頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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主人公の名前は、夢蔵(むさし)です

いくつかのルートに分かれます


東方Project (博麗霊夢・紅美鈴・レミリア・橙・妖夢・藍・萃香・輝夜・映姫)それぞれに分岐します

 懐事情が昔から豊かではない博麗神社の敷地は意外と広い。境界の役目を果している森を含めれば、意外と言う言葉は抜ける。生活住居として本殿は使わず別棟に母屋があり、そこで親子は暮らしている。倉庫も高床式と土蔵式があるのだ。そして、築五十年は軽く越えていた。が、割と最近に二度にわたって倒壊させられたため、新築になった。倒壊時は、親子全員揃って犯人を血祭りにあげようとしたのだ。人であろうと妖怪であろうと、それこそ神であろうと関係なく。それほどまでに頭に血が上ったが、結局はスペルカードルールに則り、刑を執行しただけに済んだ。親の方である先代巫女は、犯人に[親の七光り]というでかでかと書かれたた文字の書かれた紙を一ヶ月身に付けさせた。面白さを求めていた犯人も、それは面白くないとプンスカしていたが、先代巫女は自身のチカラを使ってまで身に付けさせた。無駄なチカラの使い方をしている。歴代の方々も同じようなことをしているので、この人が特別ダメなわけではない。娘の方の霊夢は、気が済めば何もする気はない。来れば対応するが、それも積極的にではないし来ない日は存在を忘れる。いつものように無関心の人。長男である夢蔵は、妹と対して変わらない。神社の運営どころか、自身ら親子の一食一食がなるべく豊かになるよう『博麗の武士』としての仕事の他、副業として森近霖之助が店主をしている古道具屋『香霖堂』と、本居小鈴が店番をしている人里の貸本屋『鈴奈庵』でバイト(店番代理・万引き犯の捕縛など)をして収入を得ようと労働する。

 

 そんな三人だけの親子らだけでは広大に感じる博麗神社。掃除は行き届いているものの、年末は普通の一般家庭より前に大掃除を済ませなくてはいけない。めったに来ないが、年末は神社にとって書き入れ時の一つ、大祓いがある。そして、祭りを行うときの縁日などなど、をやっているが悲しいことに人間はめったに来ない。もともと少なかったが、博麗の巫女が霊夢の代になってから『人が来ない』レベルでなく『寄り付かない』レベルになってしまったのだ。原因は妖怪共の所為である。里にもいくらか妖怪が紛れ込むこともあるが、彼らは絶対に安全ではない。安全ではないどころか、危険でしかない存在。危険度が低のものであったり友好度が高いものであっても、万が一というのはあるのだ。そういうのが博麗神社にはやってくる。というか居候してるのもいる。それも割りとシャレにならないチカラを持ったのが。鬼とかいる。

 

 そんなのがいる。勿論、暇を嫌い暴れる迷惑な奴であるのだ。だから、今日も発散させるため博麗神社の敷地を全力で使うのだ。

 

 

「はーい。見合って、見合ってー」

 

 

 少し大きめな声で言う霊夢。立ってはおらず、いい感じの切り株に腰掛けて大きく齧った煎餅片手に、気だるく。

 

 一人に対して四人ほど対している。卑怯の図。でも、こうまでしても実際は届かない。

 

 一人とは博麗夢蔵。博麗の家の長男で、霊夢とは血の繋がった兄妹である。霊夢と同様に黒い短髪、茶色の眼。服装は白の上下服の上に紅色の着物に加え黒茶色ブーツ、腰には『鉄刃刀(てつじんとう)(両刃とも峰になっているため、相手の命を奪う心配もないもの)』を差しているのがいつものスタイル。微かに口角が上に上がっているだけなのを見れば、適度な緊張感を有しているのが分る。

 

 四人は、紅美鈴、魂魄妖夢、伊吹萃香、風見幽香。全員が前衛メンバー。やる気になれば中衛も後衛もできるというのに、それぞれ立つ位置は違えど前衛オンリーな配置。あるものは四つの手足、あるものは二振りの刀、あるものは一本の傘。本気を出せば消し炭どころか何もない荒地にさせるほどの脅威。麗しき乙女たち、纏うのは芳しき香気ではなく怜悧な闘志。

 

 ギャラリーもいる。ルーミア、レミリア、橙、といった見た目もお子様ズ。普段はソロ演奏を好むBGM要員ルナサ。主賓と自分で思っている蓬莱山輝夜。保護者参観枠の八雲藍、八雲紫、四季映姫・ヤマザナドゥ。マジ親、先代巫女。

 

 やり合うだろう五人の静かな熱のこもった空気と、ギャラリーたちのきゃっきゃと適度に騒がしい空気の差がすごいのだ。

 

 

「じゃあ」

 

 

 口に煎餅を入れて、咀嚼する霊夢。色々と困る絵図だ。

 

 三十秒ほど経って飲み込むと、片手を上げる。今日もいい脇だ。

 

 

「とっととやって」

 

 

 片手を静かに振り下ろして告げる。ひどい合図。だが、そんな者は誰も気にしない。

 

 殺し合わない程度の、全力の力闘が始まった。

 

 

 一瞬の刹那に、飛び掛る者と迫り来る者。前後左右を塞がれる。逃げることは出来ない、避けることもできない。だから、大人しく袋叩き、にはされぬ。

 

 夢蔵は、その場で全力の回転をする。右足を軸とし、体幹は一ミリともずらさずに疾強風を生み出す。風力階級は八、相当風速は三十四ノットから四十ノット。小枝は折れ、風に向かって歩けない程の威力。突き破るには、同等以上の風をぶつけるか元を潰すしかない。けれど、どれも出来ない。風はより強まり四人を弾く。弾かれた者はバランスを崩さないよう着地して、再び向かう。疾強風は場所を限定的にして、もう一段階上の大強風と化した。すでに台風であったものが、より大暴れしだす。それがなんだと、萃香が台風を捕らえ妖夢の刀が台風を斬る。台風ごと斬られる中の夢蔵。そうはならず、鳳符『夢幻転空(むげんてんくう)』、 鳳凰の闘気をまとい、飛翔して高速で突進するスペルを放つ。知っていたとばかりに、美鈴が打撃。音速に近い速度で打ち出された。構わずぶつける。ぶつかり合った衝撃で近くにいた夢蔵を含めた四人は飛んでいく。夢蔵は、体制を整えるべくつま先を地に着けようとしたとき、背後からの気配に気づく。傘の先を真っ直ぐ夢蔵に突き刺そうとしている。体勢を整えられていないが、紙一重でかわす。その夢蔵の動きを読んでいた幽香は傘の持ち手から片手を離し、彼の顔面へ拳をを打ち出す。体勢的にもうかわすことはできない。崩れた体制のまま、足でその腕の肘を蹴りぬく。尺骨神経に強い衝撃を与え、一時的な知覚障害を引き起こす。自分では制御できぬものにより腕の力が抜けてしまう。けれど、体全体の勢いを殺せず倒れかける。夢蔵も同様になりかける。だが、そんな暇は与えないと、いつの間にか近くにいた萃香に蹴り上げたままだった足を掴まれ思いっきり投げ飛ばされる。その先は美鈴。蜂を彷彿させる鋭い正拳突きが出される、その先に。萃香の力が思いの外強く、上手く身を立てられない。避けること叶わぬと悟ったのか、腹筋の力を使い、なんとか立て直せた上半身と下半身を捻る。背と腹が逆の位置になりかけるほど。一瞬で肺を空気で満たす。そして、体の位置を戻す勢いを殺さぬよう、矢を射るように、自身の腕を射出させた。拳と拳がぶつかり合う。鋼鉄を殴ったような感覚が両者を襲う。強さは夢蔵の方だったらしい、美鈴の足は地面から離れていった。その衝撃に休めることはなく。背後から夢蔵を斬ろうと妖夢が躍り出る。美鈴を押し出して盾にして避けようもすでに他の方に片してしまった。わざと、離脱したようだ。ならばと、足を使い刀の柄を握る手を蹴りつけた。痛みに喘ぐことすらなく刀の動きは止まらない。そこで、空気を全力で吐き出す。夢蔵ほどの鍛えれた者ならば、息を吐くだけで衝撃波が起こる。妖夢の腹にそれを食らわす。食らった妖夢は踏ん張ろうとするもできず、後ろへ飛んだ。そのとき、砂を夢蔵の目に食らわした。とっさに目を閉じるも、少し目に入り視界が利かなくなる。生理現象で涙液が大量に流れていくが、中々砂は取れない。四つの気配は、止まっていない。だというのなら、夢蔵も止まることはできないのだ。使えぬ視界を諦め、体勢を整えることに専念する。

 

 時間にしてたったの十分ほど。

 

 体力はまだ十全にあるし、呼吸も乱れていない。闘志は滾ったままだ。それはより滾る。アドレナリンという副腎髄質から分泌されるホルモンが盛んに分泌し血中に放出し、心筋収縮力の上昇、心・肝・骨格筋の血管拡張、皮膚・粘膜の血管収縮、消化器官運動の低下、運動器官への血液増大反応により心拍数と血圧を上げる。呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応、気管支平滑筋弛緩も起こる。感覚器官の感度を上げる反応、瞳孔散大も同じく。

 心拍数と血圧を上げることで、心身を興奮状態に置き、とっさの反応に備えさせる。またおもらしをしないよう、膀胱の筋肉は緩み尿を溜めて肛門括約筋は漏らさないよう締まる。気管支平滑筋が弛緩すれば、空気の通り道が広がって気道抵抗は下がり吸息がしやすくなるのだ。瞳孔散大は瞳孔を開くことで、より多くの視覚情報が入るようになる。

 

 戦闘態勢が本格的に整ったということだ。ルナサの手を使わずに楽器を演奏する程度の能力によって奏でられている激しい音楽は、ギャラリーも楽しませるし、やりあっている連中のの気分も良くさせる。

 

 興奮状態は夢蔵を含めた五人全員。

 

 夢蔵は刀に手をかける。殺さぬ力の程度を中度から最大に引き上げたのだ。

 

 

「来いっ!!」

 

 

 大きな声は相手を萎縮させるほど。けれど、向かう彼女達には頭の中をすっきりさせる好反応させただけ。

 

 終わらせる力を持つ者に、終わらせぬとより力を騒がせる者たち。

 

 『夢幻総破(むげんそうは)

 

 鉄刃刀に博麗の力を集め、“究極の斬撃”として放つスペル。ある程度出力を絞っても、一撃必殺を狙えるほどに威力が高い。それを放つ気なのだ。

 

 夢蔵は、力を集める。立ち向かうものたちは、究極の斬撃だからなんだと弱気に立ち止まることはしない。

 

 力闘が、より苛烈になった。

 

 

 

 

 日も落ち、星と火の明かりに感謝する時間帯。

 

 

「あー、負けたーっ!! でも、酒美味いぃぃい!!」

 

 

 大きな机に突っ伏しながら、そう大声を出すのは萃香だ。だが、その声には不快の色は見えず、むしろ楽しそうな感じだった。

 

 

「負けちゃいましたねー」

 

「まだまだ精進しなくちゃいけないですね」

 

「そうだ、妖夢さん。こんどはアレを――」

 

「あぁ、そういう手もいいですね。なら、こういう――」

 

 

 美鈴と妖夢は、配膳のすんだ箸がちゃんと揃ったものかどうか確認にしながら今度の作戦を練っている。前に、不揃いの箸を出されたことがあるのだろう。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 先の三人同様、泥を落とすために入った地霊伝でできてしまった温泉あがりの幽香は先ほどの肘の調子を軽く確かめながら酒を飲んでいる。大根を口に含む輝夜は、彼女に永琳からもらった薬酒を渡している。酒の味がいまいちなのか、幽香は眉をしかめているが、礼を言った輝夜の前で吐く出すような真似はしていなかった。

 

 

「さっすが、夢蔵なのだー!」

 

「夢蔵しゃまはやっぱりすごいね!!」

 

「ふっ…。私の夢蔵だもの、当然よ」

 

 

 お子様ズはニコニコ騒がしい。レミリアの言葉の所為で、言い争いが起きている。

 

 

「地獄にも音楽いらない?」

 

「地獄はそういうところではないのですが…」

 

「音楽は誰にも縛られないもの、そして誰でも持っていいものよ。地獄だからいらないなんて『罪』じゃない?」

 

「ふむ…」

 

 

 こちらはなんだか深い話をしている。ルナサは酔っているように見えるけれども。

 

 

「そーれ、お呑みなさーい!」

 

「おぼぼぼぼっ!!」

 

「負けてられないわね…。それ、れーいむ!」

 

「や、やめっ。ぶぼぼぼぼっ!!」

 

 

 と、酒を自身の式や自分の娘に酒瓶を突っ込み、どちらがより酒に強いか競っている。

 

 あちらもこちらも出来上がっている。アルハラをするダメなのもいるが。

 

 さて、今日、博麗神社にいる残りの一人、リアルファイト難易度ハードをクリアした男、博麗夢蔵は何処にいるのか。

 

 

「あ~、いい湯だった」

 

 

 体から湯気が立ち上って皮膚が赤みを帯びている状態。そして、髪が濡れたままのこの様を見れば分るだろう。彼も汗や泥を落としていたのだ。混浴できぬヘタレではない。混浴を断った漢だ。覗きもやらない紳士でもある。

 

 

「夢蔵兄、たすけ」

 

「まだ意識あるわね。次、行くわよ霊夢」

 

「なんですって!? 藍、こっちも」

 

「ゆるして、ゆるしてください……」

 

 

 妹達の様子に苦笑いを浮かべた。

 

 

「おふくろ、紫。やめてやれよ」

 

「親に口答えするの、夢蔵?」

 

「俺が代わりに呑んでやるから、な?」

 

「あんたはズルするからフェアにならないのよ」

 

「そもそも、おふくろ達が飲めばいいだろうが」

 

 

 その言葉に先代は黙る。気を損ねたのではないのは、何年も親子をやっているので分っているのだ。

 

 

「それもそうね! んっ、お酒美味しい!!」

 

「あぁあぁぁあ……」

 

「紫、呑みましょう!! 空しかないからあっちに行くわよ!!」

 

「なんてことをするのよぉぉぉおお」

 

 

 紫も弱い立場だったようだ。友人の絡み酒の面倒くささは知っているはずだ。だから、軽く酔ったとき藍と霊夢を犠牲にしていたのだ。因果は巡るというのを見せられた夢蔵は霊夢たちに、近くにあった酒ではない飲料水である、水を渡す。

 

 

「はいよ」

 

「ありがとう、夢蔵兄…」

 

「すまんな…」

 

 

 飲んだあとは二人はしばらく休むと横になっていた。介抱しようとしたが、自分達の醜態を見られるのが嫌なのか唸り声を上げていたので離れたのだ。

 

 

「夢蔵、こっち来なさい」

 

「おぅ」

 

 

 幽香の隣に座る。幽香とは幼い頃にあったことがある。もともと、先代とやりあって負けて知り合いとなったらしい。それで幼い頃、博麗神社に遊びに来た幽香と会っていたのだ。そのあと数年、彼女は自身の花畑の世話に精を出していた間は会うことはなく、ある日、気が向いて博麗神社に足を運んだ。そのときに成長した夢蔵がどのくらい強くなったか知るために勝負を挑むが敗北し、その後は、たまに博麗神社を訪れて夢蔵たちの様子を見に来ている。やだ、バトルジャンキー…。

 

 

「肘、平気か?」

 

「これをその子から頂いたから大丈夫よ」

 

「永琳製だからね美味しいし利くと思うわよ」

 

「いや、助かる」

 

 

 そう夢蔵が言うと、輝夜は嬉しそうに笑う。それを見て幽香が何か言いたそうになっている。

 

 

「どうした、幽香」

 

「あぁ、別に…」

 

「そういえば、あんまりおいしそうに呑んでないわね」

 

 

 せっかくのものを考えて我慢して呑んでいる幽香。それは失礼だとは分っているものの、顔に出てしまっている。

 

 

「まずいの?」

 

「……通好みの味だわ」

 

「そうなんだ。よく分からないけど」

 

「…。そうだ、いい味になってたか、おでん」

 

 

 居心地が悪そうな顔をする幽香に助け舟を出す。おでんは博麗家の皆さんがコトコト煮込みまくって出来た品です。

 

 

「うん、なかなかよ。トマト入れるのは斬新だったわ」

 

「……そんなのもいれたのか、おふくろは」

 

「美味しかったわよ」

 

「そりゃなによりだ。幽香はどうだった、美味いか?」

 

「美味しいわ。巾着の中に素麺が入っているのは、少しあれだけれど」

 

「ははは。途中から、何でもいれちゃえってなったんだ。でも美味かったろ?」

 

「まぁね」

 

 

 そうのんびりしていると、背中に重みが来た。

 

 

「夢蔵ー」

 

「どうした、ルーミア」

 

 

 『紅霧異変』で、いつもの如く通り魔をしていたところ鉢合わせした夢蔵に襲い掛かるもあっけなく返り討ちに遭う。その後は、夢蔵に興味を持ちはじめ甘えている。口周りをおでん汁で汚した彼女は夢蔵の着替えたての着物を汚していく。だが、そんなもの諦めている。

 

 

「なんでタマゴないのー?」

 

「え?」

 

 

 ルーミアの言葉に驚く。里から二十ほど買いこさえたそれは、自分達だけの食卓には上がらず今日の之に全力投入したはず。

 

 幽香と輝夜に断りをいれて、大きなおでんの入った鍋にルーミアを背負いながら近づいた。そこには、橙、レミリア、美鈴、妖夢、萃香、ルナサに映姫と、残りのメンバーがお玉をぐるぐるかき混ぜている。

 

 

「タマゴ、もう全部食ったのか?」

 

「私食べてませんよ」

 

 

 夢蔵の問いに、全員食べてないと答えた。夢蔵もお玉を取り鍋底を探るが、あの丸さが見つからない。

 

 

「ねー、なんでー?」

 

「んー。他の奴らだけで食い尽かさないだろうし、なんでだろうな」

 

「私と妖夢さんと映姫さんとルナサさんが、配ってたんですけどタマゴ一個もなかったと思いますよ。ね?」

 

 

 美鈴の言葉に皆頷く。

 

 

「おかしいな。ちゃんといれたぞ。タマゴ、全然ないのか?」

 

「そうよ。私は別にいらないのだけど、ないことは不思議に思っていたの。だって、タマゴをおでんに入れるのは基本なんでしょ?」

 

 

 レミリアはいつもの如くカリスマぶって言う。その様に誰も跪くことはない。

 

 

「昔のおでん、というかその前身を知るものとしては何が基本なのか分りませんね。地獄にはよくあるのですが」

 

「地獄にもおでんあるのね」

 

「ありますよ」

 

 

 ルナサの純粋な感心に映姫は苦笑いする。地獄でも鍋パするのね。

 

 

「タマゴー…」

 

「ないならしょうがないよ、ルーミア」

 

 

 いつの間にか、夢蔵からずり落ちていたルーミアが悲しそうに鍋をグルグルしている。その様をなんとかなだめようとしているのは橙だ。二人の見た目は小さな子供の様子に、夢蔵は罪悪感を持ってしまう。

 

 

「どうしたの、夢蔵兄…」

 

「なに、ごとだ…」

 

 

 顔色真っ青お化けが現れた。

 

 

「あぁ、実はタマゴが消えちまったんだ」

 

「は? あんなに入れたのに?」

 

「しっかも皆食ってねぇんだって。んー、どうするかな」

 

「夢蔵ー」

 

 

 ルーミアが夢蔵のすそを引っ張っていた。その顔はとても悲しそうで、まいってしまう。

 

 

「すまんな、ルーミア。なんか別のもので我慢してくれないか?」

 

「んぅー…」

 

「今度はたらふく食わせてやるから」

 

「ほんとー?」

 

「あぁ、約束だ」

 

「…うん!」

 

 

 なんとか穏やかに治まったようだ。

 

 

「じゃあ、呑み直すか!! 夢蔵、あんたも呑むんだよ!!」

 

「はいはい」

 

「なぁ、騒霊。いい感じに酔える音楽やってくれないか?」

 

「いいわよ。…夢蔵は使わせてくれなさそうね」

 

 

 プリズムリバー三姉妹の長女ルナサ。彼女は、性格は暗いが優しい。西行寺家にたびたび招集され、演奏で場を盛り上げている。花見大会が行われるということで、いつものように招集されていた。その日に、一人で演奏中に偶然出会った夢蔵に自分の演奏をほめられたり、彼によるギターの熱い演奏を聞いて恋心を抱いている。故に、過激な愛のデュエットをしたいのだろうが、今日は諦めるらしい。少し熱い視線を夢蔵に送るが、その彼は自分の杯を探している最中。視線が合うことも気づくこともなかった。

 

 

「あたしと呑むんだから、無理だね」

 

「ほどほどにするのですよ、伊吹萃香。貴女は飲酒のし過ぎなんですから、控えなさい。そもそも――」

 

 

 と、いつもの説教に入る映姫。酒が不味くなってしまう。 

 

 

「さぁ、呑むぞぉ!!」

 

「…聞いてませんね」

 

「…そうですね」

 

 

 萃香は酒瓶を振り回す。それを見たギリギリの霊夢と藍は、即座に逃げた。お子様ズは夢蔵と一緒に杯を選んでいる。橙のが一番センスがいい。後は独特の個性を発揮しているのだ。

 

 おでんのタマゴは何処に消えたのだろうか。

 

 そんなこと微塵も知らない先代巫女は、おでんパーティのメンバー全員に絡み酒をする迷惑行為をいつもどおり行っていたのだった。

 

 今日もなんとか良き日だった。明日もそうだといい。ずっとそうだといい。

 

 眠るのが嫌だ。何を子供みたいなことをと思われるかもしれないが、眠ることで今日が終わってしまうというもったいない感と、死に近づくという恐怖感が押し寄せてくるからだ。小さなときからずっとそうだ。親父がまだ生きていた頃から、ずっと。眠ることと死ぬことが絶対にイコールにはならないが、なることもある。ただ眠っていると思ったのに、もう起きることはないと知ったときの絶望感、恐怖感は今も心に消えぬ傷として刻み込まれている。眠りたくない。怖くて堪らないから。だけれど、眠りについてさえしまえば、そんなこと思っていたことを忘れてしまう。当たり前だろう。眠っている間は、無意識の状態だ。

 

 夢の中で、しっかり意識を保っていられない。

 

 いっそ、夢の中で暮らせたら。様々な意識が入り込む今もなかなか面白いが、大分消耗をする。膨大だといい体力を使い、築き上げた心の壁を削り、長くあるよう願う命を磨り減らす。それらの対価に明日があるのだが、等価値と思えない日もままある。ならば、夢の中で暮らせたらいい。眠ってしまえば命以外は全回復する。命の方も、夢の中では無限大になる。夢の中で死んでも実際死んでいることはなかったのだから。

 

 あぁ、なんだか眠ることに期待が大きくなってしまう。

 

 どんな()なのだろう。それが現実になったなら、より良いなと思えるようなものだろうか。期待感が高まっていく。

 

 今日はもう眠ろう。興奮しているが、眠気も実はかなりある。もしかしたら、夢さえ見ないほど熟睡するかもしれない。

 

 でも、起きたくなんかない()を見てみたい。楽しみだ。

 

 夢の中でも良き日になるといいな。

 

 

 糸は休まず動く。

 

 きしり、きしり。

 

 

 糸はある日に絡みつく

 

 

一月四日(輝夜ルート)

 

四月三十日(橙ルート)

 

五月二十四日(レミリアルート)

 

六月二十八日(霊夢ルート)

 

七月九日(美鈴ルート)

 

八月十八日(藍ルート)

 

九月五日(妖夢ルート)

 

十一月二十六日(萃香ルート)

 

十二月二十日(映姫ルート)

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