冷戦末期、東西陣営が覇権を争っていた頃、突如この世とは理(ことわり)の異なる異界――ダンジョン――が各地に出現した。半世紀が過ぎた今、ダンジョンは都市のインフラに完全に溶け込んでいる。魔物を倒すと得られる「魔石」が電気とガソリンに取って代わり、ニュースでは「ダンジョンでの行方不明者数」が天気予報と同じ無機質なトーンで読み上げられる。
物流センターのシステム保守を10年間担当してきた春山は、AI移行による人員整理で職を失い、ダンジョンの残骸を拾い集める清掃員(ハイエナ)として働き始める。手に入れたスキルは「メニュー高速化」—誰も見向きもしない能力だ。
しかし春山の目には、他の誰も気にしない「ズレ」が見えていた。
——魔石のドロップ位置が、地形と無関係に等間隔で並んでいる。魔法の余波が、毎回まったく同じ半径で止まる。魔物が死ぬとき、骨も血も残さず消える——まるで「オブジェクトの削除処理」のように。
10年間、誰も触れたがらない古いコードと格闘してきた春山には、これらの「現象」が別の言葉で見えていた。
誰にも頼まれていない。報酬もない。名前も残らない。それでも放置できない。
壊れたシステムを見過ごせない。それが10年間、保守員として働いてきた彼の矜持だった。
だから春山は、今日も迷宮へ向かう。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
物流センターのシステム保守を10年間担当してきた春山は、AI移行による人員整理で職を失い、ダンジョンの残骸を拾い集める清掃員(ハイエナ)として働き始める。手に入れたスキルは「メニュー高速化」—誰も見向きもしない能力だ。
しかし春山の目には、他の誰も気にしない「ズレ」が見えていた。
——魔石のドロップ位置が、地形と無関係に等間隔で並んでいる。魔法の余波が、毎回まったく同じ半径で止まる。魔物が死ぬとき、骨も血も残さず消える——まるで「オブジェクトの削除処理」のように。
10年間、誰も触れたがらない古いコードと格闘してきた春山には、これらの「現象」が別の言葉で見えていた。
誰にも頼まれていない。報酬もない。名前も残らない。それでも放置できない。
壊れたシステムを見過ごせない。それが10年間、保守員として働いてきた彼の矜持だった。
だから春山は、今日も迷宮へ向かう。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
- 第1話 標準語の余所者
- 第2話 時給2,000円のデッドライン
- 第3話 ゴミスキルの烙印
- 第4話 型落ちの軽という聖域
- 第5話 奇妙な既視感
- 第6話 エリートの残光
- 第7話 1フレームの実験
- 第8話 システムの悲鳴
- 第9話 デッドロック
- 第10話 0フレームの静寂
- 第11話 保守用コマンド
- 第12話 在庫管理の応用
- 第13話 不正積載
- 第14話 ハシゴ
- 第15話 グローブボックスの重み
- 幕間 残響のエラーログ
- 第16話 残業代は魔石で
- 第17話 透明な壁の向こう側
- 第18話 軽自動車の「ストレージ」
- 第19話 オフサイト・バックアップ
- 第20話 死神の行進
- 第21話 管理局の揺さぶり
- 第22話 強制アサイン
- 第23話 0フレームの静寂、再び
- 第24話 パケット解析
- 第25話 沈黙の報酬
- 第26話 スタック・ラグ
- 第27話 偽りの鑑定眼
- 第28話 スタック・エラー
- 第29話 オーバーレイ・プロトコル
- 第30話 解凍された記憶
- 第31話 エネルギーという名の死骸
- 第32話 サービス終了の予感
- 第33話 メモリリーク・ゴースト
- 第34話 パッチの当たらない明日
- 第35話 例外の送出(エクセプション)
- 幕間 遠き夏の残光(アーカイブ)
- 第36話 残響の解析(トレース)
- 第37話 物理の綻び
- 第38話 聖域と「黄金の壁紙」
- 第39話 独占権の証明
- 第40話 聖域のアイコン
- 第41話 暗転
- 第42話 座標の跳躍(グリッチ・ジャンプ)
- 第43話 剥き出しのサーバー室
- 第44話 先行者の指紋
- 第45話 解釈の不一致
- 第46話 アーカイブの重圧
- 第47話 残された「遺言」
- 第48話 再上昇
- 第49話 孤独なデバッガーたち
- 第50話 最深部へのコンパイル
- 第51話 最適解の墓標
- 第52話 プロトコル・オーバーライド
- 第53話 物理的限界(サーマル・ランウェイ)
- 第54話 不要ログのパージ
- 第55話 拒絶の核心(デッドロック)
- 第56話 シャットダウンの静寂
- 第57話 人体バイパス
- 第58話 1フレームの未来
- 第59話 仕様の継続(ポスト・メンテナンス)
- 第60話 保守継続(メンテナンス・オンゴーイング)