学生ちゃんに会えて、学生ちゃんは何かを決意したみたいで。
差し出された1冊の文庫本は先輩さんの興味に直球で。
いろいろあって西通りのブックストアに行くことに。
西通りで何が起こるのか……、そんなお話。
第23話は1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目の8回に分けて公開します。
また本話『仲間ができた日(3日目)』は 第25話『友達ができた日(3日目)』と「並行」しています。
こちらもご一読いただければ幸い。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
先輩(主人公)・機械屋・学生、は女性、
店長、等々は男性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
3日目
朝、いつもより早く目が覚めた。
カキンカキン、と金属音。
機械屋ちゃん、もう仕事してるんだ。
じゃあ私も。
服は……、
そっか、昨日から普段着着たままだ。
作業着に着替えようかと思ったけど今日は精密作業室で仕事。
だから、このままで良いか。
部屋から出て精密作業室へ。
作業を始めて……、30分で終わった。
精密作業室から作業スペースに出る。
機械屋ちゃんは真剣に作業に打ち込んでる。
私に気づかない。
声をかけようか悩む。
でも……、一緒に住んでるんだ、朝の挨拶はあった方が良い。
「おはよー」
私の声に機械屋ちゃんは気づいてくれた。
「ん?
あ、おはよ」
手を止めて私を見てくれる。
「調子、どう?」
「良い感じだ、
このペースなら十分間に合う」
機械屋ちゃんの声には余裕と自信がある。
「うん、良いね」
自然と笑顔になる。
「そうだ、
先輩、ここんとこどこ行ってんだ?」
そう言えば機械屋ちゃんにきちんと言ってなかった。
「ちょっとゲーセンに、ね。
面白い子に会って、話してると楽しいんだ」
「そっか、じゃあ先輩も良い感じなんだな」
機械屋ちゃんに答える。
「うん、なかなか良いね」
そこから少し話をして、機械屋ちゃんは作業に戻って、私は食堂に入った。
とりあえずテレビをつける。
何となくテレビを見てるうちにもうすぐゲーセンが開店、な時間になった。
普段着着てるからこのままでも悪くないかな、って思ったけど着替えることにした。
普段着から普段着に着替え、私には珍しい。
「ゲーセン行ってくるね」
機械屋ちゃんにひと声かけて工房を出た。
心地良い風を感じて空を見上げた。
雲ひとつない青空が広がってる。
楽しいことが起こる。
そんな予感がした。
のんびりと歩いて、ゲーセンに着いた。
中に入って、カウンターの向こうに店長がいる。
「おはよー」
「おう、先輩ちゃん、
おはよう」
挨拶の後に店長の言葉。
「学生ちゃんが来るまでもうちょっとだな」
そっか。
「じゃあ、遊びながら待ってる」
「ああ、そうしてくれ」
店長と軽く声を交わしてからズボンのポケットに手を入れた。
ポケットには何も入ってなかった。
両替機に向かいながらインフォメーション端末の準備。
インフォメーション端末を両替機にかざす。
ジャラジャラ、と100ダリル玉が10枚出てきた。
さて、
やっぱ『カウボーイ・ショット』だよね。
『カウボーイ・ショット』に向かおうとした私に店長の声。
「先輩ちゃん、『カウボーイ・ショット』はするなよ」
うん、やっぱりだね。
「おけ、
じゃあ、ほかのにする」
とは言ったものの、ほかのゲームはそんなに上手じゃないし……。
だけど、
『カグヤ』、遊んでみるか。
学生ちゃんと話してたのに私は全然プレイしてない。
だから遊んでみよう。
『カグヤ』の前に座って100ダリル玉を投入口に入れる。
残りの100ダリル玉はコントローラーの端に積んだ。
キャラ選択。
『みーこ』を選んだ。
『ファーストステージ、ファイト!』
バトルが始まる。
ファーストステージは大丈夫。サードステージまでは大丈夫なはず。
『みーこ』を操作して上手くダメージを入れていく。
1戦目:Win、2戦目:Win。
これでファーストステージ、クリア。
『セカンドステージ、ファイト!』
もちろんファーストステージよりも難しいけど。
1戦目:Win、2戦目:Win。
セカンドステージ、クリア。
サードステージ。
1戦目:Win、2戦目:Lose、3戦目:Win。
サードステージ、クリア。
でもここからが苦しい。
フォースステージ。
1戦目:Win。
何とか勝てた。
2戦目:Lose。
3戦目、かなりがんばれたけど、Lose。
悔しい。
100ダリル玉を投入口に入れてコンティニュー。
1戦目:Lose。
あとちょっとだったのに……。
2戦目:Win。
ぎりぎりの勝負。
次もいけそう、って思ったんだけど。
3戦目:Lose。
さくっと負けた。
やっぱ私だとこれくらいだね、うん。
『カグヤ』の筐体から立ち上がったタイミングで、
「おはようございます」
学生ちゃんの声。
「おう、
おはよう」
店長が挨拶を返してる。
声の方へ向かう。
もちろん学生ちゃんがいた。
「おっはよー」
学生ちゃん、私に気づいて、
「おはようございます」
ぺこり、とおじぎしてくれた。
頭を上げた学生ちゃん、私の方に来た。
「あの……、
今日は先輩さんにおねがいがありまして……」
学生ちゃんの表情は躊躇ってるような、
でも、決意してるような感じ。
「うん、
じゃあ、とりあえず座ろう」
「あ、はい」
店内にならぶ筐体、その前の椅子、私はそのひとつに座った。
学生ちゃんは私の向かいに座る。
「で、おねがいって何なのかな?」
絶対に楽しいことだ。
わくわくする。
「えっとですね……」
かばんからごそごそと本? を取り出して。
「……これ、なんですが、
先輩さんに読んでもらいたいなって……」
学生ちゃんの手には文庫本。
「見せてもらって良い?」
「はい! もちろんです」
文庫本を受け取る。
表紙にはすらっとしたスマートな? 男ふたりのイラスト。
どんな本なんだろ? 気になる。
「これってどんな本なのかな?」
学生ちゃんに尋ねる。
「その……、BLのラノベです」
『BLのラノベ』、初めて聞く言葉。
だからもう1回尋ねる。
「『BLのラノベ』って何なのかな?
初めて聞く言葉だ」
「あ、そうですね。
『BL』は『ボーイズラブ』で、『ラノベ』は『ライトノベル』です」
『ボーイズラブ』と『ライトノベル』も初めて聞く言葉。
でも、
「つまり『ボーイズラブのライトノベル』ってことでおけ?」
学生ちゃんに確認。
「はい! そうです」
なるほど、
いくらか分かって、分からないこともあるけど、これ以上は聞かない方が良い。
読むときの楽しみが減ってしまう。
表紙をしっかり見る。
「あの……、やっぱりダメですよね?」
学生ちゃんの声、なんだか弱々しい。
もしかして……。
「表紙しか見てないから、かな?」
「それは……、はい」
やっぱりだよね。
説明した方が良い。
「表紙しか見ないのは、
ほら、文庫本の裏表紙ってあらすじが書いてるのが多いっしょ。
それに中見ちゃったらそれこそネタバレになっちゃう。
そしたら楽しみが減っちゃうからね」
私の言葉で学生ちゃんの緊張はいくらか抜けたっぽい。
文庫本を学生ちゃんに返す。
「?
あの……、やっぱり……」
学生ちゃんの表情が雲り始める。
「そうじゃなくて違うくて、
私ね、人から借りるの苦手なんよ」
雲り始めてた学生ちゃんの表情が元に戻り始めた。
「だから今から買いに行きたいなって。
その本、面白そうだから。
売ってる本屋、教えてもらえないかな?」
私の言葉に学生ちゃんは安堵の表情になる。
だけど、
「それは良いですけど……、
でも、買うんだったらこれはやめた方が……」
言葉が小さくなる。
「どゆこと?」
「その、この本ってとがってるって言うか、通好みって言うか、人気作じゃないって言うか……」
なるほど、
「でも学生ちゃんは面白いんだよね?」
「はいっ」
だったら問題ない。
「じゃあ大丈夫!
それと……、
そだね、学生ちゃんの本と、あと、今の流行ってのかな?
人気のを教えてよ」
「もちろんです!」
学生ちゃんの声はしっかり明るくなった。
「それじゃ、行こっか」
「はいっ!」
私の声に答えてくれた。
店長に挨拶して、私と学生ちゃん、ゲーセンを出た。
繁華街に向かって歩く。
「でさ、どこの本屋に行くの?」
「西通りの店です」
学生ちゃんの声は嬉しげ。
西通りか……、なるほど。
なんだけど「?」が出てくる。
『BLのラノベ』って初めて聞くけど、どこの店なんだろ?
2人でてくてく歩いて、西通りに入った。
ちょうど街が活気づき始める時間。
学生ちゃんとならんで通りを歩く。
少しばかり歩いたところで学生ちゃんの足が止まった。
「ここです」
「えっと、ここ?」
良く知ってる店。
マンガとか、ゲームの攻略本とか、そのあたりの品揃えが抜群の店。
でもって2階は男向けの店。
「この店、そんなのもあったんだ……」
初めて知った。
「こっちです」
学生ちゃんが歩きだしたので後をついていく。
向かった先は2階への階段。
「?
2階って男向けじゃなかったっけ?」
学生ちゃんが教えてくれた。
「はい、2階は『紳士フロア』で3階が『乙女フロア』、女性向けです」
「3階があったのか、なるほど」
2人で3階に上がる。
私は3階は初めて。
何て言うか……、初めて感じる、今まで感じたことの無い雰囲気だ。
学生ちゃんについて歩く。
立ち止まった学生ちゃんの横に立った。
「このあたりがBLのコーナーでして……」
「うんうん」
私たちの前、平積みされてる本と大きな棚に学生ちゃんのと同じ感じの本がならんでた。
「私のは……」
学生ちゃんは本棚に視線を向けて、少しの後、1冊に手を伸ばした。
「これです」
学生ちゃんから受け取る。
私の手にゲーセンで見たのと同じ文庫本。
「うん、だね」
「それで流行のは……」
今度は平積みされてる本を見ていく。
「これがいちばんだと思います」
学生ちゃんが取り上げた1冊を受け取った。
2冊の文庫本を見比べる。
表紙のデザインは似た感じ。
だけど……、
「これってやっぱり全然違うのかな?」
学生ちゃんの答えは、
「はい、全然違います。
『通好み』と『万人受け』かなって思います」
だった。
「なるほど」
レジで金を払って、文庫本2冊が入った黒い袋を受け取って、1階に降りて店を出た。
腕時計に目をやるとちょうど昼時。
「あ、もうこんな時間。
学生ちゃん大丈夫?
これから大公園でしょ?」
学生ちゃんが気になる。
「はい、そんなに急がなくて大丈夫ですから。
それに……、とっても楽しかったです」
大丈夫みたいな学生ちゃん、安心した。
加えて学生ちゃんは笑顔。
うん、やっぱり大丈夫。
「私も楽しかった。
帰ったらすぐ読むね」
そんなやりとりをして学生ちゃんと別れた。
工房に帰ると、カキン、カキン、と金属音がしてる。
機械屋ちゃん、まだ仕事してるのか……。
昼メシ。
いつも機械屋ちゃんが作ってくれるけど、あんなにがんばってる。
メシまだ? なんて言えない。
……たまには私が作ろう。
食堂に入って本が入ってる袋をテーブルに置く。
冷蔵庫の中身を確かめてレシピを考える。
軽めの方が良いかな?
少し考えて……、
よし、決めた。
フライパンを取り出してメシを作りにかかった。
もうすぐできあがる、そんなタイミングで機械屋ちゃんが入ってきた。
「あ、すまねぇ、
メシ作るの忘れてた」
ちょっと申し訳なさそう。
だから、
「良いって良いって、
機械屋ちゃんがんばってるんだもん、
私もこれくらいしなきゃ」
笑顔で言ってからメシを仕上げた。
皿に盛り付けて機械屋ちゃんに渡す。
もうひとつ盛り付けて私の分。
メシを食いながら機械屋ちゃんが尋ねてきた。
「その袋、何なんだ?」
黒い袋に視線を送る。
「あ、これ?
学生ちゃんおすすめの小説。
西通りで買ってきたんだけど、
学生ちゃんが教えてくれたんだから絶対おもしろいよ」
「そっか、
また新しい分野か?」
機械屋ちゃんもこの本が気になるらしい。
「うん、たぶんね」
そんな話をして、あとは機械屋ちゃんの仕事の話をしながらメシを食った。
メシを食い終わって、体をちょっと休ませて。
「よし! 続きだ!」
気合を入れるように言って機械屋ちゃんは作業スペースに出ていった。
私はまず昼メシの後片付け。
手早く後片付けを済ませてテーブルに戻った。
黒い袋から文庫本2冊を取り出す。
2冊を見比べる。
1冊は学生ちゃんのおすすめ。もう1冊は今の流行、人気の本。
これ、学生ちゃんおすすめの方が絶対おもしろいね、うん。
だから流行のを読み始めた。
読み始めてすぐ。
こんな感じの小説、初めてだ。
いくらか読んで。
えっ、こんな展開!? って、だから『ボーイズラブ』なんだ……。
『ボーイズラブ』の意味を理解した。
あとは私には初めてのシーンがいくつも続いて、
ストーリーに引き込まれた。
最後まで読んで。
……これはすごいね。
こんなにおもしろいの知らなかったって……。
人生を損してた、そんな気がした。
読み終わったのをテーブルに置いて、もう1冊を手にした。
学生ちゃんのおすすめ、どんなのだろ。
わくわくする。
2冊目を読み始めた。
3分の1を読んだくらい、
機械屋ちゃんが食堂に入ってきた。
「はら減ったー」
時計を見ると十分に晩メシの時間になってた。
本に集中して時間の感覚がなくなってた。
「さて、なに作るか……」
そう言って機械屋ちゃんはメシを作り始めて、作ってくれた。
晩メシを食い終わって。
作業スペースに向かう機械屋ちゃん、大丈夫かなって思う。
だから、
「機械屋ちゃん、無理しない方が良いよ」
って言ったんだけど、
「限定のが買えるんだ、
多少の無理は覚悟してる」
そう言って食堂から出て行った。
本の続きに取りかかる。
ストーリーに集中して、飲み込まれそうになる。
3分の2くらい読んだところで機械屋ちゃんが戻ってきた。
「あー、終わったー」
今日の仕事は終わったらしい。
私の向かいに座る。
「先輩、それどんな本なんだ?」
顔を上げて機械屋ちゃんの疑問に答える。
「『BLのラノベ』なんだって」
「『BLのラノベ』?」
「?」な声。
「うん、『BL』は『ボーイズラブ』で、『ラノベ』は『ライトノベル』なんだって」
「そっか、
見て良いか?」
機械屋ちゃんに返事。
「もちろん良いよ」
機械屋ちゃんはテーブルにある『人気の本』を手に取って表紙を見る。
表紙はすらっとしたスマートな男ふたりのイラスト。
本を開いて中をざっと見ていく。
で、驚いた声。
「え!?
男同士で!?」
機械屋ちゃんの顔が真っ赤になった。
「うん、ボーイズラブ、だからね」
「ボーイズラブって、そう言うことか……。
……アタイには無理だ」
手にしてた本をテーブルに戻した。
「食わず嫌いは損するよ」
「それは分かるけど……、
アタイの好みにはたぶん合わねぇ」
機械屋ちゃんらしい。
「人それぞれだからね」
「だな」
私の言葉、機械屋ちゃんは分かってくれた。
「じゃ、部屋に戻る」
「うん、おやすみー」
食堂から出ていく機械屋ちゃんを見送る。
学生ちゃんのおすすめを再開。
読んでいくと何か納得できない展開。
何となく不自然さを感じる。
読み終わった。
話は「めでたしめでたし」なんだけど……、もやもやが残る。
もう1回読んでみよう。
初めから読み直して、最後まで読んだ。
やっぱりすっきりしない。
もう1回、今度は気になるとこメモしていこう。
食堂を出て隣の部屋、事務室へ。
コピー用紙を何枚か取って食堂に戻った。
改めて読み始めた。
今度はメモを取りながら。
ちょっとしたことでも気になったらメモする。
メモを確認しながら読み進める。
話の終盤、不自然さを感じたところ。
メモをしっかり見直しながら読む。
「あ、そっか!」
すっきりしなかった理由が分かった。
と言うことは……。
話の最後、ものっすごく納得できた。
これはおもしろい。
学生ちゃんがすすめてくれた訳がしっかり分かった。
さてと、時計を見るといつもより遅い時間になってた。
良い本が読めた。
部屋に戻って、大満足でベッドに入った。
続
と言うことで、「腐女子候補生」の学生ちゃん、です。
こんなキャラがいても不思議がない世界の話です。
いろいろと個性が強いのが多いので、これくらいの設定が必要かな、と。
なお、「腐女子」の描写に関しては、しっかりとした知識なしで書いてるのでかなり適当です。その辺りはご容赦いただけると幸いです。
次回は『仲間ができた日 (4日目)』です。
では、次回もご一読のほどよろしくお願い致します。