そして柱合裁判これで終わりません…
「お早う皆、今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?」
香は二人の子供に連れられてきた人物を見つめた。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”が迎えられたこと、嬉しく思うよ」
(この人……目が見えてない?)
そう思った直後、ドゴッっという音がしてそちらを向くと、炭治郎が不死川に押さえつけられていた。周囲を見渡すと柱と呼ばれた剣士たちが全員膝をついていたため、香もその場に座った。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」
「ありがとう、実弥」
(……態度違う…)
「畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士、および謎の鬼が憑いた人間達について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか。」
鬼の憑いた人間たちとは恐らく仁と香のことだろう。香はそれを聞いたままお館様と呼ばれた人物を見つめていた。
「そうだね。驚かせて済まなかったと思っているよ。…だけどそのまえに。」
お館様と呼ばれた人物は不死川から目線を外した。
「他のお客さんたちを呼んできてくれるかい?」
「はっ、ただいま。」
隠の一人がどこかへと行った。
「すまないね。お客さんが私達に要求した人たちは少しの間この場所から隔離させてもらっていたよ。」
「いえ、危害を加えていなければ特に問題はありません。」
「そうか…」
その言葉から少しすると、隠を先頭として10人以上の人物が入ってきた。
「連れてまいりました」
「ありがとう。…さて、お客さんたちの話はあとで聞くとするけれど…ひとまず、お客さんたちの名前を教えてくれないかい?」
その言葉に香と仁は少し目を合わせてから姿勢を整えた。
「申し遅れました、私、呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、“香”と申します」
「同じく、呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、“仁”と申します。」
「…ふむ。姓は何だい?」
それを聞いた瞬間、香は錦糸綺糸屋から来た全員に思念を飛ばした。
『姓があることが確認できた。以前の打ち合わせ通りに。』
その言葉が思考内に響いた直後、全員が頷いた。
「…私は、“
「私は“
「俺は…“
「私は“
「わ、私は“
「…“
美月の名前が言われた時、しのぶが美月の方を見た。
(…?)
「“
「“
「“
「…そして、“
「さらに“
「…以上18名。これが、呉服“綺糸錦糸屋”に住むものでございます。」
「正確にはだまりとりんね入れて20ですが。」
仁と香はそう締めくくった。
「…そうかい。随分と人がいるんだね。」
「実際のところを言ってしまえば、鬼4名人間16名なのですが。」
「…では私も名乗らなくてはね。私は“
「…それでは…ひとまず耀哉さん、と呼ばせていただいても?」
「かまわないよ。」
「……失礼を承知でお聞きしますが、輝弥さんは…目を…?」
「既にほぼ失明しているよ。それがどうかしたかな?」
香はそう問われ、少し言葉に詰まった。
「…もしも、一時的にとはいえもう一度はっきりと見えるようになる、と言ったら…どうしますか?」
「…ふむ。」
その言葉を聞いて耀哉は少し顔を下に向けた。
「…私のこれは病によるものだ。叶うならばもう一度見てみたいとも思うが…」
そこで耀哉は顔を上げ、香の方をしっかりと向いた。
「…医者ですら私の病の進行は遅らせることができない。医者でもない君に何ができるというんだい?」
「……身をもって知った方がよいでしょう。りんね。」
「はいはい。」
「「「?」」」
二人の子供と耀哉が困惑している間に香は耀哉の方に手のひらを向けた。
「spell act:system.id stand up Visibility restoration. type:time limit.limit time 2 hour.」
詠唱。効果は“視界復元 時間制限方式 2時間”。つまり、2時間の間視界を取り戻す術を放ったのである。
手のひらから生まれた白い光はそのまま耀哉の方へと向かい、輝弥の体の中に入っていった。
「…!?目が…見える…!?」
「2時間だけですが、輝弥さんの視界を取り戻しました。もっと長い時間の効果にすることもできましたが、私の事情によってそれができなくなっていたりします。」
「…君は、一体…」
「…その辺は、あとでお話ししましょう。りんね」
「はいはい」
香はりんねを自分に憑かせてからもう何も言うことはないというように空を見上げた。
「…そうだね、詳しいことはあとにするとして…炭治郎の話に移ろうか。」
耀哉はそう言って炭治郎の方へと向き合った。
「簡潔に言えば炭治郎と禰豆子のことは私が容認していたし、香達のことは実害がない限りはよいだろうと黙認していた。事実、害になるようなことは発生していないし、最近興味深い話を聞いたのでね。そして、皆にも認めてほしいと思っている。」
(…まぁ、鬼狩ってただけだし……って、興味深い話?って?)
「嗚呼…たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる…」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない。」
「私は全てお館様の望むまま従います」
「僕はどちらでも…すぐに忘れるので…」
「「……」」
「信用しない信用しない、そもそも鬼は大嫌いだ。」
「心より尊敬するお館様であるが理解できないお考えだ!!全力で反対する!!」
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門・冨岡・綺糸・織雪・錦糸・織鐘の処罰を願います」
(さらっと私達巻き込まないでよ…ていうか、さっきのことでわからなかったのかな…?)
香がそう思ったところで灯純が口をはさんだ。
「おいおい不死川さんよ、そいつはちいとばかしおかしいんじゃねぇか?」
「あァ?」
「香も仁も、それに鈴ちゃん、花ちゃんも鬼に密接に関係しているとはいえ鬼殺隊じゃねぇ。それを鬼殺隊の規律で裁くのはおかしいんじゃねえか?」
「…」
「それにお前さん、さっき香のこと怒らせたろう。別場所でもわかる程の香の殺気だ、大方鈴ちゃんを傷つけようとしたんじゃねぇか?その香の気配の恐怖は味わってるはずだがな。」
「…お父様、私、鈴と不死川さんに殺気を浴びせないように制御してたからそこまで意味ない。」
香がそう呟くと、灯純が小さくため息をついた。
「……お前、制御上手すぎだろ。」
「制御系統はかなり鍛えてるからね。一人を避けて殺気を撒くくらいできる。」
「……」
灯純は頭を押さえていた。
「…うん。確かに、香達を鬼殺隊の規律で裁くのはおかしいかもしれないね。先に聞くけれど…仁、香。君たちはまだ人間なのだろう?」
「「えぇ。」」
「鬼が憑いているとはいえその鬼が害をなしているかは分からない、ということだね。それと鈴と花に関しては…」
「鬼ですよ。れっきとした。ですが、人を喰らう鬼ではありません。」
「花も一緒です。」
「…ひとまず君たちのことはあとに置いておくしかないね。炭治郎と禰豆子のことだが、手紙が届いている。その手紙を。」
「はい。」
耀哉の近くにいた子供の一人が取り出し、手紙を開いた。
「こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。」
(…手紙、か)
「“───炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうかお許しください。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄には信じ難い状況ですが紛れもない事実です。もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎及び───”」
(…なるほど。)
「“鱗滝左近次及び冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします。”」
それが読み上げられると、場が一気に静まり返った。
「…切腹するから何だと言うのか」
その静まりを破ったのはやはり不死川である。
「死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりません。」
(…まぁ、分からなくもないけれど。)
「不死川の言う通りです!人を喰い殺せば取り返しがつかない!!殺された人は戻らない!」
(っ!!)
その言葉は香の心の傷を抉った。やはり自分が皆を殺したと思っているのが大きいのだろう、香の顔が辛そうな顔になった。同時に佐吉と灯純、仁も同じような表情をしている。
「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、照明ができない。ただ。」
耀哉はそこで言葉を一度切った。
「人を襲うということもまた、照明ができない。禰豆子だけじゃない、仁も、香も、花も、鈴も。」
「!!」
不死川が軽く驚愕の表情を浮かべた。
「禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために三人の者の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなくてはならない。」
「…っ!」
「……むぅ!」
(…不殺2年という実績と3つの命。それに釣り合う…ううん、それ以上の対価…)
香がそんな思考を回した時、耀哉が爆弾を落とした。
「それに炭治郎は鬼舞辻と遭遇している。」
(鬼舞辻…え?)
「そんなまさか…!」
「柱ですら誰も接触したことがないというのに…!!」
「こいつが!?」
(え、ちょ、ちょっと……)
「どんな姿だった!?能力は!?場所はどこだ!?」
「戦ったの?」
「鬼舞辻は何をしていた!?」
「根城は突き止めたのか!?」
「おい答えろ!!」
(…いや、あの…そんな質問攻め状態で答えられるとでも?)
香は少し呆れていた。
「黙れ俺が先に聞いているんだ!」
「まずは鬼舞辻の能力を…」
そこまで言ったところで、耀哉が指を口の側に持っていくと全員が静まり返った。
「…何か聞きたそうだね、香。」
「…あの、“鬼舞辻”とは?」
「鬼舞辻を知らないのかい?」
香は少し戸惑いながらも軽めに頷いた。
「“鬼舞辻無惨”。私達鬼殺隊が追っている鬼の首領だよ。無惨がいる限りこの世から鬼が消えることはないのだろう。」
「鬼舞辻…無惨。」
香には聞き覚えがあった。否、聞き覚えがあるどころではないのだ。自ら情報を聞こうとしていたのだから。
「…仁」
「あぁ……」
「…どうしたんだい?」
「…こちらでお店を開いてから、妙なお客様が来店したことがあったのです。」
「…妙?」
「はい。先日の山にいた鬼よりも強い血の匂いがする方でした。外見は人間に見えましたが、気配が人間ではなく、また私たちが基本的に狩る鬼である悪鬼とも違う気配で…そうですね、ちょうど禰豆子さんに近いと言えば近いでしょうか。普通にお客様として来店したかと思ったのですが、その方がいる間、ずっと私の首元に向けて攻撃をしてきたのです。」
「…ふむ?」
「その方は、“月衣 黒百合”と名乗りました。いらっしゃったのは九月二七日…こちらにいます胡蝶しのぶ様が、錦糸綺糸屋に御来店された日と同じ日で、胡蝶しのぶ様が来店するよりも前にお帰りになりました。」
「……私が来る前に、ですか。」
「はい。…その後、私は夜中に外へ出て、鬼狩りをしたのですが…帰る直前になって、二体の鬼と遭遇、外界と遮断された空間の中で二体の鬼と戦いました。」
「「「「なっ!?」」」」
柱数名と仁が驚いていた。
「……その鬼の件についてはしのぶから報告を受けているよ。しかし、そのお客さんに関しては少し気になるね。」
「…それと、鬼舞辻無惨について。私達も少し情報を得たいのです。」
「…何故だい?」
香が少し仁を見ると仁が軽く頷いた。
「私達の母が、鬼舞辻無惨に捕まっているようなのです。…この件に関しては後で詳しくお話しします。」
「…ふむ、興味深い。あとで詳しく話を聞こうじゃないか。もしかしたら、鬼舞辻が君たちに注目している可能性もある。」
「…そうですか。」
「ともかく、鬼舞辻は炭治郎に向けて、場合によっては香達にも向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで放したくない。」
(…)
「恐らくは禰豆子にも、鬼舞辻にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。」
その言葉を聞いて香はなるほど、と思った。これはこの場では香以外知りえていないことなのだが、
「わかってくれるかな?」
耀哉がそう聞くと一瞬静まったが、それをやはり不死川が破った。
「わかりませんお館様。人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です、承知できない。」
そういうや否や、不死川は腰に差していた刀で自身の腕を擦り切った。
「「「!?」」」
炭治郎、香、仁、その他諸々が驚いていると、不死川が口を開いた。
「お館様…!!証明しますよ俺が、鬼という物の醜さを!!」
…はい、ということでまた次回です。さすがに書くのが疲れまして。
ちなみに、気配に関する話ですが、あれは私の独自設定ですのであまり気にしてはいけないかと思われます。ただ少し補足。気配関係の話をする前に“月衣黒百合から禰豆子に近いと言えば近い気配がした”というようなことを言っていますが、あれはただただ“近い”と言うだけで“同じ”とは言っていません。ですから厳密に言ってしまえば“竈門禰豆子と月衣黒百合(鬼舞辻無惨)の気配は違う”のです。
ちなみに、香の戦った鬼五体とは簡単に言えば、空間を操る鬼の兄妹(“第漆話 香を狙う2体の鬼”及び“第捌話 鬼殺の毒、鬼殺の桜”参照)、上限の壱(“第拾肆話 十二鬼月の上弦”参照)、ブラコン妹(“第弐拾参話 実戦稽古・その弐 前”、“第弐拾肆話 実戦稽古・その弐 中”、“第弐拾伍話 実戦稽古・その弐 後”参照)、下弦の肆(“第参拾陸話 下弦の肆”参照)のことです。その鬼が出る話に直接行けるように下にURL置いておきます。
それと、各キャラクターの姓についてなのですが、綺糸屋勢に関しても完全にオリジナルです。“あやしや”を読んでくれた方ならわかると思うのですが、あの話って各キャラクターの姓が出てこないのです。ですので原作者様には申し訳ないと思いつつ私オリジナルで姓を設定させていただきました。“あやしや”の世界に姓はなくても“鬼滅の刃”の世界には姓の概念がありますから。そこの合わせですね。
ということで、今回はこの辺ですね。少し次回予告をして終わります。
不死川が腕を斬る。その行動に驚きを隠せなかった香達。何故そんなことをしたのか。その理由は血にあった。血の匂いで、鬼の本能を呼び出す。それが、不死川の選択だった。それに対して、鬼達と鬼憑達がとった行動とは───
次回、鬼ヲ狩ル者達之交差 肆拾弐話。“証明”
それではまた。感想その他お待ちしております。
参照話URL
第漆話 香を狙う2体の鬼↓
https://syosetu.org/novel/225682/11.html
第捌話 鬼殺の毒、鬼殺の桜↓
https://syosetu.org/novel/225682/12.html
第拾肆話 十二鬼月の上弦↓
https://syosetu.org/novel/225682/19.html
第弐拾参話 実戦稽古・その弐 前↓
https://syosetu.org/novel/225682/28.html
第弐拾肆話 実戦稽古・その弐 中↓
https://syosetu.org/novel/225682/29.html
第弐拾伍話 実戦稽古・その弐 後↓
https://syosetu.org/novel/225682/30.html
第参拾陸話 下弦の肆↓
https://syosetu.org/novel/225682/45.html
香の秘密を話す時期はいつがいいですか?
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無限列車直後
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遊郭前
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刀鍛冶の里前
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刀鍛冶の里直後