うちはシスイ憑依伝   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
お待たせしました、うちはシスイ憑依伝・続後編にして、シスイ伝シリーズ最終回です。
最終回というわけで結局3万文字近くいってしまったりしたわけですが、まあそこはご愛敬ということで。因みにスサノオはアニメ版ではなく原作版を基準にしてます。俺、アニメNARUTOは殆ど見たことないんで。
誰かにとってのハッピーエンドは誰かにとってのバッドエンドであり、誰かの幸福の裏に誰かの嘆きがあるとしたら、さてならばこれは一体誰のためのハッピーエンドであったのか。
それではどうぞ。
H28年01/09、ラストシーンに挿絵というか漫画追加しました。
R3年05/03途中に別天神発動挿絵追加しました。


『うちはシスイ憑依伝・続』後編

 

 

 

 ペイン長門による木の葉襲撃事件から1週間以上の月日が流れた。

 あれから次期火影として色々な仕事に駆り出されていた彼女……うちはイタチであったが、漸くは一段落を迎え、次第に木の葉は落ち着きを取り戻してきた。おかげで、明日の夕方までは彼女もまた非番が与えられ、漸く一息付けるといったところだ。

 元より他人(ひと)に比べると相当に有能であり、色んな意味で優秀であったイタチではあるのだが、流石にこうまで忙しいと肩が凝る。軽く肩を回して少しだけ気分転換をしようと思った彼女であったが、しかし次の瞬間感じた気配を前に表情を即座に引き締め、すっと背筋をただして何事もなかったかのようにそれに応対した。

「報告します」

「何事だ」

 そうやって自分の前に現れたのはもう5年以上の付き合いとなる暗部での己の部下だ。狐の面を被り、ざっと片足を地面につけた体制で告げられた一言に、なにかまだ事件があったのかと100の可能性を脳内で巡らせながら彼女は思う。それに対しその暗部は、「うちはサスケが失踪しました」とそう簡潔に答えた。

 思わぬところで出た弟の名に一瞬僅かに眼を見開くが、それで話を止めることはなく、顎をしゃくることによって話を促す。

「昨日の早朝、はたけカカシ班の4人と元アスマ班の3人は三代目の命により、猿飛アスマ捜索の任を与えられたのですが、昨晩うちはサスケは隊員全員の夕食に毒を盛り、その隙に逃走したそうです。幸いにも毒自体はたいしたものではなく、すぐに春野サクラ中忍の手によって全員回復したそうですが……隊長!?」

 そこまで言われれば皆まで言われずともわかる。イタチはその足で、躊躇すらせずそのまま疾走した。

 うちはサスケが猿飛アスマの捜索の任に宛てられたことは知らなかったが、おそらくは自分を気遣い耳に入れぬようにしていたのだろうと女は思う。そしてアスマ捜索の任というがその実、構成メンバーから考えて目的はうちはシスイといったところか。いくら多忙であったとはいえ、弟のことに気づけなかったとは不覚だ。

 三代目がうちはシスイに対して罪悪感めいたものを抱いていたことは気づいていた。おそらくうちはシスイがあの夜の真相を語ることもないことを理解しながら、なおかつ、語られては木の葉にとっては障害としかならぬこともわかっていながらも、それでもナルトによってあの男が変わることを望んだが故に捜索を許可したといったところだろうか。

 木の葉を守らなければならない立場上イタチとてあの時の真相に忸怩たる思いこそあっても、真実は闇に秘め続けるつもりであり、里に真相がバレるのは避けるべきだと思っているが、あの周囲が思っているより余程頑固で分からず屋の男が三代目視点の真相を話すわけがないし、そこまではいい。……何せあの男は自分が一族を滅ぼしたのは里のためじゃなく本気で己のためだと思っているからだ。だがしかし問題はその探索メンバーにうちはサスケがいるということだ。

 うちはイタチは、うちはサスケがうちはシスイにどんな感情を抱いていたのかよくわかっていた。

 そしてシスイがその感情を受け入れるだろうことも。寧ろあの男はそれこそを望んでいるのだ。……こちらの気も知らず、いや思考の隅にも置かず。

(早まるな、サスケ)

 ただ、今は思うように進まぬこの足がどうしようもなくもどかしい。

 

 

 * * *

 

 

 ―――――うちはサスケ失踪、5日前。

 

 うちはオビトは漸く手に入れた情報を元に、ペイン長門の亡骸が眠る墓所に足早に向かっていた。

 全く、あの女も手こずらせてくれる。そもそも今の彼は『うちはマダラ』であり、そうである以上マダラの目である輪廻眼は自分こそが持つべきものなのだ。だというのに、あの女……ペインの右腕であった小南は、暁を裏で掌握していた真のリーダーである自分に逆らい、無駄に命を散らせた。

 まあ、いい、もうすぐだ。もうすぐオレはアレを手に入れる。

 そうしてクツリと笑いながら墓所にたどり着いたオビトを待っていたのは、望んでいたものではなく、1人の……忌々しく思っていた男の存在だった。

「よぉ、『うちはオビト』」

 ヒラヒラと手を振りながら、場違いなほどに清々しい笑顔を浮かべて男は言う。仮面の男の、誰にも知られていないはずの本名を。死人とされる男の名を。

 そこにいたのは九尾襲撃事件の際、僅か11歳にして自分に幻術を浴びせ、その後も成長し暁に入ったあとも互いに牽制し、監視し合っていた対象であったうちはシスイの姿だけだった。

 そのことに警戒心を迸らせているオビトを前に、変わらず場にそぐわぬほどの明るい笑みを浮かべて男は言う。

「輪廻眼ならもうないぜ? オレが既にアイツの亡骸ごと、燃やしちまったからな」

 つまり、それは自分がこの場所を掴むより早く、この場所を掴み上げ、うちはオビトの目的を知っていた上で先んじて行動していたということで。

「貴様……!」

 思わず万華鏡写輪眼を展開するオビトを前に、クツクツと笑って男は言う。

「……16年だ、この時を待っていた」

 それは狂おしいほどの感慨。常人ならばゾクリと背筋を震え上がらせるほどの……狂気。いつものように笑んでいる、それがそれこそが場にそぐわなさすぎて異常だ。

 だからこそうちはオビトはここにきて初めて、このいつも明るく笑んでいた男が自分と同じく狂人であるということに気付いた。

「神無毘橋の英雄、うちはオビト」

 ゆらりと、男は立ち上がる。その目は三つ巴を描き、そしてその模様は手裏剣によく似た模様へと変化した。それは見間違いようがなく、うちはの歴史上でも己を含め数人しか開眼したことのない瞳、万華鏡写輪眼特有の文様で。その開眼する能力は、人によって多種多様で異なるが故に使われるまで予測は不能だ。そんなうちは史上でも至高とされる目を、男は持っていた。持っていて今まで隠していたのだ。

 うちはシスイが万華鏡写輪眼の持ち主であることを、知らなかったオビトは知らず息を詰める。

 そして……。

「過去に囚われし、闇を歩く生きた亡霊よ、オマエは永遠に過去を彷徨え」

 此処に今、16年ぶりの最強幻術が力を放った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 * * *

 

 

 永遠の無明を彷徨いしうちはオビトを始末するべく、男は特別製の調合油を既にこの世に意識のないうちはオビトの上へと掛け、それからシスイはそれに火遁で火をつけた。炎は勢いよく燃え上がり、長門の墓標共々散り散りに燃えていく。その様を、その足で脱出しつつ青年は眺めていた。

 ……柱間細胞を取り込んだうちはオビトの再生力は、能力が未知数なのもあり脅威としか言いようがない。故に効くのかは疑わしい思いもあったが、調合油には強力な除草剤としての効果も持つ薬品も加えてあったが、どちらにせよ別天神を使って、脳内に直接指示を送った以上、生き延びれたとしてあの男が元のように暗躍することは出来ないだろう。そんなとりとめのない思考を纏め、シスイは燃えさかる男達の墓標を眺める。

 

「……ッ」

 その時、ズキリと目が痛んだ。

 最強幻術、別天神。その威力の高さは折り紙付きだ。おそらくは数多くの瞳術の中でもこれほど厄介な代物はそうはないだろう。この力は人の心さえ自由にしてしまえるのだから。

 しかしその能力の高さとは引き替えに、発動条件は数十年に1度という燃費の悪さだ。

 ……そして、万華鏡は開いたその時より使えば使うほど闇に向かう眼の力である。力を使った右目からはポタリポタリと血が滴っている。こんなことは16年前はなかったというのに、たった3回でもう早この状態とは。

 わかっていたつもりだが、そのリスクといい、強すぎる力というのは本当に却って……厄介に過ぎる。そんなことを考えながら、シスイは息を切らせ、腰を降ろす。

 ……此処まで来るのに随分強行軍な真似をした。おかげでまた干柿鬼鮫に開けられた腹部の傷が開いてしまったらしい。

 そんなシスイの前に人らしからぬ姿をした存在……うちはマダラによって作られた千手柱間のクローン植物であり、マダラの名を預かっていたオビトの配下だったゼツだ、が現れ言った。

 

「驚いた。オビトが負けるなんて」

 白ゼツがそう口にすると、黒ゼツも同感だったのだろう、特に白ゼツの言葉にツッコミを入れるでもなく、黒ゼツは言う。

「マダラノ野望モ此処マデカ」

 それはどこか悲哀を感じさせる口調でもあった。

 そんなゼツ達を相手する余裕もなく、シスイは地面に腰を掛けながら、気怠げな眼を送りつつ黙する。

 やがて白ゼツは言った。

「ねぇ、君はオビトの眼はいらなかったの? そのままじゃいつか見えなくなることはわかっていたんでしょ」

 それに続いて黒ゼツも言う。

「オ前ハチカラガ欲シクハナイノカ」

 

 それに対し、シスイは……。

「……いらない」

 そう言い切った。

 まるで感情が抜け落ちたような、虚ろな目を伏せつつ青年は言う。

「必要な力ならオレは既に持っている。これ以上の力など……争乱を呼ぶ力などいらない」

 

 

 * * *

 

 

 うちはシスイによってこの小屋に連れてこられてから、2週間半ほどの月日が流れた。

 あれから大分傷もマシになり、リハビリがてら傷に負担をかけない程度にストレッチなども繰り返すようにしている。3週間ほどで動けるようになるのではないかと言っていたシスイの言は当たっていたのだろう、とそう猿飛アスマは思う。

 1度は腹に大穴を開けられ、右半身に火傷を負っていた上に、まともな医療施設で専門家に見て貰ったわけでなくこの回復スピードなのは、本人の体がタフなのか、応急処置が的確だったのか、薬が良かったのか……まあ全部だろう。

 シスイは依然としてあの日の朝出て行ったままで音沙汰はないが、律儀にも毎日1日3回、薬と食事を奴が使役する鳩に括り付けられて届けられている。実は思っていたよりずっと危うい男であったことをこの前は思い知らされ、肝を冷やしたものであったが、この様子から見るとどうやらまだ無事なようだと、そんなことにほっとしている。

 まあ……元々戦いで無茶をするタイプではなかったので、杞憂だったのかもしれないとは思うのだが。しかし、あの時の会話を思い起こしてみるとなんだかおかしいものがあったような気もした。なんだろう、あの口では上手く説明のつかない違和感は。

 変わっていないと思った。信じると言った。それは嘘じゃない。だけど、何かが異常だ。

 そしてふと気付いた。そういえば今日はまだシスイの使役する鳩がやってきていない。

 律儀で几帳面な奴だから毎日同じ時刻に送られてきていたというのに、だというのにもう昼近くだ。

「……まさか」

 アスマは逸る予感に顔を顰めて、汚れないよう木箱にいれて几帳面に畳まれ置かれていた上着を羽織り、その場所を後にした。

 

 

 * * *

 

 

 うちはサスケの失踪事件。それは今回の任に共にあたることになった、元7班と元10班のメンバーに衝撃を与えることとなった。

「なんでだってばよ、なんでサスケが……!」

 苦しそうに、カカシの忍犬であるパックンの真後ろを走るナルトがそう口にした。

 それに対して、サクラもまた思い詰めた眼をして「サスケくん、どうして」と顔を伏せながら呟きを漏らす。元アスマ班であった3人はその2人に掛ける言葉が見つからない。なにせ、サスケとの付き合いは自分たちよりも同班であったナルト達のほうが深いのだ。下手な言葉は慰めにもなりやしない。

「…………」

 そしてこの中で唯一の上忍であり、この隊の隊長を務めるはたけカカシといえば、これまた掛ける言葉を失い俯いている。サスケの闇を知らなかったわけではなかった分だけ、それを甘く見ていた自分を責めたい気持ちがあったからだ。サスケなら大丈夫と、そんな希望的観測を持っていたのだ。

 しかし、現にその期待は裏切られた。仲間に毒を混入してまで隊から離れるなど正気ではない。おそらく、サスケを無事に連れ帰ったとしても、罰を与えないわけにはいかなかった。

「……! 誰か来るぞ」

 その時、ピクリと他者の気配に、カカシが声を上げる。

「アスマ!?」

 ザッと草木を掻き分け、そうして出てきたのは件の探している人物であったその1人、消息不明であった猿飛アスマの姿だった。包帯姿の上に、上着を一枚羽織っているだけの姿であり、腹部からは傷口が開いたのか、血が僅かに包帯に付着していた。しかしそんな己を気に掛けるでもなく、アスマは怒鳴るような声で言った。

「カカシ、協力しやがれッ」

 

 

 * * *

 

 

 ……その戦いが起こったのは必然と言えば必然だった。

 最後の忠義であったのか、襲いかかってきたゼツ達から逃れ、雨隠れの里をひっそりと影に隠れるようにして逃れたシスイであったが、ここまでで大分疲労も蓄積していたし、休みを殆どとっていないせいか、おざなりに掌仙術で表面上の傷しか治さずきたせいか、あれから3週間近く経つというのに、腹部の傷も全快とは中々いかず、いい加減色んな意味で体が限界近かった。

 故に、近くに元うちは一族が所有するアジトがあることを思い出した際、ここで3日ほど本格的な療養に努めるかと、そうシスイは考えたのだ。

 そうしてこの場所についたのが昨夜の未明。ドロドロと体が望むままに眠り続け、漸く眼が覚め人心地ついてから、携帯していた食事を取り、そして腹部の包帯を取り替えようとしていたまさにその時、そのタイミングで少年はやってきたのだ。

「……見つけた」

 憎悪と昏い歓喜にギラギラと赤い巴模様の眼を輝かせながら。

 

 

「はははっ、どうした、随分と鈍く見えるぜ、このクソヤロー!」

 ……そして、今に至る。

 流石に包帯に手をかけていた完全無防備状態では色々どうにもならず、出会い頭に少年が多量に投げ放った手裏剣術の全てを躱すことは出来ず、右足を負傷した。

 負傷といっても、一枚太ももを掠めていっただけなのだから軽傷といえば軽傷なわけだが、元々うちはシスイという男の身体機能に関しては、足に重きを置くスピードタイプだ。攻撃を受け流すことは不得意故にこそ敵の攻撃はその圧倒的なスピードで翻弄し、避けるのが常套手段。忍びという職についていながら、元より怪我をすること自体稀であるため痛みへの耐性もそれほど高くもない。

 故にその足に負った軽傷が対人戦に置いては致命傷となりかねなかった。今の彼のスピードはせいぜいがサスケの1,3倍の速度がせいぜいである。

 軽い傷故に掌仙術1つで回復は可能であろうが、シスイは一応医療忍術の初歩を治めているというだけで、それを得意としているわけではなく、さっと治すことは不可能だ。治す隙を見せればその間に少年は青年を屠りに来るだろう。

 かといって、いつも通り幻術でお茶を濁して逃げるというわけにもいかないのだ。この少年……うちはサスケが相手であることを思えば。シスイはサスケに幻術をかける気はなかった。

 思えばこの展開を予測していなかったわけではない。

 自分が今こうして体を休めるために選んだこの場所は、よく考えてみれば原作でイタチとサスケが戦い、そして原作のイタチが死んだあの場所だ。それを思えばこれが天の采配だったのかも知れないとさえ男は思う。

 ……かつての願い通り、夢の通りにうちはイタチが火影に就任することに決まったと、そう聞いていた。

 だったら、もう良いのではないか。思えば、そのためにサスケにあの夜ああいう態度を取ったようなものだ。

 何故なら自分は、男はうちはサスケの両親の仇であるからだ。

 言い訳などしようもない。彼は、自分がイタチに親殺しに手を染めて欲しくないと、イタチにそんな道を歩んで欲しくないとそんな自分勝手でどうしようもないエゴに満ちた望みだけのために、一族を殺し、女子供を殺し、サスケの両親を手に掛けたのだから。

 理由があったから? 男を知っている皆はその理由をやたらに知りたがったが、冗談じゃない。誰のためでもない。彼らを手に掛けたのは自分自身のためだけであり、己の望みのためだけに彼は手を染めたのだ。

 殺すと決めたのも自分であり、あの時実際に殺めたのも自分だ。それ以外の何者でもない。

 エゴであり、醜く汚らわしい自分勝手な理由で殺めたのだ。原作のイタチのようにお綺麗な理由ではなく、恨み憎しみそうして自分の夢に邪魔だったからとそんな理由でサスケの両親を斬り捨てた。それが男にとってのあの夜の事実であり真実だ。

 そんな理由で殺すはずないだろうと、己を知っている男と少年は言ったが、彼らは優しく慈悲深いから勘違いしていただけなのだ。己という男を見誤っていたといっていい。

 サスケに言われるまでもない、己は最低のクソ野郎だ。

 元よりサスケには嫌われていた。彼らの両親の仇でもある。ならば、せめて最期までサスケには憎まれ殺されてやることこそが、あの夜少年を傷つけたことへの贖罪となるのではないか。

 本当はもう1つイタチに対してやってやりたいことがあったけれど、そこまで高望みするのも悪い。サスケが己を討てば、火影の弟がS級犯罪者を討ったとしてイタチの火影の座に更に箔を付けることとなるだろう。なら、中々これは良いんじゃないのか? ベストではなくとも、ベターではある。

 サスケに討たれるのなら、それはきっと悪くない。そう男は思った。

 だから……。

「死ね」

 チチチチと鳥の鳴き声を奏で、雷光を纏った腕が周囲を破壊しながら迫り来る。あれぞ雷切、コピー忍者はたけカカシの唯一のオリジナル。それが本来の威力をもって今壁を削り刀のように伸びやかに迫り来る。

 ズキリと、痛んだ腹部と足が引き攣る。だから、それを受け入れようと、そうその時は……思っていた。

 

「……許せ、サスケ」

 ……その、聞こえる筈がなかった、この場にいない筈の人物の声が聞こえるまでは。

 

 何故いるのだろう。どうしてここがわかったのだろう。そんなことはきっと愚問だ。だってそうして男の目の前で、男を庇うようにして腹部に雷で出来た刀を受けたのは、目の前の少年とよく似た顔立ちの美しい1人のくノ一……少年の姉であるうちはイタチなのだから。

「姉さ……」

 まさか現れる筈がなかったその存在を前にして、サスケは自失呆然とした態でただただ震える唇で姉を呼ぶ。主の意志を失った雷の剣は既に霧散し、イタチは腹部から紅い血を滴らせながら、ズルリと体を下に落とした。

「ね……姉さん……!」

 少年はまるで迷子の幼子のように動揺し、ヘタリと腰の抜けた体のまま這うようにして姉の元に向かう。何故姉がここにいるのか、何故姉があの男を庇ったのか、何故姉が自分の一撃などを受けたのかわけがわからず、混乱しながらも姉が死んでしまったらという恐怖だけが体を支配して、サスケはもうあれほどに殺したいと願った男の存在さえ脳内から抹消する始末であった。

 そんなサスケとは対象的に、もう1人の当事者である男……うちはシスイは迷いのない仕草でイタチに近づいて、それから彼女の体を上向きに頭を支えるようにして起こすと、冷静な様子を崩さず、その傷口に向かって手を翳した。

 そして混乱に落ちる少年に向かって男は言う。

「大丈夫だ、イタチは一流の忍びだ。致命傷は避けてある。雷撃による後遺症で一時的に麻痺しているだけだ。早期に治療すれば、後遺症も残らない」

 その声はいつかの過去のように優しくて、サスケはわけがわからぬままに唯々男の顔を見る。

 やがて、男の手からイタチの負傷部分に向かってチャクラが流される。傷口に術者のチャクラを送り込むことによって治癒力を高める医療忍術である掌仙術だ。

 やがて光が治まる頃に、外部からは人の気配が近寄ってくるのを感じて、男はそっとイタチを壊れ物を抱えるようにして、優しく地面に横たえた。

 そのまま去ろうとする男の気配を察知したのだろう、イタチはその白い手を伸ばして、辛そうに眼を細めながら、男の服の裾を掴んだ。

「………ぃくな……」

 男はそれに答えない。ただ微笑んで、そのイタチの指を一本一本丁寧に外してその手を取ると、それからまるで何かの神聖な儀式であるかのように、その手の甲にただ、触れるだけの接吻とすら呼べぬキスを落とした。

 それは男の真摯さもあったのであろうが、万の言葉で表すよりも雄弁なほど、慈しみと愛おしさを見る者に印象付かせるようなそんな光景だった。けれど、それは刹那の夢。男は、彼女の黒髪に最後触れると、もう後ろも振り向かぬほどの潔さで、先ほどまで己が浮かべていた表情を消し、真面目な声音で「サスケ」と、女の弟たる少年の名を呼んだ。

 サスケは動けない。かける言葉もない。何を話し、何を感じ、今己が何を見たのかさえ無明に過ぎた。

 そんなサスケに向かって、男は言う。

「イタチは俺に刺された。そういうことだ、良いな?」

 やがて、喧噪と共に扉が開けられる。男はクルリと背を向けて、もうサスケすら見てはいなかった。

「サスケェ!」

「……! あれは」

「イタチさん!?」

 今し方やってきたばかりのナルト達はぎょっと驚きながらも、放心するサスケと、身体を横たえ倒れているイタチと、そして「じゃあな」そうまるでいつも通りのような声をかけながら去っていくシスイの姿を捕らえていた。

 呼び声に男が止まることはない。振り返ることもない。声は届かない。

 そしてサスケは先ほどまで見ていた光景を思い返す。

 行くなと男に縋った姉の姿と、そんな姉に対して、愛おしげに切なげに微笑んだ男の顔を。

 ……あの日、あの夜、姉をこれから犯すのだと酷薄に嗤った男が居た。

『……今までのは、全部演技だったのか。アンタは本当は姉さんのことを、そんな風に見ていたのかッ!』

『そうだ』

 そう男は言っていた。憎いと思った、許せないと思った。殺してやるとそう思って今日まで来たのに。

 なのにどうしてだろう。サスケはもう何が真実で何が嘘だったのかさえわからなくなっていた。

 

 

 * * *

 

 

 全治1週間。それがサスケの変則型雷切を腹部に受けたイタチに下された診断であった。とりあえず3日は定期入院でその後は自宅療養。それでも次期火影を約束されているイタチにはやることが山積みであったが故に、入院しながらも書類仕事などが回されることもあったが、まあそれは自業自得というものだろう。

 イタチは粛々とそれを受け入れた。そんなイタチの元に、同じく医師にかかるために病院を訪れていた猿飛アスマがイタチの病室へと患者服姿のままやってきた。

「よぅ、邪魔するぜ」

「アスマさん」

 イタチは来客を合図に、今まで眺めていた書類をそっと脇に置いて、姿勢を正して男をまっすぐと見上げた。そんな女を前にして、「よせよせ、もっと柔らかく行こうぜ」と男は苦笑して、そのまま備え付けの椅子にドカリと腰を降ろす。

「なぁ、怪我の調子はどうだ」

「たいしたことはありませんよ。アナタのほうが重傷だったのでは」

「なぁに、オレこそたいしたことはない。誰かさんのおかげで一命は取り留めたし、あれから大分経ったからな」

 そんな風に嘯くアスマに対して、イタチは1つため息を吐くと、その凛とした切れ長の眼で真っ直ぐに男を見上げ言った。

「そんな話をしに来たのではないのでしょう」

 それに気まずげに男は頭を掻いた。

 

「シスイのことですか」

「ああ……お前さんは奴とは許嫁だったとは聞いている。オレよりは詳しいんじゃないかと思ってな」

 アスマは改めて、あのかつての後輩について自分は何も知らなかったんではないかと思い知らされていた。そのことについて、イタチは言う。

「アナタはうちはシスイがどんな男だと思っていますか」

 その質問の意図が飲み込めず、アスマは怪訝な顔をしながら答える。

「どんなってそりゃ子供好きで、お人好しで、面倒見が良くて、争い事が嫌いで、忍びとはとても思えねェような穏やかな性格をしていて、いっつも馬鹿みたいに笑ってた底抜けの善人だろ。あと正直者の大嘘つき」

「本当に?」

「……ん、まぁそりゃ任務となれば割り切ってガキ相手でも殺せる奴ではあったが、そりゃ上忍まで上り詰めた奴なら誰だってそうだろ。……と、どうした?」

 見れば、うちはイタチは瞳を伏せながら、浅くため息を1つついて、それから「やはり、そういう認識なんですね」とそう言った。

 そして次のようにイタチは断言する。

「あいつが人を殺すことを割り切れたことなど1度もない」

 

 その思わぬ言葉を前に、アスマはマジマジと女の顔を見つめ返した。そんな男に向かって更にイタチは言葉を重ねる。

「あいつはただたんに割り切れていると……己は大丈夫だと自己暗示を掛けてきただけに過ぎない」

 つまり、それは……。

「大丈夫でないことを大丈夫と言い張り、それを己に信じ込ませた結果、自我を通しながらも己というものを失った、それが奴だ」

 呆然とするアスマを置き去りにイタチは続ける。

「忍びの本分は自己犠牲にある。だが、奴はそもそも己を「犠牲」などという認識すら持ち合わせていない。何故なら奴は己を蔑ろにしていることさえ理解も自覚もしていないからだ。奴にとって他者は善であり、自己は悪だ。……話していて何かおかしいとは思わなかったか? 何故こんなに認識が食い違うのか? そう思ったことはなかったか」

 それは、思っていた。何故どうしてあれほどまでに言葉が届かないのだろう、と。

「食い違って当然だ。あいつは世界で1番自分のことが大嫌いで、最も疎ましく思っていて、最低の人間と信じ込んでおきながら、他者を愛するが故に助けたがるその己の思考が、矛盾しているということに気付いたことなど終ぞなかったのだから」

 それが真であるのならば、それはなんという歪みなのか。

 

「アナタはあいつに助けられたと聞いた。しかし奴の言う通り、あいつがアナタを助けたのは善意などではない」

 凛とした声で、イタチは断言するように続ける。

「あいつは本来人殺しに耐えれないそういう男だ。例えそれが任務と名が付こうと自分が生き延びるためだろうと関係はない。他者を殺したという事実だけで自身を「悪」と定義するには充分だからだ。他人に関してはそういうことはしないにも関わらず、な。だからこそ、殺した分だけ自分が愛している周囲の人間を助けないと心を保てなかった。あいつがすぐに人を助けるのは自分の心を守るための自己防衛本能であり、罪悪感から逃れるための逃避行動に過ぎない」

 やがて話しているうちに熱が入っていったのか、イタチは段々と語尾を荒れさせ、その白い右手を抑えるように左手でかき抱いた。尚も言葉は続く。

「しかし、それが自覚のない無意識下の行動である以上、たとえいくら人を救ったところで奴の空虚が癒えることは無い。奴が自分を赦す日など来る筈がない。だというのに、自分を悪人と定義しながらそればかりを繰り返す……奴は、あいつは筋金入りの愚か者だ」

 そういって震える語尾に果たして女は気付いているのだろうか。

「確かに、奴が周囲の人間に向ける愛情は本物だ。その事だけ見たら善人に見えるかもしれない。見返りを求めない愛は平等であり、公平だ。故にこそ救われたものも多いだろう。ナルトのように。けれども奴が己を愛する日は来ない。故に他者から愛情を向けられても、それをその人物が「善人」であるから、だから自分にもそんな感情を向けてくれているだけなのだろうとそう思い込む」

 独善的で自分勝手な愛、それがうちはシスイという男の本質だとイタチは言う。

 

「…………酷い男だろう」

 そういってそっと瞼を伏せるイタチに対し、アスマは暫し思案するような顔を見せると、やがて穏やかな声で「なぁ、イタチよ」そう声をかける。それに伏せていた顔をイタチは上げた。

 そんな女の態度に苦笑しながら、それでも宥めるように穏やかな声で男は言う。

「オレはお前さんのことはよく知らないが、オレの耳にはお前の言葉は「愛している」って言っているように聞こえるぜ」

 女は男の言葉に応えず、憂いを帯びた顔を伏せて、やがて蚊の泣くような小さな声で「…………そうか」とそう言葉を漏らし、視線を遠くへとずらした。

 

 ―――――イタチは、うちはシスイという男に対して、傲慢で烏滸がましいことだったのかもしれないけれど、いつかあの繊細な男の傷を少しでも癒せたら良いとそう思っていた。

 別に男が自分をそういう対象に見ていたわけでもなく、また己を通して誰か別の人間を見ているときがあることも気付いてはいた。けれど、それでも己が男にとって特別であり、他の人間に捧げる愛情とはまた違う種類の思い入れを持っていたこともまた知っていた。

 だからいつか男に、「もう無理はするな」と、「1人で背負わなくてもいい」のだとそう伝えたかったのだ。出来るとしたら自分以外にいないと思ったのもあったのだろう。でもそれ以上に自分で望んでいたのだ。いつか、己の傷を飲み込み続け、自身を傷つけ続けるあの男を抱きしめてやりたかった。

 ……そんな願いは、叶う日はなくあの日に崩れ果てたけれど。

 今でもあの時のことはよく覚えている。

 うちは一族はクーデターを決行することを決め、己には「一族を滅ぼして里を抜けよ」という任務が下された時のことを。

 シスイがクーデターを止めようと奔走していたことは知っていた。けれど、もう一族のクーデターは止められる域にはなかった。そのことでも、男が苦しんでいたことは知っていたのだ。そして自分は彼の任務をこなせば、もう2度と男の望みを叶えてやれる立場にはいられなくなるだろうし、いつかと願った思いも果たせる日は来ないと知った。

 だからこそ、いっそ、眠っている間に苦しませず殺してやれば、それがこの男に対する救いになるのではないかと思ったのだ。

 これ以上なんの憂いもないように、死なせてやることこそが慈悲なのではないかと思っていた。

 男は笑う。よく笑う。自分の心の傷を押し隠すために、些細な日常を幸せとして少しでも多く取り込むために。己の心を呪い殺してしまわないように。

 ……他者への憎しみが吹き出してしまわないように。

 愛だけの男じゃなかった。誰よりもこの男は人間を愛し人間を憎み、自己を愛する代わりに他者を慈しむことを自身の悦びとして、他者の笑顔を己の幸福として精神が完全崩壊することを防いで来たのだ。

 だから、その幸福なままに、夢を見たまま殺してやればそれが救いになると思った。

 其れもあの日の男自身の行動によって、叶うことはなかったけれど。

 平和と愛する里を守るためならば、たとえ身内殺しだろうと許容出来る己とは違う。殺し続けることに、憎み続けることに耐えられないクセに本当に馬鹿な男だ。

 

 男が人でなしであることは知っていた。けれど、……それでも別に良かったのだ。

 他者からの感情を排除した自分勝手で独善的な愛であろうと、それでもそれは本物だった。

 その慈しみも、労りも、偽物などではなかった。

 乾いた傷を、心を知っていた。たとえそれが壊れてしまっているが故の無色透明な純粋無垢さであろうと、仮面ではない時折見せてくれる本物の本当の笑顔が、眩しく尊く映っていたのもまた事実だったのだから―――――。

 

 

 そんな風に、遠くに想いを馳せるイタチを見ながらアスマは思う。

 うちはイタチと呼ばれているこの女性について、アスマが知っていることはそう多くはない。

 万華鏡のイタチと呼ばれている木の葉の英雄であり、次期火影であり、暗部の隊長の1人であり、うちは一族の数少ない生き残りであり、そしてうちはシスイとは婚約者だった女性。アスマが知っているのはそれくらいだ。

 ただ、その戦いぶりや有能ぶりは幾度も耳にする機会があったし、凛とした美貌や、秀麗にして華がありかつ無駄のない戦い方は、見る者に憧れを覚えさせたというのも納得の話だった。アカデミー始まって以来の天才とも言われていたし、実際その通りなのだろう。

 しかし、あまりに隙がない。凛とした玲瓏たる美貌も、その身のこなしも、落ち着いた立ち振る舞いも、優秀すぎるほどに優秀な頭脳も、美しく見事であり、見る者に憧憬を与えると同時に自分たちからは遠い存在だと思わせるものであり、もっと下劣な言い方に変えれば、「女としての可愛げがない」といったものでもあった。

 観賞するには美しい、仲間としてなら頼りになる。だがいくら美人でもあれは御免だと、完璧すぎる印象が強いが故に思わせるものが彼女にはあった。

 しかし、だがこうして見てみれば、1人の男を想うただの女ではないか。

 ふと、ある日の仲間達との会話を思い出す。男が揃えば女の話になるのは古今東西よくある話で、高嶺の花過ぎるが故に敬遠されながらもそれでも一部では熱狂的な支持を集めていたうちはイタチについて、ファンだという男に対し、どこがいいのかと皆で聞いたのだ。

 その際その男が答えたのは、ふとした時に見せる横顔がいいのだとそう答えた。

 ふとした瞬間、里の子供達を見ながら見せる憂い顔が、儚げでいいのだと。その時は、まさかあのうちはイタチがそんな顔をするわけないだろう。見間違いだろうということで男達の中でその話は終わりとなったのだが、ああ奴が言っていた顔とはこれか、とアスマは思う。

(なぁ、シスイよ、お前はどこにいるんだよ)

 そしてここにいない男を思う。

(女にこんな顔をさせるなんて、あんまりだろ。なぁ、シスイよ)

 

 

 * * *

 

 

 うちはサスケは懲罰房にて、軟禁処分を科せられていた。これは少年がやったことを思えば当然かも知れない。いや、これでも甘いという声があったくらいだ。それでも被害者が少年の姉である故に、毒を盛られた仲間達があまりきつく責めないで欲しいと嘆願したが故に、結局サスケには1ヶ月の禁固刑と1年の保護観察処分が下されることに話は落ち着いた。

 そして意外にもというべきなのか、サスケはあれほどの暴走を起こしたとは思えないほどに粛々とした態度でそれを受け入れた。その心境の変化はきっと当事者にしかわからないのだろう。

 と、そこへ足音が響いた。まだ食事の時間には早いはずだ。となると来客か。こんな自分相手に物好きなと自嘲する気持ちがないではなかったが、サスケは真っ直ぐに姿勢を正して正座姿のまま、それを迎えた。

「よぉ、邪魔するぜ」

 そうして現れたのは、1つにひっつめた黒髪と気怠げな表情及び仕草が印象的な少年、今回のサスケによる事件の「被害者」の1人とされている奈良シカマルだ。シカマルは飄々とした態度で、サスケが入れられている懲罰房の手前にある椅子に腰掛けた。

 やがて、ポツリとした……これまでの少年を知っているものからしたら、別人ではないのかと疑ってしまいそうに成る程に覇気のない声でサスケは言葉を口にした。

「なんの用だ。いやその前に……よく、許可が下りたな」

「まぁ、10分だけだがな」

 ああ、面倒くせぇそんな口調で、おざなりにシカマルは答える。それから10秒ほどの沈黙の後シカマルは言った。

「なぁ、こういうのを聞くのはオレのキャラじゃねー気がするんだけどよォ、オマエなんであんなことをした?」

「……」

「はー……だんまりか。そんなことだろうと思ったが」

「あいつは父さんと母さんの……いや、一族の仇だ」

 ポツリとともすれば聞き漏らしそうな小さな声でサスケはそう呟いた。

「ずっと憎かった。許せなかった。いつかこの手であいつをこの手で殺すんだと、それはオレの役目だと信じて疑わなかった」

 ……そう、あの光景を見るまでは。

「あいつは父さんを殺し、母さんを殺し、一族を殺し、姉さんを襲った。オレの姉さんはずっと完璧だった。強くて美しくてそして遠い。オレの憧れそのものだった。そんな姉さんがあんな男のために泣いたんだ」

 それは懺悔だったのだろうか。

 サスケは今何故自分がこんなことをこの特に親しくもなかった同期相手に漏らしているのか自分でさえよくわかっていなかった。

「許せなかった。絶対に許してはいけねェ相手だと思った。あんな男がいるから姉さんが完璧ではなくなる。あんな男がいるから姉さんは苦しむ。だから、オレが、この手で……! なのに」

 思い出す、あの時の光景を。男を庇うようにして自分の千鳥に貫かれた姿と、男に向かって「行くな」と縋った姉の姿。

『サスケ、イタチは俺に刺された。そういうことだ、良いな?』

 そういって男は去っていった。自分が少し前まで少年に命を狙われていたことさえ忘れたかのような微笑みを浮かべて。

「……わからなくなった、んだ。何が真実で、なにが嘘で、オレは何を望んでいたのかが……」

 そうして空虚にサスケは笑う。口元だけが笑みを象っていて、その実その瞳には一筋の光さえ見えてやしない。

「…………オレは姉さんを刺した。いくら弟でも次期火影をやったんだ。赦されることじゃねェだろ。オレは、このまま消えた方がいいのかもしれないな……」

 そんな風に自嘲するサスケに対して、シカマルはフゥと重いため息を1つ溢して、それから言った。

「なぁ、サスケよ、オレはお前のことをそこまで詳しく知っているわけじゃないが、イタチさんがそれを望んでいると思うか?」

 その言葉に、ピクリとサスケの指先が反応する。

「たった1人の姉貴なんだろ。支えてやれよ。きっとイタチさんも辛いぞ」

 その言葉にやがてサスケは、力なく俯きながら「……そうだな」そう漏らして声も涙もなく泣いた。

 

 

 * * *

 

 

 青空に鳥が、飛ぶ。

 ヒュルリヒュルリと、世の不条理も人の想いも何も知らずただ束の間の平穏を象徴するように鳴いている。

 大木に身を預けた青年は、先ほど1羽の鳥が持ってきた紙片を片手に、そんな透き通るような青空を見上げていた。こんなにも心はおどろおどろしいものばかりだというのに、嗚呼、こんなにも今日も世界は美しい。

 やがて、青年の内から、青年であって青年ではない人物からの声がした。

“先ほどの烏、イタチのだろう”

「起きていたのか。……いつから見ていたんだ?」

 そう、そうやって内から声を掛けてくる人物こそ、本来の彼の肉体が主である、本当の『うちはシスイ』だ。所詮は自分は他人の身体を預かっているだけの異邦人に過ぎないことを、うちはシスイと今生にて呼ばれている青年はよく知っていた。苦笑するような気配と共に『うちはシスイ』は言う。

“こんな言い方はあまり気分が良いものじゃないかも知れないが、この身体の主導権はオレにあるからな。……寝てても見えてしまうんだよ。色々、な”

「……そうか」

 それは別に不思議な話ではない。実際この身体は彼のものであり、譲渡されているからこそこの身体を己のものとして使っているだけなのだ。

 それに今は他者の声があることがありがたかった。もう笑顔の仮面を被る気力すらない。

“呼び出されたんだろ? 会わないのか”

 青年の持つ紙片には、流麗な文字でただ、一言「南賀ノ神社にて、丑三つ時」とだけ書かれていた。

 それに対して、今はシスイと呼ばれている青年は緩く左右に首を振り、言う。

「会わないよ、まだその時じゃない」

 それに、内から眉を顰めるような気配が漂う。

“イタチのほうは違う目的だろう。なぁいい加減認めろよ。あいつは絶対お前のこと……”

「…………」

 ふと、『うちはシスイ』の気配がもの悲しいものに変わる。痛々しいものを見るような目で見られているのなと、青年は思う。けれど気付かないフリをした。

 やがて穏やかな声で『うちはシスイ』は言った。

“抱いてもいいんじゃないのか”

 誰を、なんて聞かなくてもなんのことかはわかっていた。

「……イヤだよ」

“好きなのに?”

「…………だから、だよ」

 

 

 * * *

 

 

 ここ数年、大蛇丸は苛立ちを持て余していた。

 そもそも彼の行動にケチがついたのが3年前の木の葉崩し。完璧と思い自負して行った作戦はよりにもよってたった1人のくノ一の前で崩れ去った。あの時の屈辱と忌ま忌ましさは今思い出してもハラワタが煮えくり返る思いだ。

 まさか伝説の三忍とさえ呼ばれ畏れられた自分が、あんな小娘1人に敗れるなんて思いもしなかった。その怨敵の名はうちはイタチ。その才は以前より聞き及んではいたが、女であるが故に自分の器候補にもなりやしないと捨て置いたことをこれほど後悔するハメになるとは思いも寄らなかった。

 とてつもなく忌々しいが、それでもあの眼は欲しい。そこで次に彼女の弟たるうちはサスケに目を付けたが、イタチが周囲にいるために手を出せそうもなくそちらも一旦は断念した。

 しかしいつかはあの体を手に入れてやる。そして最愛の弟の器を使って、あの小娘に女として生まれてきたことを後悔するほどの屈辱と絶望を与えてから殺してやる、とその思いで、里の縮小を余儀なくされながらも研究を続けてきた。

 だというのに、今から3ヶ月ほど前のことだろうか、なんと自分の側近中の側近であったあの薬師カブトが何者かに殺されてしまったときたからたまらない。部下は数多くあれど、あれほど便利な男もそうはいなかった。これは間違いなく何者かからの挑戦状だろう。

(良いわ、その挑戦、乗ってあげる)

 と、そうは思うも肝心の犯人の足取りが全くというほど見つからないとなれば、苛立ちも治まるところを知らないといえる。

 全くこの私を何処までコケにするのかしら、と憤懣やるせなくなってもおかしくはないだろう。

 おかげでその八つ当たりに巻き込まれ死んだ者の数は10や20はくだらない。

「た、大変です!」

「何事? たいしたことじゃなかったら殺すわよ」

 そんな大蛇丸の前に慌てて部下の1人が飛び込んできた。ヒェと、小さく悲鳴を上げて部下は怯えつつ言う。

「つい先ほど、何者かが侵入したらしくて、西の間の一団が全滅していました。その様子から見て、死後30分は経過しているのではないかと……」

「ちょっと待て、それまでアナタ達は何をしていたの!?」

 大体そんな内部まで潜り込まれて気付かないなどおかしいにも程がある。

「もういい、私が出るわ!」

 

「いや、大蛇丸、お前はここまでだ」

 その声はまるで闇夜に潜むようにして届いた。

 気付けば部下の姿はどこにもいない。暗闇の無明の中、男の赤い眼が万華鏡を描き、大蛇丸を見据え……そして先を争うように男と青年の2つの術(・・・・)が発動した。

 

 

 * * *

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 男は森の中を疾駆していた。

 その顔色は青白く、額からは吹き出すような汗がダラダラと流れている。男は黒衣に黒の外套を羽織り、首元を右手で抑えながら、転がり込むように坂を下り、そして泉の麓で体を地面へと横たえた。

「う……ぐっ」

 その左肩には黒くおどろおどろしい呪印が1つ。

 これほどの失態はひょっとすれば9年前のうちはクーデター事件以来なのではないかと、どうにも熱に浮かされるような思考の中男……うちはシスイはボンヤリ考える。

 あの時、別天神と用意していた対蛇用の強力な毒を用いて大蛇丸本体を殺すことまでは成功した。しかし、あの男のしつこさを甘く見ていたところがあったのだろうとシスイは思う。

(あははは、いい様ね。さぁ、早く私にその体、寄越しなさい!)

 自身が滅ぼされる直前、その刹那に置いて大蛇丸は改良し更なる進化を遂げた呪印をこの体に残した。その結果がこれだ。

 正直言って、シスイの呪いへの抵抗力など、おそらくサスケ以下だ。

 そして大蛇丸の呪印とは、それ自体が大蛇丸の仙術チャクラを分け与えられて作られた……いわば分身のようなものである。たとえこれが本体ほどの力をもっていなくても、それでも相手は大蛇丸だ。やがてこの体を喰らい復活すれば、どれほどの脅威となるかわかりやしない。そしてそれは断じてあり得てはいけないことだった。

 

 何故、こんな失態を犯してしまったのか。男は思う。

 自分が決して強くはないことを知っていた。だからこそ敵と対峙するときは無理をして戦わず、取れる時に敵の首をとる、そういう戦法をとっていた。油断をしてはいけない。敵を侮ってはいけない、隙を見せてはいけない。驕ってはいけない。自分は所詮凡人なのだからと、そう思っていた。

 なのに、いくら別天神があるからと自分らしからず正面から挑みこの様とは全く情けないにも程がある。強すぎる力はよくないとわかっていた筈だし、それに依存してはいけないと重々承知していたはずなのに。

 ……時間がもうないと焦る気持ちでもあったか。いや……あと1週間後にイタチが火影になると聞いて、気が緩んでいたのかも知れない。

 思えば、長いこと望み続けた夢が漸く叶おうとしていたのだ。だから、もういいのではないのかと思ったのだ。その結果がこの様じゃあ格好が付かないにも程があったが。

(無駄よ、私は滅びないわぁ!)

 内からの声を無理矢理意識の外に逸らす。ズキリズキリと呪印が痛んだが、それさえ思考の片隅へと追いやった。そして、彼は自己に暗示をかける。

 大丈夫だと、自分はまだ大丈夫。あの時の想いも、夢もまだここにあるからと。

 そうして彼はやがて、体を地に横たえたまま、過去の想い出という微睡みの中へと落ちていった。

 

 

 * * *

 

 ―――――嗚呼、そうよく覚えている。その日は確か雨で、南賀ノ神社の境内にある大木の下で、古く乾いて変色した血の付いた己の物ではない木の葉の額宛を取り出し、そっとなぞっているオレの前に、傘を差したイタチが現れたんだ。

 

「シスイ兄さん」

 そして名を呼ぶ。

 何故、彼女が男がここにいることを知っていたのかは知らない。

 どうして見つけられたのかなんてわからない。でも、イタチだからと当時少年だったシスイは深く考えず受けいれた。それで理由としては充分だった。

 イタチはそっと傘を畳むと、ちょこんとシスイの隣に身を寄せ、それから指を少年の顔に伸ばして言った。

「泣いているの?」

 一瞬虚を突かれるが、少年はにっといつも通りの笑みを浮かべて「なーに言ってるんだよ。イタチ。俺の何処が」と泣いてなんていないことを強調しようとするが、そんなシスイに対してイタチは、凛とした曇り無き眼で男を見上げながらこう言った。

「涙など流していなくても、私には泣いているように見える」

「……」

 何故、なのだろうか。

 昔からこうだ。この妹分だけは騙すことが出来ない。

 だからか、つい誰にも言ったことはなかったのに、そっとイタチにも見えるようにその血の滲んだ木の葉の額宛を指でなぞりながら、掌で弄び、次のような言葉を告げていた。

「形見なんだ……」

 そう3年前に死んだ、彼らの……。

 

 

 9歳でアカデミーを卒業し、戦力不足であることから第三次忍界大戦へと早々に放り込まれたシスイはそこで同じ隊となった少年少女ととても仲が良くなった。だから、たまの休みの日でさえ共にいることがいつの間にか当たり前となっていた。

 その日もそうだった。

「そうそう、こうして……」

「こうか」

「お、初めてにしては結構上手いじゃない。うちはくんって結構こっちの才能もあったりして」

 そんなことを言いながら、3歳ほどシスイより年上のおさげの少女が笑う。それに対して、少年は手元に意識を集中させながら、顔も見ずに少女に言葉を返す。

「そうか? 先生が上手いからなだけだろ。オレあんま座学の成績はよくなかったしさ」

 言いつつも行為は止めない。少年の腕の中には前足を怪我をした1羽の兎の姿があったが、次第に兎の傷は浅くなっていっていた。そんな少年を見ながら、少女はカラカラと明るく笑って言う。

「おお、褒めてくれちゃいますね、このこの。そっかー、うんうんもっとわたしを敬ってくれたまえよ」

「はいはい。敬っているし、頼りにしているよ。うん、本当感謝してる」

 そういって微笑む少年の顔は裏表が無く、今放った言葉がお世辞ではない本音であることを伝えてきて、思わず医療忍者たる少女はパチクリと眼を丸めた。

「む? そこで素直に受け止めるとは実はうちはくんって天然? だがしかし残念。わたしには既に好きなひとがいるのであった」

「いやいや、なんでそっちになるんだよ。別にそういう対象とは思ってないよ」

 あまりの少女のハイテンションな返答に、思わず苦笑しながらシスイは言う。それにぐはっと妙ちくりんな声を上げると、おさげ髪のくノ一は盛大なリアクションを取りつつこんなことを言った。

「うお、そう言われるとそれはそれで傷つく乙女心。ところで、さっきはなんとなく聞きそびれちゃったけど、医療忍術を習いたいなんていきなりどうして? うちはくんってうちらの中では1番強いし、別に医療忍術まで覚える必要性とか感じないんだけど」

 そう、先ほどから少年が少女に教えを請うていたもの。それは木の葉でも未だなり手の少ない技術である、医療忍術だ。元は三忍の1人であり、初代火影の孫娘である綱手が考案した忍術ではあるが、繊細な技術力と多彩な知識が要求されることもあり、育成に時間がかかることから絶対数は未だ不足していた。

 他にも攻撃手段を持っているシスイがわざわざ手を出すのは、色々非効率的なのではないかと少女は思う。医療忍術とは一朝一夕で覚えられるものではないのだ。

 そんな少女の疑問に対し、漸く怪我の治った兎を放してやりながらシスイは答える。

「んー……なんていうか、あれだな。オレがイヤなだけなんだよ。仲間が傷ついて、そう言うときに何も出来ないのが。何も出来ないなんて、なんか悔しいじゃないか。たとえ応急処置程度だとしても、何も出来ずただ見ているよりはずっとマシだな、とそう思ったんだよ」

 それは己の無力に苦しむ少年の本音で、それを見て少女はぐっと一瞬言葉に詰まった。

「うちはくん……」

「よぉ、2人して何話してんだ」

 

「お前らさ、夢あるか?」

 輝かんばかりの金髪が眩しいシスイより2歳半ほど年上の少年が問う。それに思わずシスイは首を傾げつつ問い返す。

「夢?」

「おう、オレの夢はさ、将来アカデミーの教師になることなんだ」

 そうしてニパリと夏の太陽のような顔で金髪の少年は笑った。

「きっともうすぐ戦争は終わる。そうしたら平和になった木の葉で、俺は忍術だけじゃない色んなことを子供達に教えたいんだ。外には下忍になるまで出れなくても、それでも外の綺麗なこととか、そういうのも教えてやりたい」

 そうやって眼を細めながら、遠く遠く夕暮れに染まる紅い里を見下ろしながら少年は言った。

 それに続けて、おさげの少女も手を振り上げ言う。

「はいはい、わたしの夢はね、将来綱手さまのお弟子さまになることなのだ。それでね、木の葉一の医療忍者になって、それで個人経営の医療所を建設するの。勿論、愛する旦那様と一緒にね」

 えへへと言って夢見ている先には、その幻の旦那様とやらがいるのだろうか。

「なぁ、シスイお前は?」

 でもそうしてキラキラと眼を輝かせながら将来の夢を語る2人を前にして、そう己の番だと視線を向けられ、シスイはどうしていいのかわかわず、困ったように頭を掻いて、それから深刻になりすぎない程度に思い悩んだ声で答えた。

「オレは……よくわからないな。今まで夢とか持ったことないし。でもうーん……好きなひとたちはみんな守れるくらいに強くなれたらいいかなぁとは思うんだがなあ」

「じゃあさ、シスイ、お前もオレと一緒に教師になろうぜ!」

「オレが?」

 そうして名案とばかりに、拳を握りしめながら無邪気に笑いつつ言ってくる金髪少年の一声に、思わずシスイは首を傾げつつ相手を見上げる。そんなシスイを前に、少年はワクワクといった感じの笑みを浮かべて、がっしりと自分より幾分小柄なシスイの右手を掴み、天に宣言するようにあいている指を空に差し伸べて、謡うように高らかにそれを口にした。

「そうそう、そして木の葉の教育を俺達が変えてやるのだ! 子供達は生き生きとのびのびと健やかに。そうやって俺達で木の葉の教育界に亀裂を入れるのだ。それってなんか凄く良くないか?」

 ニッカリとした笑顔は夕焼けより尚眩しくて、思わず眼を細めながらシスイは答える。

「えーと……オレ、座学の成績そんなよくなかったし、教師とかオレがなれるのかなぁ?」

「なれるか、じゃない。なるんだよ。それにさ、お前隠しているつもりみたいだけど子供好きだろ? 案外教師は天職かもしれないぜ?」

「え……いやいや、べ、べつにオレ子供好きってほどじゃねえし」

 思わずどもって頬を紅く染めるシスイに対し、少年はハッハッハと明るく笑いながら、バンとその背を叩いてまた言う。

「またまた、んな照れるこたぁないだろ。なぁ、そうしようぜ。お前がいてくれたら俺も心強い」

「うん……そうだな。悪くないのかもな」

「決まりだな」

 ……それは彼らが死んだほんの1ヶ月ほど前の出来事。

 

 

「形見なんだ……」

 そのシスイの言葉を前にしても、イタチは深入りしたことは聞いては来なかった。

 それをありがたいと素直に少年は思う。

 ……あれから3年、今日は彼らの命日だ。

 許嫁だからって別に一緒に暮らしているわけでもないのに、本当なんでこの場所がわかったのだろうかとシスイにしてみれば、イタチが来たことに対し、少し不思議な思いがあったが別に良かった。

 2人何をするでもなく木に体を預けて、傘も差さずにただ境内の景色を眺める。

 ザァザァと、雨は変わらず降り続けている。そんな中の沈黙が妙に心地よかった。

 やがてそれからどれだけの時間が経っただろうか。

 雨は降り止み、暗雲の中から陽の光がそっと差し込んできた。

「雨、止みましたね」

 そうイタチが言った。

「そうだな……」

 少年は答えた。

 未だ幼い少女は、しかし年齢にそぐわぬほどの落ち着きをもって、少年に振り返るとその手を少年のほうに差し伸べ、そして言った。

「……シスイ兄さん、帰ろう」

「うん……」

 ……その慎ましくそっと向けられた微笑みをよく覚えている。

 いつだってそうだった。今も昔も、『彼女』が少年にとっての特別だった。

 

 

 * * *

 

 

 あれからまたいくつもの日々が過ぎた。過去の事件の傷も大分癒え、人々は歓喜に沸き上がっている。

 明日だ、明日、木の葉には新しい指導者が生まれる。

 若く美しいその新たなる火影の名の元に、きっと木の葉は更に発展するだろう。

 けれど、そのことに明るい顔を見せるものばかりというわけでもない。

「……ナルト、あんた大丈夫なの?」

 心配そうな顔で、桃色の髪が特徴的な美少女、春野サクラは金髪にオレンジ衣装がトレードマークの同い年である同じ隊の少年に声をかける。それに対してその少年、ナルトは殊更明るい顔をして言った。

「ん? サクラちゃんなんの話だってばよ?」

 にぃといつも通り笑っているつもりなのかもしれないが、誰が見ても今の少年の笑顔は無理をしているもの特有のそれだ。目の下の隈と焦燥に気付かないとでも思っているのか。ズキリと胸を痛めつつもサクラは言う。

「……サスケくんのこともそうだけど、シスイさんのことでも、あんたここのところろくすっぽ休んでないでしょ」

 その2人の名は今のナルトにとって最も辛い名だ。しかし、そんな胸の痛みを無理矢理抑え込んで、ナルトは明るく言う。

「大丈夫大丈夫、オレってば将来火影になる男だぜ。それに明日はイタチの姉ちゃんの火影就任だろ! 暗い顔なんてしてらんねーし。それにシスイのにいちゃんを連れ戻すってオレは暗部のねえちゃんと約束したからな。これくらい平気だってばよ」

 嘘ばかり、とサクラは思う。サスケの失踪事件の時、元々サスケに惚れていた身としてはサクラだってあれはショックだったが、1番そのことで苦しみ、サスケのことに気付いてやれなかったと己を責めていたのがナルトだったことくらいサクラだって知っている。

 うちはシスイのことに関してだって、あそこまで近づけたのに結局何も出来なかったと悔やんでいた姿だって知っているのだ。

 真っ正面から慰めてもナルトはそれを受け入れないだろう。だからサクラは珍しくもナルトを気分転換に誘って、こうして今里を歩いている。と、そうして前を歩いている時、その人に気付いた。

「イタチさん……」

「お前達か」

 見ればうちはイタチがだんご屋の中から出てきたところだった。私服であるところからして、休憩中だったのかもしれない。しかし意外なところで見かけたものだ。クールそうな顔立ちや雰囲気からはイメージしづらいが休息にだんご屋を選ぶとは実は甘党なんだろうか。

 とりあえず出会ったからには挨拶を交わそうとするが、その時、一匹の鳩がバタバタと飛んできて、イタチの手元に紙片を落としていった。

 そしてそれが1つの事件の始まりであり、終わりを告げることになるなど、春野サクラは夢にも思っていなかった。

 

 

 * * *

 

 

 紙片に書かれていた言葉はたった1つ。「南賀ノ神社にて」それだけ。まるで血の滲むような文字でそれだけを書かれていた。酷い男だと、イタチは思う。

 自分は呼び出しに応じようとすらしなかったくせに、なのに人のことは振り回すなど、自分勝手で本当に酷い男だ。だけど、それに応じないわけにはいかなかった。

 それは、予感なんて言葉が生やさしいほどの切迫。

 そんなイタチの後を追うようにして、またその突如現れた異常な気配とチャクラを察知して、イタチの他にもナルトやアスマを初めとする何人もの忍びがその場所へと向かった。

 そしてそこで彼らはそれを見た。

 

「よぅ……間に合ってくれたんだな…………嬉しいぜ」

 そういって、ブルブルと体を震わせながら膝を丸めて片手をついたクセ毛の若い男。その男の左半身は禍々しいチャクラと黒い不気味な模様に覆われている。

「シスイの兄ちゃん!」

 思わずナルトが叫ぶ。

「ぅぁあがあああああああああ!!!!」

 ナルトの声に応える間もなく、限界を迎えていたのだろう男の絶叫が迸る。そして、その肩から異形が……巨大蛇がズルリと姿を現した。

 その振動を前にして、神社は跡形もなく崩れ去る。そして、それは山1つほどの大きさをもって現界した。それが出現した時の衝撃に幾人もの忍び達が吹き飛ばされる。それは8つの首を持つ蛇……神話上の生き物とされている八岐大蛇だった。そして……。

「あっはっはは、そうよ!! この時を待っていたのぉおおお!!」

 それらの蛇の頭の1つから1人の男が姿を現した。

「大蛇丸だと!?」

 その男こそ伝説の三忍の1人にして、3年前木の葉崩しを企み、イタチの前に敗れ去ったかの蛇遣い大蛇丸だった。男は半裸であり、蛇と完全に同化しているように見えた。そして、その狂気走った目にイタチの姿を捉えると「イタチィイィイイイーーー!!」そう恨みと憎しみと昏き歓喜で染まった声で、そのくノ一の名を呼び、おぞましくも口から一振りの剣を生み出し笑った。

 そんな大蛇丸を前にして、ナルトはすぐさま仙人モードになろうとするが、そのナルトの肩をそっと制してイタチは言った。

「ナルト」

 静かな声で名を呼ぶ。そのあまりに凛とした横顔にナルトは思わずそんな時であることさえ忘れ、「イタチのねえちゃん」とその名を口にした。そんなナルトに構うでもなく、ただ前を見据えてイタチは言う。

「お前は皆を守れ。あいつは私がやる。いや……やらせてくれ。頼む」

 その顔があまりに真剣で、思わずナルトは息をのんで、それからこくりと頷いて、後ろに下がった。すぐさまに影分身を多量に生み出して、吹き飛ばされた忍び達の救助へと向かう。

 それを合図に、ブワリとイタチの醸し出す空気が変わる。

 黒曜石の如き瞳は、血の如き赤に染まり、その目は万華模様を描き出し、それを合図として全てを滅する巨人が目を覚ます。

 それは黄金に輝く巨人。人々を守り戦う守護者。神の名を冠する、2つの瞳術に目覚めた万華鏡写輪眼を持つ者だけが具現可能の神話の再現。

 光を纏って、今此処に舞い降りた。

 

須佐能乎(スサノオ)……」

 呆然とした顔で、誰かの呟きの声が漏れる。

 巨人は圧倒的な存在感と共に、優しげな顔をしてヒョウタンを片手にゆらりと幻想的に揺らめいた。

 これが衆目に晒されるのは二度目だ。一度目はペイン長門による木の葉襲撃の際にも、表になったものであるが、こうして改めて見るとなんという圧巻ぶりであるのか。それは守護神さながら、力強く雄々しく術者たるイタチの命に従い木の葉を守るため立ち上がった。

 

「……何よ」

 ポツリと、大蛇丸の声が落ちる。

「それがなんだって言うのよ!!」

 8つの頭をもつ大蛇がまるで巨大龍の如き有様と共に周囲を破壊しながら、牙を向けおぞましく付き向かう。しかし、イタチはそれに恐怖など微塵も感じていないように、いつも通りの凛とした玲瓏たる美貌をそのままに、1つに縛った黒髪を風にたゆらせながら、すっとその手を振り上げた。

 鮮やかに艶やかに。蛇の破壊の一撃は八咫鏡(ヤタノカガミ)という名を冠する、全ての攻撃を跳ね返す鏡が無効化とした。そして、優美に神の右手より剣が舞った。

 その変幻自在なる霊剣は一振りで大蛇全ての首を切り落とし、そして最後の蛇ごと大蛇丸の体を貫く。

「く……こんなもので私がやられると……ッ!? そんな、まさかこれは十拳剣(トツカノツルギ)……!? そんな、そんなぁ!」

 十拳剣、それは酒刈太刀(サケガリノタチ)とも呼ばれる最強の封印剣であり、突き刺すだけで対象を酔夢の幻術世界に誘うという。長いこと大蛇丸が追い求め、遂に手にすることが叶わなかった剣であった。

「終わりだ」

 凛とした声で、玲瓏たる美貌の美女はそう宣言した。

「イ、イ、イタチィイィイイイイーーー!!!」

 その絶叫こそが、伝説の三忍の1人と呼ばれた、音隠れの創設者、大蛇丸の最期であった。

 

 そして後に残ったのは……。

 ボロボロに擦り切れ、衰弱した宿主だった男、それだけだった。

 

 

 * * *

 

 

 ―――――嗚呼、之で良い。

 

 遠くなる思考で男は思う。

(誇れよ、お前はオレという里の脅威から木の葉を守ったんだ)

 それはとても満ち足りた気持ちで、知らず男は里を3度に渡り救った英雄たる女を思って微笑んだ。

 

 ……呪いに必死になって抗ってきたとはいえ、元よりうちはシスイに呪いに対する抵抗力など殆ど無い。

 内部から大蛇丸の細胞干渉を受けてきたこの身は、誰に言われるまでもなく長持ちしないことはわかっていた。それに加え、4度に渡る別天神を使った代償であろうか、もう男の目は碌に見えてはいない。その結果を嘆く気持ちはないが、ただ、そこにイタチがいるというのに、その大好きだった顔さえ碌に見えないということが、残念だなと男は思った。

 誰かの叫び声はもう遠い。ナルトあたりが自分の名を呼んだ気もしたが、それが確かだったのかさえ曖昧だ。だと言うのに……。

 

「シスイ!」

 彼女の声だけが、こんなにも特別に響く。

 

 イタチは、先ほどまでの凛とした声ではなく、どこか不安を滲ませたような声を上げながら、自分の元へと駆け寄ってくる。その様に、そんなに慌てなくていいのに、と男はどこか遠い思考で思う。

「……シスイ」

 どうやらイタチにもこの身が永くはないことがわかったのであろう。一度彼女は息を飲み込むと、それからそっと囁くような声で男の名を呼んで、それからその頭を抱きかかえ、己の膝の上に乗せた。

 ……柔らかい香りがする。

 嗚呼、イタチの匂いだとそう彼は思った。

 そして、ゆらりと、焦点の定まらぬ目のまま、青年はその指を女の白い頬へと伸ばす。

「この眼……お前にやる」

 その言葉に女は再び息を飲み込んだ。そんな女の気持ちを知ってか知らずか夢見心地のまま男は静かに微笑んだ。

「……この眼があったら、お前が……失明することはない。万華鏡は……永久に輝く……オレはさ…………お前の、眼でありたい……」

 女に答えはない。ただ、震える指を自分の頬に沿わされている男の手に重ねているだけだ。けれど、それを赦しだと思って、シスイは言葉を続ける。

「……お前がさ、治める木の葉を……オレは、お前の眼になって、ずっと見守るんだ……。子供……達は、理不尽に死んだり……しなくて、笑って、お前も、サスケちゃんも、ずっと……なぁ、それって、とても……素敵だとは思わないか?」

 そうして一筋の涙をこぼして、男は本当に幸せそうに微笑んだ。

 フルフルと女は首を横に振る。

「……お前は勝手だ。そんなもの、自分の目で、見ればいいだろう」

 震える声はいつもの彼女らしくなくて、でもその言葉に応えるわけにはいかなくて、ゆっくりと今度は男が首を左右に振った。そして、言った。

「…………もう、見えない。お前の顔も……わからない」

「……!」

 息が詰まる。そんな女の髪にそっと手を伸ばして、男はその黒髪を梳きながら、優しく静かな声で、再び言葉を重ねる。

「だから……頼むよ、貰ってくれ……」

「シスイ……私は」

 ポタリと、男の頬の上に暖かい滴がこぼれ落ちる。泣いている。あの、イタチが自分のために泣いているのかと、シスイはおぼろげな思考で思う。

(どうしてだろうな、オレはお前の泣き顔なんて絶対見たくないとそう思っていたのに)

 なのに、今はその涙がなによりも嬉しい。

 イタチに言われるまでもない。本当に酷い男だ。でもきっと世界一の幸せ者なんだろうと、そう男は霞む思考で思った。

 やがて女は、低く擦れた声で、万感の想いを吐き出すようにその言葉を口にした。

「お前を愛している」

「……俺もだ」

 そう言って、男は笑った。それは、まるで春の木漏れ日のような無色透明の微笑みだった。

 

 ―――――そう、愛していたんだ。ずっと目を反らしてきたけれど。でもだからこそ、キスをするよりも、抱き合うよりも、オレはお前の一部になりたい。

 

 遠い、思考が霞む。全てが朧気になる。もう何も見えない。声は聞こえない。闇が迫る。

 でもこんな時だからこそわかるものもあった。

 三代目が何度も口にして、『あいつ』もまた何より大切にしていた、木の葉の『火の意志』。その意味も、人々の営みも、もう見ることは叶わないけれど、理解した今はこんなにも愛おしい。

 ―――――嗚呼、なんだ、オレという奴はちゃんと木の葉を愛せていたんじゃないか。

 漸くわかった、答え。

 そっと手を伸ばす。

 それはまるで天を掴もうとするように、これから里を背負う愛しい女を笑って送り出せるように。

 ずっと焦がれ続けてきたその光に届くように。

 

「なぁ、木の葉に火は芽吹いているか……?」

 その言葉が最期だった。

 青年は『うちはシスイ』になってからの24年の人生において、またうちはシスイとしての27年の生涯に置いて、それを最期に永久に息を止めた。

 

 人々の慟哭が森を打つ。犯罪者と呼ばれた青年と木の葉を三度に渡り救った女とのその別れを前に、誰1人……たとえ詳しい事情を知らぬものさえ、誰も声をかけることは叶わなかった。

 告げる言葉なんて、あの光景だけで全てで、答えだった。

 チョウジとナルトはボロボロと泣き出し、アスマはそっと顔を伏せる。サクラは痛ましげに己の肩を抱きながら顔を伏せて、カカシはぽんとナルトの肩を宥めている。いのは苦しそうに元自分の上司であった男を見上げ、シカマルは無言で瞼を伏せることで追悼とした。そして、かつてシスイ班だった3人のリーダー格であった暗部の女性は、面をつけたまま、嗚咽すら漏らさず泣いていた。

 そしてうちはイタチは、涙を流しながら、今はもう冷たくなった男の体をずっと抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――夢を見ていたんだ。永い永い夢を。

 

 木漏れ日が木の葉の里を柔らかく照らしている。そんな中で、オレは1人ぽつんと佇んでいる。どうして此処にいるんだろう。今までどうしていたんだろう。不思議と思い出せないけれど、なんだか胸が温かくて、ふわふわとした気持ちのまま、オレは里の中を歩く。

 

『ああ、お兄ちゃんもうお昼だよ。もうあんまりお父さんやお母さんを待たせたら駄目なんだからね』

 そういって妹が微笑む。その向こうには『こちら』と『向こう』の両親どちらもが揃って、オレを見て笑っている。オレは、そんな風に、わざとふくれっ面を作りながら可愛らしく言う妹が微笑ましくて、ついつい『ごめんごめん』と笑いながら、その長い黒髪をそっと撫でた。そんなオレを前に妹が言う。

『もう、それで誤魔化せると思っちゃって。みんな来ているんだよ、あんまり待たせたら駄目なんだからね』

 そうやって妹に連れられ、案内された先には、おさげ頭が印象的なくノ一の少女と、まるで父親みたいだった上忍の先生と、金髪が眩しいかつて親友と呼んだ少年の姿があった。

『よ、シスイお疲れさん』

 振り返ると妹の姿はもうない。少年はニッカリと夏の太陽のような笑みを浮かべると、オレの手を取って駆け出しながら悪戯気に言う。

『ここからは俺が案内してやるよ』

 角を曲がると、色んな人々が笑ってオレを出迎えてくれた。それはアスマ先輩だったり、イビキ先輩だったり、ナルトだったり、煎餅屋のおばちゃんや、フガクさんにミコトさんの姿もあった。

 そして、その角で、1人の少女がオレに抱きつく。

『シスイ先生、お疲れ様!』

 お転婆な少女はコロコロと笑って言う。その後ろにはいつも通りのっぽの少年とややぽっちゃりとした少年が、少女の行動に苦笑しながら見守っていた。その頭を撫でてやると、少女は『先生、こっちこっち』とオレの手を引いた。もう金髪の少年はどこにもいない。

 そんな風にニコニコ笑ってオレの手を引く少女に向かってオレは言う。

『どこに行くんだ?』

『今はひーみーつ』

 そう言って笑っている姿が昔と何も変わって無くて、オレは懐かしい気分になりながら、くしゃりと彼女の頭を撫でた。少女は一瞬驚くと、次いで『えへへへ』と締まりのない顔で笑って、うちはの集落への道を歩いて行った。

『ほら、此処だよ! ずっと待ってたんだから、これ以上待たせたら駄目なんだからね!』

 そういって門へとオレを突き出した。

『先生、頑張って』

 その言葉を最後に、振り返るとやはり彼女の姿は消えていた。

 

 そして……。

 そこには1人の女がいた。

 木漏れ日の中、自身と顔立ちがよく似た少年の相手をしている。

 いつもは凛とした表情をしていることが多いというのに、その顔は優しく和らげで、象牙の肌に1つに結わえた艶やかな黒髪が美しく映えている。楚々とした立ち姿はまるで一枚の絵のように優雅でとても綺麗で……ふと、彼女がその切れ長の黒曜石の瞳をオレへと向ける。そして、まるで桜の花のように微笑った。

 

 肉厚の唇がオレの名前を描く。そして、その笑みをそのままに、その白魚のような手をオレに差し出して、彼女は柔らかい声でその魔法の言葉を口にした。

『おかえり』

『ああ、ただいま』

 2人、手を繋いで歩く。優しい日差しの中、花は咲き乱れ、子供達の笑い声が響く。そして、どちらともなく笑って指を絡めた。

 どうしようもなく、それが幸せで、どうしようもなく嬉しくて、笑いながらにオレは涙をこぼす。

 

 そうだ、オレはずっとこんな光景を見たいと思っていたんだ。

 長い長い道のりだった。気が遠くなるほどに。

 嗚呼、そうか。求めていたものはこんなに近くにあったのか。

 

 ずっと、ずっといつまでも、笑っていよう。もう何も悲しむことも嘆くこともない。

 彼女がいて、自分が此処にいる。ならそれだけで全てだった。

 

 

 そう、此処は終着、いつかの約束の場所。

 彼の夢が終わる日はもう来ない。

 

 

 

 

 完

 

 

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 というわけで最終回でした。ここまでご覧いただき続者の皆様方にはまずは感謝申し上げます。当作品にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
 あと、最終回ですので、色々ぶっちゃけようかなと思っています。
 元々僕がこの「うちはシスイ憑依伝」という話を執筆したのはイタチがメインでイタチが火影になる話はないのかと探してみて見つからなかったのが切っ掛けです。
 で、それのどこにシスイ憑依やイタチTSに繋がるんだよと言われそうですが、イタチTSについてはあれだよ……気付いたらプロットの中でナチュラルにTSしてたんだよ。いや、イタチ関係で何かいい二次ないのかなあと漁ってみたところ、ニコニコ動画にですね、イタチの顔の線消してみた動画があってですね、見ているうちにあんまりに美し過ぎて「イタチは兄さんじゃなくて姉さんだったのか」と血迷ったら気付いたら作品構想の中でナチュラルに女になってたんよ、
 俺、創作する際はイメージ映像を頭の中でぼやーと映画見るみたいに湧いてくるタイプの妄想家で、考えて書くというより感じ取って、そのイメージを出来るだけ文字という媒体で再現するタイプなので、一度TSイメージつくとそれを取り外して話とか構成作れなかったんですわ。
 んで、なんでシスイに憑依させたのかというと、なんていうか脳内で「イタチ火影になる話ないのか」ともやもや思ってたら気付いたらシスイさん憑依話になってたんだよ。なんでかなんて理由は俺自身が1番よくわからないよ。
 因みに初めは、なろうでも未完の連載作抱えているため、続編書く予定なかったんですが、本編2話書いている途中くらいに続編の構成も殆ど脳内で出来上がってしまってだな……まともに連載したらエタるのがオチだが、折角脳内に湧いたのに捨てるのも勿体ないかなとダイジェスト進行でのせようかなと思いました。
 といっても、最初は本編は6万文字もあれば完結するかなー、続編は1万5000文字あれば充分だろと高をくくってた結果、気付けばその倍以上の文量になってしまったのですが、なんてこった。
 こんな長くなるとは俺が1番予想外でしたよ、ええマジで。中短編で終わると思ったのに。
 あと、まさかこの作品がここまで主人公×TSイタチでプラトニックラブロマンス化するなんて思ってませんでした。別に原作イタチのことは美しい人とは思ってても女々しい人とは思ったこと一度もないのになあ。おかしいな、イタチが火影になる話を見たいとは確かに思ってたけど、別にヒロインにする予定はなかったはずなのにな、なんでこうなったのだろう? しかし萌える。自分で書いておいて萌える。何この人可愛い。
 因みに主人公についてですが、突き抜けた馬鹿野郎のヤンデレシスコンのアホタレと思って書いていましたが、そこが好きで俺の中では愛すべき馬鹿ポジションでした。
 さて、この最終回については色んな思うところがあると思います。このエンディングはどうしようもなく主人公にとってはハッピーエンドですがそれ以外の人間に対してはそうでもなかったと思います。でもこれは主人公のための物語だからこれしかないと思っていました。
 けれど他の選択があったとしたら、それは18禁板に投稿したIFルート・ザ・ストーリーこそがもう1つの答えかなとは思っています。色んな意味で本編のアンチテーゼであり、鏡の裏側的存在として書きましたので、18歳以上の読者様でえろと主人公×TSイタチのCPに抵抗ない人は一度目を通すのもありなんじゃないでしょうか。
 さて、長々と申し上げましたが、ここまでお付き合いくださいまして皆様方ありがとうございました。思ったよりも人気が出たっぽくて作者本人が1番ビビりましたが、とても嬉しかったです。まさかマジで日刊ランキング一位を取れる日が来るなど思ってもいませんでした。
 それでは、またお会いする日まで。

 PS、挿絵機能が追加されたみたいですので、本編終了しましたし、オリキャラとかTS版イタチさんの纏めとイラストコーナーとか次回上げようかと目論んでいます。興味がある方は次回もお会いしましょう。

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