つまらない人生を送っていた男は、ついぞ何も成すこともなくその生を終えた。
風俗に大金をつぎ込む恥知らずの父親、自己中心的で嫌味が絶えず束縛の強い母親。男は生まれながらの負け組だった。それだけに留まらず、健常者でもなかった。
男は己の運命を呪いながら死んだ。周りで生きてきた人間たちは、どれだけ幸せだったことだろう。妬みと僻みと恨みがごちゃまぜになって、男は死の間際まで負の感情に支配されていた。だが、死ねば何も感じなくなった。死の恐怖などない、何もない。死とは永遠の眠り、とはよく言ったものだった。
何故眠りについたのにそう思えるのか。それは世界を渡り、新たな生を授かり、再び目を覚ましたからだ。男に善行を積んだ覚えなどない。反対に悪行を積んだ覚えしかない。しかし、男は確かに別の世界で目を覚ました。
男はただ生きた。不可思議な世界ではあったが、男には拠り所があった。それは宗教だ。厳しい戒律はなく、ただ日々の感謝と女神への祈りを捧げる程度の仕事内容で、数年の下積み時代を経て男は司祭となった。
人口百人にも満たない小さな村──リトラ村。男はこの村の教会で、司祭として生活を始める。そのためにもまずは領主へ挨拶を伺った。幸いにも領主は熱心な信徒であり、男を歓迎してくれた。
ああ、今生こそは普通の生活を送るのだ。仏頂面ながらも小さな笑みをこぼした男は、領主の城から教会へと続く道を歩いた。領主の直営地たる畑を通り過ぎて、水車小屋が隣接する石橋を渡って、教会へと到着する。
この教会には三人のシスターがいるらしい。彼女らと協力をして、リトラ村に貢献しなければならない。男は人付き合いが苦手だったが故に、気合を入れて教会へと足を踏み入れた。
⸸
こじんまりとして、何処か質素に感じる教会の扉を、エンシェンは開いた。白い塗料で描かれた
エンシェンは物静かな教会内をゆっくりと進んでいく。年季を感じさせる長椅子は勿論、小さな窓から差し込む日差しや、それに照らされた床板、白漆喰の壁を眺めては小さく息をつく。
「静謐とはこのこと。素晴らしい」
司祭服の胸元で逆十字を切った時、エンシェンは背後に気配を感じて振り返った。そこには、一人の少女が驚いた表情で立っていた。
ミニ丈のシスター服を身につけて、健康的な
「はじめまして。私はエンシェン。ここ、リトラ村の司祭として派遣されました」
「おー! わたしはラビワビ! 司祭様、手紙は届いてるよ。早速皆を呼んでくる!」
脱兎の如く駆け出した少女ことシスター・ラビワビは、おそらく教会の隣に建てられた石造りの建物へと向かったのだろう。そこがエンシェンの新たな住居であり、三人のシスターが住んでいる場所だということは容易に想像ができていた。
二人のシスターを引き連れたラビワビが戻ってきた。一人は褐色の肌に鋭い瞳孔をもつ、どこか炎のようにも思える女性だ。身につけているシスター服には大きなスリットが入っていて、胸元と肩もまた大胆に空いていた。もう一人は中肉中背のエンシェンよりも、頭二つ分は高いであろう大柄な女性だった。眠たげな瞳と、微笑を浮かべた口元から穏やかな性格なのが伺える。しかし、他者を圧倒するほどに巨大な胸は、胸元が随分と開放的なシスター服も相まって主張が激しく、暴力的な色香を放っていた。エンシェンはつい胸元を見てしまったが、すぐさま目線を外した。
「はじめまして。私はエンシェン。司祭として至らぬ点もあるかと思いますが、あなた方と共に苦難を乗り越えられると信じています。これからよろしくお願いしますね」
「オレはレドココ、ヨロシクな、司祭様!」
「わたくしはミノトールと申します。よろしくお願いしますね、司祭様?」
顔を合わせた限り、三人のシスターは至って普通の女性たちだった。エンシェンは不安の種が一つ消えたことに満足して、一つ頷く。
まずは管轄の教会と住居について教わろう。そして仕事について彼女らと話し合おうか。エンシェンは動き出した。シスターたちも意義はないようで、エンシェンに同意をしてくれた。
こうして、新米司祭エンシェンの日常が始まった。
⸸
エロス教。今からおおよそ一三〇〇年前、魔界にやってきた
エロスはかつて魔界に巣食っていた魔のモノと交わり、多くの子を成した。いつしかその子らこそが魔界を統べる者となり、多くがエロスを崇める信徒となった。
女神エロスとは何者なのか。エンシェンは微かな疑問を抱きつつも、今日も祈りを捧げる。教会の小窓より差し込む朝日を浴びる逆十字架こそが、エロス教のシンボルだ。そしてエロス教の教義とは、単純ながらに奥深いもの。
『汝、隣人を愛せよ!』
どこかで聞いたことのあるフレーズだが、気にしてはいけない。教義の解釈は様々あり、女神エロスの真意は今でも分からない。一体どのような想いが込められているのか……。
なお、今最も主流である解釈は、『己を愛し、隣人を愛せ。身も心も愛に捧げよ!』というものだ。そのおかげというべきなのか、魔界に住むエロスの子らは性に奔放であり、女神エロスのように交わることこそが素晴らしいものだと認識している。
「女神エロスよ。貴方は愛と共に生きられた。私も、愛と共に生きられるか……」
問いに対して答えはない。しかし、この答えはエンシェン自身が見つけなくてはならないだろう。そう幾度となく思い至った結論に、エンシェンは祈りを終えて立ち上がった。
「司祭様は熱心だね~」
「シスター・ラビワビ、どうしましたか」
後ろへ振り返れば、ミニ丈のシスター服を身につけたラビワビが下から覗き込んでくる。どうやら彼女は好奇心旺盛なようだ。
「司祭様は今から村長に会いに行くんでしょ? わたしもついていく!」
「シスター・レドココと、シスター・ミノトールは何を?」
「教会裏の果樹園で仕事してるよ」
「そうですか。では、二人に声を掛けてから行きましょうか」
「了解です!」
屈託のない笑みを浮かべたラビワビが、エンシェンの右手に抱きつき
ラビワビの行動は、少女としてはごく普通の部類だ。司祭だろうとシスターだろうと、異性と関わりを持つことは何も恥ずべき行為ではなく、寧ろ推奨されている。ただ、エンシェンはパーソナルスペースをしっかりと取りたい派のエロスの子なのだ。魔界の住人たちは基本的にパーソナルスペースが無いに等しいので、エンシェンとしては中々に苦労していた。
「気にしないでください。私は少し、照れ屋なだけなので」
「そうなんだ~!」
エンシェンがちらりと目線を送れば、ラビワビが面白そうな表情で見上げてきていた。これは少し苦手な部類かも! エンシェンは教会の扉を開け放ち、果樹園へと向かった。
⸸
「ようこそおいでくださいました、司祭様」
エンシェンを出迎えてくれたのは村長の妻だ。ピンク掛かった肌色に、肉付きの良い体、そして尖った耳をしている。この特徴はオークの血を引いている証拠である。
かつてのオークは豚や猪の特徴があったらしいが……女神エロスの遺伝子が強すぎたのだろう。今ではオークの血を引くエロスの子らは、人間のような姿をしているのが常だった。
村長の妻に案内された先には、緑掛かった肌色をした小柄な少年がいた。彼は笑顔を浮かべてエンシェンを歓迎し、快く握手をしてくれる。
「お待ちしておりました、司祭様!」
「これはご丁寧にどうも。私はエンシェン。長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いしますね」
「僕はカーネーです。ささ、こちらへどうぞ!」
ゴブリンの血を引くエロスの子と思われる村長は、随分と若々しい外見をしている。しかし、これにはエロスの子ならではの理由があるのだ。
エロスの子の寿命はおおよそ一〇〇年で、長い者で二〇〇年程度。だが容姿は若い姿のまま変わらず、死の間際まで衰えることはない。エンシェンは訳あって相手の年齢がなんとなく分かるのだが、そこから推測するにカーネー村長は六十代だった。
笑顔の絶えない村長と他愛もない話をしていると、エンシェンはある提案をされた。
「司祭様、私の妻と
「誠に申し訳ありませんが、またのご機会に……」
お前は何を言っとるんだと思うかも知れないが、なにも村長がトチ狂った訳ではない。何故なら村長が自身の妻や夫、娘、息子を使って客人にもてなさせる行為は、相手に村の格を示すことに他ならないからだ。また、敬虔なエロス教徒というアピールもできる。そのため、誘いを安易に断ることはあまり推奨されないのだ。
「ですが、カーネー村長の奥様は大変お美しいですね。私は都市ドラコラスに長い間住んでいましたが、十分通用する美しさです」
「おお! 都市ドラコラスと言えば大都市ではないですか! それは嬉しいものですね!」
椅子に腰掛けるカーネー村長の背後には、村長の妻ことナーラがいる。彼女はお世辞抜きで美しく、大人の魅力とも言える要素が宝石のように散りばめられている。今は恥ずかしそうに微笑んでいるが、その純朴さもまた彼女の魅力の一つだろう。
その後、都市ドラコラスについて知りたい村長と会話を楽しんだエンシェンは、無事に親睦を深めることに成功した。エンシェンとしても中々に楽しかったので、有意義な時間を過ごせたなと思ったものだった。
教会への帰り道、穏やかな青空を眺めるエンシェンに、ラビワビが話しかけてきた。
「司祭様ってドラコラスに住んでたんだね~」
「ええ、そうです。シスター・ラビワビも興味がありますか?」
「う~ん、わたしが興味があるのは司祭様かな~?」
ラビワビが後ろ手を組み、エンシェンに笑いかけてくる。
「きっと、司祭様はこんな田舎に来ない生活だって出来たでしょ? どうして来たの?」
「貴方は意外と鋭いですね。ええ、確かに私は司祭にならず、ドラコラスで暮らす選択肢もありました。ですが……私は愛を知りたかったんです。愛とは何なのかを探求したかった。だから司祭となり、この村に派遣されたのです」
「ふ~ん、そんなに難しいことなのかなぁ」
「解釈の仕方は千差万別。シスター・ラビワビにとっての愛の形と、私にとっての愛の形は似て非なるものでしょう」
「難しいこと考えるね~。じゃあさ──」
ラビワビがエンシェンの前に立ち、面白そうに笑った。
「わたしの愛を教えてあげようか?」
「なるほど。そう来ましたか」
「なにさ、その返し!」
「ですが、遠慮しておきましょう」
「酷い! エロス教徒は隣人を愛すんだよ! もしかして、司祭様はエロス教徒じゃないの⁉」
「煽ったところで無駄です」
「やーい、異教徒~!」
「それは笑えない冗談ですね」
口ではそんなことを言いつつも、エンシェンは微かに笑った。それを見たラビワビがエンシェンに抱き着き、これ以上進めないようにと腰に力を入れてくる。
「司祭様、わたしと交わろうよ~。気持ちよくなろうよ~」
「本音が漏れてますが」
「わたしは兎の血を引くエロスの子だよ? 交わることこそが本望なのに、どうして断るの? そんなにわたしが嫌?」
「……はあ、分かりました。貴方に愛を教えてもらいましょうか」
「やった~!」
遅かれ早かれ、エロス教徒は皆交わるのだ。エンシェンとしてはもう少し親睦を深めたいところだったが、あまりにもラビワビがしつこいため折れることにした。
⸸
時は流れて、後は就寝するだけとなった。しかし、エンシェンの自室にはラビワビがいた。
ナイトガウンを着ていたラビワビが勢い良く脱ぎ捨て、全裸となる。やや幼い顔立ちには似合わずスラリと伸びた足や、女性らしい曲線美を描く腰が目に入る。
ラビワビがベッドに座っていたエンシェンに
「ふふ、司祭様も準備万端だね……」
「寝る時は全裸派なので」
太ももを撫で回されようと、エンシェンは表情一つ変えることはなかった。そしていざ本番に行こうとしたラビワビを、手で制した。
「その前に、一つ伝えておきたいことがあります」
「ええ、何?」
「エロスの子は何かしらの血を引いている。貴方が兎の血を引いているように。シスター・ラビワビ、私はなんの血を引いていると思いますか?」
「え? う~ん、なんだろう」
ラビワビがエンシェンを観察するが、おそらく答えは分からないだろう。白磁のように真っ白な髪と肌、黒曜石の如き漆黒の瞳、そして尖った耳。凡庸な特徴と言えるはずだ。
「う~ん、分かんない……」
「正解は吸血鬼です」
「吸血鬼……! 初めて見た!」
「私は吸血鬼の血が色濃く出ています。それは私の精液にも影響している……シスター・ラビワビ、意識を強く持ってください。生半可な精神ではトんでしまう」
「司祭様──わたしを舐めてる? わたしは村人たちと、毎日のように木陰で〝お悩み相談〟をしてるんだよ?」
勝ち気な笑みを浮かべたラビワビがエンシェンに跨り、腰を振り出した。陰部同士が擦れて、互いに気分が高まっていく。
「んっ……! これでも交わりには自信があるの。兎の血を引くエロスの子を舐めちゃ……駄目なんだから!」
⸸
激しく腰を打ち付ける音が響く。それに伴って、ベッドはおろか床板までギシギシと音を奏でていた。
簡素なベッドの上で交わる男女──エンシェンとラビワビ。エンシェンはただ寝転がっているだけで、まるで寝ているかのように物静かだった。しかし、ラビワビは──
「んほおおおおおっ♡ 司祭様のおちⓂぽしゅごいのおおおおっ♡」
精神がトんでいた。一心不乱に腰を打ち付けて、幾度となく絶頂に至っていた。エンシェンはただ嵐が過ぎ去るのを待つように座して待ち、やはりこうなってしまったか、と諦めの境地に至っていた。
「お゛~♡ おちⓂぽ様しゅきぃぃぃ♡」
「シスター・ラビワビ、先ほどの威勢はどうしたのですか」
ラビワビがエンシェンにしなだれ掛かり、胸元で頬ずりをする。しかし、ふとした拍子に腰をグラインドさせて、再び激しく跳ね出した。さながら兎のように。
汚い喘ぎ声を上げるラビワビを無視して、エンシェンは目を瞑った。既にラビワビの愛液によって身体が汚れていて、それは現在進行系で進んでいる。
エンシェンは胸元で逆十字を切り、両の手の指を絡めて祈り始めた。絶頂を迎えたラビワビが盛大に潮を吹く中、エンシェンの落ち着いた声が部屋に響いたのだった。
「荒ぶるエロスの子よ。どうか鎮まり給え──ザーメン」
⸸
暖かな朝日が小窓より差し込み、エンシェンの顔を照らした。隣に目を向ければ、気持ちよさそうに眠っているラビワビが視界いっぱいに広がる。
エンシェンはそっと起きて、朝の身支度を始めた。まずは水桶を使って身体を清めてから、司祭服に袖を通す。私物である金属鏡を覗けば、頭のない司祭が映っていた。
エンシェンは吸血鬼の血を引くエロスの子だ。吸血鬼は鏡に映らない。そのため、エンシェンは自分の顔を知らなかった。知っているのは他人から聞いた特徴だけ。
特段困っている訳でもないので、エンシェンは慣れた手付きで髪を整えると、階下に降りた。そこには朝食の支度をしているミノトールと、テーブルについて暇を潰しているレドココがいた。
「おはようございます」
「……おう、おはよ」
「おはようございます、司祭様」
レドココがちらっちらっとエンシェンを見つめてくる。対してミノトールは普段通りだ。
十中八九、昨晩の情事がバレているだろう。なにせラビワビが絶叫していたからだ。バレない方がおかしい。
「なあ、司祭様……」後頭部で腕を組むレドココが、目線をそらしながら言った。「その、もう少し声を抑えてくれると助かるんだが……」
「その節はご迷惑をお掛けしました。私の落ち度です」
「おう……」
レドココは意外と純情なのか、それとも単に好奇心が強いのか。また、先ほどからエンシェンの股間ばかりに注目してくる。もう少し隠せないものか。
「さあ、出来ましたよ」
「ありがとうございます」
「ありがとよ」
気まずい空気が流れていたが、ミノトールが黒パンと雑穀を煮たおかゆ──ポリッジを持ってきてくれた。早速女神エロスに祈りを捧げて、三人で食事を取り始める。だがここに一人、好奇心を隠せない者がいた。
「司祭様、昨晩はお楽しみでしたね♡」
「シスター・ミノトール、食事中に話す内容ではありませんよ」
「そうでしょうか? 女神エロスは食事と交わりは同義だと明言されていますよ?」
恐るべし、女神エロス。エンシェンは仕方なく押し黙ることにした。
「ラビワビは若いとはいえ、かなりのヤリ手です。それがまさか、あんなにも野性的になるだなんて……わたくし、昨晩はお二人のことを考えながら、つい自慰に耽ってしまったんですよ?」
「それは申し訳ないことをしましたね」
カチャカチャと食器が打ち鳴らされる。しかし、ミノトールの口撃は止まらない。
「レドココなんかは部屋を覗いていたんですが……お気づきになりました?」
「うおおおいっ! 言うなよ⁉」
「レドココはまだ交わりの経験が少ないので、どうしても気になってしまうのです。どうかお許しを」
「私は気にしていませんよ」
「も、申し訳ございません、司祭様……」
頬を赤く染めて俯くレドココは、見た目はイケイケだが意外と純情だったようだ。反対にミノトールは、ラビワビ以上の敬虔なるエロス教徒だったらしい。
そんなこんなで朝の時間を過ごしたエンシェンは、レドココと共に教会の掃除をしていた。床に落ちている埃を箒で払い、一か所にまとめていく。その時、レドココが話しかけてきた。
「司祭様は領主にあったんだよな?」
「ええ、会いましたよ。その際に伝えられました。教会には娘が働いているから、気にかけてやってくれと」
「おう、それがオレだよ。ま、流石に分かるよな」
「ええまあ、領主様と貴方は似ていますから」
燃えるように赤い髪に、褐色の肌。あまり見かけない容姿だからこそ分かりやすいというものだ。しかし、あまり見かけないということは、それだけ珍しい血を引いていることに他ならない。
「シスター・レドココは誇らしいですか。自身がレッド・ドラゴンの血を引いていることが」
「そりゃ誇らしいぜ! でも、あまり濃くはないんだ……他の兄弟の方がびっくりするくらい優秀だよ」
レドココは領主の娘であり、レッド・ドラゴンの血を引いている。しかし、レドココにはレドココなりの悩みがあるようだった。
「私は吸血鬼の血を引いています。兄弟だって沢山いる。他の者から見れば、私は恵まれているように見えるでしょう。ですが、私は元の生活に戻りたいとは思わない。こうして穏やかな農村で、静かに暮らせることこそが私の求める幸せです」
エンシェンはレドココと向き合った。
「貴方にも悩みがあるでしょう。ぜひ身近な者に相談してみてください。きっと力になれるし、なってくれる。私は貴方の味方ですから」
「なんだよ、会って間もないってのに……」
「私は司祭ですから。迷えるエロスの子に寄り添うことが私の使命です」
気恥ずかしそうに立ち尽くしているレドココに、エンシェンはそっと近づき、優しく抱擁をした。女神エロスは言ったのだ、抱擁とは愛の形なのだと、願わくばそのまま抱き潰してくれと。流石に抱き潰すことはしないが、レドココは黙ってエンシェンの愛を受け入れてくれた。
外で草むしりをしていると、隣にいるレドココが言葉に詰まりながらも、悩みを打ち明けてきた。
「その、司祭様。少し協力して欲しいことがあんだけど……」
「なんでしょうか」
「オレ、あんまり交わりの経験がないっていうかさ……愛し合う行為に慣れてないっていうか、さ!」
「なるほど。確かに、相談しづらい内容でしたね」
互いに立ち上がり、コソコソと話し合う。エンシェンは自然体だったが、レドココは背中を丸めて、恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「オレが領主の娘なのは皆知ってるからちょっと遠慮されてるし、同性同士はあんまり興味ないし……頼れるのは司祭様しかいないんだよ!」
「事情は分かりました。それで、具体的にどうして欲しいのですか?」
「そりゃあ、経験を積みたいっていうか。一応見て学んではいるけど、実体験とは別だし……」
大きなスリットから覗く足をすり合わせ、緊張したようにお腹の前で腕を交差させるレドココは、正直に言って生娘にしか見えない。
エンシェンは、いきなり交わるのはよろしくないと考えて、まずは軽いものから慣らしていこうと計画を立てた。
「では、私が相手をしましょう。まずはキスをしてみてください」
「えっ、いきなり⁉」
「……エロス教徒ですよね?」
「ななな何言ってんだ、当たり前だろ! こんなん余裕だぜ!」
啖呵を切ったはずのレドココは、じっとエンシェンを見つめた後、それはもう恥ずかしそうに軽いキスをしてきた。小さなリップ音が鼓膜を震わす。
「っどうだ! まいったか!」
「……一つ聞きたいんですが、これまでに経験した交わりでは、貴方とお相手、どちらが主導権を握っていたんですか?」
「はあ? そりゃあ、まあ……相手だよ!」
「なるほど。シスター・レドココは〝受け〟ですか……」
「いやっ、慣れてないだけだから‼」
顔を真っ赤にして吠える様子は、負け惜しみとしか思えなかった。
エンシェンは一つ芝居を打つことにした。レドココを少し強めに引き寄せて、教会の壁に預ける。そして強引にキスをした。レドココの手を恋人繋ぎで強く握り、逃げ場がないように股の間に膝を入れる。初めは驚いて抵抗をしていたレドココだったが、エンシェンが幼少期に叩き込まれた威圧的な瞳で見つめれば、すぐにされるがままとなっていた。
レドココは全くと言っていいほど抵抗しない。寧ろエンシェンを受け入れている。それは蕩けた表情を見れば疑いようがなかった。
エンシェンは粘っこくも情熱的なキスをレドココに叩き込み終えると、彼女を解放した。
「はあ……♡ はあ……♡」
「シスター・レドココ。これがエロス教徒のキスです。まずはこれに慣れていきましょう」
「あっ、は、はい……!」
胸元に手を当ててメスの顔を晒しているレドココは、女の子座りも相まって乙女にしか見えない。これではエロス教徒失格だろう。
「随分と長い付き合いになりそうですね。シスター・レドココ、頑張っていきましょう」
「は、はい、よろしくお願いします、司祭様……!」
腰が抜けて立てないレドココに手を貸す際、物凄く
⸸
ぼんやりとした様子のレドココに、ラビワビが不思議そうに首を傾げていた。しかし空腹には耐え切れなかったようで、美味しそうに昼食をかき込み始める。
「ラビちゃん、しっかりと噛んで食べなさい」
「うるさいですよ、シスター・ミノトール~!」
「こら、司祭様の真似をしてはいけません」
なんだか母親のように振る舞うミノトールと、子供のようにはしゃぐラビワビが楽しげに昼食を取っている。その様子を眺めながら、エンシェンは怪力でもってして黒パンを引き千切り、口に運んでいた。
「司祭様、少しよろしいですか?」テーブルに大きな胸を乗せるミノトールが言った。「午後からはわたくしと果樹園のお世話で合ってたでしょうか?」
「ええ、合ってますよ。よろしくお願いしますね、シスター・ミノトール」
「フフ、楽しみです♡」
ミノトールが色気のある垂れ目を細めて、柔らかく微笑む。エンシェンはそれに答えるように、軽く頭を下げた。
教会裏の果樹園では、オレンジが栽培されていた。なお、果樹園とはいっても殆ど野生に近い状態で、数本のオレンジの木が乱雑に生えているだけだ。
「そろそろ時期が終わりますが、まだ収穫はできますのでやっていきましょう」
「分かりました」
ミノトールに道具の使い方や収穫方法を教わりながら、エンシェンはオレンジを収穫していった。中々に重労働で大変だったが、その分達成感も
「司祭様は働き者ですね。ラビワビやレドココにも見習って欲しいところです」
「それはいけませんね、私から言っておきましょう」
「フフ、ありがとうございます」
籠に集めたオレンジたちは、村人に配ったり、煮物や酒に加工したりするようだ。しかし、今回はマーマレードに加工するために取っておくとのこと。
「シスター・ミノトールは、マーマレードはお好きですか?」
「ええ、大好物です! 司祭様はどうですか?」
「勿論好きですよ。ですが、ストロベリージャムやブルーベリージャムなんかも同じくらい好きですね」
エンシェンがそう言うと、ミノトールが手を取ってきて真剣な眼差しで見つめてきた。
「わたくし、食べたことがありません……! 一体どんな味なのですか!」
「それは勿論、ストロベリーとブルーベリーのジャムですね」
「くうう! 野苺なら食べたことがありますが、それだけです! 羨ましいっ‼」
「……ここでは手に入らないのですか?」
「はいっ‼」
ミノトールは食に対して、かなりの関心があるようだ。確かに都市ならまだしも、農村には出回らない品物かも知れない。
「そうですか……少し考えてみます」
「よろしくお願いします、司祭様!」
「あまり期待しないでくださいね?」
ミノトールに両手を取られるエンシェンは、どうしたものかと頭を回した。
教会内にある長椅子でエンシェンが聖書を読んでいると、隣にミノトールが腰掛けてきた。エンシェンの視界の端には大きな胸が映り込み、次の瞬間にはこちらに向かって垂れてくる。
「司祭様──」ミノトールが耳元で囁く。「わたくし、司祭様ともっと仲良くなりたいのです。どうか、わたくしと愛し合ってくれませんか?」
「……分かりました。どのように愛し合いますか?」
「わたくし、甘える男性が好きなんです。司祭様、是非ともわたくしに甘えてください♡」
「……なるほど」
聖書をぱたりと閉じたエンシェンは、頭をミノトールの胸元に預けた。エンシェンとミノトールでは体格差があるために、このような形になってしまうのだ。
「シスター・ミノトールは、ミノタウロスの血を引くエロスの子……で合っていますか」
「ええ、合っています。でもごめんなさい、わたくしは妊娠をしていないので母乳は出ないんです」
「ご安心を。母乳を求めた訳ではなく、単なる好奇心ですので」
「そう言う司祭様は……吸血鬼ですか?」
「よくお気づきになりましたね」
「勿論、存じ上げていますよ。女神エロスの十二使徒のうち、一人は吸血鬼ですから。わたくし、推しの使徒は吸血鬼のドラクス様なんです!」
「なるほど……?」
使徒に推しの概念が存在したことに驚くエンシェンだったが、ミノトールの黒髪が視界に掛かり、股間をさわりさわりと優しく撫でられたことによって思考がズレた。
「司祭様、わたくしの部屋へ来ていただけませんか……? こう見えて、わたくし結構限界なんです♡」
ちらりとミノトールを伺えば、紅潮した顔には嗜虐的な笑みが張り付いていた。まるでお気に入りのおもちゃを見つけた童女のようだ。
「ええ、分かりました。ではいきましょうか」
立ち上がって移動をする際に、ミノトールがすぐ隣に立ってついてくる。エンシェンは己の腰に回されたミノトールの手が、決して逃がさないようにと司祭服を掴んでいることを知っていた。
ミノトールの自室についた瞬間、エンシェンは正面からハグされた。ちょうど頭がミノトールの胸元に来るため、息苦しくて堪らない。
「はあ、司祭様。なんと美しいのですか。わたくし、司祭様と初めてあった時から、ずっと肌を重ねたくて仕方なかったのです」
「そうだったんですね」
解放してくれたのも束の間、エンシェンはミノトールによって衣服をひん剥かれて全裸になった。下手人であるミノトールはエンシェンの身体を隅々まで撫で回し、最後は股間を重点的に愛撫してくる。
「はあ♡ はあ♡ 司祭様、どうして無抵抗なのですか♡ わたくしのお人形さんになってしまわれたのですか♡」
「貴方が望んでいるからです。さあ、お好きなようにどうぞ」
「ああっ、あああああ♡ 司祭様、いけませんよそんなことを言ってはっ♡」
もはや正気ではないミノトールが、エンシェンをベッドに押し倒して好き勝手にイジリ始めた。顔に何度キスを落とされたことか、胸を何度揉まれたことか、手を何度大きな胸に沈められたことか、そして
ミノトールは完全に捕食者の目をしていた。たとえ静止の言葉を告げようとも、より興奮して襲い掛かってくるだろう。それは今行われている貪るようなディープキスが物語っている。
「んううう♡ 美味し過ぎるぅ♡ 司祭様、わたくしに好き勝手されて興奮されていますか♡」
「ええ、興奮していますよ。何度果てたことでしょう」
「嬉しいです♡ このままわたくしの物になってください♡」
「ええ、なりますとも」
ニタリと笑ったミノトールが、ついに自身のナカへエンシェンを迎え入れた。決して抵抗ができないように腰を降ろされて、両手を頭の上で押さえつけられてしまえば何もできやしない。エンシェンはただされるがままだ。
「はああああ♡ 司祭様、どうか教えてくださいませんか♡ 貴方はきっと高貴な人です♡ どうか卑しいわたくしにお情けを♡」
「ええ、貴方の読み通りですよ。私は都市ドラコラスの領主の息子です。勿論、長男ではありませんが」
打ち付けられる腰がより過激になった。
「私はずっと屋敷で暮らしていました。世話役の侍女を侍らせて、優雅な日々を送っていました。困ったことが無かった訳ではありませんが、町民や農民たちと比べれば、遥かに些細なことだったでしょうね」
「ああ、やっぱりそうだったんですね♡ そんな高貴な司祭様とわたくしは愛し合っている♡ それだけで興奮します♡ なんたって、わたくしは農民の子なのですから♡」
「嬉しいですか?
「はいっ、嬉しい♡ それだけで、それだけでっ……♡」
ラストスパートなのだろう、ミノトールが痛いほどに押さえつけてきて、今まで以上に腰がびしょびしょに濡れ始めた。そしてミノトールが限界に達した瞬間──エンシェンは大きな胸に押し潰された。
「イグううううう゛っ♡」
絶頂を迎えたミノトールがぶるぶると震えて、潮を撒き散らす。エンシェンの
「はあ♡ はあ♡ 司祭様、もっとぐちゃぐちゃにしていいですか♡ わたくしのおもちゃにしていいですかっ♡」
「ええ、お好きなようにしてください。私たちはエロス教徒なのです。貴方が満足するまで付き合いましょう」
「ああ、エロス教万歳♡ 合法的にオトコを犯せるエロス教万歳っ♡ 司祭様、絶対にわたくしの物にしてやる♡ 嫌というほど犯しつくしてやるっ♡」
「タガが外れてきましたね。少し危険な兆候だ」
それからは乱暴な愛し方をされ、最後の方ではさしものエンシェンであろうと息を荒げてしまった。その惨状は酷く、流石に心配になったラビワビとレドココが乱入してくるほどだった。最終的には正気に戻ったミノトールが平謝りする事態となったが、その頃のエンシェンは少しまともではなかったので、夜食を部屋まで運んでもらい、すぐに就寝した。
エロス教の司祭は重労働だ。しかし、やり甲斐もある。もっともっと極めていけば、いつかは愛を知ることができるだろうか。エンシェンは深い微睡みの中で、そう思った。
リハビリで書いた。作品が消えたらそういうこと。ご愛読ありがとうございました!