「池袋の吸血鬼って居るじゃん?」

数十年に渡って語り継がれる吸血鬼伝説。
曰く、大層 美人で。
曰く、女しか襲わず。
曰く、平和島静雄と戦って生き抜いた。
曰く、曰く、曰く、曰く。

しかしその実態は

「くそぅ、これでも結構長生きしているんだぞぅ……」

威厳も何も無かった。

これは池袋に住まうとある怪異のガールミーツガール。

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発想としては世にも珍しくないデュラララの吸血鬼オリ主モノで、
同作品のジャンルとしては世にも珍しい百合短編小説です。

作中の年代想定は2010年ころです。
池袋の時代背景に気を付けています。

ではどうぞ。


1:日の目を見る

東京都 豊島区 池袋

 

 東京屈指の繁華街・歓楽街。

 

 東京の副都心の一つであり、豊島区における交通、商業、行政の中心的な地域。

 

 最寄駅の池袋駅は8路線が重なるターミナル駅であり、その1日辺りの乗降員数は優に200万人を越え、世界でも有数の利用客数を誇る。  

 

 つまり池袋という都市は様々な人間が入り乱れる都市であり、その人の分だけ物語が生まれる。

 

 その最たる例は都市伝説。

 

 漆黒のバイクを駆る首無しのライダー。

 自販機を投げ飛ばす最強の男。

 無色透明のカラーギャング。

 池袋の切り裂き魔。

 

 ひとつの噂が話題を呼び、池袋という街のあちこちで語られる伝説たち。

 これはまたその内の1つの話。

 

 

「ねぇ、池袋の吸血鬼って居るじゃん?」

 

「えーまたその話? あれでしょー? その吸血鬼ってさぁー」

 

 

 曰く、その容姿は大変優れている。

 曰く、女しか襲わない。

 曰く、噛まれた女は奴隷となる。

 曰く、深夜零時以降、乙女ロードに出る。

 曰く、その容姿は真っ白で。

 曰く、数十年に渡って目撃されていて。

 曰く、首なしライダーの彼女で。

 曰く、平和島静雄と喧嘩して生き残り───。

 曰く、曰く、曰く、曰く、曰く───

 

 

 人が言葉を重ねれば、雪だるま式に膨れ上がる噂話。

 全貌は未だ見えず、真相は不明。日夜語られる奇々怪々の一つ。

 

 

 ───少なくとも、本人を除けば。

 

 

 

 

▼

 

 

 

「あざっしたー」

 

 

 やる気の無い店員の心の籠らないお見送りを背に、闇夜を歩く少女が居た。

 

 店員に難があると、常々思っていたものの、だからといって家から一番近いこのコンビニに行かないという選択肢は無く。ガサゴソと態度と比較すれば幾分マシな丁寧さで入れてくれた袋を漁る。

 中から取り出したのはカフェオレ。別会社の類似商品と比べればほんの僅かに苦味がある500mlの紙パック式のソレ。価格にすれば100円ほどで、欠かさず毎日飲む位には、少女はハマっていた。紙パックに対してやや長めのストローを差し、吸う。

 

 口内に広がる甘い風味と、後から申し訳程度に感じる苦味を楽しみながら、件の吸血鬼、【常磐真昼(ときわまひる)】は呟いた。

 

 

「今日の子……。あまり美味しくなかった…」

 

 

 スコアにするならば、5が最大評価のところ2.8。

 及第点は超えていると感じるかもしれないが、真昼の中では相当低かった。どれくらい低いのかと言うと、彼女が今年見た映画の中でワースト2位の位置づけとなった作品と同じスコアだ。

 

 

「いや、でも……こう、勝手に美味しくないとか言ったら……失礼……ですよね…うぅん」

 

 

 久しぶりの生き血だった。

 いけ好かない情報屋経由で知り合った、いわゆる吸血鬼に血を吸われてみたい女の子(物好き)。

 

 高いお金払ってこれかー。

 美味しいと評判で行ったラーメン屋がニンニクマシマシが売りだった時くらいのガッカリ度合い。

 

 真昼はブルーな気持ちで八重歯と見間違うほど控えめな牙でストローを噛む。

 

 

「……私がもう少し…コミュ強だったら………」

 

 

 真昼の脳内に浮かぶ理想の自分。

 蠱惑的で、魅力に溢れていて、自信に満ちていて。言葉一つで心を溶かし、流れる様に牙を突き立てて。

 

 人間が思い描く様な吸血鬼というものを自分にも当て嵌めようとするが。 

 

 

「──いや、無理ですね」

 

 

 普通、急に話しかけられたら嫌だよね。

 宗教勧誘とか、詐欺師セミナーの手先とか思われたらどうしよう。

 話しかけれたとしても、血吸わせてとかキモイよね。

 そもそも吸血鬼って人間に受け入れられないんじゃ。

 

 そんな思考が常に堂々巡り。

 やってみたいと思う事はある。自分自身の理想ムーブもシミュレーションはしてみる。そして失敗ルートも同時にシミュレーションして轟沈。いつもそれがワンセットだった。

 

 

「うぅ……これでも結構長生きしてるんだぞぅ……」

 

 

 腰まで届く艶やかな黒髪を揺らしながら、吸血鬼:常磐真昼(ときわまひる)は弱々しく肩を落とし闇へと消えていく。

 

 

 

 

▼

 

 折原臨也

 

 新宿を拠点に活動する情報屋。

 

 

『で、今日の子はどうだった?』

 

『(;一_一)』

 

 

 新宿駅からほどなく近い一等地。そこに構えた自らのオフィス。エグゼクティブチェア…愛称で言うところの社長椅子を遊ばせながら、画面に映るチャットをつまらなそうに眺めていた。

 

 

「──ハッ。わざわざ斡旋してあげたのに、酷い反応だよねぇ」

 

 

 画面の向こうの異形…常磐真昼を思い浮かべながら、肩を竦める。

 

 

「僕に真昼ちゃんの好みまで分かる訳が無いじゃないか」

 

 

 常磐真昼…池袋の吸血鬼とはビジネスの関係、言わば業者と顧客だ。

 

 彼女は時折、生き血を求める。

 その需要に対して臨也は自身の伝手で、吸血鬼に血を吸われてみたい女の子(物好き)を紹介する。

 そして対価として、彼女から金銭を貰う。

 

 ただ、それだけの関係。

 

 

「ま、吸血鬼に出会った時の人間の反応を見れるから、もう少しくらい譲歩しても良いかもしれないけど」

 

 

 だが最初からそんなドライな関係だったわけではなく、そこに至るまでに、もういくつかの交流はあった。何なら生き血の提供を提案したのは他ならぬ臨也で、ファーストコンタクトも彼から。

 しかし、早々に臨也は気付く。

 

 

「君ってさぁ、本当に面白くないよね。真昼ちゃん」 

 

 

 観察対象としては下の下であると。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 この日、狩沢絵理華はお決まりのルートで池袋を散策していた。

 

 まずはサンシャイン通りを突っ切り乙女ロードへ。馴染みの店を一軒ずつ巡りつつ、資材調達にコスプレ館にも立ち寄った。乙女ロードでの目的を果たせば再びサンシャイン通りに戻り東急ハンズ、ブックオフを流し見。そしてアニメイトへ───。

 と馴れた足取りで人の合間を縫いつつも、道行く人を「あの娘、あの作品のコスプレ似合いそう」とか、「あの男子高校生二人の距離感……イケるね」とか、道行く人々を眺めては、勝手にコスプレ衣装を当て嵌めたり、妄想を膨らませたりするのも彼女なりの楽しみ方だった。

 

 その道中でロシア人の寿司屋とか、金髪のバーテンとか。何人かの知り合いとは軽い挨拶は交わしたものの、今日の彼女は馴染みメンバーと行動を共にする事も無く、ごく普通の一日……の筈であった。

 

 アニメイトについたのは陽が傾き始めた夕方だった。

 学校帰りの学生達、観光客、会話した事は無いが顔に見覚えがある常連客……たくさんの人がごった返す店内。その一角、Fateを中心としたタイプムーン作品の特設コーナーに明らかな周囲からは浮いている人物が居た。

 

 身長は狩沢と比べて頭半分以上低く、身丈の通り小柄。腰まで届く黒くて艶やかな髪と、同色のややオーバーサイズ気味の服。

 外見の情報のみであれば、「小学生が型月かー。進んでるねぇ」くらいで気に留めるほどでも無いのだが、問題はその弱々しい姿。

 

 

「ふぇいと……すてい、ないと……? ぜろ? そらの…きょうかい? つきひめ…?」

 

 

 と特有のコンテンツのマルチ展開に困惑を示しており、キョロキョロと人に聞きたそうに辺りを見渡せば「あぅ…」と塞ぎ込む。

 誰が見ても明らかに、誰か助けてくださいという雰囲気を出しているのだ。

 

 だがしかし、その身長では人に埋もれて店員の目にすら入ってない。

 時折見える青白い横顔が、髪の色と相まってさらに青白く、額には冷汗が見えた。特徴的な赤い瞳の中には漫画表現でお馴染みのグルグルの渦巻が見て取れた。

 

 

「種類多くて迷うよねぇ。タイプムーン」

 

 

 狩沢は迷わなかった。

 「声を掛けてあげようかな」ではなく、「声を掛けよう」から思考を始めた。

 

 

「はひっ!?」

 

 

 電気ショックを喰らったみたいに少女は肩を震わす。怯えた様子で振ってきた声の方に目を向ければ、そこには満面の笑みを浮かべた狩沢の顔が映る。

 

 

「選ぶの手伝うよ! 型月入門!」

 

「あ、えぇ。えーっと……」

 

 

 挙動不審の少女・常磐真昼は、屋内にもかかわらず、まるで陽の光を真正面から浴びせられたような錯覚を覚えた。

 

 

 

▼

 

「結論から言うとね。Fate、空(から)の境界、月姫だったら好きなのから入って大丈夫だよ」

 

「あ、あれって…そらじゃなくて、からって言うんですね…。そ、そ、そうとは知らず………」

 

「ぜーんぜん平気だって! 初見で読める人の方が少ないよ!」

 

 

 場所は移りアニメイトから少し離れた東池袋中央公園。

 あまりの緊張にさらに顔を青白くした少女・常磐真昼を連れ、狩沢は池袋の中では比較的人が少ない公園へ。

 道中のコンビニで【一日分の鉄分が取れると謳っているヨーグルト】を買い*1、ようやく落ち着いた所だった。

 

 

「ただFateだけ注意ね。いっぱい派生作品あるから。ステイナイトを取り敢えず最初に見て面白かったら他のでも良いと思う!」

 

「なるほど…ゼロと言うだけあって、そこが最初だと………」

 

「確かにステイナイトの前日譚なんだけど…。うーんとね。ステイナイトが本筋で、そこで触れた世界観とか設定を元に色んな所に分岐していくから、後続の作品が根幹の知識前提になっちゃう…って言って伝わる?」

 

「共通の世界観…異なるお話……。アメコミのマルチバース…に近い感じですかね」

 

「んー、イメージはそうなのかな? というか真昼ちゃん、そっちイケるんだ! 私そっちはあんまりだからさ、詳しく教えてよ!」

 

「そうですね……簡単に言いますと、一つの物語から色々なクリエイターがIFの世界を創り出して……。公式もそれもまた有り得た一つの世界ときちんと保護してくれると言いますか……」

 

「えー! めちゃくちゃ夢あるじゃん! それってあれでしょ。言っちゃえば、色々なカップリングの可能性も公式になる事があるってことでしょ!」

 

「はい…。ただまぁ、妄想を垂れ流した結果、公式の目に留まるのは、私的にはちょっと恐れ多い感じはしますが……。えへへへ。」

 

 

 先程のオドオドとした様子は鳴りを潜め、いつの間にか言葉につっかえる回数は減っていった。

 

 

「それでさ、真昼ちゃんは型月入門どれにする?」

 

「そうですね……。えっと、Fate、空の境界、月姫…ですよね。えぇっと……」

 

「本当にその三つは自分の興味のある分野で選んで良いよ! 例えばFateは歴史の偉人とか神話が沢山出るから歴史や神話が好きならFate! 都市伝説的な雰囲気楽しむなら空の境界! 吸血鬼に興味あるなら月姫! みたいなね」

 

「きゅ、吸血鬼……?」

 

 

 途端に真昼は豆鉄砲喰らった様に、赤い瞳が真ん丸の形で現れる。

 

 

「おっ。吸血鬼に興味ある感じー?」

 

「え、えぇっと…はい…まぁ……。そうです、ね」

 

「月姫からだね! あ、コーナー見てたから分かるかもだけど、基本漫画入りだからね。原作はちょっと手に入りにくいからさ。漫画好き?」

 

「す、好きです…」

 

「じゃあ一緒に買いに行こ!」

 

 

 自然と差し伸べられる狩沢の手。それよりも一回り以上小さく、青白く、少し冷たい真昼の手が恐る恐る乗せられた。

 狩沢は変わらず笑みを浮かべたまま、真昼を日陰から連れ出す。もう幾分か陽も沈んでいて、真昼が携えていた日傘の出番は無さそうだ。

 

 

「真昼ちゃんのオススメも教えてよ! 私も見てみるからさ! それで感想の言い合いっこしよ!」

 

 

 再びアニメイトに戻り、先程よりも幾分マシな足取りの真昼は無事月姫を購入。

 

 楽しい時間の終わりは呆気ないもので、お店を出た頃はもう陽も完全に落ちており、狩沢から

 

 

「送ろうか?」

 

 

 と提案を受けたものの、

 

 

「い、いえ。すぐ近くなので……流石にそこまで付き合って頂く訳には……」

 

 

 と早口に言い残し、体躯に見合わぬ速度で逃げる様に走り去った。

 

 

「はぁ…はぁ…ひっ、つ、疲れた……。久しぶりに、いっぱい走った……」

 

 

 人混みを抜け、近所のそれなりに往来が少ない路で、早まる心臓と、上気させた吐息を落ち着かせていた頃、タイミングを見計らった様に携帯が鳴った。

 

 

『またね( ˙³˙ )ノ"』

 

 差出人はもちろん狩沢絵理華。

 真昼にとって初めての、仕事でも吸血鬼絡みでもない相手からのメール。

 

 

「ひ、光属性のオタクだ……」

 

 

 未だに跳ねる心臓を抑えながら、真昼は呟いた。

*1:
真昼本人希望




はじめましての人ははじめまして。
久しぶりのかたは久しぶりです。

キナコもちと申します。

ギアス、ペルソナの如く、自給自足の為の作品です。
ギアス完結へ向かう道すがら、息抜きで書いていた短編小説です。
長編をこねくり回す私にとって、短編は初めての挑戦です。
大目に見てください。

深夜1時に3日おきに投稿致します。


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