地図。
東。
見ている。
元独立運動家が言った。
「国境付近で部隊が入ったらしい」
ユダヤ人実業家が聞く。
「ドイツ軍?」
「違う」
誰も。
次を言わない。
元白軍将校が。
ゆっくり。
コーヒーを机へ置く。
「赤軍か」
元独立運動家は。
頷かなかった。
否定も。
しなかった。
「まだ確認中だ」
元白軍将校は。
椅子へ座らず。
地図へ近づいた。
その顔。
昨日までとは。
明らかに違う。
元白軍。
その意味を。
今まで誰よりも。
軽く扱ってきた男。
今。
東の地図を。
黙って見ている。
元ドイツ軍技術者が聞いた。
「可能性は」
元白軍将校が答える。
「ある」
「理由は」
「理由なら何十年分でも話せる」
「今必要なのは」
「確認だ」
また。
電話。
ポーランド軍将校が取る。
聞く。
紙。
書く。
今度は。
迷わなかった。
「ソビエト軍部隊の越境を確認」
元独立運動家の顔が。
止まる。
ユダヤ人実業家は。
ゆっくり。
椅子へ座った。
元ドイツ軍技術者は。
何も言わず。
目を閉じる。
元白軍将校だけが。
地図を見たまま。
動かなかった。
ポーランド軍将校が続ける。
「複数地点。装甲車両あり。東部方面の軍回線からも同内容」
元白軍将校が聞いた。
「規模は」
「まだ分からん」
「国境だけか」
「分からん」
「目的」
「分からん」
元白軍将校は。
そこで。
初めて。
ポーランド軍将校を見る。
「なら今分かってることだけで動け」
ポーランド軍将校が頷く。
「そうする」
元独立運動家が聞く。
「東側の家族移送は」
「確認する」
ユダヤ人実業家がすぐに机上の一覧を取る。
「東部倉庫。居住区。社員家族。学校。医療所」
元独立運動家も動く。
「名簿出す」
元ドイツ軍技術者が言う。
「東部の図面と治具は」
ユダヤ人実業家が答える。
「一部はもう移してる」
「全部では」
「全部を一か所に置いてない」
元白軍将校が聞いた。
「出口」
ポーランド軍将校が地図を指す。
「南」
「一つ?」
「複数」
元白軍将校が頷いた。
「よし」
ユダヤ人実業家が顔を上げる。
「よし、なのか」
元白軍将校は少しだけ首を振った。
「良くはない」
そして。
地図。
東。
西。
両方。
見る。
「ただ、東が安全だと決め打ちしなかった」
誰も。
それに。
喜ばなかった。
---
午前六時台。
東部国境。
ポーランド国境警備隊の小さな詰所。
まだ朝霧が残っていた。
兵士は最初。
音だけを聞いた。
発動機。
複数。
道路。
遠く。
一人が外へ出る。
双眼鏡。
見る。
装甲車両。
その後ろ。
兵員。
旗。
若い兵士が言った。
「味方じゃない」
上官が隣に来る。
「分かってる」
「ドイツ軍じゃない」
「ああ」
「なら」
上官は双眼鏡を下ろした。
「戻れ」
「警告しますか」
「する」
国境。
越える。
停止。
要求。
反応。
ない。
さらに。
進む。
上官は無線。
連絡。
「こちら○○。武装部隊越境。ソビエト軍と思われる」
返答。
混乱。
確認。
誰も。
すぐに。
何を命じればいいのか。
決められない。
昨日まで。
敵は西。
全員。
分かっていた。
東は。
避難路。
後方。
予備。
再編。
そして。
国外へ抜けるための。
距離。
その東から。
戦車。
来る。
若い兵士が聞いた。
「撃ちますか」
上官は。
しばらく。
黙った。
その間にも。
相手。
近づく。
上官は答えた。
「撃たれたら撃て」
「それだけですか」
「今はそれだけだ」
最初の銃声。
どちらからだったか。
後の記録では。
分からない。
ただ。
一九三九年九月十七日の朝。
ポーランド軍の一部は。
西ではなく。
東へ。
銃を向けた。
---
西部戦線。
同じ時間。
昨日の村。
役場の上。
国旗。
まだ。
ある。
若い少尉が朝食を食べていた。
兵士が外から走ってくる。
「少尉!」
「何だ」
「司令部から連絡」
紙。
渡す。
少尉。
読む。
顔。
変わらない。
もう一度。
読む。
兵士が聞く。
「何です」
少尉は紙を折った。
「東で問題が起きた」
「東?」
「そうだ」
「何の」
少尉は答えない。
そこへ大隊長が来る。
「読んだか」
「はい」
「兵にはまだ詳細を言うな。確認中だ」
「ソ連ですか」
兵士が。
二人を見る。
大隊長も。
答えなかった。
少尉が聞く。
「本当なら」
「本当なら」
大隊長は。
西を見る。
ドイツ軍。
まだ。
いる。
今日も攻撃してくる。
「こっちは変わらん」
少尉が少し驚いた。
「変わらない?」
「目の前の敵は消えたか」
「いえ」
「ならここは守る」
「東は」
大隊長は少し黙った。
「上が決める」
その時。
砲弾。
遠く。
落ちる。
ドイツ軍。
今日も。
始める。
兵士が塹壕へ走る。
少尉も。
続く。
東。
ソ連。
その言葉。
頭。
残る。
だが。
西から。
MG34。
撃ってくる。
それに。
今。
答えなければならない。
少尉は塹壕へ入り。
双眼鏡を上げた。
「昨日と同じですか」
隣の兵士が聞く。
少尉は答えた。
「昨日より悪い」
兵士が顔をしかめる。
「敵、増えました?」
少尉は西を見たまま言う。
「そっちじゃない」
---
午前七時。
ポーランド軍司令部。
情報。
揃い始める。
ソビエト軍。
越境。
複数正面。
東部。
広範囲。
司令官は。
地図の前。
立つ。
昨日。
西へ押した線。
今日。
東。
新しい印。
参謀長が言う。
「誤認ではありません」
「分かってる」
「東部各隊から戦闘報告」
「規模」
「大きい」
「外交は」
「分かりません」
「政府」
「連絡中」
司令官は。
地図。
見る。
西。
ドイツ軍。
東。
ソビエト軍。
南。
国外への道。
北。
もう。
使える余地。
少ない。
若い参謀が。
言った。
「昨日まで」
声。
止まる。
司令官が見る。
「何だ」
「昨日まで、まだ持たせられると思っていました」
参謀長が。
何も。
言わない。
司令官も。
怒らない。
「俺もだ」
若い参謀が顔を上げる。
司令官は西部の反撃地点を指した。
「嘘じゃない」
次。
昨日守った村。
「ここも」
次。
航空隊。
「これも」
東。
新しい線。
「そしてこれも嘘じゃない」
若い参謀は。
黙る。
司令官は。
机に手を置いた。
「なら全部本当のまま考えろ」
参謀長が聞く。
「方針は」
司令官は。
南。
見る。
「部隊を残すことを優先する」
若い参謀が息を飲む。
「撤退?」
「戦線を捨てるとは言ってない」
「では」
「出せるものから出す」
参謀長は理解する。
航空機。
搭乗員。
整備員。
負傷者。
司令部要員。
国外で戦争を続けられる人間。
「残る部隊は」
「まだ戦う」
若い参謀が聞く。
「勝つために?」
司令官は。
長く。
答えなかった。
昨日までなら。
少なくとも局地的には。
勝つため。
そう言えた。
今。
言葉。
変わる。
「出すために」
参謀長が。
目を閉じる。
それが。
戦争の目的が変わった瞬間だった。
---
午前八時。
例の農場。
まだ。
何も知らない農民がいる。
知っている航空兵もいる。
情報は。
均等には。
広がらない。
Tur。
一機。
補給任務準備。
弾薬。
包帯。
無線部品。
パン生地。
老人がいつものように草地を見る。
操縦士が急いでくる。
「燃料、満載で」
整備兵が顔を上げる。
「任務は前線だろ」
「変更」
「どこ」
操縦士は少し迷う。
「東へ行くかもしれない」
老人が聞く。
「東?」
誰も。
すぐに答えない。
老人は。
顔を見る。
「何があった」
航空士官が歩いてくる。
「ソビエト軍が国境を越えた」
老人。
動かない。
聞き返さない。
数秒。
それだけ。
「本当か」
「はい」
老人は。
草地。
見る。
それから。
西。
空。
見る。
「西にはドイツ」
「はい」
「東にはロシア」
航空士官が少しだけ言い直す。
「ソビエトです」
老人が睨む。
「今それ大事か」
「……いえ」
老人は帽子を取り。
頭。
掻く。
「じゃあ飛行機はどうする」
航空士官が答える。
「命令待ちです。ただ、国外へ出す準備も始めます」
老人がTurを見る。
「国外」
「はい」
「戻ってくる?」
誰も。
答えない。
老人は。
今度は。
聞き直さなかった。
「なら燃料入れろ」
整備兵が驚く。
老人は続ける。
「行くなら空で止まるな」
操縦士が少し笑いそうになって。
笑えない。
「はい」
老人はいつものように。
地面を見る。
「南側使え。東側は朝露が残ってる」
航空士官が。
少し。
呆然とする。
「今もそこですか」
老人が怒鳴る。
「今だからだ! 国が挟まれたからって地面まで硬くなるか!」
その声で。
整備兵が動き始めた。
燃料。
弾薬。
荷。
積む。
命令。
変わる。
それでも。
飛行機を飛ばすには。
地面。
要る。
---
午前九時。
ドイツ軍側。
東からの情報は。
まだ現場には十分届いていない。
ある師団司令部では、昨日から続くポーランド軍反撃への対応をしていた。
参謀が言う。
「敵は今朝も村を保持」
師団長が顔をしかめる。
「航空支援は」
「午後」
「遅い」
「別方面優先」
「またか」
地図。
ポーランド軍。
まだ。
いる。
師団長が。
昨日の予定表を見る。
今日。
本来なら。
もっと東。
進んでいるはず。
「再攻撃する」
参謀が頷く。
そこで。
別の将校。
入る。
「情報です」
「何だ」
紙。
渡す。
師団長。
読む。
一度。
顔。
上げる。
「本当か」
「上級司令部からです」
参謀も見る。
ソビエト軍。
ポーランド東部へ進入。
師団長が。
しばらく。
何も。
言わない。
西から。
自分たちが。
押している。
東から。
別の軍。
入る。
参謀が小さく言う。
「これで」
師団長が止めた。
「何だ」
「ポーランド軍は」
「まだ前にいる」
参謀が。
口を閉じる。
師団長は地図の村を指した。
「今ここにいる敵は、ソビエト軍が東から来たからといって消えん」
「はい」
「なら攻撃は予定通り」
「了解」
その後。
師団長は。
一人。
少しだけ。
地図全体を見る。
昨日。
ポーランド軍。
反撃。
今日。
東。
ソ連。
その組み合わせが。
何を意味するか。
現場の師団長でも。
理解できた。
ただ。
理解したところで。
目の前の道路を。
取る仕事は。
残っている。
---
昼。
WILK本社。
電話。
止まらない。
東部支部。
南部支部。
軍。
鉄道。
農場。
工場。
国外拠点。
ユダヤ人実業家が複数の一覧を広げている。
「口座」
「国外分は生きてる」
「東部倉庫」
「移せるものだけ。全部は無理」
「社員」
「家族込みで確認中」
元独立運動家が名簿をめくる。
「学校は」
「閉鎖。児童は家族単位で移動」
「病院」
「重症者がいる」
元白軍将校が言う。
「動かせない奴を無理に動かすな。先に医師に判断させろ」
ポーランド軍将校が軍回線から戻る。
「航空隊は国外移動準備に入る可能性が高い」
元ドイツ軍技術者がすぐ聞く。
「TurとBizonも?」
「ああ」
「全部?」
「飛べるものから」
元白軍将校が。
地図。
見る。
「残す機体は」
「戦闘継続に必要」
「どれくらい」
「まだ決まってない」
元ドイツ軍技術者が。
机。
拳。
置く。
「決めるなら早くしろ」
ポーランド軍将校が睨む。
「分かってる」
「飛ばすなら燃料がいる。部品がいる。搭乗員がいる。明日になってからじゃ遅い」
「分かってる!」
声。
大きくなる。
部屋。
静か。
数秒。
ポーランド軍将校が。
深く。
息。
吐く。
「……分かってる」
元ドイツ軍技術者も。
少し。
顔。
逸らす。
「ならいい」
元独立運動家が。
名簿。
閉じる。
「西から家族を出した」
誰も。
返事。
しない。
「東が安全とは思わなかったから、南にも出した」
ユダヤ人実業家が頷く。
「国外口座も分散した」
元ドイツ軍技術者が言う。
「図面も」
ポーランド軍将校が。
元白軍将校を見る。
「当たったな」
元白軍将校は。
少し。
嫌な顔をする。
「何が」
「東も危ない」
元白軍将校は。
即座に否定した。
「当ててない」
ポーランド軍将校が見る。
「でも」
「当たったんじゃない」
元白軍将校は。
地図。
指す。
西。
東。
南。
「外れても死なないようにしただけだ」
部屋。
静か。
その言葉。
誰も。
すぐに。
返さない。
元白軍将校は。
自分でも。
気に入った言葉ではないようだった。
「予言者じゃない。俺たちは」
ユダヤ人実業家が答える。
「知ってる」
「なら動け」
それで。
また。
全員。
仕事へ戻った。
---
午後。
昨日の村。
ドイツ軍。
再攻撃。
始まる。
今度は。
航空支援も。
ある。
Ju 87。
来る。
ポーランド兵。
伏せる。
爆撃。
役場。
近く。
一発。
建物。
揺れる。
旗。
まだ。
残る。
若い少尉が塹壕で。
無線。
聞く。
東。
ソ連。
事実。
確認済み。
上官。
命令。
現位置保持。
同時に。
段階的後退準備。
少尉は。
大隊長へ行く。
「準備?」
「ああ」
「今日?」
「まだ」
「いつ」
「命令が来たら」
少尉は。
西。
見る。
ドイツ軍。
来る。
「せっかく」
言葉。
止まる。
大隊長が聞く。
「何だ」
少尉は。
昨日。
一昨日。
この村。
取った。
守った。
旗。
縫った。
今日も。
守ってる。
「せっかく持たせたのに」
大隊長は。
少し。
黙る。
それから。
言う。
「だから持たせた」
少尉が顔を上げる。
「何のために」
「下がる時に走らなくて済む」
少尉は。
すぐに。
意味。
分からない。
大隊長が続ける。
「逃げるんじゃない。順番に下がる」
「そのための時間?」
「ああ」
昨日まで。
時間。
敵を止めるため。
今日。
時間。
自分たちを残すため。
同じ一時間。
意味。
変わる。
大隊長は少尉の肩を叩いた。
「まず今日を守れ」
「はい」
「撤退命令が来たら」
少尉は。
答える。
「持てるものを持って下がる」
「人間からだ」
「はい」
二人。
塹壕。
戻る。
ドイツ歩兵。
近づく。
ポーランド軍。
撃つ。
東で何が起きたか。
西の銃弾は。
気にしてくれない。
---
夕方。
例の農場。
一機のTurが戻ってきた。
東ではなく。
西から。
前線へ補給を運び。
負傷者を積んで。
帰った。
操縦士が降りる。
老人が待っている。
「東へ行ったんじゃないのか」
「命令が変わりました」
「また西?」
「今日は」
負傷者。
降ろす。
担架。
二つ。
自力歩行。
三人。
老人。
見る。
「まだ運ぶのか」
操縦士が答える。
「運べるうちは」
老人は。
しばらく。
何も。
言わない。
それから。
機体。
見る。
「明日」
操縦士も。
Turを見る。
「分かりません」
「飛ぶのか」
「分かりません」
「国外へ行くか」
「それも」
老人。
少し。
苛立つ。
「何が分かる」
操縦士は。
疲れた顔で。
笑った。
「燃料を入れれば飛べること」
老人は。
少し。
止まる。
それから。
整備兵へ。
叫ぶ。
「聞いたか! 燃料入れろ!」
整備兵が。
振り返る。
「言われなくても!」
老人は。
今度。
操縦士。
見る。
「なら明日も飛べる」
操縦士は。
その言葉を。
否定できなかった。
---
夜。
ポーランド軍司令部。
地図。
西。
東。
二方向。
軍司令官が。
椅子。
座る。
昨日。
反撃成功。
今日。
東部侵入。
同じ地図。
同じ机。
全く。
別の戦争に見える。
参謀長が入る。
「政府から新しい指示」
司令官が受け取る。
読む。
長い。
確認。
質問。
「国外移動」
「はい」
「軍も」
「可能な部隊は」
司令官は。
紙。
机。
置く。
若い参謀が。
部屋の端。
立っている。
昨日。
「明日も地図を使える」と言った男。
今。
その地図。
見ている。
司令官が呼ぶ。
「おい」
「はい」
「昨日の反撃結果をまとめろ」
若い参謀が驚く。
「今ですか」
「ああ」
「東部の方が」
「両方やれ」
「でも昨日の戦果は」
司令官が見る。
「消えたか」
「……いえ」
「なら記録しろ」
若い参謀は。
少し。
迷ってから。
机へ。
座る。
昨日。
村奪回。
道路。
確保。
敵部隊。
後退。
航空支援。
成功。
部隊再編。
進展。
一つずつ。
書く。
その横。
今日。
東部国境。
越境。
ソビエト軍。
複数地点。
装甲車両。
戦闘。
両方。
同じ紙束。
なる。
若い参謀が。
途中で。
鉛筆。
止める。
「司令官」
「何だ」
「昨日、勝ったんですよね」
司令官は。
地図から目を離さない。
「ああ」
「本当に」
「ああ」
若い参謀が。
また。
鉛筆。
持つ。
「分かりました」
昨日の勝利は。
今日の出来事によって。
嘘にはならない。
ただ。
今日の出来事は。
昨日の勝利だけでは。
どうにもならない。
それでも。
記録。
残す。
西で。
戦った。
押し返した。
時間。
稼いだ。
今日。
その時間を。
人間。
南へ。
動かすために。
使う。
司令官は。
東部の報告書を。
一枚。
折る。
「明日の朝までに」
参謀長が見る。
「はい」
「飛べる航空機の一覧を出せ」
「国外移動用?」
司令官は。
少し。
黙る。
「戦争を続けるためだ」
参謀長は。
頷いた。
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同じ夜。
WILK本社。
五人。
まだ。
いる。
電話。
少し。
静かになった。
完全には。
止まらない。
元独立運動家が椅子へ座る。
「東部支部、一部移動開始」
ユダヤ人実業家が答える。
「国外口座は生きてる」
元ドイツ軍技術者。
「機械図面の主要組は国外にもある」
ポーランド軍将校。
「航空部隊の移動準備」
元白軍将校。
地図。
見る。
昨日。
西へ押した線。
今日。
東から。
新しい矢印。
元独立運動家が。
小さく。
言う。
「昨日は」
誰も。
続けない。
少し。
待って。
元白軍将校が答える。
「昨日は昨日だ」
元独立運動家が見る。
「今日は」
元白軍将校は。
地図。
南。
見る。
「道を開ける」
ポーランド軍将校が聞く。
「誰の」
「出られる奴全部」
元ドイツ軍技術者が。
少し。
顔。
上げる。
「会社だけじゃない?」
元白軍将校は。
当たり前のように言う。
「会社だけ出してどうする」
ユダヤ人実業家が。
少し。
笑った。
「お前がそれを言うと嫌な予感がする」
元白軍将校が見る。
「何でだ」
「昔からだ」
「昔を持ち出すな」
「東から軍が来た日に元白軍の昔を持ち出さずいつ持ち出す」
元白軍将校が。
何か。
言い返そうとする。
そこで。
電話。
鳴る。
ポーランド軍将校が取る。
聞く。
「分かった」
受話器を置く。
「昨日の村」
元独立運動家が。
顔。
上げる。
「まだ?」
「まだ持ってる」
少し。
静か。
元白軍将校が。
地図。
その村。
見る。
「そうか」
それだけ。
言った。
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夜遅く。
その村。
役場の二階。
国旗。
まだ。
ある。
若い少尉。
窓。
外。
見る。
西。
ドイツ軍。
砲撃。
今は。
止まっている。
東。
見えない。
遠すぎる。
兵士が。
隣へ来る。
「少尉」
「何だ」
「本当なんですか」
もう。
隠す意味。
ない。
「ああ」
「ソ連が」
「ああ」
兵士は。
窓。
東。
見る。
何も。
見えない。
暗いだけ。
「俺たち、どうなるんです」
少尉は。
答えられない。
昨日。
「明日も押せれば」
言った。
兵士は。
「じゃあ押しましょう」
言った。
今日。
東。
別の軍。
来た。
それでも。
少尉は。
昨日を。
後悔していない。
兵士が聞く。
「明日もここにいますか」
少尉は。
少し。
考えた。
「命令次第だ」
兵士が。
不満そう。
笑う。
「またそれですか」
「今回は本当に分からん」
「じゃあ旗は」
少尉は。
役場の上。
見る。
昨日。
縫い直した旗。
今日。
爆撃。
受けた。
まだ。
ある。
「朝まで上げとけ」
「その後は」
少尉は。
兵士を見る。
「下がるなら持っていく」
兵士は。
頷く。
二人。
少し。
黙る。
遠く。
飛行機。
音。
Turかもしれない。
別の機体かもしれない。
兵士が。
空。
見る。
「飛ぶ荷車」
少尉も。
聞く。
「多分な」
「まだ飛んでる」
「ああ」
「なら」
兵士が。
言いかける。
少尉は。
待つ。
兵士は。
最後まで。
言う。
「まだ戦えますよね」
少尉は。
すぐには。
答えなかった。
昨日と。
同じ言葉。
なのに。
意味。
もう。
違う。
西の敵を押し返す。
その意味では。
今まで通りには。
言えない。
国を守り切る。
それも。
もう。
別の答えが。
見え始めている。
ただ。
上空で。
一機。
飛んでいる。
前線に。
兵士。
残る。
南へ。
道。
ある。
少尉は。
東の暗闇から。
西へ。
目。
戻す。
「戦う」
兵士が。
聞き返す。
「勝てます?」
少尉は。
しばらく。
何も。
言わなかった。
それから。
役場の旗を。
見上げた。
「明日の命令が来るまで、ここを守る」
兵士は。
それ以上。
聞かなかった。
二人は。
階段を降りる。
夜明け前。
また。
配置へ。
戻る。
役場の上では。
赤と白の旗が。
まだ。
暗い風の中に。
残っていた。