描写を少し変えて再掲してみる。

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第一話

 ある日、何の前触れもなく転生した。

 母親も、父親も、愛するカード群も、カードゲーマーの友人達も───全てを置き去りにして、俺は転生した。

 聞いたこともないTCG【Liberalise Feature】通称-Life-が社会構造の基盤となっている社会に。

 

───Lifeと呼ばれるカードゲームではメインデッキは最低四十枚以上で構築できる。

 つまりこのゲームにはデッキ上限がないということだ。

 

 

「これ……なに?」

 

「?メインデッキですが何か?」

 

「……見た感じ百枚くらいあるけど」

 

 

 目の前の瞳から帽子、髪色まで紫尽くめのミニスカートの女の子はテーブル越しに怪訝な表情でこちらを見つめてくる。

 

 

「稀によくあることでは?───だって、ルールで縛られていないですし」

 

 

 俺はニッコリと笑顔を浮かべる。

 

 

『レディぃぃいいいいいいい────────ファイト!!』

 

 

「えー、対戦よろしくお願いします」

「……ファイト!」

 

 

 

「スゥー、とりま俺のターンからですね。ライフデッキから2枚ドローします」

パチパチッ

 

「……んー……とりあえず色彩(カラー)をセット。スーーー……えー、ちょっと長考入ります……えー、はい。1コス<夜疾の赤目ネズミ>を出して夜疾カウンター乗っけます。そちらにターンを回します」

トントントントントン パチパチパチパチパチパチパチ タンッ!

 

 

───手札をシャカシャカパチパチと無駄にシャッフルしながら、時に手札と指をテーブルに叩きつけて、敢えてゆっくりと考えを巡らせる。

 

 『シャカパチ』『指先トントン』、それから『呼吸音多めの謎敬語』から齎される対面圧力と不快感によってプレイングを鈍らせる精神攻撃の一種、これが割と馬鹿にならない火力を誇る。

 この口調・手癖と遅延プレイングをずっとやり続けるだけで、ウザい長いおもんないの三拍子でサレンダーしてくる相手もそれなりに居る程にな。

 

 本気で相手の思考を鈍らせるんだったら風呂キャンも入れるが、流石に単なるショップ大会の勝利のためにそこまでするのは、人間としての尊厳を捨てすぎている。

 

 まぁ、これも今回のようにテーブル形式のファイトじゃないと出来ない欠点はあるが、割と有効な手段だ。

……さて此方の行動に若干眉を顰めながらも自らのデッキに手を置く対戦相手のミニスカ。

 

 

「レディ・アップキープ・ライフドロー・メインドロー、色彩(カラー)セット。ターンエンド」

 

 

 1ターン目は動かない、だが宣言は淀み無い。───精神攻撃は 効いていないようだ ってとこか?

 そりゃあ面倒なことで……まぁ、勝てないとは言ってないが。

 

 

「ターン貰います。ライフデッキ、メインデッキから一枚ずつドロー。色彩(カラー)セット」

シャカシャカシャカシャカシャカ

 

「んー……えー、ちょっと長考入ります」

 

 

シャッシャッシャッシャッ パチパチパチパチ

 

トントントントントン

 

トントン パチパチパチパチパチ───タンタンッ

 

シュッ シュッ トンッ

 

 

 伏せては見て、置いては確認してを繰り返す。

 そうして、時間をたっぷりと使ったのち―――

 

「……えー────コスト1で<熟考>を発動、トップ二枚を確認します。片方をデッキトップに残りをボトムに落として、コスト1残し。そちらにターンを回します」

 

 

 コスト1の<納骨>がデッキボトムに、<受粉ゴブリン>がデッキトップに配置される。

 

 

「…………レディ・アップキープ・ライフドロー・メインドロー、色彩(カラー)セット。2コストで<マスカレイド・メイド>を召喚。速攻を持つ1/2のアタッカー、召喚したこのカードが効果で破壊された時、墓地のこのカードを除外するか1のコストを払うことで1枚ドローできる」

 

「んー、ちょっと見せてください?……スゥーーーーッ、あー、なるほど……すいません、もう一回確認していいです?……───スゥーーーーッ……はいはい、なるほど?」

シャカシャカ トントン パチパチパチパチ 

 

 

「……―――忠告しておく。対戦相手への故意の遅延、妨害行為は注意の対象になる」

 

 

―――俺の考えを薄っすらと察知したのか、嫌悪感を滲ませながらそう言い放つ対戦相手。

 俺が狙っていたのは制限時間が来た際に行われる判定勝ちだ。

 

 こういった小さめのショップ大会でありがちな簡略化ルールとして、試合時間である30分を過ぎても勝負が決まらなかった場合、その瞬間にライフが多い方を勝者とする。

 1コスのカードで固めて残存しているコストでのライフ消耗を消しつつ、盾役の幻獣(クリーチャー)で相手の攻撃をシャットアウト。

 呪言<焼畑>や<森の目覚め>によるライフ再生を軸として、最後の最後にバーンなり何なりでダメージを稼いでタイムアップによるエクストラウィンを狙っていく。

 

 勿論、普通のデッキや戦術であれば30分なんて稼ぎきれるわけがないが―――それをメインプランとして調整されたデッキであれば話は別だ。

 

パチッ

 

 俺は自身の手札を全て伏せてニヤリと笑い宣言する―――

 

 

「……そーっすねぇ。スタック無しで、どうぞ」

 

「<マスカレイド・メイド>で攻撃。ターンエンド」

 

 

 赤目ネズミに乗っけられた夜疾カウンターが剥がされる。効果によって【復帰】を行う赤目ネズミ。こんだけ煽ってもそう簡単に除去は切ってこないか―――

 

 

「エンド時に<思考>を発動。デッキトップを見てそのままに、コストを使い切った上でターン頂きます。レディ、アップキープ、ドロー二回、重ねてコストゾーンに色彩(カラー)置きます」

 

 

 現状俺の方のコストは3枚、ライフデッキは16。

 相手の方はライフデッキ15に、コストが2枚。

 

 現在試合時間は5分を超えたところ、つまり全体の6分の1。

 今まで通りシャカシャカパチパチと精神攻撃を行っていく―――シャカパチはマナー違反であって、ルール違反ではない。

 

 ただ、これ以上露骨な遅延は無理そうだな。デッキ破壊のサイドプランに移るか?

―――いや、残り時間的にもメインプランで十分だな。

 

 

「メインフェイズ。1コスで<熟考>発動、デッキトップ二枚を確認し、片方をデッキボトムに、片方をデッキトップに持ってくることができる」

 

 

 確認したカードは<沈黙>と<樹海の剣士>。

 

 

「んー……はぁ……まぁ―――行くか」

 

 

 <樹海の剣士>をデッキボトムに落とし―――

 

 

「瞬間魔法<抱き寄せ>発動。手札の呪言(カース)<藁の手>を捨てて二枚ドロー。<藁の手>により追加で1ドロー」

 

 

 で、残り1コス。

 

 

「1の色彩(カラー)を使って、<受粉ゴブリン>を召喚し、そちらへターンを回します」

 

 

「レディ・アップキープ・ライフドロー・メインドロー、色彩(カラー)セット。1コストで<マスカレイド・メイド>を召喚、1体目の<マスカレイド・メイド>でアタック」

 

シャカシャカ

 

「……赤目ネズミでブロック」

 

 

 赤目ネズミとマスカレイドが相打ちでやられる。

 相手はドロー効果を発動せずに流すようだ。

 

 

パチパチパチ

 

「<マスカレイド・メイド>でさらにアタック」

 

「少し長考します…………うーん………」

 

 

トンッ シャカシャカ パチパチパチ トンットンッ ―――パチっ

 

 

「<受粉ゴブリン>で受けます」

 

 

 結論として殴られなければこっちは死なないし、こちらが殴ることをしなければ相手はコストを溜められない。

 現状だと1のコストよりも1のライフのほうが価値が高かった、それだけの話だ。

 

 

「……―――ターンエンド」

 

 

 時間が経っていくにつれて、こちらのライフが削れていない事に対し焦りを抱く。

 彼女のように聡いプレイヤーなら尚更の話―――。

 

 

「ターン貰います。それぞれドローし、さらに手札から魔石(コア)『ザ・エントリー』をセット。―――2コストで<胞子ゴブリン>を召喚―――ゴブリントークン二枚が召喚される。1コス残してそちらにターンを回します」

 

「……貴方のエンド時にスタック。<鳴動>を発動、全クリーチャーと両ファイターに2点のダメージ」

 

「んー……対抗無し、どうぞ」

 

 

 胞子ゴブリンが生み出したトークンごと場が一掃される―――それと同時に両者のライフが削られる。

 こちらに流れたのは色彩(カラー)二枚。ステイ状態でコストゾーンに配置される。

 

 

「レディ・アップキープ―――」

 

 

 んー、切腹込みで6枚にまで加速されたか……ダルいな。

ビッビッビッ パチッ―――トントンッ パチンッ

 

 

「えー、そちらのアップキープフェイズ時<沈黙>使います。効果はこのターン相手はカードを出して使うことができません。さらに、能力【明願】によって、アップキープに発動すれば攻撃もできなくなります。早めで」

 

「……―――テキスト確認しても良い?」

 

「どうぞ」

 

「―――……んぅ……返す。ライフドロー・メインドロー、色彩(カラー)をセット。ターンエンド」

 

 

「ターン貰います。ドロー二回、色彩(カラー)置きます。2コスト<放火範ゴブリン>を出して相手のコストゾーンの色彩(カラー)を破壊―――1コストの<とんぼ返り>で<放火範ゴブリン>を回収。2コストで<放火範ゴブリン>を召喚し色彩(カラー)を破壊。1コス残しでターンを回します。どうぞ」

 

「レディ・アップキープ・ライフドロー・メインドロー。色彩(カラー)をセットする」

 

 

 これで相手は6コス、こちらは6コス+魔石(コア)で微アド。

 ライフに関しては13対12、そして―――

 

 

『―――残り試合時間5分のお知らせです───』

 

 

 時間は此方に味方している。

 シャカシャカパチパチとカードをシャッフルし、テーブルに押し付けながら笑みを深める。

 

 

「……巻きで行く。1コストで1/1幻獣(クリーチャー)<マスカレイド・シスター>を出す。これは召喚時、コストを払うことでそのコストと等しい数の墓地の【マスカレイド】を蘇生させる効果を持つ。1コスト支払って<マスカレイド・メイド>一体を蘇生。2コストの秘宝<発火の秒針>を置いて、<マスカレイド・メイド>でアタック―――」

 

「<放火範ゴブリン>で攻撃を防ぎます」

 

「メインフェイズ2―――<発火の秒針>を起動、マスカレイド・メイドに1点ダメージ。クリーチャーが破壊された時、2コストを支払うことで<マスカレイド・スカイ>を出す。バトルは出来ない、ターンエンド」

 

 

 早まったな?

 

 

「エンドフェイズに1コストで<残骸回収>、デッキトップに<沈黙>を―――」

 

「ッ!通さない……!<防災>で効果を止める……!」

 

 

 まぁ代替コスト妨害くらい握ってるよな。

 

 

「少し考えます……―――んー」

 

 

パチパチ シャカッ シャカシャカ───パチン

 

 

「では、遅延にならない内に―――3枚の色彩(カラー)を生贄に<防災>を発動」

 

「ッ―――」

 

 

 対戦相手の顔が僅かに歪み、カードを握る手に力が籠るのが見える。

 

 

「えー、スタック無いですか?……じゃあ、ターン頂きます。ドロー、色彩(カラー)のセットを行い、1コストで<受粉ゴブリン>を出します。魔石(コア)<ザ・エントリー>をステイして<受粉ゴブリン>の召喚酔いを打ち消し、そのままコスト1を生成。今生成したコストにプラス1コスで<森の目覚め>を発動、自分フィールドの使い終わった色彩(カラー)を1枚デッキに戻しシャッフル。次の自分ターンの開始時にメインデッキから2枚ドロー出来る」

 

 

 最後に腕時計を確認して───

 

 

「───さて、そちらへ、ターンを回します」

 

「……っ……レディ、アップキープ───」

 

「瞬間魔法<沈黙>。カードを出せず、さらに【明願】効果でこのターンはアタックできません」

 

「ドロー、色彩(カラー)をセットしてターンエンド」

 

「ターン貰います」

 

 

 そうして、手札を伏せて───

 

 

『対戦を終了します。対戦が終了していない方はライフ計算の後、勝敗処理を───』

 

「……」

 

「対戦お疲れ様でした」

 

 

 

 

 


 

「対戦お疲れ様でした」

 

 

 はぁ……虚無にしかならねぇ。

 たった一度でいいから、またアイツらと遊戯王やりてぇな。

 

 

「……───何故?」

 

「はい?何故───って」

 

「こんなことをしなくても貴方は強いハズ。少なくとも後半のプレイに迷いがなかった、大量のカードを淀み無く使いこなしてる」

 

「何故、でしょうね……」

 

 

 嗚呼、そう……答えは簡単だ。

───俺の青春を捧げたのは遊戯王であって、Liberalise Featureではない。

 

 だが、もしも……もしもあの世界で、普通にこのゲームが発売されていたなら、こんなことはしなかった。

 このLifeというカードゲームは、この世界は───文字通り俺の 全て を奪ったようなものだから。

 

 

───だからこれは、俺の、自己満足の復讐(八つ当たり)だ。

 

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