高名な芸術家夫妻の遺産を巡る醜い争いに嫌気が差し、東京を捨てて瀬戸内の地方都市・瀬途市へと隠棲した少年、錦木沙也。
 天才的な空間認知能力を持つ彼は、「人間は醜い」と断じ、二度と人物画を描かないと誓っていた。

 そんな彼が夏の陽炎の中で出会ったのは、自転車で弾いてしまった幽霊の少女、葵。自転車がすり抜け、影を落とさず、物理法則を嘲笑うように空を舞う彼女は、死者でありながら誰よりも鮮烈に生を叫んでいた。

 葵は自分を認識できる唯一の存在である沙也に、「私のやりたいことを叶えるまで二十四時間付き纏う」と宣言する。
 沙也は彼女を「悪霊」と厭いながらも、その悍ましいほどに美しい色彩に、絵描きとしての本能を刺激されていく。
 それは、死にながら生を謳う少女と、生きながら死を示す少年の、夏の記憶。

 ──それは遠き夏の幻想。もはや届き得ない、蒼い夢。
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