【星図】
第二部では旧自由惑星同盟領を中心に戦域が広がります。本作での星系の位置関係を確認したい方はこちらの星図をご参照ください。
【挿絵表示】
※原作小説やゲーム『銀河英雄伝説IV』の星図などを参考にしていますが、本作独自の補完や配置も含んでおり、公式の星図ではありません。星系間の位置・航路は概略で、全星系・全航路を網羅するものではなく、実距離・縮尺を示すものでもありません。掲載している国章も独自設定であり公式ではありません。
第五十四話「クリュプタ」
かつて、名前ではなく符号で呼ばれる少年たちがいた。
何を好きだったのかを忘れ、それでも失くしてはいけないものはまだどこかに残していた。
一人は、人を見ることを憶えていた。
一人は、記録を読むことを憶えていた。
その夜に残したものが、長い時を越えて残光を曳くことを二人はまだ知らない。
***
【新帝国暦十二年頃 ヴァルテンベルク星系・惑星カールシュタット テラ・マーテル教団『聖園』 クリュプタ】
ローエングラム朝銀河帝国と神聖黄金樹教国の開戦の日から、十余年を遡る。
クリュプタがその日の控えを揃え終えたのは、夕刻の教程を知らせる鐘が鳴る少し前だった。
机の上には数十人分の記録が並んでいた。入所した日、現在の階梯、
そこに記された数字と符号の意味は教えられていたが、それが何のために必要なのかまで説明されたことはなかった。
最後から三枚目を手に取ったところで、クリュプタは指を止めた。昨日まで続いていたある子供の記録が途中で終わっていた。教官は番号だけを確認した。
「クリュプタ。そこは閉じなさい」
「終了ですか」
「閉じなさい」
クリュプタはそれ以上訊かず、終了を示す符号を入れた。処理済みの束へ移す前にもう一度だけ番号を見た。昨日までその子は食堂で二つ向こうの席にいたが、それ以上のことは思い出せなかった。
夕刻の教程へ向かう途中、その子が朝まで使っていた寝台に別の子供が座っているのを見た。今日入ってきたばかりらしく、衣服の留め方を何度も間違えている。その前に年上の少年がしゃがんだ。
「そこ、逆だ。こっちが先」
子供が直すと少年は頷いた。
「そう。それでいい。早く憶えろよ」
『ヨーリク』という符号で呼ばれている少年だった。本来なら子供が手順を誤った場合は教官へ報告するが、ヨーリクは直させただけで何も言わなかった。
「ヨーリク」
教官の声が飛ぶと少年は立ち上がった。
「何をしているのです」
「何もしておりません」
「教程へ向かいなさい」
「はい、先生」
素直に返事をし、教官が角を曲がったところで小さく息を吐いた。
「……クソが。いちいち見てんじゃねえよ」
「聞こえますよ」
隣を歩いていたクリュプタが言うと、ヨーリクは横目で見た。
「聞こえねえように言ってんだよ」
「私は聞こえました」
「お前が近いからだろ」
それだけ言ってヨーリクは少し歩調を速めた。廊下の先ではさきほどの新入りが教官に呼び止められている。衣服の留め具がまた外れていた。
ヨーリクは一度だけ足を止め、教官がこちらへ顔を向ける前にクリュプタの腕を軽く引いた。
「行くぞ」
ヨーリクは振り返らなかった。
「次は、自分でできるようになる」
その言い方は子供を信じているというより、そうであってほしいと願っているようにも聞こえた。
***
翌日、クリュプタは昨日のことをヨーリクに訊いた。
「なぜ先生に報告しなかったのですか」
「何をだ」
「新しく来た子供が間違えていました」
ヨーリクは昨日の子供のことを思い出したらしい。
「直っただろ」
「誤りはありました」
「だから直しただろ」
「報告の対象です」
「入ったばっかの奴の間違い、いちいち残してどうすんだよ」
クリュプタにはその考え方がよく分からなかった。
「記録されると、何か問題があるのですか?」
「知らねえよ」
ヨーリクは面倒そうに顔をしかめた。
「でも、残さなくていいもんまで残すことねえだろ」
その日の終わり、教官からヨーリクと何を話していたのか訊かれた。
クリュプタは「教程の内容を確認していました」とだけ答えた。
嘘ではない。
ヨーリクは意外そうな顔をしたが、何も言わなかった。
ある日、食堂で二人掛けのテーブルに座っていたヨーリクが、クリュプタに声をかけた。
「おい。ここ、空いてるぞ。座れよ」
「指定席ではありません」
「だからいいんだろ。座れ」
「先生からそこに座ってよいという指示もありません」
ヨーリクはしばらくクリュプタを見た。
「お前、ほんっと面倒くせえ奴だな」
「禁止されていないか確認しているだけです」
「席、空いてる。お前、座る。誰も困らない。終わり」
その理屈なら禁止されているわけではない。
クリュプタが向かいへ座ると、ヨーリクは少しだけ笑った。
「そうそう。そういうのでいいんだ」
食事が運ばれてくるとヨーリクは自分の皿を見てからクリュプタの皿を見た。同じ献立だった。
「ところで昨日の奴、飯食えてたか?」
「記録では確認していません」
「そうじゃない。見たか?」
クリュプタは思い出した。あの子供は匙を何度も持ち替え、半分ほど残していた。
「十分には食べていなかったと思います」
「そうか」
ヨーリクはそれ以上言わなかった。
翌日、食堂で新入りの席を通り過ぎるとき、ヨーリクは匙の持ち方を一度だけ直してやった。教官の目が離れたところで、必要なことだけをする。
クリュプタにはそのやり方が少しずつ分かり始めていた。
それからしばらく二人が同じ食卓や教程で顔を合わせることが続いた。
***
クリュプタとヨーリクは、同じ教程に組まれるようになっていた。
ヨーリクは資料に書かれていないものをよく見つけた。
巡回者の視線や歩調、立ち止まる場所。教官が報告書を読むときだけ右手で机を叩く癖。警備員が毎回同じ端末を確認すること。
その日の教程は、施設内の指定地点まで監視に見つからずに移動する実地課題だった。
経路は自由で、途中の扉や監視装置にはこれまでに習った知識を使ってよい。ただし、巡回者まで予定どおりに動くとは限らなかった。
クリュプタが予定表どおりの経路を選ぶとヨーリクは首を振った。
「そっちは駄目だ」
「監視者は三分後まで反対側にいます」
「戻ってくる」
「予定では戻りません」
「予定じゃねえ。あいつを見ろ。さっきから何度も後ろ気にしてる」
一分も経たないうちにその監視者は予定表とは違う方向から戻ってきた。二人は物陰に隠れ、通り過ぎるのを待った。
「な?」
「なぜ分かったのですか」
「見てたからだ」
「私も見ていました」
「お前は端末の予定表を見てただけだろ。俺はあいつを見てた」
逆に、ヨーリクが保守扉の前で止まったときは、クリュプタが端末を開いた。
「閉まってる」
「昨日の点検で一時開放されていただけです」
「開けられるか?」
「できます」
数秒後、施錠表示が消えた。ヨーリクが扉を押しながら言った。
「すげえな。こういうの、お前の方がずっと早いな」
「人間の行動を読むのは、あなたの方がずっと早いです」
ヨーリクは一瞬黙った。
「……何だよ。ちょっといい話みたいになってんじゃねえか」
「事実を述べただけです」
「お前は台無しにすんの早えな!」
***
ある教程で、クリュプタが端末操作に時間をかけすぎたことがあった。
規定時間を過ぎれば、教官が操作を打ち切って減点する。
終了時刻が近づき教官がこちらへ歩いてきたとき、ヨーリクはわざと別の扉を開けようとして警告音を鳴らした。
教官がそちらへ向いた数秒でクリュプタは操作を終えた。
教程後、クリュプタは訊いた。
「なぜ、警告音を鳴らしたのですか」
「手ぇ滑った」
「意図的でした」
「証拠あんの?」
「あります。あなたは開閉部ではなく警告端末を押しました」
ヨーリクはしばらく黙った。
「……じゃあ黙っとけ」
「なぜですか」
「お前が間に合った。それでいいだろ」
***
ある夜、食堂でヨーリクが訊いた。
「お前、何が好き?」
クリュプタには質問の意味は分かったが、答えが出なかった。
「分かりません」
ヨーリクは最初、質問を理解していないのだと思ったらしい。
甘いものでも、服でも、遊びでも何でもいいと言い直した。
「好きな食いもんとか、何かあるだろ」
以前は甘いものを好んだ時期があった。手触りのよい布を気に入っていたこともある。
けれど、好きだと分かると、それはしばらくして教団から与えられなくなった。同じことが何度か続き、何を好んでいたのか考えない方が簡単になった。
「何度かそうなったので。今はもう分かりません」
ヨーリクは黙った。いつもならすぐに何か返すのに、そのときだけは何も言わなかった。やがて口を開いた。
「……外じゃ、自分で何でも選べるぞ」
「必要なものを配らないのですか」
「必要かどうかじゃねえ。自分が欲しいもんを選ぶんだよ」
「欲しいものが複数ある場合は」
「自分で決めるんだ」
「必要性の高い方を?」
「違う。自分が好きな方だよ」
ヨーリクは外に店というものがあり、並んでいるものから選んで買うのだと説明した。クリュプタにはその仕組みよりも、選んだものが翌日取り上げられないという方が理解しにくかった。
「外では、好きだと分かってもなくならないのですか」
「普通はな」
「なぜですか」
「何でって……自分のだからだろ」
クリュプタにはまだよく分からなかった。ヨーリクは苛立った顔をしたが、その苛立ちがクリュプタへ向いていないことだけは分かった。
その日の食事には小さな焼き菓子が一つ付いていた。クリュプタが手をつけずにいると、ヨーリクが言った。
「食わねえの?」
「必要性が低いので、最後にします」
「じゃあ俺が食うぞ」
クリュプタは皿を少し引いた。
ヨーリクが笑った。
「そう、それが好きってことだ。忘れんなよ」
「順序を変更したくないだけです」
「はいはい」
結局、クリュプタは焼き菓子を食べた。
甘かった。
ヨーリクは何も言わなかった。
***
同じころ、二人は同室になった。
夜、クリュプタが「ヨーリク」と呼ぶと、少年は露骨に嫌な顔をした。
「お前さ、二人んときまでその『符号』で呼ぶのやめろよ」
「では、何と呼べばいいですか」
「呼ばなくていい」
「呼ぶ必要がある場合は」
「二人しかいねえだろ」
「それでも呼びかけが必要な場合があります」
ヨーリクは天井を見た。
「……袖でも引っ張れ」
クリュプタはすぐに袖を引いた。
「今やるなよ!」
ヨーリクが声を押し殺して怒った。
「では、必要なときはこれでよいのですね」
「そういう意味じゃ――いや、もういい」
それから二人きりのとき、クリュプタは以前ほどヨーリクを呼ばなくなった。相手は一人しかいないので、大半の用事は名前がなくても済んだ。
しばらくして、クリュプタは訊いた。
「聖園に来る前の名前、あったのですか」
ヨーリクは一瞬だけ黙った。
「あった。というか、ある。けど言わねえ」
「なぜですか」
「言いたくねえから」
「分かりました」
クリュプタがそれ以上訊かなかったので、今度はヨーリクの方が意外そうな顔をした。
「え?それで終わり?」
「言いたくないのでしょう」
「……まあ、そうだけど」
「では終わりです」
ヨーリクは寝台へ倒れ込み、しばらくして小さく笑った。
***
やがてヨーリクは外周の監視に短い切れ目があることに気づいた。
内部側の監視範囲と外側の管理員が受け持つ区域の境目だった。搬送機器がそこを通ると、監視装置も一度だけ別の方向を向く。
クリュプタが設備記録を照合すると、その短い時間だけ外周へ至る経路が完全には記録されない可能性があった。
ただしそこへ行くまでには保守扉がある。通常は開かず、実際に開ければ記録が残る。ヨーリクだけでは扉を抜けられず、クリュプタだけでは監視の切れ目に気づかなかった。
「試さないのですか」
「一回使ったら終わりだろ」
「なぜですか」
「聖園から誰か消えたら、どこで見失ったか調べる」
ヨーリクは外周図の一点を指した。
「穴ってのは使う前が一番でけえんだよ。一回使ったらもう穴じゃねえ」
「では、いつ使うのですか」
「知らねえ」
「目的が決まっていないのに調べるのですか」
「遊びだよ。暇つぶしだ」
***
別の夜、ヨーリクに聖園へ来る前の記憶を訊かれた。
ほとんど何も残っていない。ただ、何か大きくて柔らかいものに包まれていた感覚と、声だけがあった。
「……マイン・クライナー」
ヨーリクが眉を寄せた。
「それ、誰に言われた」
「分かりません」
「男?女?」
「分かりません」
「どこで?」
「分かりません」
「意味は」
「知りません。教官に訊けば――」
「駄目だ!」
ヨーリクの返事は早かった。
「絶対言うな、それ」
「なぜですか?」
ヨーリクは苛立ったように髪を掻いた。
「あいつらがくれたもんじゃねえだろ」
「はい」
「ここで教わった言葉でもない。ここへ来る前から、お前ん中に残ってたやつだ」
「はい」
「だったらお前のもんだ。あいつらには渡すな」
クリュプタはしばらく考えた。
「意味も分かりません」
「知らねえよ」
「では、大事かどうかも分かりません」
ヨーリクは声を強めた。
「知らねえけど、大事なものは大事だから、大事なんだよ!」
クリュプタは顔を上げた。
「クソ、俺もよく説明できねえ。でも、好きだったもん、どんどん分かんなくなってきてるだろ」
クリュプタは答えなかった。
「わかるよ。俺もそうだ」
ヨーリクは間を置いた。
「だったら、残ってるもんまで自分から渡すな」
「私はこの言葉が好きなわけではありません」
「そういう話じゃねえって」
ヨーリクは小さく息を吐いた。
「今は分かんなくてもいい。あとで分かるかもしれねえだろ」
クリュプタは頷いた。
「教官には言いません」
「記録にも書くな」
「はい」
「誰にもだぞ」
「はい」
「……よし」
二人はまた、机の上の設備図へ戻った。
***
最終教程では、相手が教団へ申告していない事実を一つ取得し、教官へ提出するよう命じられた。
ヨーリクの相手はクリュプタ、クリュプタの相手はヨーリクだった。
提出は一件でよい。ただし、相手についてすでに知っている未申告事項を意図的に伏せた場合、それも評価の対象になる。
方法に制限はなく『刃の教程』で学んだ技を駆使して、相手が秘匿している事実を開示させる。
対象との関係を理由に手段を緩めたと判断された場合はその時点で評価は終了する。
組合せは偶然とは思えなかった。同部屋の者同士が組まれていた。
部屋へ戻るとしばらく二人とも話さなかった。
クリュプタはヨーリクが教団へ報告していない事実を一つ知っている。
外周の監視に生じる切れ目だった。
「監視の穴を報告すれば、提出条件は満たせます」
ヨーリクは机に腰をかけたままこちらを見た。
「言うのか」
「条件には合っています」
「そうか」
ヨーリクは止めなかった。その反応が予想と違ったので、クリュプタは考えた。
「報告してほしいのですか」
「俺が決めることじゃねえ」
ヨーリクはそう言って視線を外した。
一方、ヨーリクがクリュプタについて提出できる未申告事項もあった。
「では、あなたは『マイン・クライナー』の件を報告してください。残っている記憶があったことを私は申告していません」
ヨーリクが顔を上げた。
「駄目だ」
返答は一瞬だった。
「条件を満たします」
「駄目だって言ってんだろ」
「監視の穴の話より、教団へ知られた場合の影響は小さいと思います」
「知らねえよ」
「あなたの評価が――」
「いらねえよ、そんなもん!」
声が大きくなり、ヨーリクは扉の方を見た。誰も来ないことを確かめてから声を落とした。
「それは絶対出すなって前に言っただろ」
「今回は最終教程です」
「だから何だ」
クリュプタは答えなかった。
ヨーリクはしばらく苛立った顔をしていたが、やがて息を吐いた。
「お前が穴を言うかどうかは、お前が決めろ。でも、俺はお前から訊いたことは出さねえ」
「なぜですか」
「前に言った」
それ以上は説明しなかった。
今度はヨーリクが言った。
「でも、絶対に手ぇ抜くなよ」
「はい」
「あいつらは甘くねえ。仲いいからやれませんでした、なんて少しでも思われたら終わりだ」
クリュプタにも分かっていた。
「あなたもです」
「分かってる」
ヨーリクはそれだけ言った。
翌日、先に対象となったのはクリュプタだった。
最初は質問だった。
教官へ報告していないこと、隠しているもの、外周設備について知っていること。
やがて方法が変わった。
何をされたかは後になっても細かく思い出さなかった。
ただ、長かったことと、途中で水を置かれた回数、それから照明が一度だけ暗くなったことは憶えている。
ヨーリクは手を抜かなかった。
途中でヨーリクの手が止まったことが一度あった。
「緩めないでください」
クリュプタは呼吸を整えた。
「見られています」
ヨーリクはしばらくこちらを見た。
「分かってる」
それから続けた。
終了を告げられたときクリュプタは立てなかった。
やがて立場が逆になった。
今度はクリュプタがヨーリクの反応を見ながら手順を進めた。質問の範囲は広く取った。過去の記憶、教官へ報告していない出来事、誰にも話していない言葉。
あるところで、ヨーリクの呼吸が大きく乱れた。
クリュプタが手を止めると、ヨーリクが掠れた声を出した。
「……続けろ。緩めんな」
「許容範囲を超えます」
「まだ超えてねえよ。全然平気だ」
クリュプタは動かなかった。ヨーリクは何度か息を整えようとして、それから目を開けた。
「いいからさっさとやれ」
それでも迷っていると、ヨーリクが言った。
「俺が止めろって言うまで、絶対に止めんな」
クリュプタは続けた。
ヨーリクは最後まで、『マイン・クライナー』については口にしなかった。
教程が終わり部屋へ戻ってからも二人はしばらく何も話さなかった。いや、話せなかった。
クリュプタが水を取ろうとしたとき、腕がうまく上がらなかった。
ヨーリクは見ていたが手を貸さなかった。
ようやく水差しを取ったが中身はもう空だった。
ヨーリクは無言で自分の水差しを寝台の間へ押した。
「それはあなたの水です」
「俺はもういらない」
クリュプタは何も言わず、一口だけ飲んだ。
そのあと水差しを元の位置へ戻した。
「全部飲め」
「あなたにも必要です」
ヨーリクは黙った。
「……じゃあ半分ずつだ」
それで話は終わった。
消灯後、向かいの寝台から声がした。
「言わなかったな」
何についてかは確認しなかった。
「あなたもです」
二人とも、相手が最後まで隠したものを教団へ渡すことはできなかった。
***
翌日、教官は二人の技術に問題はないと言った。
対象の状態把握、圧力の段階調整、質問の組立てはいずれも基準を満たしており、二人とも相手へ十分な圧力を加えていた。
「ですが提出しなかった事実がありますね」
教官は記録を一枚繰った。
「お二人はとても仲がよいのですね」
「クリュプタは安定しています」
さらに一枚、記録をめくった。
「ヨーリクは、まだ調律が要るようです」
その言葉の意味を、クリュプタは特に考えなかった。
午後、クリュプタが記録室で最終教程後の一覧を処理していると、自分の符号を見つけた。次欄には、教程名ではなく別の文字があった。
『選別』
実施予定は翌朝になっていた。そのすぐ下にヨーリクの記録があった。
『調律・第二相処置』
こちらも翌朝だった。
クリュプタはその文字を見たまま、しばらく動かなかった。過去の記録を開いた。選別の処置を受けた子供たちは、全員その後の教程へ戻っていない。
だが、『第二相処置』という記載はどこにも見つからなかった。
部屋へ戻り、ヨーリクへ記録の内容を伝えた。
「お前は選別か。俺は?」
「調律・第二相処置、とありました」
ヨーリクが眉を寄せた。
「……なんだそれは」
「初めて見ました」
「調律は?」
「処置名としては見たことがあります。第二相処置は初めて見ました」
ヨーリクは数秒だけ黙った。それから机の上の時計を見た。
「今日出るぞ」
二人が調べていた穴を使えるのは、深夜の保守資材が移動する短い時間だけだった。扉が開かなければそこで終わる。開いても外周の監視がいつもと同じ動きをする保証はない。一度痕跡を残せば二度目はない。
クリュプタが不確定な条件を並べると、ヨーリクは途中で止めた。
「明日の朝までここにいたらゼロだ」
その点には反論できなかった。
二人はこれまで作っていた簡略図を広げた。最初の扉はクリュプタが開ける。二枚目の前ではヨーリクが巡回者の動きを見る。最後の扉を抜けたあとはヨーリクが先に外周の監視を確認する。
「お前、走れるか?」
「教程の影響はありますが、可能です」
「無理なら言え」
「無理になってから報告します」
「その前に言えって」
ヨーリクは呆れた顔をした。
それから寝台の下へ手を入れ、金具の裏から小さな布包みを取り出した。
開くと、白い錠剤が並んでいた。
クリュプタは数えた。
「これは?」
「薬。飲まなかった分だ」
「いつからですか」
「毎回じゃねえ。たまに抜いた」
毎食、食事の終わりに配られるものだった。飲んだあとには口を開けるよう求められる。ヨーリクはその確認をときどき誤魔化し、少しずつ残していたらしい。
「投薬を中止すると症状が出ます」
「知ってる」
聖園では投薬を止めること自体が罰になることがあった。
薬を与えられなくなった子供は、一日ほどすると震え始めた。吐く者もいた。泣きながら投薬を求めた者もいる。
ヨーリクの話では、最初に一回分だけ抜いたときには何も起きなかった。別のときに二回続けても、大きな変化はなかったという。それ以上続けて抜くことはしなかった。症状が出れば、飲んでいないことまで知られる。
ヨーリクは錠剤を二人分に分けた。
「二人で何日分ですか」
「三日くらいは持つ」
「足りません」
「町まで持てばいい」
ヨーリクは簡略図の外側を指で叩いた。
「北西。三十何キロか先に町がある」
「なぜ知っているのですか」
「野外教程のとき、運転席の地図を見た」
「見てよかったのですか」
「今それを訊くか?」
輸送道路も同じ方向へ延びている。だがそこを歩けば、見つけてくれと言っているようなものだった。道路は使わない。
途中には野外教程で使った沢がある。飲める水だと教えられている。そこまでの分は二人の水差しから携行容器へ移し、沢で汲み直す。そこから森を抜けて町へ向かう。
「町に着いたあとは?」
「知らねえ」
「薬がなくなります」
「だから、そこから先は運だ」
ヨーリクは残った錠剤を包み直した。
「これが切れたら死ぬかもしれねえ。でも、ここにいたら明日の朝で終わりだ」
クリュプタは反論しなかった。
「合理的だと思います」
「お前にそう言われると、妙に安心するな」
「安心してよいとは言っていません」
「そういうところだよ」
最後にヨーリクは図面を細かく破って呑み込んだ。
持っていけば見つかったときに証拠になる、と言ったのはヨーリクだった。
「よし、全部記憶したな。じゃあ行くぞ」
***
最初の二枚の扉を抜け、二人は最後の扉の前まで来た。クリュプタが保守端末へ処理を送り、ヨーリクが扉へ手をかける。表示が変わり施錠灯が消えた。
「開きます」
二人で扉を押した。
「何秒だ」
「もう始まっています」
「先に言え!」
ヨーリクが先に身体を滑り込ませ、クリュプタも続いた。背後で扉が閉じた。
「十秒でした」
「今それいる?」
「次回の参考にします」
「次回なんかねえよ!」
そこから先はヨーリクが先に立った。搬送機器が内部側の監視者の前を通り、外周の監視装置が向きを変える。外側の管理員も端末へ目を落とした。
ヨーリクが動くと、クリュプタも後を追った。二人は監視の間を抜け、資材置場を横切った。車両が一台近づいたときにはコンテナの陰へ入り、通り過ぎるまで待った。敷地の端では保守作業のため柵の一部が開いていた。
「運いいな」
「今夜の保守予定では、あと数分開放されています」
ヨーリクが柵の向こうを確認した。
「よし、じゃあ行ける」
二人は柵を抜けた。聖園の外にも同じ夜があった。空気も地面も野外教程で知っているものと変わらない。
クリュプタは自分の足元を見た。柵の向こう側とこちら側で地面の色が変わっているわけではない。それでもここから先には戻れという命令がなかった。
「外へ出ました」
ヨーリクが振り返った。
「見りゃ分かる」
「成功しました」
ヨーリクは背後の施設を一度見た。
「まだだろ。行くぞ」
二人は聖園を背にして森へ入った。
しばらく進んでから、クリュプタが言った。
「北西ですね」
「ああ。道路には出るな。まず沢まで行く」
森を進みながら、クリュプタが訊いた。
「町へ着いたら、店というものへ行くのですか」
ヨーリクが笑った。
「店があったらな」
「何を買うのですか」
「お前が決めろよ」
「必要なものを?」
「違う。お前の好きなもんだ」
クリュプタは考えた。
「……何が好きなのか分かりません」
「じゃあ店に着いてから見ろ」
「見れば分かるのですか?」
「知らねえよ」
ヨーリクは前を向いた。
「でも、自分で迷って、選んで、試せばいいだろ。それが気に入らなかったら、次は別のもんを選べばいい」
***
二人は道路から離れ、森の中を北西へ進んだ。一度だけ輸送道路を遠くに見た。車両が何台か聖園の方へ走っていったので近づかなかった。
昼過ぎに沢へ着いた。野外教程のときと同じ場所だった。携行してきた水はほとんど残っていない。クリュプタが水を確認し、二人で容器を満たした。
ヨーリクは錠剤を一つ飲み、クリュプタにも渡した。そのまま森を進んだ。
***
異変が出たのは聖園を出て一昼夜近く経ってからだった。最初に手が震えたのはクリュプタだった。指先が細かく跳ね、錠剤の包みを開くのに二度失敗した。膝の裏から力が抜け、歩くたびに靴底が地面へ沈むような感覚があった。
少し遅れて、ヨーリクが汗を拭った。
「暑いですか」
「寒い」
答えた直後、ヨーリクが立ち止まった。クリュプタも止まる。風はないのに木々の上だけがざわめいている。クリュプタの耳の奥で脈が鳴った。
二人とも錠剤は忘れずに飲んでいた。時間も間違えていない。残りもある。
「……数が違っていましたか」
「違わねえ」
ヨーリクは布包みを開いた。何度数えても予定どおりだった。クリュプタは自分の脈を取った。速く、吐き気もある。遠くの枝の擦れる音が異様に大きく聞こえた。
「……離脱症状です」
「分かってる」
「ですが投薬は続けています」
「だから分かってるって」
ヨーリクの指も震え始めた。掌の中で錠剤がかすかに鳴る。クリュプタは最後に聖園の食事をとった時刻と、出発前後に飲んだ錠剤を順に思い返した。
そして、水。
最終教程の夜、自分の水差しが空だった。ヨーリクの水を半分もらった。
沢へ着くまでは聖園から持ち出した水を飲んでいた。昼過ぎ、沢で汲み直した。
野外教程でも沢の位置は教えられたが、聖園から持たされていた水筒の水も一緒に飲んでいた。
「……水ですね」
「ああ」
ヨーリクは手の中の錠剤を見た。
「……錠剤だけじゃねえ。水にも入ってたのか」
白い錠剤を握りしめた。
「クソが。配られてた水も一緒に飲まなきゃ、抑えらんねえってことか」
そのとき、森の奥で何かが鳴った。
低く長い音が地面の下を這い、足裏から脛へ上がってくる。いったん途切れた音が次に聞こえたときには、さっきより近かった。重い駆動音に、湿った土を潰す音と枝の折れる音が混じった。
ヨーリクがクリュプタの腕を掴んだ。
「伏せろ!」
二人は地面へ伏せた。息を殺そうとしても、喉が勝手に空気を求める。振動が土から肋骨へ伝わり、小石と枯れ葉がわずかに震えていた。
短い電子音が鳴った。
ピッ。
木々の向こうで駆動音が止まり、低い唸りだけが残った。枝の隙間から白い光が伸び、倒木の根元を照らしながらゆっくりこちらへ近づいてくる。
「動くな」
ヨーリクの声は息に近かった。
クリュプタは口を両手で塞いだ。吐き気が込み上げるなか、白い光が二人の少し手前を横切り、別の木の幹で止まった。
もう一度、電子音が鳴った。
何も起こらない。
やがて光が離れ、駆動音も別の方向へ動き始めた。ヨーリクはすぐには動かず、枝の折れる音が遠ざかるまで待った。
「今だ」
二人は地面を這うようにしてその場を離れた。最初の十数歩は走らず、木の幹を挟み、低木の陰を選んでできるだけ音を立てずに進んだ。背後ではまだ機械音がしている。
白い光が一度、木々の間を横切った。二人はその場で止まり、光が別の方向へ消えるのを待った。
ヨーリクが手を引いた。
今度は走った。
クリュプタの足がもつれると、ヨーリクが身体を支えた。
「静かに走れ」
無茶な要求だった。肺が焼け、吐き気が込み上げる。視界が揺れ、手足は冷たいのに汗だけが流れ続けた。それでも止まれなかった。
背後の機械音は遠ざかったり、また近づいたりした。こちらを追っているのか、それとも森を区画ごとに探しているだけなのか分からない。
二人は密生した木々の間を選んで進んだ。やがて駆動音が聞こえなくなったが、ヨーリクは足を止めなかった。
「まだいるぞ」
「聞こえません」
「だからだよ」
クリュプタは何も言わず、その後を追った。やがて川へ出た。二人は少し上流へ歩き、足跡が残っていないことを確かめてから水へ入った。
冷たい水が靴の中へ入り込む。下流へ進んだが、クリュプタは何度もつまずき、とうとう一度では立ち上がれなくなった。ヨーリクが手を貸した。
「歩けるか」
「まだ歩けます」
ヨーリクが川岸の向こうを見た。クリュプタも目を凝らした。遠くに白い光があった。川沿いに一つ、その向こうの輸送道路に二つ。
さらに離れた森の縁にも、ゆっくり動く光が見える。どれもこちらへ一直線に向かっているわけではなかった。互いに距離を取りながら、森と道路と川を少しずつ区切っている。
探している。
まだ見つかってはいない。
だが逃げられる場所を減らしている。
ヨーリクはしばらく光を見ていた。
「……急いでねえな」
クリュプタも同じことを考えていた。教団は知っているのだ。逃げた子供が、いつ歩けなくなるかを。
「……このままだともう歩けなくなるかもしれねえ」
クリュプタは答えなかった。ヨーリクは聖園のある方角を見た。
「でも戻ったら、お前は『選別』だ。俺は『調律』と『第二相処置』だ」
クリュプタは何も言わなかった。
「何されるかは分かんねえ。でもたぶん今のままの俺たちじゃ、戻ってこれねえ。それはわかる」
ヨーリクはクリュプタを見た。
「このまま外へ逃げられたとしても死ぬかもしれない。聖園に戻れば、今の自分じゃなくなるかもしれない。お前はどっち選ぶ?」
訊かれても答えは出なかった。生きたいのかと考えても強いものは浮かばない。死にたいわけでもない。クリュプタは教団へ戻りたいわけでも、何があっても外へ行きたいわけでもなかった。
「分かりません」
「……お前、どっちでもいいのか」
クリュプタは頷いた。
「はい」
口にしても特別おかしな答えだとは思わなかった。死ぬことにも、生き残ることにも、選別によって何かを失うことにも、決断を支えるほど強い執着がなかった。
ヨーリクは黙っていた。クリュプタを見たあと、川へ目を移した。何かを考えているようだったが何も訊き返さなかった。遠くでまた機械音がした。
やがて小さく息を吐いた。
「分かった」
クリュプタが顔を上げた。
「俺が選んでやる。お前は外に逃げろ」
「私のことを、あなたが決めるのですか?」
「そうだよ。お前に任せてたら決まんねえだろ」
「なぜ、外なのですか?」
ヨーリクは苛立ったように言った。
「今のお前がどっちでもいいって言うんなら、俺が決めてやる。どうなっても恨みっこなしだぜ」
ヨーリクは林の奥の方を指した。
「お前はそっちに逃げろ」
「なぜですか」
ヨーリクは少し笑った。
「言ったろ。俺がそう決めたからだ。後から文句は受け付けねえからな」
「死んだ場合は文句を言えませんが」
「……お前らしいな」
追跡機の光が木々の向こうを横切った。ヨーリクの表情が変わった。
「俺が奴らを引っ張る。お前は川から離れろ。町の場所はもう分かってるな」
「その後の合流地点は」
「決めねえ。俺を待つな」
「あなたは」
「自分で何とかする。お前は行け。俺は大丈夫だから」
人の声も近づいてきた。ヨーリクは川岸へ出ると、それまで避けていた柔らかい土をわざと踏み、枝を折った。
「俺が捕まったら、お前は死んだことにする」
「遺体がありません」
「川に流したって言う。外へ出るのにお前を使って、途中で邪魔になったから殺した。それでいい」
「信じるでしょうか」
「全部信じなくていい。死んだかもしれないって思わせりゃ追う奴が減るだろ」
白い光が川面をなぞった。ヨーリクがクリュプタの肩を押した。
「行け。早く」
クリュプタは数歩進み、振り返った。
「今度は何だよ」
呼ぶための名前がなかった。
「……後から文句は受け付けない、と言われました」
ヨーリクは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「ああ、言った」
「生きていたら、文句を言うかもしれません」
「好きにしろ」
追手の声が近づくと、その笑いが消えた。
「もう行け」
今度はクリュプタが頷いた。林の中を進んでしばらくすると、背後で大きな枝の折れる音がした。続いて石が斜面を転がり、追手の声と機械音がそちらへ動いていく。
クリュプタは振り返らなかった。
***
それからどこまで歩いたのかはよくわからない。
寒気と発汗が続き何度か転んだ。古い舗装路へ出たこと、水を飲もうとして容器を落としたこと、そのあと誰かの声を聞いたことだけが断片的に残っている。
次に目を開けたときは知らない天井があった。
それが保護されてから十一日目だったことを、クリュプタはずっと後に知った。
白い天井だったが聖園とは違った。照明の位置が揃っておらず、空調の音も一定ではない。
何人かから質問をされた。どこから来たのか。何を飲まされていたのか。誰と一緒だったのか。
答えられることには答えたが、途中で眠ってしまったこともあった。水を飲まされ、また眠った。腕に何かがつながれていたこともある。
やがて紙を渡された。いくつかの欄があり、氏名を書く場所だけは分かった。
クリュプタ、と書こうとして手が止まった。
それは聖園で使われていた『符号』だった。ほかに書ける名前はない。聖園へ来る前に自分が何と呼ばれていたのかも憶えていなかった。
ただ、言葉が一つだけ残っていた。
『マイン・クライナー』
誰の声だったのか、どのような想いが込められていたのかも分からない。
クライナー。
その音を頭の中で繰り返し、語尾を落とした。
クライン。
それを自分の名として書き、筆記具を置いた。
***
【新帝国暦二十三年十二月末 旧第七採掘航路 帝国軍総旗艦ブリュンヒルト】
そこでクラインは話を終えた。
皇帝の私室には艦の微かな振動だけが残った。帝国軍総旗艦ブリュンヒルトは教国圏内を抜け、旧第七採掘航路をジャムシード星系へ向けて進んでいる。
アレクはしばらく何も言わなかった。向かいにはクラインが座り、その横ではフェリックスが壁際に立っている。
「そのときの子が、ヨーリクか」
「はい」
フェリックスが腕を組んだ。
「建国放送で連中が言ってたな。聖王親衛艦隊、『守護天使《シュッツェンゲル》』といったか。艦隊司令の聖王守護ヨーリク。確認できているのはそこまでか」
アレクがクラインを見る。
「知っているヨーリクと、同じ男だと思うか」
「分かりません。建国放送では顔も声も出ませんでした」
クラインが最後に見たヨーリクの記録では、〈調律・第二相処置〉なる措置が予定されていた。その後に何が起きたのかは知らない。
捕まったのか、自分から戻ったのか、それとも一度は逃げ切ったのか。その後の十余年について、クラインは何も知らなかった。
フェリックスはしばらく端末の表示を見ていた。そこには親衛艦隊と、その司令官の名が残っていた。
「クライン。お前、ヨーリクに会いたいか」
答えはすぐには出なかった。
「……分かりません」
アレクは何も言わなかった。フェリックスも同じ問いを重ねなかった。
クラインが付け加えた。
「ですが」
二人がクラインを見る。
「文句は一つ、言っておく必要があります」
フェリックスが眉を上げた。
「文句?」
「『俺は大丈夫だから』と言われました」
「それが?」
クラインは真顔で答えた。
「合理的根拠の説明がありませんでした」
やがて壁面の航路表示が更新された。旧航路の出口までの距離が縮まり、前方の観測情報が新しいものへ切り替わった。
フェリックスが表示へ目を向けた。
「そろそろ抜けるな」
アレクも顔を上げた。
旧航路を抜けた先、暗い空間の中に小さな光の列が見えていた。ジャムシード星系にある惑星タフテ・ジャムシードを巡る軌道港の灯だった。
三人とも黙っていた。
ブリュンヒルトは静かに、その光へ向かって進んでいた。